謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真七章 研究会

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 私がそう言った直後、王子様は困惑の表情を浮かべながら、こっちに聞き返して来た。
「不正?何故私達がそんな事をすると?」
「私が言うのもおかしな話ですけど、あんな事ができるのがおかしいからですよ」
 試験の時、彼等と魔術の名門の出の四人は、あの的を魔術で貫いた。ここは良い。あの魔術の威力であれば、あの程度の事を造作も無い。
 しかし、ここで私が言う『不正』というのは、彼等の魔術がどうこうという話ではなく、彼等の魔力量が、あんな事ができる量じゃないという所だ。
「あの魔術、結構な威力でしたよね。そんな魔力、一体どこから持って来たんです?」
「それは勿論、自分の魔術なんだから自分で……」
「でもそうなら、なんで外部と魔力のパスで繋がってたんですか?」
 私が小声でそう言うと、武闘派クンと賢者の身内クンが、『しまった!』みたいな顔をした。そこはもうちょっと頑張ろうよ。
 魔力は、他者と結ぶ事ができる。そこを通じて会話する魔術や、バフ、デバフを掛けたりする魔術もあるそうな。
 勿論これは、他者への魔力供給にも使える。
「ま、魔力のパスが繋がっていたという証拠は?」
「ありません。だから私は、これをこの場に居る人間以外に言い触らす事も、これで貴方方を脅す事もしません」
 ま、実際はあるんだけどね。それは最後の切り札。いざと言う時まで、存在単位で隠す必要がある。今はアレが、最も効果を発揮する場ではない。今は我慢今は我慢。
 そう言ってから、一拍間を置いてから、私は思い出したように人差し指を立てた。我ながらわざとらしい動作だったが、大した問題じゃない。
「あ、でも一つ要求が」
 私は王子様の顔に、自分の顔を近付け、自分の要求を話した。
「この学校生活で、私の自由を妨害するような事をしてみろ。私は証拠が残らないやり方で、お前を脅かすぞ」
 ハッタリである。実際にそんな事をやったら反逆罪だ。しかし、私は試験で、少なくとも彼等は圧倒した。『コイツならやれる』と、思わせる事が重要なのだ。
 私は、驚きで少し固まっている彼等を尻目に、食堂を出た。全く友人と一緒の楽しいランチタイムが台無しだ。
 廊下を歩いていると、後ろからマリアが追いかけて来た。
「あ、マリア」
「やっと追い付きましたわ……あの王子様方、貴女の事ばかり聞いて来るんですもの」
 隠れて他人の詮索とは、良いご身分ですこと。まあ、今の私に後ろめたい事など無い。調べても、何も出て来ないだろうよ。
「そう言えば今日は、学校のクラブの、体験入会の日でしたわね。ライラはどこに入るんですの?」
「そうだね~……パンフを見た感じ、面白そうなクラブは無かったね。同好会に期待かな」
 そうこの学校、複数の魔術師や騎士が集まって、クラブを結成するのだ。乗馬だったりお遊びだったり、はたまたマナー講座だったりするらしい。しかし、朝配られたパンフレットを見る限り、面白そうな物は無かった。入らないという手もあるが、それではちょっと味気無い。どこか良い同好会は無いものか……
 クラブの勧誘は放課後、クラブ活動が始まる時間帯に行われる。新しく入るメンバーが多ければ多い程、その年の予算が多くなるらしく、皆必死に新入生を勧誘する。
 しかしながら、私は既存のクラブには興味が無い。勧誘は基本断って、マリアとブラブラしていよう。
「マリアはどこ行くとかあるの?」
「ワタクシは……魔道具開発同好会に行きますわ」
「そっか……私もそこにしよ」
 魔道具とは、魔力が込められた物体が内蔵された道具全般を指し、用途は戦闘から日常生活まで幅広い。魔術を行使できない人間も多く居るので、需要は高いらしい。
 丁度私も作りたい物があり、何より面白そうなので、行ってみる事にした。もしかしたら、クラブという免罪符を使って堂々と魔道具作りができるかも知れない。うん。素晴らしい。
 魔道具開発同好会は、本校舎から離れた場所で活動しているらしい。私達はそこを目指して、少し歩く事になった。道中勧誘も受けたが、全部スルーした。構っているだけ無駄だ。
 歩く事十分程。本校舎から少し離れた、小さな小屋。ここが、魔道具開発同好会の活動場所らしい。
 私達はドアを開き、中に入る。薄暗い小屋の中には、大量の小道具と、試作品らしき魔道具が置かれ、吊るされ、飾られている。そこそこ散らかっているが、どの辺りに何を置くかは決めている様子だった。
「随分……散らかってますわね」
「そうだね。すみませーん!誰かいますかー!?」
 私が大声で叫ぶと、小道具の山が動いた。いや、正確に言うならば、小道具を大量に身に着けた男が、起き上がった。元は白衣だったであろう服には、大量の見慣れない小道具が括りつけられている。
「あ~?入会希望者かい?取り敢えず、入って~」
「はい。お邪魔します」
 私達は彼に促されるまま、椅子に座った。面接のような形で、私達と彼が向き合う。
「んじゃ、先ずは自己紹介。僕の名前はアレン・ルーデリア。アレンで良いよ」
 ほほうルーデリア。ルーデリア男爵家と言えば、代々続く魔道具の名門だ。現在町の灯りに使われている『蛍光灯』は、三十年程前、ルーデリアの人間が開発した物と聞いている。結構ガチ目な同好会らしい。
「私はライラ。平民だから家名は無い。よろしく」
「ワタクシはマリア・キクエ・スカーレット。よろしくお願いしますわ」
「二人共よろしくね。じゃ、早速活動と行こうか。ちょっと来て」
 おお早速か。私達は小屋の外に出て、アレンさんの実験に付き合う事になった。
 少し開けた場所に出ると、私達は彼から少し離れた場所に立たされた。
「あの!何をするんですか!?」
「ちょいとばかし、見てほしくてね!特待生のライラくんに、是非とも意見を聞きたい!」
 そう言った彼は、懐からマスケット銃のような物を取り出し、的に構えた。なんだアレ?アレも魔道具か?
 彼が引き金を引くと、弾けるような音と同時に、銃の先端から魔力弾マギ・バレットのような物が打ち出された。その弾丸は見事に的に命中し、そのまま的を貫通した。
「魔術を打ち出す魔道具ですか!」
「そうだよ。今は技術面の問題で、ただ魔力を打ち出す魔力弾マギ・バレットしかできないが、それでも中々の威力だろう?是非とも、意見を聞かせて欲しい」
 ふむ……一つ言えるなら、結構凄いと思う。
 魔道具の威力は、元の魔術よりも劣る。光を灯すなら少し暗く、攻撃するなら威力が落ちる。それがコレは、何と元の魔術より威力がある。これは素人目にもとんでもない話だ。俄然興味が湧いて来た。
「仕組みを教えてください!」
 私がアレンさんにそう言うと、彼は満足そうに笑ってから、こう言った。

「ようこそ!魔道具開発同好会へ!新たな仲間を歓迎しよう!」

 こんな感じで、私の当面の楽しみが出来上がった。
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