謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真三章 王都

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 町を出発してから数週間。私は乗り合い馬車に揺られていた。
 あの兵士さんから、王都についての説明は受けたが、本当に一人で大丈夫なのだろうか。今更ながら、あの人達は結構適当な所があるのではなかろうか。
 そして、馬車の業者さんと話をしている内に、結構仲良くなれたので、道中の話し相手には困らなかった。
「お嬢ちゃん。王都には初めて行くのかい?」
「はい。王都にある、魔術学校に通いたくて、王都に行くんです。おじさんは何回か来た事があるんですよね?王都にある食べ物とか、色々教えてくれませんか?」
「応。王都には、大陸中の物が揃っててねえ……」
 おじさんから、色んな物を教えて貰った。オススメのお店とか、冒険者ギルドとか言う物の、依頼だとか、そこそこ役に立ちそうな事を教えて貰えた。良い人との関わりとは、結構大事な物だ。行商の皆も言ってた。
 そして、町を出てから一月後。私達は、王都に着いた。
「さ!お嬢ちゃん。あれが王都、『ガラニドア』だ」
 王都ガラニドア。昔の言葉で、確か『灯台』を表す言葉だ。昔、とんでもなく高度な文明が存在していたとされていた頃、ここには巨大な灯台が存在していたという伝説がある。そこを目印に、巨大な飛行船が、空を飛んでいたとか。そして現代でも、竜に乗って商売する人々の目印になっている。灯りが灯らない灯台でも、ああも巨大ならば当然だろう。
 王都の関所に着き、私達はそれぞれの身分証を呈示して、王都の町に入った。
 そして、驚いた。建物が、兎に角デカい。今まで、精々二階建て程度だった住宅が、三階四階と連なっている。町を囲む城壁には、とても多くの大砲が取り付けられており、その堅牢さが伺える。
 魔術師を相手にした時、大砲は余り役に立たない。魔術師には、飛び道具を防ぐ術や道具がある為、大砲を撃った所で、牽制にすらならないのだ。
 しかし、それでも多くの都市には、大砲等の火器が備え付けられている。それは何故か。町を襲う『魔獣』に有効だからである。魔獣とは、自然に存在している獣の一種だが、人しか襲わないというのが特徴だ。その為、魔獣が町を襲った時に備え、これらの兵器が必要なのだ。
 あの兵士さんから、『王都で一番大きい、中心にある建物が学園だ』と聞かされていたが、分かり易い。だって明らかにデカいのがある。町の端の筈なのに、それでもデカく見える。遠近法の敗北だ。
 しかし、まだ試験とやらの時間には余裕がある。少し王都を見て回ろう。そう思い、関所を離れようとした私は、おじさんに呼び止められた。
「ああお嬢ちゃん待って待って。ここで会ったのも何かの縁だ。これ持って行きな」
 そう言って渡された物は、少し古ぼけた魔術書だった。
「私も、昔は魔法に憧れててねえ。少しでも憧れに近づきたくて、魔術を学ぼうとしてたんだ。まあ、私には才能が無かったのだろう。結局、魔力が発現する事は無かったよ。私が持ってても仕方が無いから、君に譲ろうと思ってね。頑張ってな」
「ありがとうございます。お世話になりました」
 やっぱり、彼は良い人だった。凄い人だ。
 私は、一先ずこれを読んでみたくて、裏路地に入ろうとした。しかし、そうはいかなかった。抱き合っている男女が居たのだ。流石に気まずい。私は何も見なかった。良し。都会怖い。
 まるで目が回るようだ。視界に飛び込んで来る情報量が、今までの町とは段違いだ。ヤバい。酔いそう。
 私は、逃げるように路地裏に隠れ、先程貰った本を開く。どうやら、今まで読んだ本の内容に加え、応用や発展まで書かれている。思っていたよりも役に立ちそうだ。おじさんありがとう。
 そして少し読んでいると、頭上の方から、声を掛けられた。
「ねえ貴女。何をしているの?」
 声がした方を見上げてみると、髪の毛をくるくるにした、金髪で身形が良い女の子が立っていた。
「人に名前を聞くときは自分から名乗る物だと、少なくとも私は教わったけど?」
 そう言うと、その子は少し顔を赤くしてから、少し間を置いて、名乗り始めた。
「ワタクシは、マリア・キクエ・スカーレット。今年から、この王都にある、魔術学校に通う者ですわ!」
「ふ~ん」
 そう言えば、名乗らせておいて何だが、私は結構彼女に興味が無かった。家名があるという事は、貴族なのだろうが、スカーレット伯爵家と言えば、財力だけで魔術に関してはダメダメという噂が出回っている家だ。気にする程ではないだろう。
 社交界において、魔術は重要な要素である。どれだけ強い力を持っているか、つまる所いざという時、自分を守ってくれるのか。一見して、力の存在は大きくないようにも見えるが、実際は真逆である。
 まあ、平民の私には縁の無い話だ。考えるだけ無駄だろう。
 そんな事を考えている一方で、マリアさんとやらは、私の対応が気に食わなかったらしく、怒った顔をしながら、私に向かって言葉を発し続けている。
「あの!そっちが言う通り、私は自己紹介しましたので、そっちも自己紹介なさるべきでは!?」
 はいはい。まあやってあげますよ~。
「私はライラ。平民だから家名は無い。じゃあね、貴族のお嬢様」
「あ!ちょっと!」
 正直、私にとって、彼女と関わるメリットは何一つとして無い。魔術の教えも期待できない、社交界に出る訳でもないので、関わりを作る必要も少ない。関わるメリットの無い貴族との人間関係は、しがらみとなりかねない。さっさと退散しよう。
 私は大通りに出ると、道中練習した、飛行魔術と透明化魔術を使って、少し早めに学校に向かう事にした。最初からこうしとけば良かったが、正直疲れるので、あまりこの組み合わせは使いたくないのだ。
 そして、試験会場も近くなってきた頃、私は魔術を解き、目の前に聳え立つ、その建物を見上げた。

 ここが、王立魔術学校『カラニデ』。私が、六年間を過ごす学校だ。
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