謎色の空と無色の魔女

暇神

文字の大きさ
上 下
7 / 102
序章

序六章 差別

しおりを挟む
 町の端の方にある、大きなお屋敷。コラレ商会の建物である。

 私達は、会長さんの病気を治す薬を作る為、ここにマンドラゴラを買いに来た。
「にしても、何時見ても悪趣味な所だな!」
「ええ全く。ここまで差別的な店が、何故ここにあるのかが謎ですよ」
 リーダーさん達は、目の前の建物に対して色々言っている。しかし、たしかに差別的な外見だ。人間が、他種族を踏みつけにしている。見ていて良い気分じゃない。
 しかし、今はこの建物に入る他、道が無いのだ。これ位の事は、我慢するしかない。
 中も、豪華絢爛と言った感じで、所々に、宝石や貴金属があしらわれた装飾品が飾ってある。どこぞの貴族様がバックに居るという噂だが、あながち間違いでもなさそうだ。
 少し待っていると、奥から小太りの男性がでてきた。
「おや?どうなされました?汚らわしい獣風情と仲良しな下級民族共が」
 おっと言葉には気を付けた方が良いんじゃなかろうか。どこで誰が聞いているのかも分からない。まあ、あの外装にこの態度。今更と言えば今更か。
 結構な暴言を吐かれながらも、リーダーさんは堂々と、「今回はマンドラゴラを買いに来た。在庫はあるか」と言った。カッコイイ。
「ふん!どうせあの獣に飲ませる為だろう?マンドラゴラは確かに万能の薬だが、あの病に効きはせん。無駄だし、愚かだな」
「今回は、旅の薬を切らしたから、買いに来た」
 嘘だが、これ位なら直ぐに見抜かれる。彼は、小さく舌打ちをした後、不機嫌そうに顔を歪めた。
 しかし、これも一応仕事なので、彼は一旦店の奥に引っ込み、箱一杯のマンドラゴラを持って来た。
「これだろう?貴様等が欲しい物は」
「ああ。それで?値はどの程度だ」
 彼は、ニヤリといやらしく笑った後、私達に値札を渡した。それを見た私達は、自分達の目を疑った。
「二千ゴルドだって!?こんな値段、どうなってるんだ!」
 彼は、私達を見下した様に笑い、「君達も商人の端くれなら分かるだろ?」と言ってのけた。
「この町で、他にこれを買える所は無い。ならば、値段を上げた方が儲けは多いだろう?」
 そうだ。何故ここに来たのか。それは、この町ではマンドラゴラを扱う店はここ以外に無いからだ。つまり、彼等には競争相手が居ない。ならば、いくら値段を上げようが、それが必要になった時、人々は必ずそこで買う。そして売値を上げた分だけ、彼等は儲ける。
 この状態は、何も法を犯している訳じゃない。こうなるのは、競争相手が居ない以上、どうしようもない事で、私達が簡単にどうこうできる問題ではない。
 恐らく、彼は人間以外の種族には、通常よりも高い値で売っているのだろう。この値段は、私達が人間だからこうなっているだけだ。悔しい。
 しかし、薬にはこれの四分の一程度でも足りる。私達は、必要最低限の量だけ買って、会長さんの居る屋敷に足を運んだ。

「しかし、アイツらとんでもない奴等ね!他種族排斥主義なんて、今時流行らないわ!」
「奴等が信じる宗教の教えだろう。ゲン担ぎは良い事だが、ああなったらお終いだな」
 帰り道、リョウコさんはずっと怒っていた。まあ、あんな物を見たら仕方が無い。ただの見た目の問題なのに、あそこまで熱狂的になれるのは凄い事だと思う。
 まあ、私がミスしない限り、これでどうにかなるのだ。今はそれだけを考えていれば良い。
 そうこうしている内に、マニシン商会の屋敷が見えて来た。
 しかし、中は慌ただしくなっていた。
「おい!材料は揃ったぞ!どうしたんだ!?」
「会長の容態が!意識不明の重体です!」
 成程。しかし、この病気に罹った人が、一時的に意識を失う事は珍しくない。身体中に斑点が現れてからが問題になる。そうなったら、基本的に治る事は無い。延命は出来るが、近い内に死んでしまう。
 私は、薬の材料になる物が揃っているという部屋に案内された。マンドラゴラ以外は珍しい物ではないので、流石に全て揃っていた。
 さて、ここからは作業の時間だ。あの村で教わった、シスターから教わった事を思い出す。そして、私はその通りに体を動かす。
 一つ一つ、確実に工程が終わって行く。ああそういえば、村でも褒められたな。『お前の魔法は便利だ』って言われてたな。私は悪戯にばかりに使っていたが、偶に誰かを手伝う時は、物を動かしたり、直したりする力が役に立った。その度、シスターに褒められた物だ。その日は、皿に乗るパンが一つ増えたっけ。
 少しのホームシックを感じながら、私は作業を終わらせた。手元には、緑色をした、ドロドロとした薬があった。完成だ。因みに、初めてこの薬を飲む人は、この見た目から敬遠しがちらしい。ついでに尋常じゃなく苦い。
 私は、マスクをしている係の人に、その薬を渡し、直ぐに飲ませるように指示した。マスクで目元しか見えなかったが、少なくとも笑顔ではなかった。そりゃそうなるよなと思う見た目だし、仕方ない物と諦めよう。
 私は、皆が待つ応接室に戻った。途端に、皆が駆け寄って来た。
「ライラちゃん、大丈夫かい?」
「顔色が悪いわ。リーダー、少し横にさせたいから、ちょっとどいてて」
 リーダーさんが座っていた椅子を退くと、少しのスペースができ、私はそこに寝かされた。ああ、いつもこうだ。魔法を使った直後はこうなる。体が怠くなって、力が入らない。
 横になると、疲れからか安心からか、私は直ぐに眠ってしまったようで、私はそこからの事をあまり覚えていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王メーカー

壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー 辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。 魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。 大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

魔法少女に就職希望!

浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。 そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。 コンセプトは20代でも魔法少女になりたい! 完結しました … ファンタジー ※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん
ファンタジー
魔法の国ペンタグラムの貴族として生まれた少年 ラグウェル・アルタイル この国では10歳になると魔力の源である魔素を測定する。 天才魔道士と天才錬金術の間に生まれた彼は、大いに期待されていた。 しかし、彼の魔素は0。 つまり魔法は一切使えない。 しかも、ペンタグラムには魔法がつかえないものは国に仇なすものとされ、処刑される運命である。彼の父は彼に一振りの剣を与え、生き延びろといい彼を救うため、世界の果てに転移魔法を使用し転移させるのであった。 彼が転移した先は広大な白い砂のみが延々と広がる砂漠。 そこで彼は一人の老騎士と出会う。 老騎士の名はアルファルド。彼は19代目の剣聖にまで上り詰めた男であったが、とある目的のために世界の果てといわれるこの場所を旅していた。 ラグウェルはアルファルドに助けられ彼から剣を学び5年の月日が流れる。 そしてラグウェルはアルファルドの故郷である十王国へ渡り、騎士学校へ編入をする、そこで無敵の強さを誇り、十王国最強の騎士と言われるようになり20代目剣聖との死闘の果てに彼が21代目剣聖となる。そして待ち受けるペンタグラムとの戦争、彼はその運命に翻弄されていく。 ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

処理中です...