6 / 102
序章
序五章 特効薬
しおりを挟む
マニシン商会の会長が病気に罹ったという事で、一旦案内された部屋で、私達は話し合っている。
「どうするよリーダー?」
「どうするも何も、あの様子じゃあ当分は無理だろう」
「でも、金銭的にも時間的にも、この取引はしないと!」
「分かってる!でもなあ……」
確かに、病気に罹っているのでは話し合いにならない。かと言って、ここで町を出れば、次の町までの旅費が足りない。
良い案も出ず唸っていたが、部屋の扉が開いた。そして、数人の職員さんが入って来た。
「え~と、この度は、会長が病に罹ったという事で、代理で参りました。ヴィンデルド・イルシュタインです」
おお。代理の方がでてくれるとは有り難い。これだけ大きい商会なのだから、当然と言えば当然だが、どうにかなりそうだという安心感が凄い。
代理人さんは、私達に書類を渡した。どうやら取引の金額が書いてあるようだ。
しかしリーダーさんは、それを見るなり「ふざけるな!」と言って立ち上がった。
「何だこの額は!これじゃあ次の町までに金が無くなる!」
私達も、その書類を見る。そこには、仕入れ値との差額はプラスに傾いているが、とても次の町まで行ける額には思えない金額が記されている。これではリーダーさんが怒るのも仕方無い。
しかし、この金額にも事情があるようで、代理人さんは重い口を開いた。
「すみません!しかし、会長の病は少し厄介でして……治療費がかさむ上、いつまで続くかもわかりません。この額で、納得しては頂けないでしょうか」
う~ん……向こうの事情は分かったが、こっちも生活が懸かっているのだ。引き下がる訳にはいかない。
何か良い案は無い物かと、頭を抱えていると、リーダーさんが口を開いた。
「なあ、会長殿が罹った病ってのは、どんな病気なんだ?」
そういえば、そこの話は聞いてない。あそこまで大慌てになる病気なんて、どんな恐ろしい病気なんだろう。
視線が一気に代理人さんに集まる。代理人さんは、「実は……」と、少し気が進まない様子ではあったが、話してくれた。
「ダパナ病と言う、恐ろしい病なんです」
リョウコさんが息を飲む。ダパナ病とは、一部の動物や虫を通じて感染する病気で、人以外の生物では、感染していても外から確認できる症状が少なく、対策が取り辛い上、高熱が長いと一か月続き、最悪死んでしまうという、かなり有名な病気だ。
リーダーさんも、これを聞くと顔をしかめ、「そうか……」と呟いた。
「ダパナ病の薬なんて、結構な値段するって言うしな……しかし、こちらも引き下がれない……」
私の村でも、ダパナ病に罹った人が居たが、何と言っても薬が高額なのだ。それこそ、あの村で働いていては、一行に集まらないような金額だった。
しかし、ここで私がこの話し合いで初めて口を開いた。
「あの、その病気なら、なんとかなるかも知れません」
全員が私を見る。そう、私の村では対処法があった。これが本当に効けば、何とかなるかもしれない。
私の村では、この病気が出た時は、決まって飲む薬があった。果たしてその材料があるかどうか……
「私の村でこの病気が出た時、皆は決まって、マンドラゴラの粉末と、カラミリの薬草を混ぜた物を飲んでました。村の言い伝えとか、お呪い程度の物で、確実とは言えないんですけど、それを飲んだ人は、皆元気になっていました」
皆は、少し悩んだ末、やるだけやってみるという話になったそうで、代理人さんは部下の人に、急いで材料を揃えるように、指示をだしていました。
しかしこの世と言うのは、一つ問題を解決すると、また一つ問題が出て来るもので、部下の人は、青い顔をして帰って来た。
「若様!大変です!」
息を切らしている彼に、代理人さんは駆け寄った。
「どうした!?先ず落ち着いて、話してみろ!」
「やられました!コラレ商会に、マンドラゴラを買い占められてます!」
皆が、驚いた顔をしているので、気になって聞いてみると、リーダーさんが答えてくれた。
「コラレ商会ってのは、人間至上主義の奴等が集まってる所で、人間種以外はこの世の異物だとか言ってる差別主義者共だ。あの様子を見るに、法外な値段を吹っ掛けられたんだろう」
部下さんは頷き、言われた事を隠す事無く伝えた。
「奴等、まるで会長がダパナにやられたのが分かってたみたいに、グループ総出で買い占めてやがりました!そんで、「下等な獣共は、こんな草にも血眼になるのか」なんて言って……!」
「奴等お得意の嫌味だ。真に受けるな。それに、奴等は商品を買っただけだ。私達にどうこう言う権利は無い」
そんな事を言う代理人さんも、悔しそうに顔を歪めている。
どうする事もできないのかと、部屋の中に沈黙が流れる。それを破ったのは、リョウコさんだった。
「なら、私達が行きましょう」
代理人さんが、驚いた顔でこっちを見る。しかし、その人等が人間相手なら対等な商売をするなら、まだ希望はある。私達は、荷物を纏め、屋敷を出た。
玄関先には、代理人さん達が来てくれた。私達が振り返ると、彼は頭を下げて来た。
「こちらの都合に巻き込んでしまい、申し訳ありません。こちらでも病の対処法を調べますので、よろしくお願いいたします」
リーダーさんは、彼に近づき、肩に手を置いた。
「なあに、お安い御用だ。それに、俺達は商人だ。成功した暁には、相応に対価を貰うぜ」
その言葉で、代理人さんは顔を上げ、「勿論です!」と答えた。
さあ、ここからが勝負だ。目当てはマンドラゴラ。商会からの見返りを求めて、いざ行かん!
「どうするよリーダー?」
「どうするも何も、あの様子じゃあ当分は無理だろう」
「でも、金銭的にも時間的にも、この取引はしないと!」
「分かってる!でもなあ……」
確かに、病気に罹っているのでは話し合いにならない。かと言って、ここで町を出れば、次の町までの旅費が足りない。
良い案も出ず唸っていたが、部屋の扉が開いた。そして、数人の職員さんが入って来た。
「え~と、この度は、会長が病に罹ったという事で、代理で参りました。ヴィンデルド・イルシュタインです」
おお。代理の方がでてくれるとは有り難い。これだけ大きい商会なのだから、当然と言えば当然だが、どうにかなりそうだという安心感が凄い。
代理人さんは、私達に書類を渡した。どうやら取引の金額が書いてあるようだ。
しかしリーダーさんは、それを見るなり「ふざけるな!」と言って立ち上がった。
「何だこの額は!これじゃあ次の町までに金が無くなる!」
私達も、その書類を見る。そこには、仕入れ値との差額はプラスに傾いているが、とても次の町まで行ける額には思えない金額が記されている。これではリーダーさんが怒るのも仕方無い。
しかし、この金額にも事情があるようで、代理人さんは重い口を開いた。
「すみません!しかし、会長の病は少し厄介でして……治療費がかさむ上、いつまで続くかもわかりません。この額で、納得しては頂けないでしょうか」
う~ん……向こうの事情は分かったが、こっちも生活が懸かっているのだ。引き下がる訳にはいかない。
何か良い案は無い物かと、頭を抱えていると、リーダーさんが口を開いた。
「なあ、会長殿が罹った病ってのは、どんな病気なんだ?」
そういえば、そこの話は聞いてない。あそこまで大慌てになる病気なんて、どんな恐ろしい病気なんだろう。
視線が一気に代理人さんに集まる。代理人さんは、「実は……」と、少し気が進まない様子ではあったが、話してくれた。
「ダパナ病と言う、恐ろしい病なんです」
リョウコさんが息を飲む。ダパナ病とは、一部の動物や虫を通じて感染する病気で、人以外の生物では、感染していても外から確認できる症状が少なく、対策が取り辛い上、高熱が長いと一か月続き、最悪死んでしまうという、かなり有名な病気だ。
リーダーさんも、これを聞くと顔をしかめ、「そうか……」と呟いた。
「ダパナ病の薬なんて、結構な値段するって言うしな……しかし、こちらも引き下がれない……」
私の村でも、ダパナ病に罹った人が居たが、何と言っても薬が高額なのだ。それこそ、あの村で働いていては、一行に集まらないような金額だった。
しかし、ここで私がこの話し合いで初めて口を開いた。
「あの、その病気なら、なんとかなるかも知れません」
全員が私を見る。そう、私の村では対処法があった。これが本当に効けば、何とかなるかもしれない。
私の村では、この病気が出た時は、決まって飲む薬があった。果たしてその材料があるかどうか……
「私の村でこの病気が出た時、皆は決まって、マンドラゴラの粉末と、カラミリの薬草を混ぜた物を飲んでました。村の言い伝えとか、お呪い程度の物で、確実とは言えないんですけど、それを飲んだ人は、皆元気になっていました」
皆は、少し悩んだ末、やるだけやってみるという話になったそうで、代理人さんは部下の人に、急いで材料を揃えるように、指示をだしていました。
しかしこの世と言うのは、一つ問題を解決すると、また一つ問題が出て来るもので、部下の人は、青い顔をして帰って来た。
「若様!大変です!」
息を切らしている彼に、代理人さんは駆け寄った。
「どうした!?先ず落ち着いて、話してみろ!」
「やられました!コラレ商会に、マンドラゴラを買い占められてます!」
皆が、驚いた顔をしているので、気になって聞いてみると、リーダーさんが答えてくれた。
「コラレ商会ってのは、人間至上主義の奴等が集まってる所で、人間種以外はこの世の異物だとか言ってる差別主義者共だ。あの様子を見るに、法外な値段を吹っ掛けられたんだろう」
部下さんは頷き、言われた事を隠す事無く伝えた。
「奴等、まるで会長がダパナにやられたのが分かってたみたいに、グループ総出で買い占めてやがりました!そんで、「下等な獣共は、こんな草にも血眼になるのか」なんて言って……!」
「奴等お得意の嫌味だ。真に受けるな。それに、奴等は商品を買っただけだ。私達にどうこう言う権利は無い」
そんな事を言う代理人さんも、悔しそうに顔を歪めている。
どうする事もできないのかと、部屋の中に沈黙が流れる。それを破ったのは、リョウコさんだった。
「なら、私達が行きましょう」
代理人さんが、驚いた顔でこっちを見る。しかし、その人等が人間相手なら対等な商売をするなら、まだ希望はある。私達は、荷物を纏め、屋敷を出た。
玄関先には、代理人さん達が来てくれた。私達が振り返ると、彼は頭を下げて来た。
「こちらの都合に巻き込んでしまい、申し訳ありません。こちらでも病の対処法を調べますので、よろしくお願いいたします」
リーダーさんは、彼に近づき、肩に手を置いた。
「なあに、お安い御用だ。それに、俺達は商人だ。成功した暁には、相応に対価を貰うぜ」
その言葉で、代理人さんは顔を上げ、「勿論です!」と答えた。
さあ、ここからが勝負だ。目当てはマンドラゴラ。商会からの見返りを求めて、いざ行かん!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。


魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる