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序章
序一章 旅立ち
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「コラ!ライラ!また魔法で皆を困らせて!」
気持ちの良いお昼。私はシスターに叱られていた。
私はライラ。この教会で暮らす、大して珍しくも無い人間だ。
私は生まれつき『魔法』が使えた。物を浮かしたり、壊したり、作ったり、戻したりできる。この力を使って悪戯をしては、シスターに怒られるのが、いつもの流れ。
「だって、向こうが先に馬鹿にして来たんだもん。「親が居ないのに魔法が使えるなんて生意気だ」って言って、殴ろうとして来たんだもん」
「暴力に暴力で返すのは、弱い人のやる事です!貴女は恵まれているのですから、他の人間には優しくするべきなのです!」
恵まれてる?こんな狭い協会で、美味しくもないご飯と、藁を敷いただけの寝床で寝る事が?あの子達は美味しいご飯と、フカフカの寝床と、優しい親が居るのに?
私は今日も繰り返す。毎日毎日繰り返す。この日常を繰り返す。
それでも、私は希望を持っていた。一つだけ、この日常を繰り返す理由があった。
昔、村に行商人が来た。
昔と言っても、精々一か月前だが、私はここで閃いた。行商の荷馬車に乗れば、この村の外に行ける。行商だけでとても珍しい物が見れるのだから、町に行けばもっと沢山の物が見られる筈だ。
次に来るのは半年後、それまで私は準備した。村を出て、町で暮らす準備を。
六か月後、準備はできた。行商が来るのは明日。明日、ここを出て行ける。そう考えると、ワクワクして夜も眠れなかった。
翌日、行商が来た。私は騒ぎに紛れて、彼等の荷馬車によじ登り、荷物と荷物の間に体を隠した。私の大きくない体はスッポリ隠れ、誰も私が居ない事に気付かなかった。
そのまま、行商は村を出た。彼等も、暫く私に気付かなかった。
気付かれたのは、日が沈みかけて、彼等が夜に向けて準備を始めた頃だった。私が隠れていた荷物は、どうやらテントか何かだったようで、荷物を取りに近づいた時、隙間に居た私に気付いたのだ。
「おい!子供が居るぞ!」
「はあ!?なんで!?」
「多分さっきの村の子だ!不味いこのままじゃ人攫いで罰を受ける事になっちまう!」
彼等は口々に動揺の言葉を言った。きっと彼等は私を攫ったと思われる事を恐れたようで、私を直ぐに村に帰そうという相談を始めた。折角ここまで来たのに、帰るのは嫌だ!
「待って!私、貴方達と一緒に行きたいの!私も旅に連れてって!」
彼等は驚き、固まってしまった。少し話し合った後、「教育すれば使えるかも」と思ったらしく、私が同行する事を許可してくれた。
私は、彼等に指示された通りに、テントを張り、火を起こし、料理の支度をした。準備が全部終わり、ご飯を食べ始めるのは、もう日が沈んだ後だった。
ご飯を食べ終わり、少し休んだ後、彼等は私にこの行商のルールを教えてくれた。
「あ~ライラちゃん?この行商に付いて来るなら、俺らのルールを守ってもらわなきゃならん。一つ、ここのリーダー……つまり、俺の指示に従ってもらう。二つ、自分の問題は自分で解決する。ただし、俺らに関係する事なら、絶対に相談する事。この二つが守れるなら、俺らに付いて来ても良い」
「分かった」
彼等は少し驚いたような顔をして、そのままテントに戻るように指示した。
今日は凄い事が起こった。あの町から出れたのだ。きっとこれから面白い事が起こるんだ。ワクワクする。シスターが聞かせてくれた御伽噺みたいな、笑っちゃうくらい良い事が。
私は案外疲れていたらしく、布に包まると直ぐに寝てしまった。
翌日、彼等は早起きだった。朝食を作り、鍋を皆で囲んだ。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はリョウコ。この中で一番交渉が上手いわ」
「俺はエドワード。エディと呼んでくれ。この中で一番算術が得意だ」
「俺はマイク。リーダーと呼べ。この中で一番長い事旅をしてる」
どうやら、綺麗な黒い髪の女の人がリョウコ、金髪の人がエディ、赤髪の人がリーダーと言うらしい。
自己紹介は返すのが礼儀らしい。私も改めて自己紹介をしよう。
「私はライラ。算術もできないし、文字も書けないけど、よろしく」
そう言うと、リーダーは笑いながら、「じゃあリョウコ、エディ、この子に文字と算術を教えてやれ!」と言ってくれた。彼等が言うには、この二つは商人には欠かせない要素らしい。
その後、私達は荷物を仕舞い、荷馬車に乗り込んだ。
私は、早速リョウコさんに文字を教えてもらう事になった。
「じゃあライラちゃん。先ずは文字を覚えて貰うわ。この世界にはいくつも言葉があるけど、一番多く使われてる、そして私達が使ってる、リコン語を教えるわ」
「はい!」
リョウコさんは、「私達は教師じゃないから教える事は正確ではないけど、一先ず使えるようにはなる筈よ」と言った。リョウコさんとエディさんの教える事はどれも新鮮で、新しい事を知るのは楽しい事だと知った。何か一つできるようになると褒めてくれて、嬉しかった。
リーダーも結構面白い人で、いつも馬車を動かしてて、何かしてる時に手伝うとお小遣いをくれたり、二人の授業で分からない事があったら、少しだけ噛み砕いて教えてくれた。
川の近くで夜を越す事になったら、リョウコさんと一緒に水浴びをした。川は冷たかったが、リョウコさんと一緒だと気持ちよかった。
夜は皆で鍋を囲んで、一緒に話して笑いあった。下らない話でも、皆と一緒だと凄く楽しかった。
私は、あの村を出て良かったと思えた。
気持ちの良いお昼。私はシスターに叱られていた。
私はライラ。この教会で暮らす、大して珍しくも無い人間だ。
私は生まれつき『魔法』が使えた。物を浮かしたり、壊したり、作ったり、戻したりできる。この力を使って悪戯をしては、シスターに怒られるのが、いつもの流れ。
「だって、向こうが先に馬鹿にして来たんだもん。「親が居ないのに魔法が使えるなんて生意気だ」って言って、殴ろうとして来たんだもん」
「暴力に暴力で返すのは、弱い人のやる事です!貴女は恵まれているのですから、他の人間には優しくするべきなのです!」
恵まれてる?こんな狭い協会で、美味しくもないご飯と、藁を敷いただけの寝床で寝る事が?あの子達は美味しいご飯と、フカフカの寝床と、優しい親が居るのに?
私は今日も繰り返す。毎日毎日繰り返す。この日常を繰り返す。
それでも、私は希望を持っていた。一つだけ、この日常を繰り返す理由があった。
昔、村に行商人が来た。
昔と言っても、精々一か月前だが、私はここで閃いた。行商の荷馬車に乗れば、この村の外に行ける。行商だけでとても珍しい物が見れるのだから、町に行けばもっと沢山の物が見られる筈だ。
次に来るのは半年後、それまで私は準備した。村を出て、町で暮らす準備を。
六か月後、準備はできた。行商が来るのは明日。明日、ここを出て行ける。そう考えると、ワクワクして夜も眠れなかった。
翌日、行商が来た。私は騒ぎに紛れて、彼等の荷馬車によじ登り、荷物と荷物の間に体を隠した。私の大きくない体はスッポリ隠れ、誰も私が居ない事に気付かなかった。
そのまま、行商は村を出た。彼等も、暫く私に気付かなかった。
気付かれたのは、日が沈みかけて、彼等が夜に向けて準備を始めた頃だった。私が隠れていた荷物は、どうやらテントか何かだったようで、荷物を取りに近づいた時、隙間に居た私に気付いたのだ。
「おい!子供が居るぞ!」
「はあ!?なんで!?」
「多分さっきの村の子だ!不味いこのままじゃ人攫いで罰を受ける事になっちまう!」
彼等は口々に動揺の言葉を言った。きっと彼等は私を攫ったと思われる事を恐れたようで、私を直ぐに村に帰そうという相談を始めた。折角ここまで来たのに、帰るのは嫌だ!
「待って!私、貴方達と一緒に行きたいの!私も旅に連れてって!」
彼等は驚き、固まってしまった。少し話し合った後、「教育すれば使えるかも」と思ったらしく、私が同行する事を許可してくれた。
私は、彼等に指示された通りに、テントを張り、火を起こし、料理の支度をした。準備が全部終わり、ご飯を食べ始めるのは、もう日が沈んだ後だった。
ご飯を食べ終わり、少し休んだ後、彼等は私にこの行商のルールを教えてくれた。
「あ~ライラちゃん?この行商に付いて来るなら、俺らのルールを守ってもらわなきゃならん。一つ、ここのリーダー……つまり、俺の指示に従ってもらう。二つ、自分の問題は自分で解決する。ただし、俺らに関係する事なら、絶対に相談する事。この二つが守れるなら、俺らに付いて来ても良い」
「分かった」
彼等は少し驚いたような顔をして、そのままテントに戻るように指示した。
今日は凄い事が起こった。あの町から出れたのだ。きっとこれから面白い事が起こるんだ。ワクワクする。シスターが聞かせてくれた御伽噺みたいな、笑っちゃうくらい良い事が。
私は案外疲れていたらしく、布に包まると直ぐに寝てしまった。
翌日、彼等は早起きだった。朝食を作り、鍋を皆で囲んだ。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はリョウコ。この中で一番交渉が上手いわ」
「俺はエドワード。エディと呼んでくれ。この中で一番算術が得意だ」
「俺はマイク。リーダーと呼べ。この中で一番長い事旅をしてる」
どうやら、綺麗な黒い髪の女の人がリョウコ、金髪の人がエディ、赤髪の人がリーダーと言うらしい。
自己紹介は返すのが礼儀らしい。私も改めて自己紹介をしよう。
「私はライラ。算術もできないし、文字も書けないけど、よろしく」
そう言うと、リーダーは笑いながら、「じゃあリョウコ、エディ、この子に文字と算術を教えてやれ!」と言ってくれた。彼等が言うには、この二つは商人には欠かせない要素らしい。
その後、私達は荷物を仕舞い、荷馬車に乗り込んだ。
私は、早速リョウコさんに文字を教えてもらう事になった。
「じゃあライラちゃん。先ずは文字を覚えて貰うわ。この世界にはいくつも言葉があるけど、一番多く使われてる、そして私達が使ってる、リコン語を教えるわ」
「はい!」
リョウコさんは、「私達は教師じゃないから教える事は正確ではないけど、一先ず使えるようにはなる筈よ」と言った。リョウコさんとエディさんの教える事はどれも新鮮で、新しい事を知るのは楽しい事だと知った。何か一つできるようになると褒めてくれて、嬉しかった。
リーダーも結構面白い人で、いつも馬車を動かしてて、何かしてる時に手伝うとお小遣いをくれたり、二人の授業で分からない事があったら、少しだけ噛み砕いて教えてくれた。
川の近くで夜を越す事になったら、リョウコさんと一緒に水浴びをした。川は冷たかったが、リョウコさんと一緒だと気持ちよかった。
夜は皆で鍋を囲んで、一緒に話して笑いあった。下らない話でも、皆と一緒だと凄く楽しかった。
私は、あの村を出て良かったと思えた。
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