謎色の空と無色の魔女

暇神

文字の大きさ
上 下
2 / 102
序章

序一章 旅立ち

しおりを挟む
「コラ!ライラ!また魔法で皆を困らせて!」

 気持ちの良いお昼。私はシスターに叱られていた。
 私はライラ。この教会で暮らす、大して珍しくも無い人間だ。
 私は生まれつき『魔法』が使えた。物を浮かしたり、壊したり、作ったり、戻したりできる。この力を使って悪戯をしては、シスターに怒られるのが、いつもの流れ。
「だって、向こうが先に馬鹿にして来たんだもん。「親が居ないのに魔法が使えるなんて生意気だ」って言って、殴ろうとして来たんだもん」
「暴力に暴力で返すのは、弱い人のやる事です!貴女は恵まれているのですから、他の人間には優しくするべきなのです!」
 恵まれてる?こんな狭い協会で、美味しくもないご飯と、藁を敷いただけの寝床で寝る事が?あの子達は美味しいご飯と、フカフカの寝床と、優しい親が居るのに?
 私は今日も繰り返す。毎日毎日繰り返す。この日常を繰り返す。
 それでも、私は希望を持っていた。一つだけ、この日常を繰り返す理由があった。

 昔、村に行商人が来た。
 昔と言っても、精々一か月前だが、私はここで閃いた。行商の荷馬車に乗れば、この村の外に行ける。行商だけでとても珍しい物が見れるのだから、町に行けばもっと沢山の物が見られる筈だ。
 次に来るのは半年後、それまで私は準備した。村を出て、町で暮らす準備を。

 六か月後、準備はできた。行商が来るのは明日。明日、ここを出て行ける。そう考えると、ワクワクして夜も眠れなかった。
 翌日、行商が来た。私は騒ぎに紛れて、彼等の荷馬車によじ登り、荷物と荷物の間に体を隠した。私の大きくない体はスッポリ隠れ、誰も私が居ない事に気付かなかった。
 そのまま、行商は村を出た。彼等も、暫く私に気付かなかった。
 気付かれたのは、日が沈みかけて、彼等が夜に向けて準備を始めた頃だった。私が隠れていた荷物は、どうやらテントか何かだったようで、荷物を取りに近づいた時、隙間に居た私に気付いたのだ。
「おい!子供が居るぞ!」
「はあ!?なんで!?」
「多分さっきの村の子だ!不味いこのままじゃ人攫いで罰を受ける事になっちまう!」
 彼等は口々に動揺の言葉を言った。きっと彼等は私を攫ったと思われる事を恐れたようで、私を直ぐに村に帰そうという相談を始めた。折角ここまで来たのに、帰るのは嫌だ!
「待って!私、貴方達と一緒に行きたいの!私も旅に連れてって!」
 彼等は驚き、固まってしまった。少し話し合った後、「教育すれば使えるかも」と思ったらしく、私が同行する事を許可してくれた。
 私は、彼等に指示された通りに、テントを張り、火を起こし、料理の支度をした。準備が全部終わり、ご飯を食べ始めるのは、もう日が沈んだ後だった。
 ご飯を食べ終わり、少し休んだ後、彼等は私にこの行商のルールを教えてくれた。
「あ~ライラちゃん?この行商に付いて来るなら、俺らのルールを守ってもらわなきゃならん。一つ、ここのリーダー……つまり、俺の指示に従ってもらう。二つ、自分の問題は自分で解決する。ただし、俺らに関係する事なら、絶対に相談する事。この二つが守れるなら、俺らに付いて来ても良い」
「分かった」
 彼等は少し驚いたような顔をして、そのままテントに戻るように指示した。
 今日は凄い事が起こった。あの町から出れたのだ。きっとこれから面白い事が起こるんだ。ワクワクする。シスターが聞かせてくれた御伽噺みたいな、笑っちゃうくらい良い事が。
 私は案外疲れていたらしく、布に包まると直ぐに寝てしまった。

 翌日、彼等は早起きだった。朝食を作り、鍋を皆で囲んだ。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はリョウコ。この中で一番交渉が上手いわ」
「俺はエドワード。エディと呼んでくれ。この中で一番算術が得意だ」
「俺はマイク。リーダーと呼べ。この中で一番長い事旅をしてる」
 どうやら、綺麗な黒い髪の女の人がリョウコ、金髪の人がエディ、赤髪の人がリーダーと言うらしい。
 自己紹介は返すのが礼儀らしい。私も改めて自己紹介をしよう。
「私はライラ。算術もできないし、文字も書けないけど、よろしく」
 そう言うと、リーダーは笑いながら、「じゃあリョウコ、エディ、この子に文字と算術を教えてやれ!」と言ってくれた。彼等が言うには、この二つは商人には欠かせない要素らしい。
 その後、私達は荷物を仕舞い、荷馬車に乗り込んだ。
 私は、早速リョウコさんに文字を教えてもらう事になった。
「じゃあライラちゃん。先ずは文字を覚えて貰うわ。この世界にはいくつも言葉があるけど、一番多く使われてる、そして私達が使ってる、リコン語を教えるわ」
「はい!」
 リョウコさんは、「私達は教師じゃないから教える事は正確ではないけど、一先ず使えるようにはなる筈よ」と言った。リョウコさんとエディさんの教える事はどれも新鮮で、新しい事を知るのは楽しい事だと知った。何か一つできるようになると褒めてくれて、嬉しかった。
 リーダーも結構面白い人で、いつも馬車を動かしてて、何かしてる時に手伝うとお小遣いをくれたり、二人の授業で分からない事があったら、少しだけ噛み砕いて教えてくれた。
 川の近くで夜を越す事になったら、リョウコさんと一緒に水浴びをした。川は冷たかったが、リョウコさんと一緒だと気持ちよかった。
 夜は皆で鍋を囲んで、一緒に話して笑いあった。下らない話でも、皆と一緒だと凄く楽しかった。

 私は、あの村を出て良かったと思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王メーカー

壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー 辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。 魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。 大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

抽選結果は大魔王だったので、剣と魔法と平和と欲に溢れた異世界で、のんびりとスローライフしたいと思います。

蒼樹 煉
ファンタジー
抽選で、大魔王として転生したので、取り敢えず、まったりと魔物生成しながら、一応、大魔王なので、広々とした領土で、スローライフっぽいものを目指していきたいと思います。 ※誹謗中傷による「感想」は、お断りです。見付け次第、削除します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※駄文+誤字脱字+その他諸々でグダグダですが、宜しくお願いします。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...