演じるは愛しき罪人達

暇神

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エピローグ 始まりを告げた物語

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 帰り道。昨夜は少し雨が降ったらしく、コンクリートはまだ湿っている。それでも空は晴れている。雲は残っているが、それでも青色の方が目立つ。蜒�らは歩きながら、今後の事について話し合う事にした。
「なんだかんださ、『   』達って数少ない、混じりっ気ゼロの本音で話し合える相手同士じゃない?」
「そうですね。偶には二人で色々話しながら出掛けるのも良いかも知れません」
 今回の件で、荒木今日子について色々知る事はできた。だけどまだ、興味の対象は荒木今日子から動いていない。まだ知らない所がある。まだ暫く、この環境に甘んじよう。
 スマホの時計は既に九時を過ぎている。丸々一晩外出していたのか。親が両方出張なのが幸いだな。多分叱られたりは無い。蜒�は少しだけ瞼を重く感じながらも、変わらず歩き続ける。
「ああそれと、月曜日に打ち上げの話するらしいんで、なるべく休まないでくださいよ」
 蜒�がそう言うと、今日子さんは驚いたような顔をした。おかしい事は言ってないと思うんだけどな。今日子さんはその表情のまま、蜒�に言葉を投げ掛ける。
「もしかして、それだけの為に探しに来たの?」
「言ったでしょう?興味本位だって。まあ、それも少しありましたけど」
 蜒�の言葉に、今日子さんは声を上げて笑い出した。やっぱり、いつもとはどこか違う顔だ。一色しか見当たらない、前よりもずっとマシな顔をしている。
「そうだね。そうだったね。面白いね~春樹君って」
「今日子さん程ではないですよ。まあ、ありがとうございます」
 蜒�は取り敢えず、今日子さんを家まで送り届けてから帰る事にした。寝るのはその後だな。うん。やっぱり辛い。徹夜だった訳だし。
 暫く歩くと、今日子さんの家が見えて来た。蜒�は敷地に入る前に立ち止まって、自分の家の方向へ向かう事にした。僕は重い瞼を擦りながら、今日子さんに背を向ける。
「あれ?帰るの?」
「はい。正直今直ぐ横になりたいレベルで眠いんです。それじゃ、また明日」
 そう言って帰ろうとする僕を、今日子さんが「ちょっと待って!」と呼び止めた。『何だろう』と思った蜒�は振り返り、そして目を見開いた。以前にも似たような感覚を味わった事はあったが、この時の蜒�は、その記憶を探す事もできなかった。少し間を置いて、今日子さんは蜒�から少しだけ離れ、悪戯をした子供のように笑った。
「お礼……ってのも変かな。初めてじゃなくてごめんね。じゃ、また明日!」
 そう言って今日子さんは、家の中へ帰って行った。蜒�は少しの間口を押さえて、その後溜息を吐いた。
「やっぱり凄い人だよ……アンタは……」

 僕はもう一度、家へ向かって歩き出した。
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