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分かり易いラスボス
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翌日。僕らは再び闘技場に来ていた。理由は勿論、アステリアさんと話をする為だ。
昨日忍さんが魔術で魔力を吸い取り、魔法の超再生も使えなくなっていた。アステリアさんは今、起きているのだろうか。流石に寝ているだろうとは思うけど。
闘技場に着いた僕らは、案内された先の、医務室の扉をノックしたが、返事は来ない。僕らは少し警戒しながら、病室に入る。
瞬間。上から風を感じた。僕は反射的に自身にバフを掛けて、攻撃を受け止める。
「あれ?受け止められたか」
「どうやら、労る為の品も要らなかったみたいだな」
「そうね。覚悟はできてるのよね?」
諒子が刀に手をやると、アステリアさんはニヤリと笑って、「良いよ。やる?」と言った。どうやら、筋金入りの戦闘狂らしい。
「諒子、落ち着いて。僕は大丈夫。アステリアさん。昨日、僕らは勝った。貴女には、僕らの要求に応じる義務がある」
「分かってる。で、何が聞きたい?何をしてほしい?なんなら、アタシの体もあげちゃうよ?」
笑えない冗談だ。隣で女性陣二人が殺気を放っている。僕と大聖がそれぞれ止めなければ、今にも飛び掛かりそうだ。
まあ、取り敢えず『約束』は守ってもらえそうで良かった。僕らは二つの質問を、アステリアさんに投げ掛ける。
「魔法って何なの?」
「アタシの身に生まれ付き備わっていた力。自分にだけ、強く作用するんだ。他の物体への干渉は、多分できない」
「俺らを元の世界に帰す魔術はあるのか?」
「世界を飛び越える魔術なんて、アタシは知らない。知ってるとしたら、亜人王様か、人間の王程度だろう」
次は、お願いだな。元々一つだったのが二つに増えたが、問題無いだろう。
「僕に義手をくれるかな?できれば、性能が良い奴」
「分かった。一日待ちな。飛び切り腕の良い鍛冶師に依頼する」
「私達を、亜人王に合わせてくれますか?」
忍さんがそう聞いた時、アステリアさんの表情が変わった。さっきまでの顔とは違う、真剣な表情だ。アステリアさんは僕らに、一つ質問を返す。
「それはアンタらの話を聞いてからだ。アンタらは、亜人王様に会って、何をしたいんだ?」
亜人王に会って何をするか。それは、僕らの旅の目的であり、願いだ。僕は迷う事無く、答えを言う。
「元の世界に帰る方法が欲しい。亜人王なら、それを知っているかも知れない」
「人間の王には言ったのか?」
「言ったけど、『それは亜人王が知っている』と言われた。アイツらは信用できない。だから、ここまで来た」
その答えを聞いたアステリアさんは、少し考え込むような素振りをして、暫くの間唸った。
「少し待ってくれ。色々と考えさせてくれ。答えは、また明日言う。義手の件もあるし、今日は一旦帰ってくれ」
そう言われて、僕らは闘技場を後にした。結局どうなるのかは、明日まで待たないといけないらしい。
「で、何やる?」
「今日は休みましょう。昨日はあんな戦い方したんだし、疲れも溜まってるでしょ?」
「そうだな。聡一の腕もそうだし、今日はゆっくりするのが良いな」
「そうしてくれると助かるかもな。ああでも、祝勝会みたいなのはしたい」
僕らは、町をぶらぶらする事で、時間を潰そうとした。どうやら亜人というのは、かなり気の良い人が多いらしく、昨日の勝負に勝った僕らをさげすむような事は無かった。
僕らは、色々な所を見て回った。町を一望できる高台とか、評判の飲食店とか、兎に角、あちこちを見て回った。
ここまでの旅で、人間の国の連中が、相当な数の嘘を吐いていた事が分かった。まず、この国は戦争などしていない。人間の国が一方的に、『勇者』を送り込んだだけの話だ。相当雑な嘘だ。これで騙せるとでも考えていたのだろうか。
兎にも角にも、益々僕らは、亜人王と話し合う必要がある事を認識した。僕らは亜人王に何か恨みがある訳でも、殺さなければならない理由があるわけでもない。話し合って、元の世界に帰る事ができたなら、それで万々歳だ。無理だったら、旅を続けよう。方法はある筈だ。
日も沈んで、夜になった頃。僕らは、町の食堂に居た。
「じゃあ、『決闘』への勝利を祝うと共に、今後の万事が上手く行く事を願って!」
「「「「乾杯!」」」」
庶民の味に慣れている僕らには、『高い店に行く』なんていう選択肢は無かった。こういう、雑に旨い店が、一番しっくり来るのだ。僕らはテーブルに並べられた料理を、思い思い皿に取って食べた。
「アステリアさんが亜人王と対話する場を設けてくれたら、僕らの旅も終わりかもね」
「長かったわね。まあ、まだ決まった訳じゃないけど」
「帰ったら、先ずは自分の部屋のベッドで寝たいよ」
「そうだな。こっちの硬いし」
だが、僕らはこの時、既にあの硬さに慣れて来ていた。あまり硬いと感じなくなった。この世界に慣れたという事だろうか。だが、そんな無粋な事は言わない。『元の世界に帰ったら』という話は、結構続いた。そう言えば、この話題で話をするのは久し振りな気がする。
夕食も終わった僕らは、少しそとを散歩する事にした。
「この星空って、地球のとは違うよな?」
「多分ね。私もあんま詳しい訳じゃないけど、なんか違う」
「そうなんだ?星座とか全く気にしないから分からないな」
「私もね。まあ少なくとも、私達が住んでた所よりかは綺麗に見えるわ」
暫く外を歩いていると、月が見えた。こっちの月は、地球で見える物よりも大きい気がする。近いのか、実際に大きいのかは分からないけど、まるで映画のワンシーンのような大きさだ。
この空が見れなくなるのは、少し残念だなと思いながら、僕らは宿に戻った。
僕らはその日、翌日に備える意味も込めて、早めに寝た。
翌日。僕らは朝早くから、アステリアさんの所へ向かった。どうやら、答えはもう出ているらしい。
「アンタ達の願いは分かった。約束だ。亜人王様の前まで連れて行く」
それを聞いた僕らは、一斉に飛び上がった。喜びを顔に浮かべ、それを分かち合った。
僕らが一頻り喜んだ後、アステリアさんは僕に、一つの箱を差し出して来た。どうやら、僕の義手を作ってくれたらしい。律儀な人だ。
大きく、思い箱の中には、無駄な装飾が一切無い、機能性だけを追求した形状の義手があった。
「アンタがあの決闘で使っていたガントレットに込められていた、衝撃波も使えるようにしている。硬度も、そこらの鎧とは比べ物にならない程にして、重さはなるべく軽くした」
「装着方法は?」
「右肩に当てて、霊力を流せば、後は多少合わせてくれる」
僕は言われた通りにして、義手を装着する。体になじむような感覚で、まるで本物の腕のようだ。僕はしっかり動くかを確認してから、アステリアさんにお礼を言う。
「ありがとう」
「約束は守られるべき物だ。これはアタシの信条で、信念だ」
やっぱり、どこまで行っても素直で、律儀で、良い人だ。約束は守るし、嘘を吐かない。信用も信頼もできる人とは、こういう人を言うのだろう。
アステリアさんが言うには、もう城への使いは来ているらしい。僕らはアステリアさんに頭を下げて、部屋を出る。どうやら見送りまでしてくれるらしく、アステリアさんは、闘技場の外まで来てくれた。
馬車に全員が乗り込み、いよいよ出発という所で、アステリアさんは僕らに、一つの質問をした。
「一つ良いか?亜人王様を殺す気は、本当に無いんだな?」
「「「「無い」」」」
僕らは即答した。当たり前だ。僕らの目標は、『元の世界に帰る事』だ。亜人王を殺す事じゃない。亜人王を殺す必要があったとしても、僕らはそれを望まない。何か別の方法を探す。
その答えに満足してくれたらしいアステリアさんは、「そうか」と言い、それ以上何も言う事は無かった。馬車はゆっくりと走り出し、僕らを旅の終着へ連れて行く。
城までは、二十分程掛かった。城に入った僕らは、案内役の人に、亜人王が要るという『玉座の間』に連れて行ってもらっていた。
「そう言えば、武器は要らなかったかもな」
「そうね。でもまあ、今更ね」
「今更置きに行くのも、売るのも無理だし、諦めよう」
「そうだね。今は、先を見よう」
僕らが顔を上げると、目の前には巨大な、豪華な扉が鎮座していた。恐らくここが玉座の間だろう。僕らは扉を開け、亜人王と顔を合わせる。
その瞬間、僕らは息を飲んだ。そこには、まるでこの世の物とは思えない程の美少年が居た。神が隅から隅まで作り込んだような、完璧な美しさがある。彼は静かに口を開き、僕らに話し掛ける。
「君達が勇者かい?何故ここに?」
「そうです。ここには、元の世界に帰る方法を探しに来ました」
僕がそう答えると、彼は玉座から立ち上がり、片手を僕らに掲げた。
次の瞬間、亜人王の後ろから、黒い何かが広がって行った。それは空間を侵食するように、透明な水に黒の絵の具を垂らしたように、周囲を暗く染めた。玉座の間が黒に包まれると、亜人王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「ここに新たな神話を紡ぐ!魔王と勇者の、神々に定められし戦いを!」
彼がそう宣言すると同時に、彼の頭上に、巨大な魔法陣が出現した。そこから放たれる無数の魔術の弾丸は、真っ直ぐ僕らに飛んで来た。
「ここには話し合う為に来た!僕らに戦う理由は無い!」
「話を聞いてください!」
彼は攻撃を止めない。僕らを真っ直ぐ見つめ、魔術を放ち続ける。
「どうやら、無理矢理話を聞かすしか無いみたいだな!」
「やるしかない!皆行くよ!」
そう言って、忍さんは僕らにバフを掛ける。僕は亜人王に近付き、兎に角動きを止めようとする。だが、その手が亜人王に届く事は無かった。僕の体は上に弾き飛ばされ、そのまま地面に叩き付けられる。
何が起こったかを理解するのには、体が浮いている一瞬で十分だった。下から魔術を撃たれた。上の魔法陣に気を取られて、下に注意していなかった。
「僕はね、歴代の王の中でも最弱なんだ。直接的な戦闘能力なら、アステリアにも負けるよ。戦ったよね?だから、こういう小細工をするんだ。」
成程。正面から戦ってくれるアステリアさんの百倍厄介だ。忍さんの魔術でもう痛くもないが、持久戦となったら、恐らく忍さんの魔力の方が先に尽きる。早く決めないと。だが、近付けない。近付こうとする度、魔術で弾かれて、距離を取られる。
今までの戦闘パターンが、悉く潰される。僕らの今までの全てが無駄だったと思える程の、強さがあった。
彼は僕らに、堂々と宣言する。
「我が名はルーデリヒ・フォン・サージリア!今代の亜人王にして、三代目の魔王なり!」
僕らはその、あまりに堂々とした姿に、絶望する他無かった。
昨日忍さんが魔術で魔力を吸い取り、魔法の超再生も使えなくなっていた。アステリアさんは今、起きているのだろうか。流石に寝ているだろうとは思うけど。
闘技場に着いた僕らは、案内された先の、医務室の扉をノックしたが、返事は来ない。僕らは少し警戒しながら、病室に入る。
瞬間。上から風を感じた。僕は反射的に自身にバフを掛けて、攻撃を受け止める。
「あれ?受け止められたか」
「どうやら、労る為の品も要らなかったみたいだな」
「そうね。覚悟はできてるのよね?」
諒子が刀に手をやると、アステリアさんはニヤリと笑って、「良いよ。やる?」と言った。どうやら、筋金入りの戦闘狂らしい。
「諒子、落ち着いて。僕は大丈夫。アステリアさん。昨日、僕らは勝った。貴女には、僕らの要求に応じる義務がある」
「分かってる。で、何が聞きたい?何をしてほしい?なんなら、アタシの体もあげちゃうよ?」
笑えない冗談だ。隣で女性陣二人が殺気を放っている。僕と大聖がそれぞれ止めなければ、今にも飛び掛かりそうだ。
まあ、取り敢えず『約束』は守ってもらえそうで良かった。僕らは二つの質問を、アステリアさんに投げ掛ける。
「魔法って何なの?」
「アタシの身に生まれ付き備わっていた力。自分にだけ、強く作用するんだ。他の物体への干渉は、多分できない」
「俺らを元の世界に帰す魔術はあるのか?」
「世界を飛び越える魔術なんて、アタシは知らない。知ってるとしたら、亜人王様か、人間の王程度だろう」
次は、お願いだな。元々一つだったのが二つに増えたが、問題無いだろう。
「僕に義手をくれるかな?できれば、性能が良い奴」
「分かった。一日待ちな。飛び切り腕の良い鍛冶師に依頼する」
「私達を、亜人王に合わせてくれますか?」
忍さんがそう聞いた時、アステリアさんの表情が変わった。さっきまでの顔とは違う、真剣な表情だ。アステリアさんは僕らに、一つ質問を返す。
「それはアンタらの話を聞いてからだ。アンタらは、亜人王様に会って、何をしたいんだ?」
亜人王に会って何をするか。それは、僕らの旅の目的であり、願いだ。僕は迷う事無く、答えを言う。
「元の世界に帰る方法が欲しい。亜人王なら、それを知っているかも知れない」
「人間の王には言ったのか?」
「言ったけど、『それは亜人王が知っている』と言われた。アイツらは信用できない。だから、ここまで来た」
その答えを聞いたアステリアさんは、少し考え込むような素振りをして、暫くの間唸った。
「少し待ってくれ。色々と考えさせてくれ。答えは、また明日言う。義手の件もあるし、今日は一旦帰ってくれ」
そう言われて、僕らは闘技場を後にした。結局どうなるのかは、明日まで待たないといけないらしい。
「で、何やる?」
「今日は休みましょう。昨日はあんな戦い方したんだし、疲れも溜まってるでしょ?」
「そうだな。聡一の腕もそうだし、今日はゆっくりするのが良いな」
「そうしてくれると助かるかもな。ああでも、祝勝会みたいなのはしたい」
僕らは、町をぶらぶらする事で、時間を潰そうとした。どうやら亜人というのは、かなり気の良い人が多いらしく、昨日の勝負に勝った僕らをさげすむような事は無かった。
僕らは、色々な所を見て回った。町を一望できる高台とか、評判の飲食店とか、兎に角、あちこちを見て回った。
ここまでの旅で、人間の国の連中が、相当な数の嘘を吐いていた事が分かった。まず、この国は戦争などしていない。人間の国が一方的に、『勇者』を送り込んだだけの話だ。相当雑な嘘だ。これで騙せるとでも考えていたのだろうか。
兎にも角にも、益々僕らは、亜人王と話し合う必要がある事を認識した。僕らは亜人王に何か恨みがある訳でも、殺さなければならない理由があるわけでもない。話し合って、元の世界に帰る事ができたなら、それで万々歳だ。無理だったら、旅を続けよう。方法はある筈だ。
日も沈んで、夜になった頃。僕らは、町の食堂に居た。
「じゃあ、『決闘』への勝利を祝うと共に、今後の万事が上手く行く事を願って!」
「「「「乾杯!」」」」
庶民の味に慣れている僕らには、『高い店に行く』なんていう選択肢は無かった。こういう、雑に旨い店が、一番しっくり来るのだ。僕らはテーブルに並べられた料理を、思い思い皿に取って食べた。
「アステリアさんが亜人王と対話する場を設けてくれたら、僕らの旅も終わりかもね」
「長かったわね。まあ、まだ決まった訳じゃないけど」
「帰ったら、先ずは自分の部屋のベッドで寝たいよ」
「そうだな。こっちの硬いし」
だが、僕らはこの時、既にあの硬さに慣れて来ていた。あまり硬いと感じなくなった。この世界に慣れたという事だろうか。だが、そんな無粋な事は言わない。『元の世界に帰ったら』という話は、結構続いた。そう言えば、この話題で話をするのは久し振りな気がする。
夕食も終わった僕らは、少しそとを散歩する事にした。
「この星空って、地球のとは違うよな?」
「多分ね。私もあんま詳しい訳じゃないけど、なんか違う」
「そうなんだ?星座とか全く気にしないから分からないな」
「私もね。まあ少なくとも、私達が住んでた所よりかは綺麗に見えるわ」
暫く外を歩いていると、月が見えた。こっちの月は、地球で見える物よりも大きい気がする。近いのか、実際に大きいのかは分からないけど、まるで映画のワンシーンのような大きさだ。
この空が見れなくなるのは、少し残念だなと思いながら、僕らは宿に戻った。
僕らはその日、翌日に備える意味も込めて、早めに寝た。
翌日。僕らは朝早くから、アステリアさんの所へ向かった。どうやら、答えはもう出ているらしい。
「アンタ達の願いは分かった。約束だ。亜人王様の前まで連れて行く」
それを聞いた僕らは、一斉に飛び上がった。喜びを顔に浮かべ、それを分かち合った。
僕らが一頻り喜んだ後、アステリアさんは僕に、一つの箱を差し出して来た。どうやら、僕の義手を作ってくれたらしい。律儀な人だ。
大きく、思い箱の中には、無駄な装飾が一切無い、機能性だけを追求した形状の義手があった。
「アンタがあの決闘で使っていたガントレットに込められていた、衝撃波も使えるようにしている。硬度も、そこらの鎧とは比べ物にならない程にして、重さはなるべく軽くした」
「装着方法は?」
「右肩に当てて、霊力を流せば、後は多少合わせてくれる」
僕は言われた通りにして、義手を装着する。体になじむような感覚で、まるで本物の腕のようだ。僕はしっかり動くかを確認してから、アステリアさんにお礼を言う。
「ありがとう」
「約束は守られるべき物だ。これはアタシの信条で、信念だ」
やっぱり、どこまで行っても素直で、律儀で、良い人だ。約束は守るし、嘘を吐かない。信用も信頼もできる人とは、こういう人を言うのだろう。
アステリアさんが言うには、もう城への使いは来ているらしい。僕らはアステリアさんに頭を下げて、部屋を出る。どうやら見送りまでしてくれるらしく、アステリアさんは、闘技場の外まで来てくれた。
馬車に全員が乗り込み、いよいよ出発という所で、アステリアさんは僕らに、一つの質問をした。
「一つ良いか?亜人王様を殺す気は、本当に無いんだな?」
「「「「無い」」」」
僕らは即答した。当たり前だ。僕らの目標は、『元の世界に帰る事』だ。亜人王を殺す事じゃない。亜人王を殺す必要があったとしても、僕らはそれを望まない。何か別の方法を探す。
その答えに満足してくれたらしいアステリアさんは、「そうか」と言い、それ以上何も言う事は無かった。馬車はゆっくりと走り出し、僕らを旅の終着へ連れて行く。
城までは、二十分程掛かった。城に入った僕らは、案内役の人に、亜人王が要るという『玉座の間』に連れて行ってもらっていた。
「そう言えば、武器は要らなかったかもな」
「そうね。でもまあ、今更ね」
「今更置きに行くのも、売るのも無理だし、諦めよう」
「そうだね。今は、先を見よう」
僕らが顔を上げると、目の前には巨大な、豪華な扉が鎮座していた。恐らくここが玉座の間だろう。僕らは扉を開け、亜人王と顔を合わせる。
その瞬間、僕らは息を飲んだ。そこには、まるでこの世の物とは思えない程の美少年が居た。神が隅から隅まで作り込んだような、完璧な美しさがある。彼は静かに口を開き、僕らに話し掛ける。
「君達が勇者かい?何故ここに?」
「そうです。ここには、元の世界に帰る方法を探しに来ました」
僕がそう答えると、彼は玉座から立ち上がり、片手を僕らに掲げた。
次の瞬間、亜人王の後ろから、黒い何かが広がって行った。それは空間を侵食するように、透明な水に黒の絵の具を垂らしたように、周囲を暗く染めた。玉座の間が黒に包まれると、亜人王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「ここに新たな神話を紡ぐ!魔王と勇者の、神々に定められし戦いを!」
彼がそう宣言すると同時に、彼の頭上に、巨大な魔法陣が出現した。そこから放たれる無数の魔術の弾丸は、真っ直ぐ僕らに飛んで来た。
「ここには話し合う為に来た!僕らに戦う理由は無い!」
「話を聞いてください!」
彼は攻撃を止めない。僕らを真っ直ぐ見つめ、魔術を放ち続ける。
「どうやら、無理矢理話を聞かすしか無いみたいだな!」
「やるしかない!皆行くよ!」
そう言って、忍さんは僕らにバフを掛ける。僕は亜人王に近付き、兎に角動きを止めようとする。だが、その手が亜人王に届く事は無かった。僕の体は上に弾き飛ばされ、そのまま地面に叩き付けられる。
何が起こったかを理解するのには、体が浮いている一瞬で十分だった。下から魔術を撃たれた。上の魔法陣に気を取られて、下に注意していなかった。
「僕はね、歴代の王の中でも最弱なんだ。直接的な戦闘能力なら、アステリアにも負けるよ。戦ったよね?だから、こういう小細工をするんだ。」
成程。正面から戦ってくれるアステリアさんの百倍厄介だ。忍さんの魔術でもう痛くもないが、持久戦となったら、恐らく忍さんの魔力の方が先に尽きる。早く決めないと。だが、近付けない。近付こうとする度、魔術で弾かれて、距離を取られる。
今までの戦闘パターンが、悉く潰される。僕らの今までの全てが無駄だったと思える程の、強さがあった。
彼は僕らに、堂々と宣言する。
「我が名はルーデリヒ・フォン・サージリア!今代の亜人王にして、三代目の魔王なり!」
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