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分かり易い罠
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翌日。僕の体調はすっかり良くなり、無事、迷宮探索へ行ける事になった。
僕らは、昨日お世話になった家の人に謝礼を渡し、その家を出た。歓迎されてはいなかったが、それでも良かった。
「いやあ良かったな!一日で良くなって!」
「ありがとう。心配掛けたね」
「本当だよ!何も無くて良かったよ」
「今日からまた頑張るわよ!昨日一日何もできていないんだもの!」
この町にある迷宮は、現時点で二十四階層まで確認されていて、まだ踏破されていない迷宮の中では、最も探索が進んでいる。僕らはこの迷宮の踏破、及びこの国のお偉いさんとの面会を目指して、この迷宮に潜る。
今回は、持ち物を多くした。長期間の探索を予期して、取り敢えず多めに保存食、魔石などの消耗品を買った。魔石や食料は、迷宮の中でも手に入るが、それだけでは心許ない。
迷宮の中には入った僕らは、前回迷宮に潜った程ではないが、驚いた。
「内装って、迷宮ごとに違うのか」
「ここのは何て言うか……」
「鉱区とかみたいな雰囲気あるわね。修学旅行で見た佐渡金山みたい」
「確かに。前の所程舗装されてないしね」
前に来た迷宮は、レンガで壁や天井が舗装されていたが、こっちはそうではない。岩石が剥き出しで、倒壊を防ぐ為の木の支えがある程度。明かりも薄暗く、余り遠くの方は見えない。
まあ、内装なんて大した問題じゃない。足場が悪い所の戦闘は、今までも何度か経験しているし、戦闘面では問題無い。明かりも、薄暗いだけでちゃんと見える。進行に支障は来さないだろう。
僕らは前と同じように、地図を頼りに迷宮を進む。より下の階層を目指し、可能な限り金になる物を持って帰る。前程切羽詰まった状況ではないとは言え、流石にここで赤字は避けたい。
「にしても、やっぱ魔物も強いな!」
「これってどういう基準で強くなるんだろう?」
「あっちの生き物と同じでしょ。環境に応じた変化って奴よきっと」
「まあ、気にせず進もう。訓練になると思うんだ」
僕らは、今までとの明確な違いを感じながら進み、初日は、三層まで下がった。
「一日で三かあ。まあまあかな」
「そうね。ペースを上げても良いけど、それだと体力がキツイかしら?」
「私はちょっと辛いかな。魔力の消費も激しいから、余計に」
「俺も同感。ペースはこのままが良い」
正直な所、前衛二人より、後衛二人の体調の方が重要だ。多くの戦闘パターンのトドメを担当する後衛は、片方でも潰れると大打撃になる。この二人を潰す事が無いよう、気を付けなければならない。
二日目。僕らは更に先へ進んだ。魔物だけでなく、怪物まで出て来るようになり、僕らは戦闘をする事が多くなった。
怪物は感覚的には、魔物よりも頭が良い気がする。道具を使ったり、近くの物や地形を利用して来たりする。しかも、種類に因っても変わるが、人に近い物も多いので、若干疲れる。
その代わりと言うのは、恐らく間違っているだろうけど、怪物の素材は魔物の素材よりも高く売れる。前の迷宮ではあまり見かけなかったが、怪物とは結構美味しい物らしい。
「でも、やっぱキツイな」
「そうだね。怪物の見た目もそうだけど、全体的に強いのが多いからね」
「でもさ、ちょっと面白い事もあるよね」
「ええ。ここの敵を殺した方が、外の敵を倒すよりも階位が上がるわ」
これは、感覚とかじゃなく、事実だ。ここまでの旅で、僕らの階位は二十とか三十まで行った。だが、ここに入って二日で、全員早くも四十を突破した。
やはり、強い敵を倒すと、階位も上がり易いのだろうか。今更だが、本当にゲームみたいな世界だな。
まあ、階位が上がる分には良い。戦闘能力も上がり、全体的に楽になる。僕らは大して気にもせず、先に進んだ。
この日は朝から進んだ為、四つ進んで七階層まで行った。
「技能のレベルも上がり易いし、強敵と戦うのは良い事ね」
「まあ、その分危ないけど」
「そん位気にすんな!ノーリスクハイリターンなんて無いんだ!」
「大聖が久し振りに良い事言った!」
忍さんのその言葉を聞いた大聖は、「酷くね?」と笑った。僕らはそれを茶化して、更に笑った。ちょっとは気が解れたと思う。
その晩。僕は見張りを交代する為、テントを出た。諒子も居たので、ちょっとだけ話す事にした。
「あ、もう交代なのね」
「うん。でも、ちょっと話さない?」
僕がそう言うと、諒子はちょっとだけ、横に詰めてくれた。僕は諒子の横に座り、諒子と話し始める。
「で、何を話そうって?」
「一昨日のは……ゴメン。まだ話せない。もうちょっと、整理したい」
「そう……」
あの話をするには、まだ少し、足りない。覚悟がとか、心の準備がとかじゃなく、僕自身、アレをどう説明するべきか悩んでいる。悩んでいるままの事を話す事は、少なくとも僕にはできない。
ただ、覚悟はしている。僕がアレの事を話す事でどうなるかなんて、きっと幼稚園児でも想像がつく。それは嫌な事だが、僕自身、そんな事は覚悟している。それこそ、ずっと昔から。
「だけど、話すまで、それまでは……お願いだから、僕と恋人を続けて欲しいんだ」
僕がそう言うと、諒子は呆れたような顔になって、僕にこう言い放った。
「話すとか話さないとか、結構どうでも良いわ。私が惚れたのは、『今』を頑張る聡一だもの。秘密を一個明かした所で、そこは変わらないわ」
その言葉を聞いた僕は、きっと変な顔をしていたんだろう。諒子は、「その顔、凄い面白いわよ」と言って、テントの中に戻って行った。
僕は良い彼女を持てた。ただ、そうじゃないんだよ。そんな綺麗な言葉で終わる程、僕は綺麗じゃないんだよ。
僕はその言葉を飲み込み、薄暗い迷宮の通路を見張った。
三日目。僕らは遂に、十階層に突入した。前の迷宮でもそうだったが、階層数が二桁に行くと、魔物の数が増え、さらに強くなる。今回は、それに怪物も追加されたので、僕らの進行スピードは、少しだけ下がった。
「面倒臭かったなこいつ等」
「数も多いし、何より強いもんね」
「こんな事なら鎧とか買っておけば良かったかしら」
「保存食と消耗品の方に金を回したし、仕方無いよ。まあ、今回の探索が終わった後、貯金額を見てからかな」
明かりに欠かせない魔石は、そこそこ高価な上に、安物だと直ぐに魔力が無くなる。火を使うよりかは楽で安全だし、ただの火と違って、魔物や野生の動物が近寄って来ない分には良いが、それでも金は無くなる。
明かりを点す魔道具自体は、王様に渡された荷物の中にも入っていた。魔道具の値段は、魔石や火の燃料以上に高いので、僕らは少し喜んだが、あの王様らしい事に、肝心の魔石が、一個も入っていなかったのだ。僕らの金欠の原因は、多少そこに起因する。
「だがまあ、こないだの迷宮で入った金もあるし、少しは余裕あるんじゃないか?」
「万が一を考えると、なるべく沢山、金を残しておきたいんだ。病気や怪我のリスクもある。いくら忍さんが治せると言っても、もし忍さんの力が及ばない程の何かがあったらと考えると……まあ、不安なんだ」
「そうだね。一応、お金は貯めておこう」
「でもまあ、多少は防具も欲しいわ。旅立ちの時に貰ったコレも、結構ボロくなって来てるし」
僕らは改めて、自分達の防具を見る。思っていたよりも傷が目立っている。この迷宮に入って、そこそこ強い敵と、何度も何度も戦ったのもあるだろうが、それでも、結構ボロボロだ。
「ただでさえ見栄え重視の鎧だし、できるなら、それぞれに合った物が欲しいわ」
「そうだね。慣れて来たとは言え、ちょっと動き辛い部分はあるし」
「じゃあ、この迷宮で金稼がねーとな!」
「頑張ろう。前回みたいに行かなくても、四人分の鎧は買いたいしね」
四人分の鎧を買おうとなったら、相当な金が要る。一人分でもそこそこ値が張るし、性能を考えれば尚更だ。それが四人分ともなれば、正直今の貯金では厳しいかも知れない。前回のように、宝箱があれば話は別だが、宝箱はとても希少で、本来、あんな所で見つけられるような物ではない。探索を進めて、未発見の部分を探索するのが良いのかも。
まあ、それは道中考えよう。今は少し、疲れた。休みたい。
「ちょっと疲れたから、僕は早めに休ませてもらうよ。見張りはちゃんとする」
「ああ。ゆっくり休め」「お休み」「すっぽかしても心配無いわよ」
僕はテントに入り、寝袋を引っ張り出す。たった一、二時間程度だが、それでも無いよりはマシだろう。
僕は寝袋に包まれ、短い眠りにつく。
『君は何も悪くない』
『僕が悪いんだ』
『アンタのせいで!アンタの!』
『ごめんなさい』
『何も心配する事は無いよ』
『やり直したい』
僕はそこで、目が覚めた。夢を見ていた。ただ、思い出せない。
ああそうか。もう見張り交代の時間か。僕は体を起こし、テントを出る。
「交代に来たよ」
「ありがとう。もう大丈夫?」
「うん。全快とは行かないけど、結構休めたよ」
僕は諒子と交代して、夢で何を見ていたかを思い出そうとする。だが、全く思い出せずに、ただ時間だけが過ぎて行った。
気が付くと、既に交代の時間になっていたようで、テントから出て来た大聖が、僕に話し掛けて来た。
「よう。大丈夫そうだな」
「うん。交代だよね。ありがとう」
「おう。しっかり休むんだぞ」
僕はテントに戻り、ふと、テントの中に横たわる諒子を見た。いつもの光景。だけど、きっと疲れているんだろう。僕は諒子の頭を少し撫でてから、寝袋に戻った。
四日目。僕らは先へ先へと進むと同時に、迫りくる難関について考える事にした。
「階層主の部屋へは、明日頃着く感じかしら?」
「そうだね。このペースで行けば、明日に十五階層の、一番奥に着く筈」
「今日はしっかり今日明日としっかり休んで、ボス戦に備えようぜ」
「僕らなら、きっと勝てる」
階層主とは、十層を起点として、五層ごとに存在している、ボスの事。迷宮の探索が進まないのも、コイツが一番の原因である。この迷宮の攻略が二十四で止まっているのも、二十五階層の階層主を倒せていないからである。階層主の初討伐は、迷宮踏破に次ぐ偉業とされていて、達成した団体には、冒険者ギルドから多額の報酬が渡されるらしい。
十五階層のボスは既に討伐されていて、その大まかな情報は開示されている。
「えっと……巨大な遺跡守だっけ?」
「そうよ。遺跡守自体は珍しくないけど、兎に角デカいらしいわ」
「どんだけデカいんだ?」
「人の五倍はあるって」
忍さんの言葉に、大聖は「デカ過ぎだろ!」と大袈裟に反応する。ただ、人の五倍は確かにデカい。おおよそ九メートル弱位だろうか。遺跡守には既に遭遇しているが、兎に角硬くて、面倒な相手だった。
遺跡守は人型の怪物で、二メートル程の体躯をしている。胸部に『核』と呼ばれる物が存在し、それを壊さない限り、そこらの岩を吸って、無限に再生する。逆に、それが破壊されると、体を構成する岩石が離れ離れになり、そのまま死ぬ。
コイツ一体倒すのに、三流の冒険者ではかなり苦労をする。硬い体表は刃を通さず、並みの魔術を受け付けないからだ。僕らも、大聖の魔術と諒子の持っている刀が無ければ、相当な時間の苦戦を強いられていただろう。
僕らは魔物や怪物を倒しながら、先へ進み、この日はも苦労して、なんとか十三階層まで到達した。
「いや~疲れたな!」
「おつかれ大聖。二桁まで行ってから、魔術の出番増えたしね」
「明日十五階層で、明後日階層主戦かしら?」
「その予定だね。明日はなるべく戦闘を避けて、明後日に備えよう」
僕らは地図を見て、最短のルートの他に、魔物が居た時の迂回路も考えた。早く行くのは良い事だが、魔物と遭遇して消耗していては、元も子も無い。
その日はそれだけを決めて、談笑してから、いつものように夜を迎えた。
五日目。僕らは魔物を避け、十五階層に到達した。大分遠回りしたように思っていたが、思っていたよりかは時間が掛からなかった。
僕らは、この迷宮で初めて遺跡守に遭遇した時を思い出しながら、明日挑む階層主への対策を考える。
「私は皆にバフを配って、大聖は魔術で胸の部分を削る」
「魔力は潤沢。少なくとも俺は、役割をしっかりこなせそうだぜ」
「前衛の僕らは、奴の体を削りながらのヘイト稼ぎだけど、僕の剣は効かないだろうしなあ。拳で直接殴るかな?」
「手甲あるけど、流石にそれはキツイんじゃないかしら?ちょっと試すのは良いけど、効かなそうだったら、体を削るのは私に任せて、回避に専念して。私の刀なら、無理矢理押せば効くわ」
前回もそうだった。奴の硬い体は、僕の剣をいとも簡単に弾いた。諒子は自分の折れない刀で、奴の体を無理矢理削り、そこに大聖が魔術を叩き込む事で、なんとか決着が付いた。忍さんのバフを乗せても、僕ではアイツに傷を付けられない。拳はまだ試してないし、試してみよう。
剣だけなら諒子に敵わないし、次に防具を買う時は、拳で戦う事も想定して選ぼうかな。ガントレットみたいな感じの奴。
作戦も決まった僕らは、久し振りに豪華な夕飯を作って食べた。正直な所、作戦通りに行くとは思えない。階層主と戦うのは初めての事だし、そこらの遺跡守には無い動きをして来る可能性だってある。無いよりもあった方が安心できるから作戦を作っているだけで、そこに意義は無いのかも知れない。
まあ、僕は作戦通りに動くだけだ。回避をしながらヘイトを稼いで、可能ならダメージを与えるだけの、簡単なお仕事だ。頑張ろう。
その日は明日の為に、早めに寝て英気を養う事にした。迷宮の中にしては豪華な食事を食べた後は、割とよく眠れた気がする。
六日目。遂に、階層主戦だ。
「じゃ、入るわよ」
「入ったら早速……だよな」
「今からバフ掛けておくね」
「ありがとう」
僕らは忍さんの魔術に因ってバフが掛かった事を確認すると、扉に手を当てた。
「気張って行こう」
「「「おお!」」」
僕は腕に力を込め、扉を押した。扉は案外簡単に開き、その先が見える。
その瞬間、僕らは目を疑った。
「居ない」
階層主が、居ないのである。情報が正しいのなら、階層主はこの広い部屋の中心に鎮座している筈。誤情報?いや、複数の資料にそう書かれていた。誤情報ではない。なら何故?
僕は最悪の可能性に気が付き、皆の方を見る。
「皆!急いでこの部屋を出るんだ!」
その瞬間、僕らの足元、いや、この部屋の床全体に、見覚えのある模様が現れた。ソレは、僕らがこの世界に来た時に見た物と、とてもよく似ていた。
それを確認するのと、僕らが強烈な乗り物酔いに似た感覚に襲われたのは、そこまで時間差が無かった。
目を覚ますと、僕らは見知らぬ、まるで宝石のような物があしらわれた部屋に居た。
ここは一体どこだ?アレはなんだ?輝いている。
「目が覚めたようだね!」
その聞き覚えの無い声に、僕は飛び上がり、臨戦態勢に入る。声がした先には、亜人の女性が立っていた。
「貴女は……敵……ですよね?」
「察しが良いね。そうさ。アンタらがこの町に来た時から、アタシはアンタらを見張ってた」
やはり、この町に来た時の、あの三日間。僕らの素性は調べ上げられ、その結果として、彼等は僕らが『勇者一行』だと気が付いたようだ。そして、彼女を寄越した。
「見逃してくれたりは?」
「無理だね。アタシも大義を背負った身だ。逃す訳には行かない」
そうだろうな。僕も正直、期待なんてしていなかった。僕は剣を構えたまま、彼女と睨み合いを続ける。
「アンタらを殺す。それがアタシの役割だ」
僕はその言葉を聞きながら、神経を研ぎ澄ませる。どうやら、僕の後ろに皆が居るようだ。だが、全員目を覚ましてはいない。勝てるか?無理だ。僕一人では勿論、三人合わせても勝てるかどうか。
どうする?逃げる?どうやって?そもそもここはどこだ?どうやって連れて来た?もしかして……
その瞬間、僕は腹に、強い衝撃を受けた。殴られた。
「レディと話してる最中に他の女の事考えるとか、常識が無いんじゃない?」
僕は真面に返す事ができず、ただ痛みと吐き気に悶えている。その様子を見れてご満悦な様子の女性は、僕らにこの場所について話し始めた。
「実はここ、アンタらが居た迷宮の再奥地なんだ。アンタらを連れて来たのは、まあ罠だ。趣味じゃないけど、確実だしね」
朦朧とする意識の中、僕はこの状況を脱する方法を考える。何か無いか。何か無いか。何か何か何か。
「アタシが最初に踏破したんだけど、まあ面倒臭かったから、色々黙ったまま、利用させてもらってたんだ。管理は大変だけど、中々便利だしね」
迷宮。迷宮核。情報。思い出せ。糸口。考えろ。
「住む場所にも稼ぐ場所にも、更には狩場にも使える。便利この上無いよ」
転移。魔術。不可能。考えろ。迷宮核。脱出。
「だからこうして、いざという時には使えるよう、罠を作ったり作らなかったり……ま、上手く作動してくれて良かっ……」
その瞬間、僕は三人と荷物を引っ張って、迷宮核の方へ走り出した。今までに手に入れた技能、経験の全てを活かし、走った。
不意を突かれたらしい彼女は、直ぐには反応して来なかった。いや、或いは見逃されたのかも知れない。どちらにせよ、僕は迷宮核に触れ、外へ脱出した。
気付くと、僕らは見知らぬ森の中に居た。皆は勿論、ついでに荷物も無事に出れたようだ。
まだ頭がグルグルする。やはり転移魔術を使った時、体に負荷が掛かるらしい。あの人は……追って来てない。どうやら、一旦は逃げきれたらしい。
そんな事を考えていると、皆が起き上がった。
「うう……」
「何が……」
「良かった。起きた」
「聡一?どういう状況なの?」
僕は混乱している頭で、今までの状況を説明した。多分、結構分かり難い感じになっていたと思う。
「権力者……かな?」
「どうだろう。権力者なら尚更、迷宮踏破なんていう偉業を公言しない訳が無い」
「ただの変人だったってだけじゃ?でもまあ、正体も分からないんじゃね……」
「対策の仕様がねえ。ただ殴られたってだけだろ?兎に角早かったとしか分からん」
アレは身体能力だったんだろうか。でもだとしたら、僕が逃げ出す時、なんで追って来なかった?特殊な道具、または力が働いていた?どんな?駄目だ頭がグルグルする。
「一旦町に行こう。ここがどこでも、歩けば何か目印が見つかるかも」
「そうね。聡一、大丈夫そう?」
「多分……ああでも、まだ頭が痛い」
「俺が背負って行く。大丈夫そうになったら言うんだぞ」
そんなこんなで、僕らはまた、歩みを進める事にした。彼女は何者なのか、どんな戦い方をするのかなど、様々な疑問を残したまま。
僕らは、昨日お世話になった家の人に謝礼を渡し、その家を出た。歓迎されてはいなかったが、それでも良かった。
「いやあ良かったな!一日で良くなって!」
「ありがとう。心配掛けたね」
「本当だよ!何も無くて良かったよ」
「今日からまた頑張るわよ!昨日一日何もできていないんだもの!」
この町にある迷宮は、現時点で二十四階層まで確認されていて、まだ踏破されていない迷宮の中では、最も探索が進んでいる。僕らはこの迷宮の踏破、及びこの国のお偉いさんとの面会を目指して、この迷宮に潜る。
今回は、持ち物を多くした。長期間の探索を予期して、取り敢えず多めに保存食、魔石などの消耗品を買った。魔石や食料は、迷宮の中でも手に入るが、それだけでは心許ない。
迷宮の中には入った僕らは、前回迷宮に潜った程ではないが、驚いた。
「内装って、迷宮ごとに違うのか」
「ここのは何て言うか……」
「鉱区とかみたいな雰囲気あるわね。修学旅行で見た佐渡金山みたい」
「確かに。前の所程舗装されてないしね」
前に来た迷宮は、レンガで壁や天井が舗装されていたが、こっちはそうではない。岩石が剥き出しで、倒壊を防ぐ為の木の支えがある程度。明かりも薄暗く、余り遠くの方は見えない。
まあ、内装なんて大した問題じゃない。足場が悪い所の戦闘は、今までも何度か経験しているし、戦闘面では問題無い。明かりも、薄暗いだけでちゃんと見える。進行に支障は来さないだろう。
僕らは前と同じように、地図を頼りに迷宮を進む。より下の階層を目指し、可能な限り金になる物を持って帰る。前程切羽詰まった状況ではないとは言え、流石にここで赤字は避けたい。
「にしても、やっぱ魔物も強いな!」
「これってどういう基準で強くなるんだろう?」
「あっちの生き物と同じでしょ。環境に応じた変化って奴よきっと」
「まあ、気にせず進もう。訓練になると思うんだ」
僕らは、今までとの明確な違いを感じながら進み、初日は、三層まで下がった。
「一日で三かあ。まあまあかな」
「そうね。ペースを上げても良いけど、それだと体力がキツイかしら?」
「私はちょっと辛いかな。魔力の消費も激しいから、余計に」
「俺も同感。ペースはこのままが良い」
正直な所、前衛二人より、後衛二人の体調の方が重要だ。多くの戦闘パターンのトドメを担当する後衛は、片方でも潰れると大打撃になる。この二人を潰す事が無いよう、気を付けなければならない。
二日目。僕らは更に先へ進んだ。魔物だけでなく、怪物まで出て来るようになり、僕らは戦闘をする事が多くなった。
怪物は感覚的には、魔物よりも頭が良い気がする。道具を使ったり、近くの物や地形を利用して来たりする。しかも、種類に因っても変わるが、人に近い物も多いので、若干疲れる。
その代わりと言うのは、恐らく間違っているだろうけど、怪物の素材は魔物の素材よりも高く売れる。前の迷宮ではあまり見かけなかったが、怪物とは結構美味しい物らしい。
「でも、やっぱキツイな」
「そうだね。怪物の見た目もそうだけど、全体的に強いのが多いからね」
「でもさ、ちょっと面白い事もあるよね」
「ええ。ここの敵を殺した方が、外の敵を倒すよりも階位が上がるわ」
これは、感覚とかじゃなく、事実だ。ここまでの旅で、僕らの階位は二十とか三十まで行った。だが、ここに入って二日で、全員早くも四十を突破した。
やはり、強い敵を倒すと、階位も上がり易いのだろうか。今更だが、本当にゲームみたいな世界だな。
まあ、階位が上がる分には良い。戦闘能力も上がり、全体的に楽になる。僕らは大して気にもせず、先に進んだ。
この日は朝から進んだ為、四つ進んで七階層まで行った。
「技能のレベルも上がり易いし、強敵と戦うのは良い事ね」
「まあ、その分危ないけど」
「そん位気にすんな!ノーリスクハイリターンなんて無いんだ!」
「大聖が久し振りに良い事言った!」
忍さんのその言葉を聞いた大聖は、「酷くね?」と笑った。僕らはそれを茶化して、更に笑った。ちょっとは気が解れたと思う。
その晩。僕は見張りを交代する為、テントを出た。諒子も居たので、ちょっとだけ話す事にした。
「あ、もう交代なのね」
「うん。でも、ちょっと話さない?」
僕がそう言うと、諒子はちょっとだけ、横に詰めてくれた。僕は諒子の横に座り、諒子と話し始める。
「で、何を話そうって?」
「一昨日のは……ゴメン。まだ話せない。もうちょっと、整理したい」
「そう……」
あの話をするには、まだ少し、足りない。覚悟がとか、心の準備がとかじゃなく、僕自身、アレをどう説明するべきか悩んでいる。悩んでいるままの事を話す事は、少なくとも僕にはできない。
ただ、覚悟はしている。僕がアレの事を話す事でどうなるかなんて、きっと幼稚園児でも想像がつく。それは嫌な事だが、僕自身、そんな事は覚悟している。それこそ、ずっと昔から。
「だけど、話すまで、それまでは……お願いだから、僕と恋人を続けて欲しいんだ」
僕がそう言うと、諒子は呆れたような顔になって、僕にこう言い放った。
「話すとか話さないとか、結構どうでも良いわ。私が惚れたのは、『今』を頑張る聡一だもの。秘密を一個明かした所で、そこは変わらないわ」
その言葉を聞いた僕は、きっと変な顔をしていたんだろう。諒子は、「その顔、凄い面白いわよ」と言って、テントの中に戻って行った。
僕は良い彼女を持てた。ただ、そうじゃないんだよ。そんな綺麗な言葉で終わる程、僕は綺麗じゃないんだよ。
僕はその言葉を飲み込み、薄暗い迷宮の通路を見張った。
三日目。僕らは遂に、十階層に突入した。前の迷宮でもそうだったが、階層数が二桁に行くと、魔物の数が増え、さらに強くなる。今回は、それに怪物も追加されたので、僕らの進行スピードは、少しだけ下がった。
「面倒臭かったなこいつ等」
「数も多いし、何より強いもんね」
「こんな事なら鎧とか買っておけば良かったかしら」
「保存食と消耗品の方に金を回したし、仕方無いよ。まあ、今回の探索が終わった後、貯金額を見てからかな」
明かりに欠かせない魔石は、そこそこ高価な上に、安物だと直ぐに魔力が無くなる。火を使うよりかは楽で安全だし、ただの火と違って、魔物や野生の動物が近寄って来ない分には良いが、それでも金は無くなる。
明かりを点す魔道具自体は、王様に渡された荷物の中にも入っていた。魔道具の値段は、魔石や火の燃料以上に高いので、僕らは少し喜んだが、あの王様らしい事に、肝心の魔石が、一個も入っていなかったのだ。僕らの金欠の原因は、多少そこに起因する。
「だがまあ、こないだの迷宮で入った金もあるし、少しは余裕あるんじゃないか?」
「万が一を考えると、なるべく沢山、金を残しておきたいんだ。病気や怪我のリスクもある。いくら忍さんが治せると言っても、もし忍さんの力が及ばない程の何かがあったらと考えると……まあ、不安なんだ」
「そうだね。一応、お金は貯めておこう」
「でもまあ、多少は防具も欲しいわ。旅立ちの時に貰ったコレも、結構ボロくなって来てるし」
僕らは改めて、自分達の防具を見る。思っていたよりも傷が目立っている。この迷宮に入って、そこそこ強い敵と、何度も何度も戦ったのもあるだろうが、それでも、結構ボロボロだ。
「ただでさえ見栄え重視の鎧だし、できるなら、それぞれに合った物が欲しいわ」
「そうだね。慣れて来たとは言え、ちょっと動き辛い部分はあるし」
「じゃあ、この迷宮で金稼がねーとな!」
「頑張ろう。前回みたいに行かなくても、四人分の鎧は買いたいしね」
四人分の鎧を買おうとなったら、相当な金が要る。一人分でもそこそこ値が張るし、性能を考えれば尚更だ。それが四人分ともなれば、正直今の貯金では厳しいかも知れない。前回のように、宝箱があれば話は別だが、宝箱はとても希少で、本来、あんな所で見つけられるような物ではない。探索を進めて、未発見の部分を探索するのが良いのかも。
まあ、それは道中考えよう。今は少し、疲れた。休みたい。
「ちょっと疲れたから、僕は早めに休ませてもらうよ。見張りはちゃんとする」
「ああ。ゆっくり休め」「お休み」「すっぽかしても心配無いわよ」
僕はテントに入り、寝袋を引っ張り出す。たった一、二時間程度だが、それでも無いよりはマシだろう。
僕は寝袋に包まれ、短い眠りにつく。
『君は何も悪くない』
『僕が悪いんだ』
『アンタのせいで!アンタの!』
『ごめんなさい』
『何も心配する事は無いよ』
『やり直したい』
僕はそこで、目が覚めた。夢を見ていた。ただ、思い出せない。
ああそうか。もう見張り交代の時間か。僕は体を起こし、テントを出る。
「交代に来たよ」
「ありがとう。もう大丈夫?」
「うん。全快とは行かないけど、結構休めたよ」
僕は諒子と交代して、夢で何を見ていたかを思い出そうとする。だが、全く思い出せずに、ただ時間だけが過ぎて行った。
気が付くと、既に交代の時間になっていたようで、テントから出て来た大聖が、僕に話し掛けて来た。
「よう。大丈夫そうだな」
「うん。交代だよね。ありがとう」
「おう。しっかり休むんだぞ」
僕はテントに戻り、ふと、テントの中に横たわる諒子を見た。いつもの光景。だけど、きっと疲れているんだろう。僕は諒子の頭を少し撫でてから、寝袋に戻った。
四日目。僕らは先へ先へと進むと同時に、迫りくる難関について考える事にした。
「階層主の部屋へは、明日頃着く感じかしら?」
「そうだね。このペースで行けば、明日に十五階層の、一番奥に着く筈」
「今日はしっかり今日明日としっかり休んで、ボス戦に備えようぜ」
「僕らなら、きっと勝てる」
階層主とは、十層を起点として、五層ごとに存在している、ボスの事。迷宮の探索が進まないのも、コイツが一番の原因である。この迷宮の攻略が二十四で止まっているのも、二十五階層の階層主を倒せていないからである。階層主の初討伐は、迷宮踏破に次ぐ偉業とされていて、達成した団体には、冒険者ギルドから多額の報酬が渡されるらしい。
十五階層のボスは既に討伐されていて、その大まかな情報は開示されている。
「えっと……巨大な遺跡守だっけ?」
「そうよ。遺跡守自体は珍しくないけど、兎に角デカいらしいわ」
「どんだけデカいんだ?」
「人の五倍はあるって」
忍さんの言葉に、大聖は「デカ過ぎだろ!」と大袈裟に反応する。ただ、人の五倍は確かにデカい。おおよそ九メートル弱位だろうか。遺跡守には既に遭遇しているが、兎に角硬くて、面倒な相手だった。
遺跡守は人型の怪物で、二メートル程の体躯をしている。胸部に『核』と呼ばれる物が存在し、それを壊さない限り、そこらの岩を吸って、無限に再生する。逆に、それが破壊されると、体を構成する岩石が離れ離れになり、そのまま死ぬ。
コイツ一体倒すのに、三流の冒険者ではかなり苦労をする。硬い体表は刃を通さず、並みの魔術を受け付けないからだ。僕らも、大聖の魔術と諒子の持っている刀が無ければ、相当な時間の苦戦を強いられていただろう。
僕らは魔物や怪物を倒しながら、先へ進み、この日はも苦労して、なんとか十三階層まで到達した。
「いや~疲れたな!」
「おつかれ大聖。二桁まで行ってから、魔術の出番増えたしね」
「明日十五階層で、明後日階層主戦かしら?」
「その予定だね。明日はなるべく戦闘を避けて、明後日に備えよう」
僕らは地図を見て、最短のルートの他に、魔物が居た時の迂回路も考えた。早く行くのは良い事だが、魔物と遭遇して消耗していては、元も子も無い。
その日はそれだけを決めて、談笑してから、いつものように夜を迎えた。
五日目。僕らは魔物を避け、十五階層に到達した。大分遠回りしたように思っていたが、思っていたよりかは時間が掛からなかった。
僕らは、この迷宮で初めて遺跡守に遭遇した時を思い出しながら、明日挑む階層主への対策を考える。
「私は皆にバフを配って、大聖は魔術で胸の部分を削る」
「魔力は潤沢。少なくとも俺は、役割をしっかりこなせそうだぜ」
「前衛の僕らは、奴の体を削りながらのヘイト稼ぎだけど、僕の剣は効かないだろうしなあ。拳で直接殴るかな?」
「手甲あるけど、流石にそれはキツイんじゃないかしら?ちょっと試すのは良いけど、効かなそうだったら、体を削るのは私に任せて、回避に専念して。私の刀なら、無理矢理押せば効くわ」
前回もそうだった。奴の硬い体は、僕の剣をいとも簡単に弾いた。諒子は自分の折れない刀で、奴の体を無理矢理削り、そこに大聖が魔術を叩き込む事で、なんとか決着が付いた。忍さんのバフを乗せても、僕ではアイツに傷を付けられない。拳はまだ試してないし、試してみよう。
剣だけなら諒子に敵わないし、次に防具を買う時は、拳で戦う事も想定して選ぼうかな。ガントレットみたいな感じの奴。
作戦も決まった僕らは、久し振りに豪華な夕飯を作って食べた。正直な所、作戦通りに行くとは思えない。階層主と戦うのは初めての事だし、そこらの遺跡守には無い動きをして来る可能性だってある。無いよりもあった方が安心できるから作戦を作っているだけで、そこに意義は無いのかも知れない。
まあ、僕は作戦通りに動くだけだ。回避をしながらヘイトを稼いで、可能ならダメージを与えるだけの、簡単なお仕事だ。頑張ろう。
その日は明日の為に、早めに寝て英気を養う事にした。迷宮の中にしては豪華な食事を食べた後は、割とよく眠れた気がする。
六日目。遂に、階層主戦だ。
「じゃ、入るわよ」
「入ったら早速……だよな」
「今からバフ掛けておくね」
「ありがとう」
僕らは忍さんの魔術に因ってバフが掛かった事を確認すると、扉に手を当てた。
「気張って行こう」
「「「おお!」」」
僕は腕に力を込め、扉を押した。扉は案外簡単に開き、その先が見える。
その瞬間、僕らは目を疑った。
「居ない」
階層主が、居ないのである。情報が正しいのなら、階層主はこの広い部屋の中心に鎮座している筈。誤情報?いや、複数の資料にそう書かれていた。誤情報ではない。なら何故?
僕は最悪の可能性に気が付き、皆の方を見る。
「皆!急いでこの部屋を出るんだ!」
その瞬間、僕らの足元、いや、この部屋の床全体に、見覚えのある模様が現れた。ソレは、僕らがこの世界に来た時に見た物と、とてもよく似ていた。
それを確認するのと、僕らが強烈な乗り物酔いに似た感覚に襲われたのは、そこまで時間差が無かった。
目を覚ますと、僕らは見知らぬ、まるで宝石のような物があしらわれた部屋に居た。
ここは一体どこだ?アレはなんだ?輝いている。
「目が覚めたようだね!」
その聞き覚えの無い声に、僕は飛び上がり、臨戦態勢に入る。声がした先には、亜人の女性が立っていた。
「貴女は……敵……ですよね?」
「察しが良いね。そうさ。アンタらがこの町に来た時から、アタシはアンタらを見張ってた」
やはり、この町に来た時の、あの三日間。僕らの素性は調べ上げられ、その結果として、彼等は僕らが『勇者一行』だと気が付いたようだ。そして、彼女を寄越した。
「見逃してくれたりは?」
「無理だね。アタシも大義を背負った身だ。逃す訳には行かない」
そうだろうな。僕も正直、期待なんてしていなかった。僕は剣を構えたまま、彼女と睨み合いを続ける。
「アンタらを殺す。それがアタシの役割だ」
僕はその言葉を聞きながら、神経を研ぎ澄ませる。どうやら、僕の後ろに皆が居るようだ。だが、全員目を覚ましてはいない。勝てるか?無理だ。僕一人では勿論、三人合わせても勝てるかどうか。
どうする?逃げる?どうやって?そもそもここはどこだ?どうやって連れて来た?もしかして……
その瞬間、僕は腹に、強い衝撃を受けた。殴られた。
「レディと話してる最中に他の女の事考えるとか、常識が無いんじゃない?」
僕は真面に返す事ができず、ただ痛みと吐き気に悶えている。その様子を見れてご満悦な様子の女性は、僕らにこの場所について話し始めた。
「実はここ、アンタらが居た迷宮の再奥地なんだ。アンタらを連れて来たのは、まあ罠だ。趣味じゃないけど、確実だしね」
朦朧とする意識の中、僕はこの状況を脱する方法を考える。何か無いか。何か無いか。何か何か何か。
「アタシが最初に踏破したんだけど、まあ面倒臭かったから、色々黙ったまま、利用させてもらってたんだ。管理は大変だけど、中々便利だしね」
迷宮。迷宮核。情報。思い出せ。糸口。考えろ。
「住む場所にも稼ぐ場所にも、更には狩場にも使える。便利この上無いよ」
転移。魔術。不可能。考えろ。迷宮核。脱出。
「だからこうして、いざという時には使えるよう、罠を作ったり作らなかったり……ま、上手く作動してくれて良かっ……」
その瞬間、僕は三人と荷物を引っ張って、迷宮核の方へ走り出した。今までに手に入れた技能、経験の全てを活かし、走った。
不意を突かれたらしい彼女は、直ぐには反応して来なかった。いや、或いは見逃されたのかも知れない。どちらにせよ、僕は迷宮核に触れ、外へ脱出した。
気付くと、僕らは見知らぬ森の中に居た。皆は勿論、ついでに荷物も無事に出れたようだ。
まだ頭がグルグルする。やはり転移魔術を使った時、体に負荷が掛かるらしい。あの人は……追って来てない。どうやら、一旦は逃げきれたらしい。
そんな事を考えていると、皆が起き上がった。
「うう……」
「何が……」
「良かった。起きた」
「聡一?どういう状況なの?」
僕は混乱している頭で、今までの状況を説明した。多分、結構分かり難い感じになっていたと思う。
「権力者……かな?」
「どうだろう。権力者なら尚更、迷宮踏破なんていう偉業を公言しない訳が無い」
「ただの変人だったってだけじゃ?でもまあ、正体も分からないんじゃね……」
「対策の仕様がねえ。ただ殴られたってだけだろ?兎に角早かったとしか分からん」
アレは身体能力だったんだろうか。でもだとしたら、僕が逃げ出す時、なんで追って来なかった?特殊な道具、または力が働いていた?どんな?駄目だ頭がグルグルする。
「一旦町に行こう。ここがどこでも、歩けば何か目印が見つかるかも」
「そうね。聡一、大丈夫そう?」
「多分……ああでも、まだ頭が痛い」
「俺が背負って行く。大丈夫そうになったら言うんだぞ」
そんなこんなで、僕らはまた、歩みを進める事にした。彼女は何者なのか、どんな戦い方をするのかなど、様々な疑問を残したまま。
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