ありふれた英雄譚

暇神

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分かり難いルール

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 翌日。僕らは買う物を買って、足早に次の町へ出発した。
 次の町に着く辺りで、例の『降臨祭』が行われる。そこで僕らは、可能であれば女神と接触し、元の世界へ帰る。ちょっとタイミングが出来過ぎているような気がするが、喜ばしい事なので気にしないでおこう。
 次に向かうのは、『ドアミラ』という町らしい。交易なんかで栄えている町で、兎に角大きいらしい。今は戦争状態なので、外へ向かう船は出ていないが、少し楽しみだ。
「でもよお、いくら神事っつっても、肝心な部分が抜けてねえか?」
「そうだね。問題は、どうやって女神と接触するかだよね」
「一応メインイベントとして、シスターみたいな感じの人が、神と交信するみたいなのがあるらしいけど、他の人が女神と話した事例は無いらしいよ」
「じゃあどうするって言うのよ」
 そうだよなあ。以前、教会で祈りを捧げて、女神と接触できないか試した事があったが、やはりゲームのような世界というだけで、ゲームの世界ではないらしく、女神との接触は叶わなかった。
 神事に行った所で、そこは変わらないかも知れない。だが、可能性があるなら試すべきだ。
 しかしその一方で、どうすれば良いのかも知らないのも事実。様々な文献や記録を見たが、『それぞれの集落で選ばれた人間が人類の代表として、女神と会う』程度の事しか分からなかった。『異世界から召喚された』という点だけを見れば、僕らも『選ばれた人間』なのかも知れないが、ここで言う物とは別物だろう。異界の人間だし。
「神事に出るシスターに聞けば良いんじゃねえか?」
「シスターは儀式の一環として、誰にも姿を見せず、体を清めるらしい。直接聞くのは無理だし、そもそも僕らの質問に答えてくれるかも怪しい」
「そのシスターの真似をするのはどうかしら?」
「この儀式で大事なのは、『何をやるか』じゃなくて、『誰がやるか』だと思う。『異世界から召喚された人間』って事なら大丈夫かもだけど、正直厳しいんじゃないかな」
 本当にどうすれば良いんだろうか。走る方法が分からなければ、レースで勝つ事はできない。この二か月弱で調べた情報も大して役に立たないし、僕らの想像力では何も思い付かない。
 その後、僕らは何も思い付かないまま、『ドアミラ』の町まで来てしまった。
「来ちゃったね……」
「何も分からないままね……」
「取り敢えず聞き込みをしましょう。前の町でもしたように」
「ペアも前と同じで良いか?」
「いや、今は急を要する案件じゃない。四人で固まって動こう」
 分からない事があれば他人に聞く。それが一番手っ取り早い。僕らは四人で固まり、見知らぬ土地の見知らぬ人に、聞き込みを始めた。
 しかし、結果は想像通りの物だった。
「女神様と話す方法?そんなんあったら良いけどなあ」「アンタらももう二十とかでしょ。しっかりしな」「女神なんざ居ねえ……酒さえあれば良い……」
「こんなんどうしろってんだ!」
 夕方にもなり、そろそろうんざりして来たらしい大聖が、空に向けて叫んだ。
「大聖、気持ちは分かるけど落ち着いて?」
「まあ、当然は当然か。そんな方法があったら、一瞬で広まる事間違いなしだもんね」
「でもどうするの?この祭り、明日例のイベントがあって、それで終わりでしょう?」
 そう。この祭りは明日で終わってしまう。このままでは、僕らは何もできないまま、亜人の国へ出発する事になってしまう。それだけは避けたい。
 しかし、どうするか。誰も知らない事を誰かに聞いても、正しい答えが返って来る訳が無い。詰まる所、僕らには何もできない。おお女神様。どうかご慈悲を。
「あの、勇者ご一行様でしょうか?」
 そんなこんなで、皆して頭を抱えていた僕らに、良い服を着た男性が話し掛けて来た。
「はいそうですけど」
「では、自己紹介を。私はジーク・ハンター。教会にいらっしゃる、シスターマリアの命に因り、お迎えに上がりました」
 女神様。僕は今日から、貴方様を信仰しようと思います。
 マジか。こんな良いタイミングで来るか。いや、こんな良いタイミングだからか。
「どうする?行く」
「それ以外ないでしょう。行くに決まってるわ」
「ああ」
「そうだね。ここで地団駄踏んでも変わらないし」
 てな訳で、僕らはジークさんに案内されるまま、この町の教会に向かった。
 着いた先にあったのは、それはもう御立派な、兎に角でかい建物だった。朝のニュースで見た世界遺産位ありそうだ。見上げる首が痛い。
 そんな僕らを置いて、ジークさんは中へと進む。僕らもその後を追い掛けて、教会の中に入る。
 中は一層豪華だった。綺麗なステンドグラスが、月明かりに照らされて輝いている。等間隔に置かれた椅子には、一切の乱れが見られない。
「皆さん、こちらです」
「あの、ジークさん。ここまで来てアレですけど、なんでシスターマリアは僕らを呼んだんですか?」
「さあ。あの方のお考えは、私達には測れない物ですから」
 おい。それで良いのか。身内にとんでもない不確定要素が居るって事だぞ。怖くないのか。
 そんなやり取りをさっと流し、僕らは教会の一番奥、シスターマリアが居るという部屋に辿り着いた。
「私が行けるのはここまでです。シスターマリアはここにいらっしゃるので、お入りください」
 ジークさんはそう言って、今来た道を戻って行った。
「じゃ、入るか」
「今更だけどよ、服装このままで良いのか?そこそこ汚れてるけど……」
「駄目だったら駄目って言われるだろうし、大丈夫だよ」
「無駄話してないで、早く入るわよ」
 僕らは木製の扉をノックして、相手の挨拶を待った。一拍置いて、扉の向こうから「どうぞ」という声がしたので、僕らは中に入った。
 中は、かなり質素な物だった。家具の一つも無い。あるのは小さなベッドと、複数のよく分からない入れ物だった。その部屋の中心に、『彼女』は立っている。
「お初にお目に掛かります。この町のシスター、マリアと申します」
 シスターマリアは、ゲームなんかでよく見るような、分かり易いシスターの服装に、若干の装飾を加えたような服を着ていた。
 シスターマリアの自己紹介が終わると、諒子が一歩前に出て、シスターマリアに話し掛けた。
「私達の事は知っているようなので、自己紹介は省かせてもらいますが、単刀直入に聞きます。マリアさん。何故私達を呼んだのですか?」
「そんな怖い顔をなさらないでください浅山諒子さん。これから説明いたします」
 そう言うと、シスターマリアはベッドに座り、僕らに話し始めた。
「私は二か月前。恐らく、貴方方がこの世界に来た日、天啓を受けたのです」
「天啓?」
「はい。私は幼い頃から、常人には感じ取れない『何か』の声を聞く事ができたのです」
 そして、シスターマリアは話を続けた。彼女の話に因ると、あの日、女神は彼女に『異界より来たりし勇者と会え』と言ったらしい。そうしたらどうなるか、その後どうするか等を一切話さず、たったそれだけを。
「私はその言葉を信じ、貴方方を探したのです」
「へえ……」
「凄いわね」
「スピリチュアルって奴か?」
「それを言い出したらこの世界もだよ大聖」
 正直、胡散臭い。女神の存在はほぼ確実だが、彼女が言う事に信憑性が無さ過ぎる。顔も知らない人間を呼び付けた上、自分一人が嘘を吐けばどうとでもなるような事を言う。これで信じろと言う方が無理がある。
 ここまで来ておいてアレだが、彼女とは関わらない方が良い気もする。なんだか、少し恐ろしい。魔物と遭遇した時とは違う、違和感のような恐ろしさ。
「シスターマリア。申し訳無いですが、僕らはこの辺で失礼します。行くよ。皆」
 当然、皆は反対する。ここで帰ろうとするなんて、
「え?どうしたんだよ聡一」
「良いから」
「良い人そうだよ?」
「それでも」
「どうしたの?様子が変よ?」
 三人の手を引いて戻ろうとする僕の背中に、シスターマリアが触れた。
「どうして帰ってしまうんですか?まだ少ししかお話してませんのに」
 僕はこの時、初めて『背筋が凍る』という感覚を味わった。足音がしないとか、そういう次元じゃない。瞬間移動でも、移動速度が尋常じゃなく早いとかでもない。

 彼女は、その場を動いていなかった。

 僕らが移動した訳でもなく、ただ、そこに居た。

 思い返すと、簡単に思い出せる。その時、僕らは彼女が、『ベッドまで移動した』と認識した。幻とか、そういう事じゃない。実際に、そう『認識』した。そう認識している僕らの目の前で、彼女はその場を動かず、その場で話をしていた。
 原理なんて分からない。どうやったとか、どういう魔術かとか、全く分からない。ただ、僕らの認識と、彼女の行動が、ずれていた。
「貴女は……一体……」
「あら?まだ分からない?まあ、ガワは人間だものね」
 そう言った彼女は、指を鳴らした。瞬間。僕らは一瞬だけ体の力が抜ける感覚に襲われ、その後、僕らは見知らぬ筈の、白い空間に居た。
 見覚えは、無い。だが、謎の既視感がある。
「ここって……前に来た事あったかしら?」
「いや……無い筈だ……」
「何ココ……」
「うん……分からない……」
 不意に、後ろから声がする。
「思い出せないのも無理は無いわ。貴方達は不完全な状態で異世界に行ったんですもの」
 驚いて後ろを向くと、そこには、言い表しようも無い美女が居た。芸術なんて分からない、素人目にも分かるような程、美しい肉体の美女が居た。例えるなら、『ミロのヴィーナス』のように、これ以上無く完全な『人間』の形だった。
 驚きのあまり、振り返った体勢で固まっている僕らに、彼女は自己紹介を始める。
「改めて、自己紹介するわ。私は『繝。繝?ぅ繧「』。この世界の女神よ」
 女神。僕らがこの町に来た、一番の目的。聞きたい事はいくつもある。だが、その前に一つ。
「今……なんて発音したんですか?」
「ああ、神としての権能を持たない存在には聞き取れないの。今まで通り、『女神』とでも呼んで頂戴」
 僕は「はあ……」と、締まりの無い声を発する。それを見た女神は、クスっと笑ってから、僕らに向けて話し始めた。
「先ず、貴方達の既視感についてかしら……それは、ここからの記憶を見てもらえば分かるわ」
 そう言って、女神は僕らに手をかざした。それから一拍置いてから、僕らの頭の中に、かつての記憶がよみがえる。

 さっきのは一体なんだ?皆は?ここは?白い。駄目だ。頭が回らない。
 ようやく頭のモヤが晴れて来た僕は、周囲の状況を見渡す。兎に角だだっ広い、真っ白な、地平線と空の境界線も分からないような、兎に角白い空間だった。そして、僕と一緒に居た三人も、同じくここに居る。
「皆!」
「う……聡一?」
「大聖、しっかりして!」
「忍……ここは……?」
 皆も、今起きたらしい。忍さんを覗く二人は、辺りを見回している。だが、辺りは只々白い空間。何も見つかる筈も無く、僕らは一旦身を寄せ合った。不安を感じると、自然と人は他人を求める。これが普通だ。
 だが、ただ近くに寄っただけで、このよく分からない空間に四人だけという、言い表しようも無い不安を拭える訳も無い。誰か居ないかと、再び周りを見回した僕の目に、一つの異物が入り込んだ。
 金色。眩い程の黄金。真っ白な背景の中で、その一点だけが存在している。
「皆!アレ見て!」
「何アレ?」
「分からない。だが、ここで蹲っていても変わらん」
「じゃあ、行くしか無いわね」
 そうして、僕らは立ち上がった。金色の点に向かって歩き出した。
 どれ位歩いただろうか。金色の点は段々と近付き、僕らの目には、それが何かが描画されて行く。人だ。いや、人とは思えない程美しい、まるで芸術品のような完璧さがある、たった一人の女性だった。
「貴女は?」
「私は『繝。繝?ぅ繧「』。貴方達がこれから向かう異世界、『アラティシア』の神よ」
 神?今、自分の名前を何と言った?異世界?そんな数え切れない程の疑問が、僕の頭の中を駆け巡る。何も言えずにいる僕らを置いて、女神は淡々と話しを進める。
「貴方達はこれから、貴方達を召喚した人間が住む世界へ向かうのよ。目的は、自ずと分かる筈」
 そう言って、女神は手をかざした。僕らは落ちて行く感覚と、もう誰の物かも分からなくなった悲鳴と共に、暗闇へ移動して行った。

 今のは何だ?もしかして、僕らがあの世界に向かう前、僕らはここに来ていたのか?なら、何故思い出せない?分からない。
「思い出せたようね」
 後ろからした声に振り向くと、女神が立っていた。
「今のは……あの世界に行く前、僕らはここに居たという事ですか?」
「その通りよ。ただ、橋渡しの神のミスで、貴方達はここの事を思い出せずに居たの」
 おいおいまた見知らぬ神が出て来たぞ。どうやら、神は複数人居るらしい。だが、ここを思い出せない事に、何か問題があるのだろうか。
「良い質問ね」
 僕はその言葉を聞いた直後、驚きを隠せない表情のまま、女神を見た。今、僕は声に出していただろうか。
「神を舐めるんじゃないわよ。人の子の思考位、簡単に読めるわよ」
「じゃあ、今僕らが聞きたい事も分かるんですか?」
 僕がそう聞くと、女神はにっこりと笑って、皆を集めた。全員が状況を理解してから、女神は話し始めた。
「じゃあ先程、聡一が言った質問ね。ここを思い出せないままでいる事の問題は、貴方達には特に無いわ。ただ、私達が楽ってだけね」
 マジか。それだけか。いや、まあそれだけで良かったけども。
「二つ目は、『元の世界に帰れるか』だったかしら?残念だけど、今は無理ね。貴方達には、その役割がある」
 それを聞いた僕の頭の中には、大した驚きも感情も浮かばなかった。いや、この状況が、未だ飲み込めていないだけかも知れない。
 『勇者が亜人王を倒す』。神話にも載っていたこの構図には、何か意味があるんだろうか。
「三つ目は、今聡一と大聖が考えた事ね。『勇者と亜人王の構図に意味はあるのか』。かつてはあったけど、今はもう形骸化しているわ。別に知らなくても問題無い事よ」
 成程。神話の『亜人王と勇者の戦い』には意味があったが、今は無い。今は無いなら、今知らなくても良いのかも知れない。
 ただ、ここに来て、一つの疑問が生まれた。
「「何故ここを思い出せなかったか」」
 僕の呟きに被せて、女神がそう言う。思考が読めるというのは本当らしい。
「あら。疑り深いわね。そんなんじゃモテないわよ」
「彼女が居る事位お見通しでしょう?」
 僕がそう言うと、女神は不敵に微笑んで、話を始めた。
「異世界に行く人間は、何か一つ、元の世界から持って来れるの。それを持っていると、元の世界とこれから行く世界を、直線で結べるの。貴方達に、その『何か一つ』を渡し忘れたから、貴方達はここを思い出せなかったの。それが決まり。それがルール」
 正直、全く頭に入らない。『二つの世界を直線で結ぶ』という事に、果たしてどれだけの意味があるのかが分からない。しかし、一つだけ想像できた物があった。
「渡し忘れが原因でここに呼んだなら、それを渡しでくれるかも」
 心臓に悪いから止めてほしい。そんな事を考えながら女神を見たが、相変わらず笑っている。恐ろしい存在だよ神様ってのは。
「畏怖の念を抱いてくれるのは助かるわね。まあ、ここに呼んだのはそれが目的だもの。当然渡すわ」
 そう言って、女神は再び手をかざした。その瞬間、僕らの目の前に、光の玉が現れた。それは次第に形を作り、段々何かが分かって来る。
「これって……」
「何を渡すかは、私が勝手に選ばせてもらったわ。なるべく便利な物を渡したつもりよ」
 僕の光は、僕が向こうの世界で使っていた皿になった。諒子のは、諒子の家にあった刀に。大聖のは、大聖の部屋に砂時計に。忍さんのは、忍さんが使っていた水筒に。
 諒子はその刀を見た途端、泣き始めてしまった。僕は諒子の背中を撫でながら、女神の話に耳を傾ける。
「父さん……母さん……」
「それらは、決して傷ついたり汚れたりしないようにしたわ。まあ、ちょっと便利になった程度に思って頂戴」
 これがあると管理が楽だとか言っていたし、そういう事だろう。僕がそう考えていると、女神が「察しが良くて助かるわ」と言った。心臓に悪いから止めてくれよ。
 そんな事を考えていると、忍さんが女神に質問した。女神はやはり、忍さんの言葉に合わせる。
「「なんで、今のタイミングだったんですか?」」
 この女神サマの癖なんだろうか。まあ、僕らが驚くだけだ。もう諦めよう。
「神事には意味があるわ。貴方達があの町に来た日を真ん中にした三日間は、私と人の世の繋がりが強くなる日なの。だから、人の世に居る貴方達と接触できたの」
「人の体を通したのはなんでですか?」
「神の体が直接浮世に描画されるには、膨大なエネルギーが要るの。今の私には、流石に無理があったからね」
 忍さんのその質問も終わると、一瞬の沈黙が流れた。女神は僕らを見回し、一つ溜息を吐いてから、僕らに手をかざした。
「もう質問も無いようだし、そろそろアラティシアに帰すわ。亜人王退治、頑張ってね」
 何か言おうとしたが、こういう時に限って、何も言えない。言葉が出て来ない。僕らはそのまま、かつて味わった、落ちて行く感覚と共に、暗い空間に移動した。

 気付くと、僕らはどこかのベッドに寝かされていた。夢だったのかと一瞬思ったが、僕は直ぐに、そうではない事を思い知った。枕元には、あの空間で渡された皿があった。
「夢じゃ……ない……か」
 それを理解すると同時に、僕は目頭が熱くなるのを感じた。女神と接触し、元の世界に戻る。この二か月、それを目標に頑張って来た。その望みが潰えたのだ。あの時間に感じなかった負担が、今、この狭い背中に圧し掛かっている。
 いや、気持ちを切り替えよう。今悔やんだってどうしようも無い。それに、まだ望みは消えていない。魔王と話し、元の世界に帰る手段を探す。
 正直、それは都合が良いと思う。そんな事がある訳が無い。ただ、そう思いたい。そう思って、希望を絶やさないようにしたい。僕は無理矢理に上を向き、目から零れそうな涙を精一杯堪えた。
「聡一?」
「諒子。起きたんだね」
「ええ。皆も起きたみたいよ」
 諒子の向こうのベッドを見ると、大聖と忍さんが、それぞれの目を擦っている。
 三人共、枕元にはあの空間で渡された物が置かれていた。それを見つけた皆は、それぞれの物を胸に抱き、お互いの顔を見合った。
「夢じゃない……だよな」
「うん。僕らは今は、地球に帰れない」
「なら、まだ進もう」
「それしか無いわ。次の目的地はどこだったかしら?」

 僕らが次に向かうのは、『サージリア』。亜人の国、次の大陸だ。
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