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分かり易い異世界召喚
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「よくぞ参った!異世界より来たりし勇者達よ!」
そんな、まるでネットで散々擦られた、テンプレのような台詞を聞きながら、僕達は目の前の人間を見ていた。
僕の名前は荒木聡一。なんでこんな状況に置かれているかは、正直分からない。だが、こんな状況になる少し前の事なら、簡単に思い出せる。
僕は、三人の友人と共に、学校へ向かっていた。しかし、突如僕らの足元に、よく分からない模様が現れた。それが光ったと思ったら、次の瞬間、僕らはここに居た。
「ちょっと待って!勇者ってどういう事なの!?」
あそこで大声を出しているのは、|浅山諒子。僕の幼馴染で、正義感が強い。いじめっ子を見つけては、自分の拳で成敗する位だ。かっこいい。
「そんな……私達、どうなるの?」
「心配すんなって忍。きっとドッキリかなんかだ。その内帰れるだろうよ」
あそこで泣いているのが竹下忍で、寄り添っているのが山岸大聖。二人は小学校からの知り合いらしく、今は男女の仲らしい。忍さんは優しくて、人当たりが良い。大聖は明るくて、皆の中心になる。良い人達だ。
しかし、本当にここはどこなんだろう。大聖の言う通り、ドッキリだと思いたいが、それにしてはおかし過ぎる。ここに来る手段もそうだが、窓の外に見える風景も、どう見ても日本のそれじゃない。と言うか、まるで中世の西洋のような街並みだ。まさか、本当に異世界とか?
慌てる僕らを見てか、王様風の老人が、僕らに説明を始めた。
「この世界は『アラティシア』と言う。この世界には、我々人間と魔族、亜人の、三種類の種族と、それぞれの国がある。しかし昨年、魔族の王、魔王が、突如我が国、『ソーラジア』に攻めて来たのじゃ」
どうやら、この国は戦争をしているらしい。魔族云々は分からないが、他国に宣戦布告され、それに応じている状況らしい。しかし、それが僕らと何の関係があるんだ?
「魔王の軍勢は、余りにも強力。獣人の国も助けてはくれない。むしろ魔王達に加担しておる。このままでは負けるのも時間の問題。そこで我々は、太古よりこの王国に伝わる秘術、『勇者召喚』を使って、貴殿らを召喚したのじゃ」
「いやいやいや。一旦待ってください」
自分の国が戦争だから、違う国、というか世界の人間を、戦力として徴兵したって事か?とんでも無いな。それに、第一僕らはそんな戦力ではない。たった四人徴兵した所で、一体どうなるって言うんだ。
「僕らは只の一般人です。家族も居ますし、帰る場所もあります。その要求に応じる理由もありませんし、今直ぐ帰してください」
「貴殿らには、この世界の女神より『加護』が与えられる。『能力開示』と唱えれば、それが分かる筈じゃ」
本気で言ってるのか?そんなご都合展開、ある訳が……
「な……何これ……」
マジか。マジで試したのか諒子サン。しかも出てるし。もう本当に異世界じゃん。
しかし、加護なんて物があるとは、到底信じられない。きっと嘘……
『浅山諒子 十七歳 女性
階位 零
身長 百六十八センチ
体重 五十二キロ
技能 無し
加護 剣聖
スリーサイズ(以下省略)』
おい待て。加護とか技能とかもそうだけど、一つ良からぬ物が混じってたぞ。どうなってんだオイ。
「諒子ちゃん……実は凄かったんだね」
「忍さん、止めてくれ」
諒子のスリーサイズは置いておいて、諒子にこんなのがあるなら、僕にもあるのか?試そう。
「能力開示」
『荒木聡一 十八歳 男性
階位 一
身長 百七十二センチ
体重 七十一キロ
技能 無し
加護 勇者』
スリーサイズは男性には付かないらしい。全く助平な女神様だよ。他の二人も、コレが見えたようで、驚きを露わにしている。
『竹下忍 十八歳 女性
階位 零
身長 百五十六センチ
体重 四十二キロ
技能 無し
加護 聖女
(以下省略)』
『山岸大聖 十七歳 男性
階位 零
身長 百八十一センチ
体重 八十九キロ
技能 無し
加護 賢者』
この『加護』の欄に書かれているのが僕らの能力なら、僕らが戦力に当たる可能性もある。だが、それは僕らを元居た場所に帰さない理由にはならない。面白半分の行動はここまで。さっさと帰してもらおう。
僕がそう言うと、王様は僕らではないどこかを見ながら、僕らが戦争に参加しなければならない理由を説明しだした。
「貴殿らを元居た世界に帰す事は……できない。我々には、その手段が無いからだ。その為の魔法陣は、魔王が持っている。貴殿らが帰るには、魔王を倒すしか無いのだ」
「そん……な……」
いや諒子サン。そんな都合の良い事ある訳無いから。創作物の世界じゃないんだから。
しかし、そんな事を言える訳も無い。僕はその言葉に騙されたフリをして、その場を乗り切った。
その日は、それ以上の説明はされなかった。
夜。忍さんと大聖は同じ部屋で、僕と諒子は、それぞれの部屋で寝泊まりする事になった。
絢爛豪華な部屋に置かれた硬いベッドに寝転がりながら、僕は皆の事を考えていた。今どうしてるだろうか。会いたいな。いつもならこんな事考えないのに、見知らぬ場所で知り合いも居ないとなると、途端に不安になる。泣いていないだろうか、ショックで落ち込んでいないだろうか。そんな考えが、僕の頭の中に巡り出す。
不意に、扉がノックされた。僕は上体を起こし、扉を凝視する。すると、扉の向こうから、皆が顔を出した。
「皆……」
「こんな夜更けに済まねえ。少し、話し合おうと思ってな」
大聖の説明に拠ると、これから何をするべきか、どういった立ち振る舞いをすべきかを話し合いに来たらしい。それで、話し合うなら全員でとなって、僕の部屋に集まったらしい。
「僕の考えを話すなら、多分あの王様、嘘を吐いてる」
「なんでそう思ったの?こんな世界だよ?誰を信じろって言うのよ」
そう聞かれた僕は、理由を話した。この世界自体おかしいのに、簡単に他人を信用すべきではないという考え、異世界から人を呼べるのに帰せないは、普通におかしい事、僕ら、もといあの王様に都合が良すぎる事。
「だが、それじゃ理由が無い。そんな事をしてどうなる?」
「歴史の授業を忘れた?戦争をする一番原始的な理由は資源を欲しているからだ」
構図は、人間対魔族、亜人の関係。このままでは、確実に人間側は負け、殺される。しかし、もし勝ったなら、二つの国の土地を奪える。
「正直、なんでこの構図になったかまでは分からない。だけど、あの王様からの話だけを信じるのは、流石に危ない」
「じゃあどうするの?私達、どうやったら家に帰れるの?」
忍さんが、僕に質問する。あの王様の言う言葉が本当なら、魔王とやらを倒せば、どうにかなるかも知れない。だが、その王様は信用できない。ならどうすべきか。
「取り敢えず、あの王様達に従おう。ここから出ても、僕らには金を稼ぐ手段も地理も無い。食うに困って飢え死にか、見つかって連れ戻されるのがオチだよ」
「でもそれじゃ、もし万が一、あの王様が帰る手段を持っていても気付かないぞ?」
「それに関しては、各々調べて、毎晩ここで情報交換だ。見つかれば万々歳だし、見つからなくても、やる事に変化は無い」
「じゃあ、これから私達は、『王様の指示に従いつつ、帰る手段を探す』が方針になるで良いの?」
「異議なし」「分かったわ」「それで良いよ」
活動方針が決まった所で、忍と大聖は自分達の部屋に戻ったが、諒子だけは、この部屋に残った。
「どうしたの?」
「もう少し……ここに居させて?」
そう言うと、諒子は僕の部屋の椅子に座った。少し震えているように見える。不安なのだろう。さっき一番ショックを受けていた人物だ。無理も無い。実際僕も不安だったし、少しは気持ちが分かる。
僕はベッドに仰向けになり、天井を眺める。やはり寝られない。お互いに何も話さず、気まずい沈黙が部屋に漂う。
不意に、諒子が話し掛けて来た。
「ねえ……本当に、帰れるのかな」
僕は、天井を見たまま答える。
「分からない。『あの王様が言っている事が嘘なら、返す手段は王様が持っている』なんて確証、今の時点で無いしね。もしかしたら、帰る手段すら無いかも知れない」
そう言うと、少し鼻をすする音が聞こえた。泣いているのだろう。ホームシックかも知れないし、帰れないかもという可能性に打ちひしがれているのかも知れない。
「あくまで可能性ってだけ。呼ぶ手段があるのに帰す手段が無いなんて、それこそおかしいんだ。希望を失わずに行こう」
僕が慌ててフォローするが、それでも泣いているらしい。参ったな。女性の涙に弱いんだよな僕。
こういう時どうしたら良いか分からない僕は、取り敢えずベッドから降りて、諒子に近付いた。そして、少し頭を撫でた。
「『きっと帰れる』って考えよう。根拠も無い事だけど、否定する要素も無い。僕らはきっと、家に帰れるって、そう考えるんだ」
そう言ってから少しして、諒子は泣き止んだ。諒子はまだ涙が乾いていない顔で、僕に笑った。
「いっつも達観した考え方してるよね。どうやったらそうなれるの?」
「人生経験が豊富ってだけだよ。僕はそろそろ寝るよ。お休み」
「うん。お休み」
僕がそう言ってベッドに寝転がると、諒子は部屋を出た。僕もその後は直ぐに寝て、目が覚めた頃には、眩しい太陽が昇っていた。
翌日から、早速訓練が始まった。『加護』があっても、今の僕らは一般人と大差無いらしく、『加護』の力を使えるようになるまでは、ひたすらに鍛えるとの事だった。
僕と諒子の前衛組は、最初に体力作りの走り込み。忍さんと大聖の後衛組は、魔術についての知識を深めつつ、魔術を使う為に必要な力、魔力を、より多く扱えるようにする為の、座学と訓練。
学校では運動部に入っていた諒子に比べて、文化部に入っていた僕は、開始十分もせずにヘロヘロになった。
「おいソーイチ!どうした!?もうへばったのか!?」
あそこで叫んでいる男性は、オーガスタス・レオンハート。この世界にある、『冒険者ギルド』とやらの創設者らしい。彼自身、とても腕の立つ冒険者らしく、僕らの教育係に任命されたらしい。
「頑張れ頑張れ!王様に良い所見せるんだ!」
「王様とかどうでも良いよ……はい!」
僕は再び、硬い地面を蹴った。
その晩。僕ら四人は再び集まり、今日あった事を共有した。
「あのオーガスタス・レオンハートって人は、信じない方が良い」
「なんで?」
「裏があるとしか思えない。笑ってはいたし、話していてストレスの無い人ではあったけど、目が笑ってないし、僕らの一挙手一投足を見逃してない。恐ろしい人だ」
前衛組の報告が終わった所で、後衛組の話に切り替わる。
「取り敢えず、私達は魔術が主体になるらしいよ。多少は近接も教わるらしいけど、前にだけは出るなって」
「魔力ってのがある事、魔術って技術と、魔法って呼ばれる超常現象の二つがあるけど、魔法は俺達には使えない事を教えられた」
ここまで来ると、本当にRPGの世界だな。正直まだ信じられないよ。
「魔術はどうなったの?」
「まだ魔力を自覚する段階だよ。一応認識はできたけど、まだ魔術らしいのは使えなさそう」
「俺はまだできてねえな。正直、そんなんがあるのか半信半疑だ」
忍さんが大聖よりも一歩リードか。ここの進捗は、まあそこまで大事じゃないかな。
「後は……ずっと危ない宗教みてーな話ばっかだったよ。『魔族は残虐な種族』とか、『亜人は野蛮な奴等』とか。頭がおかしくなりそうな話ばっかだ」
「僕らの方も、ちょくちょくそういう話を聞かされたよ。差別的で嫌になる」
後は、ちょっとした冗談を交えながら、地球に帰ったら何をやるかとかを話した。見知らぬ土地で沈んだ気分を、少しでも明るくしようと思ったんだ。実際、来た時よりかはマシな気分だ。
皆が部屋に帰ると、僕は一人になる。さっきまで賑やかだった部屋が静かになって、少し寂しくなる。僕はそんな気分を紛らわせる為に、さっさと寝る。
これが僕らの、異世界での日常。
そんな、まるでネットで散々擦られた、テンプレのような台詞を聞きながら、僕達は目の前の人間を見ていた。
僕の名前は荒木聡一。なんでこんな状況に置かれているかは、正直分からない。だが、こんな状況になる少し前の事なら、簡単に思い出せる。
僕は、三人の友人と共に、学校へ向かっていた。しかし、突如僕らの足元に、よく分からない模様が現れた。それが光ったと思ったら、次の瞬間、僕らはここに居た。
「ちょっと待って!勇者ってどういう事なの!?」
あそこで大声を出しているのは、|浅山諒子。僕の幼馴染で、正義感が強い。いじめっ子を見つけては、自分の拳で成敗する位だ。かっこいい。
「そんな……私達、どうなるの?」
「心配すんなって忍。きっとドッキリかなんかだ。その内帰れるだろうよ」
あそこで泣いているのが竹下忍で、寄り添っているのが山岸大聖。二人は小学校からの知り合いらしく、今は男女の仲らしい。忍さんは優しくて、人当たりが良い。大聖は明るくて、皆の中心になる。良い人達だ。
しかし、本当にここはどこなんだろう。大聖の言う通り、ドッキリだと思いたいが、それにしてはおかし過ぎる。ここに来る手段もそうだが、窓の外に見える風景も、どう見ても日本のそれじゃない。と言うか、まるで中世の西洋のような街並みだ。まさか、本当に異世界とか?
慌てる僕らを見てか、王様風の老人が、僕らに説明を始めた。
「この世界は『アラティシア』と言う。この世界には、我々人間と魔族、亜人の、三種類の種族と、それぞれの国がある。しかし昨年、魔族の王、魔王が、突如我が国、『ソーラジア』に攻めて来たのじゃ」
どうやら、この国は戦争をしているらしい。魔族云々は分からないが、他国に宣戦布告され、それに応じている状況らしい。しかし、それが僕らと何の関係があるんだ?
「魔王の軍勢は、余りにも強力。獣人の国も助けてはくれない。むしろ魔王達に加担しておる。このままでは負けるのも時間の問題。そこで我々は、太古よりこの王国に伝わる秘術、『勇者召喚』を使って、貴殿らを召喚したのじゃ」
「いやいやいや。一旦待ってください」
自分の国が戦争だから、違う国、というか世界の人間を、戦力として徴兵したって事か?とんでも無いな。それに、第一僕らはそんな戦力ではない。たった四人徴兵した所で、一体どうなるって言うんだ。
「僕らは只の一般人です。家族も居ますし、帰る場所もあります。その要求に応じる理由もありませんし、今直ぐ帰してください」
「貴殿らには、この世界の女神より『加護』が与えられる。『能力開示』と唱えれば、それが分かる筈じゃ」
本気で言ってるのか?そんなご都合展開、ある訳が……
「な……何これ……」
マジか。マジで試したのか諒子サン。しかも出てるし。もう本当に異世界じゃん。
しかし、加護なんて物があるとは、到底信じられない。きっと嘘……
『浅山諒子 十七歳 女性
階位 零
身長 百六十八センチ
体重 五十二キロ
技能 無し
加護 剣聖
スリーサイズ(以下省略)』
おい待て。加護とか技能とかもそうだけど、一つ良からぬ物が混じってたぞ。どうなってんだオイ。
「諒子ちゃん……実は凄かったんだね」
「忍さん、止めてくれ」
諒子のスリーサイズは置いておいて、諒子にこんなのがあるなら、僕にもあるのか?試そう。
「能力開示」
『荒木聡一 十八歳 男性
階位 一
身長 百七十二センチ
体重 七十一キロ
技能 無し
加護 勇者』
スリーサイズは男性には付かないらしい。全く助平な女神様だよ。他の二人も、コレが見えたようで、驚きを露わにしている。
『竹下忍 十八歳 女性
階位 零
身長 百五十六センチ
体重 四十二キロ
技能 無し
加護 聖女
(以下省略)』
『山岸大聖 十七歳 男性
階位 零
身長 百八十一センチ
体重 八十九キロ
技能 無し
加護 賢者』
この『加護』の欄に書かれているのが僕らの能力なら、僕らが戦力に当たる可能性もある。だが、それは僕らを元居た場所に帰さない理由にはならない。面白半分の行動はここまで。さっさと帰してもらおう。
僕がそう言うと、王様は僕らではないどこかを見ながら、僕らが戦争に参加しなければならない理由を説明しだした。
「貴殿らを元居た世界に帰す事は……できない。我々には、その手段が無いからだ。その為の魔法陣は、魔王が持っている。貴殿らが帰るには、魔王を倒すしか無いのだ」
「そん……な……」
いや諒子サン。そんな都合の良い事ある訳無いから。創作物の世界じゃないんだから。
しかし、そんな事を言える訳も無い。僕はその言葉に騙されたフリをして、その場を乗り切った。
その日は、それ以上の説明はされなかった。
夜。忍さんと大聖は同じ部屋で、僕と諒子は、それぞれの部屋で寝泊まりする事になった。
絢爛豪華な部屋に置かれた硬いベッドに寝転がりながら、僕は皆の事を考えていた。今どうしてるだろうか。会いたいな。いつもならこんな事考えないのに、見知らぬ場所で知り合いも居ないとなると、途端に不安になる。泣いていないだろうか、ショックで落ち込んでいないだろうか。そんな考えが、僕の頭の中に巡り出す。
不意に、扉がノックされた。僕は上体を起こし、扉を凝視する。すると、扉の向こうから、皆が顔を出した。
「皆……」
「こんな夜更けに済まねえ。少し、話し合おうと思ってな」
大聖の説明に拠ると、これから何をするべきか、どういった立ち振る舞いをすべきかを話し合いに来たらしい。それで、話し合うなら全員でとなって、僕の部屋に集まったらしい。
「僕の考えを話すなら、多分あの王様、嘘を吐いてる」
「なんでそう思ったの?こんな世界だよ?誰を信じろって言うのよ」
そう聞かれた僕は、理由を話した。この世界自体おかしいのに、簡単に他人を信用すべきではないという考え、異世界から人を呼べるのに帰せないは、普通におかしい事、僕ら、もといあの王様に都合が良すぎる事。
「だが、それじゃ理由が無い。そんな事をしてどうなる?」
「歴史の授業を忘れた?戦争をする一番原始的な理由は資源を欲しているからだ」
構図は、人間対魔族、亜人の関係。このままでは、確実に人間側は負け、殺される。しかし、もし勝ったなら、二つの国の土地を奪える。
「正直、なんでこの構図になったかまでは分からない。だけど、あの王様からの話だけを信じるのは、流石に危ない」
「じゃあどうするの?私達、どうやったら家に帰れるの?」
忍さんが、僕に質問する。あの王様の言う言葉が本当なら、魔王とやらを倒せば、どうにかなるかも知れない。だが、その王様は信用できない。ならどうすべきか。
「取り敢えず、あの王様達に従おう。ここから出ても、僕らには金を稼ぐ手段も地理も無い。食うに困って飢え死にか、見つかって連れ戻されるのがオチだよ」
「でもそれじゃ、もし万が一、あの王様が帰る手段を持っていても気付かないぞ?」
「それに関しては、各々調べて、毎晩ここで情報交換だ。見つかれば万々歳だし、見つからなくても、やる事に変化は無い」
「じゃあ、これから私達は、『王様の指示に従いつつ、帰る手段を探す』が方針になるで良いの?」
「異議なし」「分かったわ」「それで良いよ」
活動方針が決まった所で、忍と大聖は自分達の部屋に戻ったが、諒子だけは、この部屋に残った。
「どうしたの?」
「もう少し……ここに居させて?」
そう言うと、諒子は僕の部屋の椅子に座った。少し震えているように見える。不安なのだろう。さっき一番ショックを受けていた人物だ。無理も無い。実際僕も不安だったし、少しは気持ちが分かる。
僕はベッドに仰向けになり、天井を眺める。やはり寝られない。お互いに何も話さず、気まずい沈黙が部屋に漂う。
不意に、諒子が話し掛けて来た。
「ねえ……本当に、帰れるのかな」
僕は、天井を見たまま答える。
「分からない。『あの王様が言っている事が嘘なら、返す手段は王様が持っている』なんて確証、今の時点で無いしね。もしかしたら、帰る手段すら無いかも知れない」
そう言うと、少し鼻をすする音が聞こえた。泣いているのだろう。ホームシックかも知れないし、帰れないかもという可能性に打ちひしがれているのかも知れない。
「あくまで可能性ってだけ。呼ぶ手段があるのに帰す手段が無いなんて、それこそおかしいんだ。希望を失わずに行こう」
僕が慌ててフォローするが、それでも泣いているらしい。参ったな。女性の涙に弱いんだよな僕。
こういう時どうしたら良いか分からない僕は、取り敢えずベッドから降りて、諒子に近付いた。そして、少し頭を撫でた。
「『きっと帰れる』って考えよう。根拠も無い事だけど、否定する要素も無い。僕らはきっと、家に帰れるって、そう考えるんだ」
そう言ってから少しして、諒子は泣き止んだ。諒子はまだ涙が乾いていない顔で、僕に笑った。
「いっつも達観した考え方してるよね。どうやったらそうなれるの?」
「人生経験が豊富ってだけだよ。僕はそろそろ寝るよ。お休み」
「うん。お休み」
僕がそう言ってベッドに寝転がると、諒子は部屋を出た。僕もその後は直ぐに寝て、目が覚めた頃には、眩しい太陽が昇っていた。
翌日から、早速訓練が始まった。『加護』があっても、今の僕らは一般人と大差無いらしく、『加護』の力を使えるようになるまでは、ひたすらに鍛えるとの事だった。
僕と諒子の前衛組は、最初に体力作りの走り込み。忍さんと大聖の後衛組は、魔術についての知識を深めつつ、魔術を使う為に必要な力、魔力を、より多く扱えるようにする為の、座学と訓練。
学校では運動部に入っていた諒子に比べて、文化部に入っていた僕は、開始十分もせずにヘロヘロになった。
「おいソーイチ!どうした!?もうへばったのか!?」
あそこで叫んでいる男性は、オーガスタス・レオンハート。この世界にある、『冒険者ギルド』とやらの創設者らしい。彼自身、とても腕の立つ冒険者らしく、僕らの教育係に任命されたらしい。
「頑張れ頑張れ!王様に良い所見せるんだ!」
「王様とかどうでも良いよ……はい!」
僕は再び、硬い地面を蹴った。
その晩。僕ら四人は再び集まり、今日あった事を共有した。
「あのオーガスタス・レオンハートって人は、信じない方が良い」
「なんで?」
「裏があるとしか思えない。笑ってはいたし、話していてストレスの無い人ではあったけど、目が笑ってないし、僕らの一挙手一投足を見逃してない。恐ろしい人だ」
前衛組の報告が終わった所で、後衛組の話に切り替わる。
「取り敢えず、私達は魔術が主体になるらしいよ。多少は近接も教わるらしいけど、前にだけは出るなって」
「魔力ってのがある事、魔術って技術と、魔法って呼ばれる超常現象の二つがあるけど、魔法は俺達には使えない事を教えられた」
ここまで来ると、本当にRPGの世界だな。正直まだ信じられないよ。
「魔術はどうなったの?」
「まだ魔力を自覚する段階だよ。一応認識はできたけど、まだ魔術らしいのは使えなさそう」
「俺はまだできてねえな。正直、そんなんがあるのか半信半疑だ」
忍さんが大聖よりも一歩リードか。ここの進捗は、まあそこまで大事じゃないかな。
「後は……ずっと危ない宗教みてーな話ばっかだったよ。『魔族は残虐な種族』とか、『亜人は野蛮な奴等』とか。頭がおかしくなりそうな話ばっかだ」
「僕らの方も、ちょくちょくそういう話を聞かされたよ。差別的で嫌になる」
後は、ちょっとした冗談を交えながら、地球に帰ったら何をやるかとかを話した。見知らぬ土地で沈んだ気分を、少しでも明るくしようと思ったんだ。実際、来た時よりかはマシな気分だ。
皆が部屋に帰ると、僕は一人になる。さっきまで賑やかだった部屋が静かになって、少し寂しくなる。僕はそんな気分を紛らわせる為に、さっさと寝る。
これが僕らの、異世界での日常。
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