怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#9 百鬼夜行

#9-1 百鬼夜行

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 百鬼夜行。神秘と呼ぶ事ができる物の中で、最も強大な災害だ。百鬼夜行が発生する一日の間、日本中で凄まじい量の怪異と霊が現れる原理は、現時点では定かではない。それまで発せられた言霊の全てが、怪異や霊として発生するという、日本地域独自の自浄作用という考え方が主流だが、それでも説明できない事は多い。
 しかし、日本全土で大量の怪異が出現するのは確定事項だ。これに対処するのは容易ではない。この国に点在する神社や寺、協会、そしてそこに祀られている神々や仏を柱とした結界を、日本の領土だけでなく、領海、領空を覆うまで広げる。これによって、日本にある全ての神社と寺と協会が破壊されない限りは、日本に存在する怪異と霊は大幅に能力が低下する上、退魔師と怪異と霊の姿を、一般人の目から完全に隠せる。消滅まで至らない存在は、退魔師の手で直接叩く。これを丸一日続ける。百鬼夜行の対策は、これ以外に存在しない。
 無論、弱体化しても強い物は強い。そういうのは金剛級や白金級が対応する。無論、俺もだ。
「白金級三体目……過去最大級ってのも、信憑性が増して来たな」
 まだ午前十時にもなってないだろう。金剛級が発生するのは主に東京や京都らしいが、この様子じゃ、地方でも姿を拝めそうだ。面倒な事になっているな。
「八神金剛級退魔師!青森A地区、壊滅状態です!」
「死者は?」
「二名死亡、その他全員重症です!」
「復帰が望めない奴は戦線の離脱、まだ使えそうな奴は応急処置の後、行けそうな奴から復帰させろ。それまでは他の班から人を寄越してもらえ。俺も向かう」
「了解です!」
 俺は拠点の転移術式が込められた台の上に乗り、青森に向かう。転移はどれだけやっても慣れない。酔いそうだ。だが耐えよう。青森に着いた俺は、拠点を出た後直ぐに身体を強化して、A地区へ向かう。
「八神さん!」
「状況は聞いてる。ここは俺が耐える。他の班から人を呼べ」
「はい!」
 白金級レベルのが四体……それも固まってるな。できれば温存したかったが、ここで使っても問題無い。俺は懐から原稿用紙を取り出し、それを一本の槍に変えて、その方向に投げ付ける。槍は空中でバラバラになり、さらに小さな無数の槍となって、怪異の頭上に降り掛かる。怪異の反応が消えた頃、拠点から大量の人が来た。
「八神君!お姉ちゃんが来たよ!」
「そっちは大丈夫なのか?」
「大丈夫!来たのは私一人だし、皆強いから!」
「じゃあここは任せる。おい、次はどこに行けば良い?」
「次は……岩手F地区が危なそうですね」
 やる事は尽きないな。まだ霊力には余裕がある。補給はあるだろうが、一番早くて燃費が良い俺が動くのが良いだろう。百鬼夜行は耐久戦だ。最悪、俺が動けなくても三時間は持つ。その時が来ても良いように、今の内に俺が動かなければ。
 他の所はどう動いているだろうか。そう考える暇も無く、俺は再び転移術式を使用する。

 叩く。殴る。割る。潰す。それの繰り返し。一体一体はそうでもない。だが、何より数が面倒だな。八神や岩戸のように、一気に複数の敵を叩ければ良いんだがな。
「修司さん!新潟C地区ヤバいです!」
「状況はあ!?」
「死者は居ませんが、大多数が重症です!」
「白金級を二人向かわせろ!なるべく殲滅が得意な奴!」
 どうした物か。俺は確かに強い。爺さん達には敵わなかったとしても、金剛級一体が相手なら負けない自信がある。だが、複数相手だとそこまで強く出れない。その上ここは開けてる。俺が一番苦手な状況だ。
「愛知D地区に金剛級が出現しました!既に五名が死亡しています!」
「マジかよ……俺が行く!転移の準備をしろ!」
 人が多い東京や神秘の遺産や神殺しが多く保管されてる京都ならまだ分かるが、ここにまで金剛級が出現したか。過去最大級か……死者数を抑えるのも一苦労だ。俺は転移した先で、巨大な腐った肉の塊のような物が蠢いているのを目にした。
「グロテスクだな……ただの打撃ならすり抜けそうだ」
 肉の塊の中に、いくつか見慣れた柄の布切れがある。周囲にある退魔師の遺体の損傷と、来ている服の柄から考えるに、殺した相手を取り込んでデカくなるタイプの悪霊だ。まだこの程度の大きさで良かった。後一時間放置していたらどうなっていたか……想像したくもない。
 だがまあ、これなら相手になれる。こういうのには核となる霊体が存在している。位置も分かった。抵抗はあるが、問題無い。俺はお気に入りのスカジャンを脱いで、投げ捨てた。少し身軽になった俺は、愛用のメリケンサックを着けて、敵と対峙する。

「八神金剛級退魔師!大変です!」
 十体目の白金級を殺した頃、俺の元へ一人の退魔師が駆け込んで来た。
「どうした?」
「河崎修司金剛級退魔師、金剛級と思われる敵と接触、重症です!」
 修司君が重症か。それなら中部は諦めるのが得策か?先生か会長、慎太郎さんが動かない事にはどうしようも無い。
「何が起こった?」
 俺がそう問うと同時に、男は頭が吹き飛ばされ、ただの喋らない肉片となって飛び散った。俺は攻撃を放ったと思われる退魔師の霊力を探知し、その方向を見た。

 そこには、見覚えのある服を着た、見覚えのある男が居た。

「お久し振りです。八神蒼佑様」

 男は、英祐と出会った神域に居た、連盟の退魔師だった。
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