怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#8 むらさきかがみ

#8ー3 強硬手段

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 結局、俺達は欠片を回収しただけで終わったな。まあそこまででも本来は十分な仕事だけど。
「な~んかモヤモヤするよね~」
「そうだな。連盟の目的も分からない。何より、戦力も設備も、その殆どを失った後で、こんな大胆な事をするなんて思いもしなかった」
「俺達の仕事は終わりました。後は協会に任せるのが一番ですよ」
 そう。終わったのだ。それなのに、妙に胸の内側がざわつく。嫌な感じがする。ギエルが俺に言った事の意図が掴めないからだろうか。いや、そんな事は前からだ。問題はどこにある?違和感の中心となる箇所はどこだ?この違和感はどこから始まった?ギエルが現れた時?いやそれよりも前だ。この胸がざわつく感覚は、むらさきかがみの現物を見た時だろうか。いや違う。それよりもっと前。一体何時から……
 駄目だ分からない。何か引っ掛かる部分がある。まるで白の中に、限り無く薄い黄色が混じっているような感じだ。何か違うのは分かるが、どこがどう違うのかが掴めない。
「八神くん?」
 聞き慣れた声に話し掛けられて、俺は我に返った。先生は心配そうな顔で、俺の表情を覗き込んでいる。
「大丈夫かい?」
「ああはい。少し考え事をしてまして……」
 何故か目線を逸らした俺は、自身に向けられている意識を感じ取った。明らかな悪意。殺意と言い換えても良いだろう。俺は先生と七海さんの体を抱え、そのまま走り出す。振り返ると、俺がさっきまで立っていた場所の後ろの壁に、小さく穴が空いている。
「八神くん!?どうしたんだい!?」「そんな大胆な……お姉ちゃん困っちゃう」
「ふざけてる場合じゃないです。多分狙われてます。このまま最寄りの駅まで走りますよ」
 敵がどんな存在でも、人通りが多い場所では滅多に手を出せない筈だ。駅に向かい、電車に乗り、なるべく人が多い場所を通って、事務所まで行けば良い。俺は人通りも多くなって来た辺りで二人を下ろし、電車へ乗る。
「敵……連盟か?」
「さあどうでしょう。心当たりが無い訳でもないですが……」
 ここまで来たは良いが、もし奴等がこの電車を爆破でもしたら何もできないな。身体強化で乗り切れる域を遥かに超えている。七海さんなら電車の扉を壊して脱出も可能だろうが、周囲に一般人が要る状況ではそれもできない。先生も俺も、身体強化だけで電車の横転、圧し掛かるであろう無数の人間から身を守れる保証は無い。
 乗ってしまった以上は、杞憂である事を祈るしか無いか。いざとなれば、ここに居る人間を殺せば……
「八神くん」
 俺はその声の主の方を向く。他者を戒める目をした先生は、俺に向かって、首を横に振る。
「分かってますよ。嫌な想像しただけです」
 幸い、敵は俺達を電車諸共吹き飛ばすような無茶はしなかったようで、俺達は事務所に最も近い駅から町へ出た。
「七海さん、敵、見えますか?」
「う~ん……見えない」
「七海でも見えないなら、もう撒いたんじゃないか?」
 そうは考え難い。あの弾道は間違い無く、俺をピンポイントで狙っていた。敵を大量に作って来たことは自覚している。どこかのグループの報復だろうな。やっぱり頭を潰すだけじゃ駄目だと言ったのに。
「二人は先に帰っててください」
「八神君はどうするの?」
「直接仕掛けて来ない上に、明らかに殺そうとしている所を見るに、敵は連盟ではありません。俺は敵を拘束してから向かいます」
「分かった。七海、行こう」
 こういう時に話が早いのは、先生の良い所だ。さあて。どこに居る?人通りが少ない場所は駄目だ。罠を警戒して襲って来ない。俺は人通りが多い場所に向かい、様子を見る。
 十分程ブラブラとしていると、背中に何か、硬い物が押し当てられる感触があった。
「声を出したら殺す」
 ビンゴ。どうやら敵は相当間抜けらしいな。この程度で引っ掛かるとは。
「言われた通りに進め」
 俺は自分の後ろに居る男の声に従う。やがて人通りの少ない方に出ると、見るからに古い廃ビルが目に着いた。どうやらここに入るらしい。なんでこういう輩って、こういうあからさまな所が好きなんだろう。
 最上階に向かうと、そこには火器を構えた集団と、一人の偉そうな、厳つい見た目のお兄さんが居た。
「よく来たな。座れよ」
 俺は部屋の中央にある椅子に座り、相手の顔を見る。どこかで見覚えがあるな。
「俺の事、覚えてるだろ?」
「さあね」
 俺がそう言ってとぼけると、相手は激怒して立ち上がった。
「二年前!貴様が殺した男の子分だよ!」
 二年前ね。やっぱり思い出せないな。あの時は環境に慣れようと必死で、先生の事以外はあまり覚えていないんだよな。
 まあ、ここで下手に刺激するよりは、適当に返しておいた方が良いか。
「ああ思い出した。それで、なんで俺の所に?」
 俺がそう質問すると、俺の後頭部に、また硬い物が押し付けられた。俺は両手を上に向けて、そのまま黙った。
「質問すんのは俺だ。勘違いすんじゃねえ」
 はいはい。ここまでVIP対応してもらったんだし、相手の方に合わせないとだな。しかし周囲の状況を見る限り、話し合いをする為の場でもないように思える。こう考えると、連盟ってそこそこ穏便に話を進めようとしてたのかもな。まあ敵なんだけど。
「先ず最初に、なんでオヤジを殺した」
「仕事だから。それは俺の依頼主に聞けよ」
「それは誰だ?」
「さあね。いつも公衆電話から依頼が知らされるんだ。顔も名前も知らない」
 俺が正直に質問に答えていると、俺から何も聞き出せない事に怒ったのか、男は顔を紅潮させながら再び立ち上がった。
「ふざけてんじゃねえぞ!俺あ手前の弱点知ってんだ!」
 そう言って男は、二枚の写真を取り出した。その写真はそれぞれ、先生と七海さんの物だった。
「手前がこの女と一緒に暮らしてんのは知ってる。こいつ等がどんな目に遭ったら、手前は口を割るのか見物だぜ」

「今、何て言った?」

 俺は術式を発動させ、周囲に居る人間の喉を全て切り裂く。少しの呻き声の後に、火器を持っていた男達は地に倒れた。その光景に驚いた男は、服の内側から拳銃を取り出そうとするが、俺はそれより速く動き、銃を手から払い落として、首を絞める。
 やってしまった。後処理が面倒なんだよな術式使うと。まあ、やってしまった物はしょうがない。それに、コレは岩戸家側の不始末でもある。ご当主サマがなんとかしてくれるだろ。
「ば、化物……」
「さっき面白い事を言ったな。あの二人をどうするって?」
 俺は男の首を絞める手に力を込め、そのまま宙に吊るし上げる。

「どうやらお前が掴んだのは、弱点じゃなくて逆鱗だったみたいだな」

 俺はそのまま男の首をへし折り、そのまま壁に投げ付けた。男の懐にあったスマホから、組員のリストをコピーした俺は、原稿用紙を一枚持ち、術式を発動させる。周囲に残っていた霊力の跡は全て原稿用紙に吸われ、どんなに目を凝らしても、決して見つからなくなった。
 俺は近くの公衆電話に入り、電話を掛ける。
「俺だ。今大丈夫か?……そうか……いや今日は違う。後処理を頼みたい。場所は……」

 ちょっと遅くなりそうだな。俺は電話の相手と話ながら、しみじみとそう思った。
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