怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#7 人類保護連盟

#7ー21 突入

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 一週間後。日も落ちて、暗くなった頃。俺と先生は背広を着て、事務所を出る事にした。
「じゃあ、七海さん、行ってきます」
「うん。絶対、無事で帰って来てよ」
「分かってる。大丈夫だよ七海」
 俺達は事務所を出ると、外に居た会長達と合流した。どうやら、既に準備はできているようだ。俺達は三人と合流し、転移の札を使って、連盟の本拠地があるとされている場所の、少し遠くに転移した。
 どこに目があるか分からない。俺達は言葉を交わさず、筆談で会話をする。
『ここからは隠密行動で行く 霊力を隠せ』
 会長の指示通り、俺達は霊力を可能な限り隠した。というよりかは、霊力を消した。ここからは霊力の強化を使わず、足で行く。
 霊力の強化無しで歩くのは、前に霊力飴を使った時以来だな。やっぱり疲れる。息が上がりそうだ。いや、上がっている。ヤバい。疲れる。
 真司君が俺の肩を叩き、『大丈夫か』とジェスチャーを行う。俺は親指を立て、自分の意思を伝える。真司君は少し納得していない様子だったが、一旦進む事を選んでくれた。
 そこから更に暫く進み、会長が次の指示を出した。
『ここで儂の式神は消息を絶った 恐らくここが奴等の本拠地への入り口 ここから奴等の神隠しに入る ここからは一気に強行突破する 合図を出す』
 成程。それなら、多少武器を構えておこう。俺は万年筆と原稿用紙を、先生は数枚のお札を、真司君はメリケンサックを、会長と慎太郎さんは刀を取り出した。会長が指を三本立てる。指は一本一本折り曲げられる。三、二、一……
「突撃!」
 会長の合図と共に、俺達は霊力で身体を強化した。会長が刀を振るうと、空間が切れ、知らない風景が顔を出した。俺達はその切れ目に飛び込み、敵の本拠地に乗り込む。
「何者だ!」
「止まれ!」
 その言葉に耳を貸す事も無く、慎太郎さんは二人を斬った。俺達は速度を落とす事無く、前へ進む。
「鉄の扉か……斬鉄は流石にできんのう」
「任せな爺さん!」
 真司君は少し前に出ると、自身の術式で一気に加速する。真司君は地面を蹴り、その勢いで鉄の扉を殴る。鉄の扉は歪み、そのまま穴が空いた。俺達はその穴から、巨大な建物に侵入する。
「止まれ!協会だな!」
「ここは俺が」
 俺は一歩分前に出て、前方に広く壁を展開する。神様の補助があれば、この壁は弾丸でも弾く事ができる。
「撃てえ!」
 発砲音が聞こえるが、その弾丸が俺達に届く事は無い。先生は俺が作った壁の上に飛び、『爆発』のお札を投げる。お札は敵に当たると大爆発し、目の前の障害を一掃する。俺達は倒れている敵の横を通り過ぎ、更に奥へ進む。
「慎太郎!神殺しはどこじゃ!?」
「霊力を見るに三階、真上じゃ!」
「それなら儂らで……」
 会長と慎太郎さんは大きく踏み込み、地面を蹴った。会長達はあと少しでぶつかりそうな所で、天井を斬った。二階への穴を空けただけでなく、そのまま三階まで穴を空けてしまった。俺達はその穴に向かって飛び、一気に三階へ向かう。
 しかし、そこで問題が起きた。二階の部分で銃撃を受けた。咄嗟に壁を張ったので無傷だったが、真司君が分断されてしまった。
「真司君!」
「問題ねえ!行け!」
 俺達はその言葉を信じ、三階へ上がる。そこには、数えきれない程多くの、神殺しの武器があった。
「嫌な感じする……」
「ここに結界を張り、誰も入れないようにする!慎太郎、ギエルの位置は!?」
「霊力を感じない。もう逃げたか、或いは……」
「兎に角、この場所を制圧するしか無いな」
 どうやら、扉の方に人が集まっているようだ。扉から出た所を蜂の巣にする気か?随分と下に見られた物だ。会長は居合の体勢を取り、術式を使う。会長が刀を抜くと、壁が上下に斬れ、敵の姿が明らかになる。それに合わせ、慎太郎さんが敵の中に突っ込み、刀を振る。敵は瞬く間に切り伏せられ、血だまりに倒れる。
 会長の術式は、自身が握っている物の効果を、ある程度拡張する事ができる物で、慎太郎さんの術式は、他人の視線を、何かに特定の物に誘導する物だ。会長の術式は術師にある程度の力がある事が前提で、慎太郎さんの術式は自分より強い相手には効き辛いが、二人は術式抜きでの戦闘力でさえずば抜けて高いので、欠点はあって無いような物だ。
 俺達は足を止めず、建物の一番上を目指す。火薬の臭いが鼻に染み付き、銃声が耳に張り付いた頃、俺達は建物の最上階の辿り着いた。この階にある扉は一つだけだが……確かに、まるで霊力を感じない。まあ、入るしか無いか。
「突入する。構えるのじゃ」
 会長は、俺達がそれぞれの武器を構えた所を確認した後に、その扉を勢いよく開けた。そして同時に、俺達はその扉を開けるべきではなかったと感じた。

 そこには、鎖に繋がれた無数のオオクニヌシが居た。

「これは……まさか……」
「恐らく伏兵でしょうね。ここまで入念に霊力を封じる結界があるという事は、これが奴等の虎の子でしょう。処理しますか」
 俺は取り敢えず、鎖に繋がれた哀れな怪物達を葬る為に、怪物の胸に手を当てる。どうせなら実験してみよう。心臓をどの程度傷つければ絶命するのか。俺は腕を霊力で強化して、怪物の胸に手を差し込む。怪物は呻き声を上げてはいるが、以前弱々しい様子でいる。
 先ずは心臓を取り出してみるか。穴を空けるだけなら再生したが、丸ごと無くなった場合どうなるのだろう。俺は腕の感覚で、より熱く、より強く鼓動を感じるその臓器を掴み、そのまま引き抜いた。傷口から血液が溢れ、周囲に飛び散る。
 傷口が再生しない。どうやら、心臓を丸々取り出せば、この怪物も絶命するらしい。
「心臓が無くなれば死ぬようです」
「分かった。こうするしか手は無いんじゃな」
「お主らを殺す儂らを、どうか許さんでおくれ……」
 会長と慎太郎さんは、無念そうに怪物を葬って行く。俺もその作業に加わり、奴等の奥の手を一つ残らず潰す。
 全てのオオクニヌシの心臓を取り出した後、俺は顔に付いた血を手で拭い、唯一この作業に参加しなかった先生の所に戻った。
「先生、終わりました」
 先生は何か考え事をしているようで、俺を「ちょっと待ってくれ」と制止する。
「どうしたんですか?」
「いや……どうにも引っ掛かる。ここまでの道のり……」
 引っ掛かる?何が引っ掛かるのだろう。侵入を阻止すようとする敵が居て、罠があって……
 ここで俺も、違和感とまでは行かずとも、明らかに不自然な部分に気が付く。先生もほぼ同時に結果に辿り着いたようで、俺達は同時に、同じ言葉を口にする。
「「誘い込まれた?」」
 そう言い終わった後、一拍だけ置いて、下の階から爆音が響いた。火薬の音とは何かが違う、何か巨大な声が。

 例えるなら、伝説に登場するような巨人が、産声を上げたかのような音が。
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