怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#7 人類保護連盟

#7ー16 考察

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 翌日。俺達は会議の為、会長室に呼び出されていた。俺は傷だらけの体で、円卓の椅子に座った。
 結局、この傷の原因は分からなかった。今も霊力で身体を強化しているが、傷が治る気配は無い。やはり、連盟の武器のせいだろうか。ていうかそれしか思い当たらない。治癒力を著しく低下させるとかだろうか。
 元々本部に居た俺は、金剛級の中で最も早く、会長室に着いていた。会長は俺の体を見て、心配そうな顔をした。
「八神くん、傷の具合はどうかの?異変があったとは聞いておるが、まさか一晩使って治せんとはのう……」
「あまり痛くはないですけど、やっぱり辛い部分はありますね」
 俺は自分の椅子から、会長と話をする。このタイミングで会議するという事は、やはり内容は人類保護連盟についてだろう。とは言え、俺達は何も情報を掴めていない。今回は、聞く側にしかなれないな。
 十分程もすると、会議に参加する退魔師が全員揃った。金剛級の人間は勿論、協会の上層部、一部の白金級も集められているようだ。
「よお八神。聞いちゃいたが、ひでえ怪我だな」
「修司君も、最近は無茶してる場面もあるって聞くよ?」
「はっはっは!人が困ってた!無茶する理由はそれだけで良いだろ!?」
 やっぱり修司君は気持ちが良い男だ。『人の為』と言って、いくらでも無理ができる。損してはいそうだが、一番信頼を集めるタイプの人だ。
 修司君が椅子に座ってから直ぐ、七海さんが話し掛けて来た。
「八神君!怪我、まだ治ってないの?」
「そうですよ。先生は?」
「『行きたくない』だってさ。やっぱり、昨日の事がよっぽどショックだったんだね」
 そうだろうな。あんな酷い顔の先生を見るのは、あれが初めてだ。いつも冷静でいる事が多い先生でも、あんなに取り乱す事はあるんだな。今日は帰れるだろうから、しっかり話をして、いつもの調子に戻ってもらおう。
 それから更に時間が経ち、先生が座る筈だった一つを除いて、全ての椅子に人が座った。会長はそれを確認すると、先生の椅子を下げ、会議を始めた。
「皆の衆、集まってくれて感謝する。今回集まってもらったのは他でもない。人類保護連盟の連中についてじゃ」
 会長は連盟を、『協会に並ぶ、神秘使いの敵対勢力』と呼んだ。無数の神殺しの所持、不明な技術に依る人体の改造、正体不明の武器の数々……人の数なら協会が上だろうが、勢力として見るなら、恐らく協会と並ぶ戦力を持つだろう。
「諸君らには、連盟の本拠地を掴む手助けをしてほしい。厳しい道になるが、よろしく頼む」
 そう会長が言い終わると、誰かが声を出した。
「会長、先日高橋、八神、岩戸術師が影響を受けたという、謎の武器は何なのでしょう」
「分からん。じゃが、術師を暫くの間動けなくする効果はあるようじゃ。動けなくなる期間は、霊力量が多い程長くなると考えておる。しかし、岩戸術師の霊力の暴走、八神術師の治癒力の低下は、何の関連性があるのか不明じゃ」
 要するに、殆ど何も分かっていないのだ。具体的な効果も、対象となる物も、どうやって作っているのかも不明で、はっきりとした事は言えないのが現状。よく分からない物程怖い物は無いな。
 正直な所、何がどうなったのかも覚えていないのだ。霊力に依る身体強化が途切れたのは覚えているが、それ以外は全く覚えていない。その感覚も、霊力が操れなくなったというよりは、体の中から霊力が消えたような感覚だった。それも、今となっては消え失せている。無論、本当に消えた訳ではない。なのに、そう錯覚する『何か』……不気味でしょうがない。
「敵の目的は実現不可能な物です。それなのに、何故そこまで警戒するのですか?」
「不可能と言えなくなったからじゃ。先日、敵は無数の神殺しを所持している事が分かった。奴等にとって、人間以外の全ての存在を殺すだけであれば、決して手が届かない目標ではないじゃろう。それに加え、正体不明の『人の神』という存在を示唆する言葉……勢力が大き過ぎる上、目標も我々にとってマイナスでしかない」
「敵はどこから神殺しを入手したのですか?」
「それも不明じゃ。それに加え、春日部家にあった神殺しは全て、協会だけでなく、世界のどこを探しても、何一つ記録が無い物じゃった。詰まり、追跡のしようがない」
 こんな調子で、会長は様々な疑問に答えた後、集まった人間を解散させた。しかし、金剛級退魔師だけは、会長室に残る事になった。
「少しだけ残ってもらってスマンの」
「構いませんよ」
「ここに居るって事は、皆暇なんだろうし」
「オイ暇ってなんだ暇って」
 金剛級だけを残らせた理由は何だろう。少なくとも、この中に裏切者が居るみたいな話ではなさそうだが。春日部さん以外で、裏切者の疑いがある人間は居なかった。春日部さん……と言うよりは春日部家以外で、ここ最近で怪しい動きをしている家は無いし、何か別の……

「春日部君と柊君が結婚したのじゃ!ちょっとしたお祝いをしようと思っての!」

「はい解散解散」
「お疲れ~」
 残っていた全員が椅子から立ち上がって、会長室の外へ出ようとする。会長はその姿に、思いっ切り驚いた。
「皆の衆!何故帰るのじゃ!?」
「お祝いならもうしましたよ」
「二人の結婚式の日の夜、集まれる人達を集めてね」
「無理な奴はビデオ通話で参加してもらったぜ」
「祝いの品も貰ったしね」
「まあ、多すぎて少し困ったけど」
 そう、実は昨晩の内に、殆どの人間でお祝いは済ませているのだ。二人はどうやら、本気で結婚するつもりらしく、それを昨日、偶々協会本部に居た渡辺兄弟が聞いて、金剛級の人間に伝え、急遽お祝いをする事になったそうだ。因みに、俺は怪我もあったので、通話で参加した。
「なんで儂を呼ばなかったんじゃ!?」
「もう知ってると思ってましたし、それに、会長携帯も持ってないでしょ?」
「慎太郎!」
「儂は知っておったしのう……それにお主、儂が行った時にはもう寝ておったぞ?」
 会長は「そん……な……」と言って、膝から崩れ落ちた。そんな会長が少し哀れになったのか、皆して会長を慰める。その光景が可笑しかったのか、結婚した当事者の二人は、クスクス笑った。
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