怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#7 人類保護連盟

#7ー12 再び

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 俺は目の前の怪物を見つめる。俺は霊力で体を強化した上で、原稿用紙と万年筆を構えた。
 その怪物は口を開き、俺に話を始めた。
「驚いたか?儂は連盟から、この姿となる薬を貰ったのじゃ。今の儂は、金剛級退魔師でも対抗できんぞ~?」
「傲慢な意見をありがとう。そんな薬で強くなった所で、俺に勝てるとでも?」
 まさかこんな隠し玉を持っていたとはな。正直想定外だったよ。あのマッドサイエンティスト、連盟の人間だったのか。
 しかしどうする?確かにこの霊力、恐らく金剛級退魔師と同等だろう。それも霊力だけ見ればだ。完成品の薬を使ったとすれば、恐らく身体能力も跳ね上がっている事だろう。そうなったら、いよいよ金剛級の中でも五本の指に入るだろう。
 しかも、俺がオオクニヌシに対して使える有効な手段は、備えがあって初めて使える物だ。それも俺は、一回分しか持って来ていない。もしコレを外せば、俺は奴の攻撃で粉砕されるだろう。正直、こんな面倒な相手と戦う事は想定外だったからな。最低限の備えしかしなかったんだよな。
「正直、貴様の頭蓋を砕き、脳髄を磨り潰してやりたい心地じゃ。じゃが、連盟との契約でのう。貴様は、半殺しで済ませてやろうかの」
「なんで勝つ前提で話すのかねえ。俺は正直、お前に負ける気はしない」
 まあ、勝つか負けるかはトントンと言った所だろうな。正直、俺は金剛級の中でも五番目程度だが、俺と俺より強い人達の間には、とても大きい実力差がある。あの四人と同じ程度の実力ならコイツにも余裕を持って勝てるだろうが、俺はそこまで強くないんだよな。
 俺の勝ち筋は、本当にこの切り札一発だ。それも、ちゃんと弱点を見極めてからか、傷口に叩き込むかして使わなければ意味が無い。俺は兎に角、チャンスを狙うしか無い。
「ならば、儂は貴様の自信を打ち砕くとしよう」
 敵はそう言って、俺を殴って来た。俺は咄嗟に受け身を取ったが、それでも家の外まで、壁に風穴を開けながら吹き飛ばされた。速い。それもとんでもなく。更にパワーもある。
「儂の速さに驚いているようだな。儂の術式を知らん訳でもあるまい」
「高速移動だったかな?確か、全力で二倍速までだった筈だけどな」
 俺がそう答えると、化物は鼻で笑って、笑いながら言葉を返した。
「今の儂には、そんな限界など無い。先程も、近くの花瓶を割らない為にセーブしただけじゃよ」
「そうか。ならこっちも、本気を出すとしよう」
 俺は少し、ボルテージを上げる事にした。俺の周囲には大量の光の粒が形成され、それはやがて、四角形に形を変えて行く。
 これは俺が、神サマとの訓練で手に入れた物で、霊力を体外に放出し、壁を形成しながら動く事で、外部からの攻撃に対する防御が、意識せずともできるようになる。能動的に行う防御に対して、こっちは自動的な防御だ。便利な代わり、耐久力は下がる。防御だけでなく、霊力に依る身体能力の強化も、これで効率が上がる。その代わり、霊力も大量に消耗する。この状態での戦闘は十分まで。その間に決められなければ後が無い。
「ほう。術式に頼らない、体外での霊力の自動制御か。そんな技術、どんな人外から教わるのかのう」
「教える訳ねえだろ」
 そう答えると同時に、俺は化物の懐に飛び込んだ。俺は万年筆に霊力を込め、敵の胴体を切り裂く。勿論傷は直ぐ塞がる。化物は思い切り腕を振り上げ、俺を殴ろうとする。俺はその腕を躱し、それと同時に敵の視界から外れる。足を思い切り蹴り、体制を崩させると、俺は脳天に、万年筆を突き立てる。これで決まってくれ。
 だが、それは相手も許しはせず、異様に硬い皮膚と骨に、俺の攻撃は阻まれた。それに驚いた俺は一瞬固まってしまい、化物はその隙に、俺の体に拳を叩き込む。俺の体は再び宙に浮き、化物はその状態の俺に、更に追撃を叩き込み始めた。俺はそれらを防御し続け、なんとか着地する事ができた。
 凄いな。この技術を使っても勝てないのか。これは本当に、協会の上位四人組と肩を並べるレベルだな。
「その程度か?儂に致命傷を与えるには、ちと足りんのう」
「そっちも焦ってた癖に良く言うな」
 やはり速い。術式の制限解除には正直半信半疑だったが、この速度を考えると本当なのか?
 いや、そんな筈は無い。そもそも、術式でできる事の制限は、基本は自分の体がそれに追い付かないだけだ。可能性として考えられるのは、オオクニヌシになった事で身体がより強靭になり、高速で移動する負荷に身体が耐え得るようになったのだろう。
 つまり、依然として限界は存在するという事だ。なら勝ち筋はある。コイツの速さを見極める。どの程度まで速く動けるのかを考慮した上で、反撃のタイミングを計る。それも十分の内に。
「考え事とは余裕じゃの」
 その声が聞こえるのと、俺の右脇腹に拳が当たったのは、ほぼ同時だった。俺の体は再度吹き飛び、宙に浮かされる。次はどこから来る?アイツの癖は?何か考える素材は?考えろ。何かある筈だ。何か、隙は無いのか?
 俺は暫く宙で攻撃を受け続け、再度着地した。この時点で、俺は既にボロボロになっていた。
「ほっほっほ。弱いのう。金剛級もこの程度か」
「そうかい。なら、もう一度掛かって来いよ」
 俺が挑発すると、化物は「言われずとも」と言って、再び俺の右に移動した。俺の体は再び宙に浮き、空中での追撃が始まる。
「貴様ももう満身創痍じゃろう!これで決めてやるわい!」
 化物は空中で霊力を腕に込め、俺を地面に叩き落とした。一瞬、意識が遠のく。化物の、勝ち誇ったような顔が霞む。だが、俺は直ぐに立ち上がり、原稿用紙と万年筆を構えた。
「ほう!まだ立ち上がるか!」
 化物はそう言いながら、俺に攻撃を仕掛けて来た。しかし、その攻撃が俺に届く事は無かった。

 化物の拳は、連なった原稿用紙に受け止められた。
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