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#7 人類保護連盟
#7ー6 襲撃
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俺は近所のカフェで、誠君と待ち合わせをしている。目立たない場所を使ったとは言え、店内には俺と店主、そしてアルバイトの青年以外、誰も居ない状態だ。
俺は窓際の席で小説を読みながら、誠君を待っている。十分程経った後、ようやく誠君が顔を出した。
「やあ八神君。待たせたね」
「大した時間じゃないし良い」
誠君は俺の正面に座ると、俺の目を真っ直ぐ見つめて、話を切り出した。
「で、話って?」
「単刀直入に言おう。春日部さんが裏切者の可能性がある。何かおかしいと思った事、知っている事を教えてくれないか?」
俺の話に、誠君は少し驚いた様子ではあったが、多少教えてはくれるようで、考える姿勢に入った。少し数秒経って、何か思い出したらしい誠君は、俺にその内容を話し始めた。
「最近、日向の装備が少し良くなったんだよ。なんて言うかな……今まで使っていた物より、少し高い物になってた。服というより、使っている銃とかがね」
「理由は言ってた?」
「聞いたけど、『買い替えた』としか」
成程。最近仕入れ始めたとかいう火器類は、春日部さんが使う物だったのか。タイミングが浩一郎が言っていたのと同時期なのが気になるが、裏切りの線は薄いかな。
じゃあ後は、春日部家そのものの動きを探る必要があるか。
「春日部家の方は何か?」
「僕には何も言って来ないな。ああでもやっぱり、『娘をよろしく』ってずっと言われてるんだよ。いや日向の事が嫌いって訳じゃないんだけど……」
ああはいはい惚気は良いから。まあ、相棒という仕組みも、元はその為の物だしな。
協会の白金級の一部と金剛級の退魔師には、『相棒』という制度がある。誰か適当な相手を選び、そいつと行動を共にする。この制度は、優秀な人材を失わないようにするのと同時に、より優秀な退魔師の子孫を残す為という側面も持っているらしく、昔は異性同士で組まれる事が多かったそうだが、最近はそれも少ないとか。因みに、俺が協会に来る前の先生の相棒は幸子だったそうだ。
「まあ誠君の人生だから、好きにするのが一番だ。手伝える事があったら手伝うよ」
俺がそう言うと、誠君は顔を赤くして、「その時になったら頼むよ」と答えた。
「じゃあ、そろそろ俺は帰るよ」
「え、もうかい?」
「ああ。ちょっとやる事があってね。また今度遊ぼう」
俺はそう言いながら、誠君に金を渡して、店を去った。
俺は書店をハシゴしながら、春日部家の情報をどうやって持ち出すかを考えていた。
春日部家には以前侵入したが、そこで得られた情報は微々たる物だ。やはり、直接聞くのが一番かな。前回は忍び込んだが、今回は正面から面会の希望を出そう。断られるかもだが、まあやるだけやるか。
次の本屋に入ろうとした瞬間、俺は足を撃ち抜かれた。俺は店の中に身を隠し、なるべく外から見えない場所に移る。襲撃だ。前もそうだったが街中だぞ。『人類保護』とか言う名前の割に、民間人への被害は気にしないのか。
俺は血が床に付く前に、トイレに逃げ込んだ。俺はそこで弾丸を無理矢理指を入れて取り出して、傷口を直した。少し、いやかなり痛いが、それを気にしていられる状況じゃない。
先生か七海さんを呼ぶか?いや、アイツらの狙いはあくまでも俺だ。そうでなければ、俺よりも強い先生も、俺よりも弱い金剛級の面子や七海さんも狙わない理由が無い。二人を巻き込んで、どちらか、或いは両方に何か起きる事態だけは避けたい。そもそも、一般人が多く居るこの状況では、誰かを呼んでも何もできない。
ならどうするか。敵の位置も数も不明。以前の神隠しと違い、今回は民間人が多く居る上、神様も連れて来ていない。無理矢理逃げ切る事はできない。対する奴等は、数も配置も不明、更には狙撃する時の音も小さくしていると来た。可能性の話だが、この店の客の中に敵が居る可能性もある。相手は元から犯罪集団みたいな物だ。失う物が無い。俺の方は、公然と犯罪を犯すのも、霊力を使って制圧するのもできない、袋小路とはこの事だ。
考えろ。この状況から逃げ切る方法を。霊力をこれ以上使うのは、協会の規則に違反しかねない。今の俺は平均より若干上程度の人間でしかない。結界を使うのも不可能、術式を使うのも不可能、無理矢理押し通るのも不可能。どうする?
その時、トイレの扉をノックする音が聞こえた。長く入り過ぎたか。俺は考えるのを一旦止めて、トイレを出ようとする。
しかし、扉の前には誰も居なかった。俺は異変を察知すると同時に、トイレの扉を再度閉めた。そうすると、トイレの扉に、何発かの弾丸が撃ち込まれる音がした。やはり詰めて来たか。しかし、遠くから狙っている人間は居る筈。警戒しながら動かなければ。ああもうもどかしい!
しかし、次の瞬間、トイレの扉が壊された。狭い個室の中に突っ込んで来た二人の巨漢を、俺は素早く気絶させる。何をやってるんだ?こんな事をしたら、店の人間にバレるぞ。
いや待て。この状況で、相手が焦る訳が無い。俺が通れるような窓が無い上、どこから敵に撃たれるか分からないこの状況で、わざわざこんな、誰かに見られるリスクを背負ってまで、俺を追い詰める理由が無い。だが、それはこの店に、部外者が居た時に限っての話だ。もし、この店に居た人間全員が、連盟の奴等だったら?
俺の予想はどうやら当たっていたらしく、男子トイレの外に、ぞろぞろと人が群がって来ている。その全員が、刃物や拳銃で武装している。俺が何かしら動きを見せれば、直ぐに攻撃できる体制だ。
俺は素早く原稿用紙と万年筆を構え、相手が動くのを待つ。そうした状況が少し続くと、相手の人込みの中から、一人の、なんか良い物を来た、偉そうな男が出て来た。
「話し合いませんか?この状況で、貴方にできる事は無い」
「誰だ?」
「私は人類保護連盟の長、洗礼名『ギエル』です。貴方を勧誘しに来ました」
どうやら、相手も本腰入れて、俺を口説きに来たらしい。男に口説かれても嬉しくないんだがな。
「勧誘?アンタらの誘いは以前断った。アンタらは敵だ」
「そう怖い顔をしないでください。本当に、話し合うだけです」
こういう奴を相手にするのは避けたい。言霊を使う可能性だってある。ある程度は防げるが、それでも術式を絡められると辛い。しかし、この状況を打破する為の時間稼ぎは必要。
「そいつらを下げさせろ。話はそれからだ」
「分かりました。皆さん、下がってください」
「しかし『ギエル』様!」
集団の中の一人が、『ギエル』とやらに異議を唱える。しかし、奴はその人間を睨み付け、制止させた。睨まれているのは俺ではないのに、圧迫感を感じる。正面で勝つのは、恐らく不可能だ。
「では、こちらへ」
奴は二回へ続く階段の方に進んで行く。俺はその後に付いて行く。
こういうの、前にもあったな。俺はそんな事を考えながら、階段を進んで行った。
俺は窓際の席で小説を読みながら、誠君を待っている。十分程経った後、ようやく誠君が顔を出した。
「やあ八神君。待たせたね」
「大した時間じゃないし良い」
誠君は俺の正面に座ると、俺の目を真っ直ぐ見つめて、話を切り出した。
「で、話って?」
「単刀直入に言おう。春日部さんが裏切者の可能性がある。何かおかしいと思った事、知っている事を教えてくれないか?」
俺の話に、誠君は少し驚いた様子ではあったが、多少教えてはくれるようで、考える姿勢に入った。少し数秒経って、何か思い出したらしい誠君は、俺にその内容を話し始めた。
「最近、日向の装備が少し良くなったんだよ。なんて言うかな……今まで使っていた物より、少し高い物になってた。服というより、使っている銃とかがね」
「理由は言ってた?」
「聞いたけど、『買い替えた』としか」
成程。最近仕入れ始めたとかいう火器類は、春日部さんが使う物だったのか。タイミングが浩一郎が言っていたのと同時期なのが気になるが、裏切りの線は薄いかな。
じゃあ後は、春日部家そのものの動きを探る必要があるか。
「春日部家の方は何か?」
「僕には何も言って来ないな。ああでもやっぱり、『娘をよろしく』ってずっと言われてるんだよ。いや日向の事が嫌いって訳じゃないんだけど……」
ああはいはい惚気は良いから。まあ、相棒という仕組みも、元はその為の物だしな。
協会の白金級の一部と金剛級の退魔師には、『相棒』という制度がある。誰か適当な相手を選び、そいつと行動を共にする。この制度は、優秀な人材を失わないようにするのと同時に、より優秀な退魔師の子孫を残す為という側面も持っているらしく、昔は異性同士で組まれる事が多かったそうだが、最近はそれも少ないとか。因みに、俺が協会に来る前の先生の相棒は幸子だったそうだ。
「まあ誠君の人生だから、好きにするのが一番だ。手伝える事があったら手伝うよ」
俺がそう言うと、誠君は顔を赤くして、「その時になったら頼むよ」と答えた。
「じゃあ、そろそろ俺は帰るよ」
「え、もうかい?」
「ああ。ちょっとやる事があってね。また今度遊ぼう」
俺はそう言いながら、誠君に金を渡して、店を去った。
俺は書店をハシゴしながら、春日部家の情報をどうやって持ち出すかを考えていた。
春日部家には以前侵入したが、そこで得られた情報は微々たる物だ。やはり、直接聞くのが一番かな。前回は忍び込んだが、今回は正面から面会の希望を出そう。断られるかもだが、まあやるだけやるか。
次の本屋に入ろうとした瞬間、俺は足を撃ち抜かれた。俺は店の中に身を隠し、なるべく外から見えない場所に移る。襲撃だ。前もそうだったが街中だぞ。『人類保護』とか言う名前の割に、民間人への被害は気にしないのか。
俺は血が床に付く前に、トイレに逃げ込んだ。俺はそこで弾丸を無理矢理指を入れて取り出して、傷口を直した。少し、いやかなり痛いが、それを気にしていられる状況じゃない。
先生か七海さんを呼ぶか?いや、アイツらの狙いはあくまでも俺だ。そうでなければ、俺よりも強い先生も、俺よりも弱い金剛級の面子や七海さんも狙わない理由が無い。二人を巻き込んで、どちらか、或いは両方に何か起きる事態だけは避けたい。そもそも、一般人が多く居るこの状況では、誰かを呼んでも何もできない。
ならどうするか。敵の位置も数も不明。以前の神隠しと違い、今回は民間人が多く居る上、神様も連れて来ていない。無理矢理逃げ切る事はできない。対する奴等は、数も配置も不明、更には狙撃する時の音も小さくしていると来た。可能性の話だが、この店の客の中に敵が居る可能性もある。相手は元から犯罪集団みたいな物だ。失う物が無い。俺の方は、公然と犯罪を犯すのも、霊力を使って制圧するのもできない、袋小路とはこの事だ。
考えろ。この状況から逃げ切る方法を。霊力をこれ以上使うのは、協会の規則に違反しかねない。今の俺は平均より若干上程度の人間でしかない。結界を使うのも不可能、術式を使うのも不可能、無理矢理押し通るのも不可能。どうする?
その時、トイレの扉をノックする音が聞こえた。長く入り過ぎたか。俺は考えるのを一旦止めて、トイレを出ようとする。
しかし、扉の前には誰も居なかった。俺は異変を察知すると同時に、トイレの扉を再度閉めた。そうすると、トイレの扉に、何発かの弾丸が撃ち込まれる音がした。やはり詰めて来たか。しかし、遠くから狙っている人間は居る筈。警戒しながら動かなければ。ああもうもどかしい!
しかし、次の瞬間、トイレの扉が壊された。狭い個室の中に突っ込んで来た二人の巨漢を、俺は素早く気絶させる。何をやってるんだ?こんな事をしたら、店の人間にバレるぞ。
いや待て。この状況で、相手が焦る訳が無い。俺が通れるような窓が無い上、どこから敵に撃たれるか分からないこの状況で、わざわざこんな、誰かに見られるリスクを背負ってまで、俺を追い詰める理由が無い。だが、それはこの店に、部外者が居た時に限っての話だ。もし、この店に居た人間全員が、連盟の奴等だったら?
俺の予想はどうやら当たっていたらしく、男子トイレの外に、ぞろぞろと人が群がって来ている。その全員が、刃物や拳銃で武装している。俺が何かしら動きを見せれば、直ぐに攻撃できる体制だ。
俺は素早く原稿用紙と万年筆を構え、相手が動くのを待つ。そうした状況が少し続くと、相手の人込みの中から、一人の、なんか良い物を来た、偉そうな男が出て来た。
「話し合いませんか?この状況で、貴方にできる事は無い」
「誰だ?」
「私は人類保護連盟の長、洗礼名『ギエル』です。貴方を勧誘しに来ました」
どうやら、相手も本腰入れて、俺を口説きに来たらしい。男に口説かれても嬉しくないんだがな。
「勧誘?アンタらの誘いは以前断った。アンタらは敵だ」
「そう怖い顔をしないでください。本当に、話し合うだけです」
こういう奴を相手にするのは避けたい。言霊を使う可能性だってある。ある程度は防げるが、それでも術式を絡められると辛い。しかし、この状況を打破する為の時間稼ぎは必要。
「そいつらを下げさせろ。話はそれからだ」
「分かりました。皆さん、下がってください」
「しかし『ギエル』様!」
集団の中の一人が、『ギエル』とやらに異議を唱える。しかし、奴はその人間を睨み付け、制止させた。睨まれているのは俺ではないのに、圧迫感を感じる。正面で勝つのは、恐らく不可能だ。
「では、こちらへ」
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