怪しい二人

暇神

文字の大きさ
上 下
81 / 155
#7 人類保護連盟

#7ー2 裏社会

しおりを挟む
 俺は今、少しコソコソしている。と言うのも、今俺がやっているのは、とても褒められたことではないからだ。
 俺が今居るのは、協会に登録されていない神隠し。詰まる所、あるのも御法度な場所だ。だが、ここは大きな意味を持つ場所なので、協会に黙認されている。ここには色んな、住む場所を追われた妖怪や退魔師が住んでいる。それぞれがそれぞれの小屋を建て、物を交換したり奪ったりして、生活しているらしい。ここに住む人は、ここを『落伍者共の夢の跡』と呼ぶ。
 そんな危ない奴らの巣窟に来て何をするかと聞かれたら、勿論情報収集だ。人類保護連盟とやらは、相当謎が多い。ここなら、少しは掴める物があるかも知れない。
「でもさ、こんな所に来て良いの?」
 俺の服のポケットから、人形が話し掛けて来た。コイツは、以前の神隠しに居た、あの子供の姿をしていた神が、人形に乗り移った結果の姿だ。神としての権能はほぼ無くなり、今はただの『喋る人形』な訳だが。
「駄目に決まってる。だからコソコソしてるんだ」
「まあそうか」
 幸いな事に、ここには多少顔見知りが居る。それも情報通な奴が。俺は、その彼を訪ねに来たのだ。
 歩く事十分。神隠しの端の方の小屋に、彼は住んでいる。俺は扉をノックして、相手を待つ。幸い、直ぐに出て来てくれた。
「あ~誰だあ?セールスなら断る……って、八神じゃねえか!」
「よ、久し振りだな」
 彼は佐々木浩一郎ささきこういちろう。俺の友人で、神秘学者でもある。今は色々あって、ここの監視役を任されているらしい。基本は協会と連絡は取らないが、ここで動きがあった時のみ、協会と連絡をする体制らしい。
 俺は浩一郎の小屋の中に入り、椅子に座らせてもらう。
「どうした?半年振りだな」
「少し聞きたい事があってな。ちょいと、コレを見てくれ」
 そう言って俺は、あの妖怪だった物の写真を見せた。浩一郎は、やはり気分が悪そうだった。
「どうしたんだコレ?」
「『人類保護連盟』って知ってるか?そいつらの仕業だ。俺はそこの情報が知りたくて来たんだ」
 浩一郎は少し顎に手を当てて、思い出すような顔をしてから答えた。
「噂だけは知ってる。はぐれ者の退魔師が徒党を組んで、何企んでるってな。噂好き共の娯楽とばかり思ってたぞ」
 どうやら、ここでも大した情報は手に入らなそうそうだな。それなら長居する理由も無い。さっさと帰るか。
「そうか。邪魔したな」
「おお待て待て。折角来たんだ。ちょっと話でもしないか?」
 友人の頼みなら、断る訳にも行かないな。俺は「分かったよ」と答えて、彼と一緒に、小屋の外へ出た。
 その瞬間、火薬の弾ける音が聞こえた。俺は咄嗟に後ろに下がり、射線を切った。しかし、直ぐ近くで、もう一度火薬が弾ける音が聞こえた。
「浩一郎!?」
「悪いな八神。こっちのが金払いが良いんだ」
 成程。コイツは罠だった訳だ。俺が情報を手に入れる為にここに来るのも想定した上で待ち伏せし、所定のポイントまで、俺を誘導した。全く面倒な相手だ。しかし、コイツが裏切者だったとはな。
 俺は浩一郎を素早く制圧し、気絶させた。一応、近くにあったロープで手足を縛り、動きも封じた。さて、どうしよう。ここは見張られてる。相手の組織の規模や、用意周到さを考えると、複数居るのは明白だろう。正面から出ても、撃ち抜かれて終わりだ。
「僕も居るの、忘れてないよね?」
「神様!?」
 突然喋り掛けて来たその人形に、俺は目を剥く。いや忘れてはいなかったが、それでも、権能がほぼ使えない今のコイツに、やれる事はもう無い筈。
「権能が無くても、僕は神だよ?一応、霊力の制御は人よりも上手いよ」
「成程。俺の霊力の操作をある程度補助して、防御の制度を向上させようって訳か」
「そういう事」
 どうやら、俺はこの人形を舐めていたようだ。まあ、神なのだから当たり前なのかな。
 この状態であれば、多少は作戦の立てようもある。伏兵の存在を仮定した上で、この裏切者を連行した状態で、この場を離れる方法為の作戦。俺は今使える手札を整理しながら、作戦を立てる。
「作戦ができた」
「聞かせて」
 まず、俺は術式で、基本的な防御をしながら逃げる。神様は盾をすり抜けそうな物を、予め渡しておく原稿用紙に霊力を流して受け止める。耐久力は下がるが、防弾チョッキ位の防御力はある筈だ。
「分かった。やってみる」
「よし。じゃあ……行くぞ!」
 俺は浩一郎の体を担ぎ、足に霊力を込め、斜め上を目指して地面を蹴る。先程敵が居た場所だ。可能なら、一人無力化したい。しかし、その場に敵の姿は無かったので、俺はそのまま走り去る。
 敵は複数居るようで、後ろから弾幕を張って来た。下では悲鳴が上がっている。今はどうこうする余裕が無い。後で協会から人員を派遣してもらおう。俺は術式で強化した原稿用紙を盾に、その場から走り去る。時々、神様が防御してくれているのが、音で分かった。やはり役に立つなコイツは。とは言えサポート程度だ。早くこの場を去るに越した事は無い。
 俺は前方から出て来た伏兵二人を薙ぎ倒して先へ進む。そろそろ神隠しの端に到着する。ここを出たら、本部から人を派遣してもらえるように頼もう。俺は神隠しの外に出ながら、そんな事を考えていた。

 それからは、奴等も追って来る事は無かった。協会は『落伍者共の夢の跡』を登録し、管理下に置く事になった。ここの住民への援助をする必要ができた為、派遣されてきた、恐らく中間管理職の男は、静かに頭を抱えていた。
 奴等の痕跡は途絶えていた為、人類保護連盟の拠点の特定には至らなかった。結果として、協会はマイナスを被る事となってしまった訳だ。
 浩一郎は、『金払いが良い』と言っていた。相手は相当な財力もあるのか。協力者か、内部の人間が金持ちなのか。
 そこそこ居るであろう人員に銃火器、さらにはこちらの人間を裏切らせる程の財力、そして詳細が一切分からない謎の技術。奴等は一体、何者なんだろうか。
しおりを挟む

処理中です...