怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#6 存在してはいけない駅

#6ー13 最悪の可能性

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 俺達はあの後、真っ直ぐに協会へ向かった。今回の事は、何より優先して、協会の上層部に伝えるべきだ。俺は会長に、事のあらましを説明した。
「『人類保護連盟』か……分かった。こちらでも多少の調査はしよう。ただ、あまり期待はしないでほしいの」
「分かりました。お願いします」
 会長は真剣な顔で、俺の話を聞いた。会長も知らないだけでなく、『神殺し』の所持となると、いよいよ謎が多い。俺の副業でも聞いた事が無いグループだし、得体が知れないな。
 俺達は本部を出て、事務所に戻った。少し疲れた。結構な時間寝ていないし、少しでも早く休みたかったのだ。
「疲れた~!」
「お疲れ様でした。一旦休みましょう」
「八神くんもこの際、しっかり休みを取ったらどうだい?こないだ寝込んだのが最後だろ?」
 そう言えば、長い事休みを取っていなかった。ある程度疲労を無視できる体だとしても、多少は休みを取った方が良い事に変わりは無い。どうせだし、少し出掛けてみるかな。俺は「分かりました」と言って、自分の部屋に戻った。そのままベッドに倒れ込んだ俺は、泥のように眠ってしまった。

 その日も夢を見た。だが、それはいつもと違う夢だった。

「こんばんは、お兄ちゃん」

「やあ。殺されたとばかり思っていたけど、無事だったのか」
 この晩の夢には、先程殺された筈の神が居た。先生は「死んだ」と言っていたが、無事だったのだろうか。
 だが、神は首を横に振って、今の自分の説明を始めた。

「いや。僕の体は死んじゃったよ。だけどその直前、魂だけをお兄ちゃんの精神世界に送ったんだ。今は魂だけで、生前の姿を再現してるだけさ」

 成程。中々器用な事をする。だが、俺の精神世界に入って、一体どうしようと言うのだろう。死者蘇生なんて大それた物、今となっては失われた技術だ。俺にはどうしようも無いぞ。
「で、俺に何か用でもある?」

「うん。僕のスペアの体を見繕ってほしいんだ。適当な人形で良いよ」

 うん。やれる事あったわ。どうせ明日は休むんだし、その時についでで探せば良いだろう。『適当な人形』だし、基本何でも良いんだろう。そこら辺のクレーンゲームにでも挑戦するか。
「分かった。明日で良いよな?」

「良いよ。できれば人型のが良いな」

「了解」
 その会話を最後に、目が覚めた。窓のカーテンを開けると、まだ日が昇って来ていない事が分かった。俺はさっさとキッチンに向かって、それっぽい朝食を作り始める。うん。だし巻き卵で良いか。
 数分すると、七海さんが起きて来た。まだ眠いらしく、目を擦っている。
「おはようございます七海さ」
「お姉ちゃん」
「……おはようございますお姉ちゃん」
 うん。その『お姉ちゃん』ゴリ押すの止めてくれないかな。ちょっと恥ずかしいんだが。
「まだ眠いみたいですね」
「うん……ちょっとね」
 昨日は初めての実戦だった訳だし、仕方無いか。消耗しているのだろう。どうせ依頼は殆ど来ないのだし、少し羽を伸ばしてくれると良いな。
 朝食を作り終えた俺は、先生の寝室に向かった。もうそろそろ早起きを身に着けてほしいな。
「先生、起きてください。朝です」
「朝食は?」
「だし巻き卵」
「分かった」
 その言葉で起き上がった先生は、足早に部屋を出て行った。現金な人だ。俺もその後を追い掛けて、キッチンの方へ向かう。
 朝食を食べながら、俺は今日、出掛けるつもりである事を話す。
「今日は書店巡りするんで、よろしくお願いします」
「そうか。分かったよ」
「珍しいね。良い事だと思うなお姉ちゃんは」
 今日は一人で書店巡りながら、あの神の体になる人形を探しに行く予定だ。道中、何か土産でも買って行こうか。
 朝食の皿洗いも終わった俺は、さっさと身支度を済ませて、事務所を出た。俺は少し歩いてから、携帯電話を取り出して、神宮寺幸子に電話を掛けた。二コール程経ってから、相手は電話に出た。
「もしもし、八神だ。今時間あるか?」
『八神?何の用ですの?貴方が私達の邪魔をした事、まだ忘れていませんわよ?』
 まだあの事を覚えていたのか。アイツも存外、執念深いな。まあ、今回は好都合。少し協力してもらおう。
「いや、今回の連絡は、その件の詫びだ」
『何時からですの?』
「もう事務所は出た。暫く好きにすると良い。あ、沙月さんにも教えておいてくれ。ついでに『スマン』と伝言も」
 俺が全てを言い終わる前に、電話は切れていた。まあ、話が速くて助かるよ。これでアイツらの機嫌取りは済んだ。暫くは背後に気を付ける必要も無さそうだ。うん。ラブアンドピース。
 俺は最寄りの駅に向かい、電車に乗り込む。満員電車の中は、少し暑苦しく感じた。
 不意に、後ろから肩を叩かれた。俺は後ろを振り向き、そして驚いた。

 そいつは、俺の背中に銃口を向けていた。

「こんにちは。奇遇ですね」
「お前、もしや昨日の……」
「はい。少しお話がしたくて。良いですよね?」
 この銃は本物か?いや、偽物だったとしても、この満員電車の中じゃ、やれる事も無い。どうしても、人が邪魔だ。ここは一旦、指示に従おう。
「分かった」
「良かったです。じゃあ、次の駅で降りてください」
 俺は指示通り、次の駅で電車を降りた。奴は俺から若干離れたが、それでも至近距離。逃げられる距離ではなさそうだ。俺達は距離を大きく離さないまま、町に繰り出した。
「で、話ってなんだ?」
「ここではアレなので、少し来てください」
 奴は俺の横に出て、道案内を始めた。その先にあったのは、古い廃ビルだった。
「こっちですよ」
 そう言って、奴は建物の中に入って行った。ここで逃げる事もできるか?いや、後ろに二つ、霊力を感じる。伏兵だな。多分そこそこ面倒だ。敵の手札が分からない以上、付いて行くのが良いか。俺はその後に続いて、ビルの奥へ進む。

 多分、世界一嫌なお茶会の始まりだ。
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