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#6 存在してはいけない駅
#6ー5 強敵
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特別行動班とは、協会の中でも特殊な位置付けである。彼等は自己判断で行動する上、相当な実力の持ち主ばかりだ。それだけに、協会がその動向をはっきり掴むのが難しく、裏切るリスクが高いとされている。その反面、実力主義の協会では、誰よりも協会に貢献する可能性がある。正直、面倒臭い奴等だ。
俺と先生は特定の拠点を設けている為、協会にはある程度の動向が掴まれている。だが、他の面子は、基本的に特定の拠点を持たない。だから厄介なのだ。今回七海さんの試験を担当してもらう退魔師にも、アポを取るのに苦労した。
俺達は集合場所の神隠し、『絵の具の国』に来ている。そこには、どうやら先に着いていたらしい、『彼』が居た。
「こんにちは。八神君」
「お久し振りです。今は何とお呼びすれば?」
「今は田中で通してる」
俺は彼と挨拶し、手を握った。前とはやはり、違う手だ。
田中さんは特定の名前を持たない。戸籍を持っていないらしい。その為、会う度に名前が変わる。
そして、田中さんは俺の先輩でもある。最初の方はよく世話になった物だ。彼は仕事が速い上に、適格だ。恐らくこの班の中でも、かなりの上位陣だろう。
「今日試験を受けるのは、そこの可愛らしいお嬢さんかい?」
「あ、はい!七海と言います!」
七海さんは勢い良く頭を下げて、田中さんに挨拶した。田中さんは笑いながら、「よろしくね」と言った。
この『絵の具の国』は、協会が管理している神隠しの中でも、かなり便利な方だ。絵の具は自由に風景を、物を、人を描く。それが反映されているのか、この神隠しは誰でも自由に弄れる。田中さんはそれを利用して、闘技場を作った。田中さんはその円の中に入り、七海さんもその後について行く。
「ルールは?」
「殺し以外はなんでもアリです」
それを聞いた田中さんは、どこからか取り出した刀を腰に構え、居合の姿勢を取った。七海さんはそれを見て、拳を構えた。両者、睨み合いの体勢を取る。お互いの初動を予測し、それを見逃さない為の状態。
先に動いたのは、七海さんだった。恐らく田中さんの強さを感じ取ったのであろう七海さんは、以前の加入試験の時とは異なり、最初から全力でぶつかって行く気らしい。
だが、それで大きく変わる程、田中さんは弱くない。田中さんは七海さんの拳を避け、空いた脇腹に刃を当てた。切られると即座に感じた七海さんは後ろに下がる。僅か一秒にも満たない時間の出来事だ。
田中さんの術式は、会長以外誰も知らない。田中さん自身が言わない上、協会にも、そういう措置をするように言っていたから、誰も知らない。だから、今の攻防に術式が使われたのかすら分からない。
先程の一太刀から、どう来るかと構える七海さんだったが、田中さんは刀を鞘に納めた。どうやら、十分実力は測れたれたという事らしい。
「え?まだ決着してませんよ?」
「いや、十分だ。正直、八神君の紹介ってだけで、八割方合格は決まってた。後は最低限の実力を備えてさえいれば良いが、彼女の評判は、ここ数日で耳に入っている。『期待のニュースター』だったかな?」
田中さんは七海さんにそう言って、俺に笑いかけた。このやり方だと、まるで俺が権力を笠に合格させたみたいじゃないか。いやまあ、田中さんが『十分』と言っているのだから、本当に問題無いんだろうけど。
「まあ、気にする事じゃない。合格には変わりないし、彼女の力は、ここに入る分には問題無い」
「「ありがとうございました」」
俺と七海さんがそう頭を下げると、田中さんは「こちらこそ」と言って、神隠しを出て行った。残された俺は、取り敢えず七海さんの方を見る。
「えっと……大丈夫でしたか?」
俺がそう聞くと、七海さんは怒ったような顔で、誰も居ない神隠しに叫んだ。
「悔しいいいいいいいいい!」
どうやら、訳が分からない状態で負けたのが、どうしようも無く悔しいらしい。まあ、彼は白金級の中でも、浩太と並ぶ実力者だ。そして、情け容赦とか油断とかも一切無く、誰が相手でも一瞬で仕留める。恐らく、本気を出した金剛級退魔師と浩太さん以外で、彼に勝てる人間は、少なくとも協会には居ない筈だ。
兎にも角にも、七海さんが特別行動班に入れるのは確定した訳だ。目的は達した。帰ろう。俺は悔しがる七海さんを引っ張って、事務所まで戻った。
事務所では、先生が待っていた。お気に入りの椅子の上で、最近買ったという小説を読んでいる。先生は俺達が帰って来た事に気が付くと、小説から顔を上げた。
「おかえり。その様子だと……実力差を見せつけられたようだね」
「うう……悔しい……」
「まあ、一応合格はしましたよ。今夜は一応、慰めの意味も込めてお祝いです」
そう言えば、事務所まで引っ張って来ておいて何だが、この人俺より一つ上で、しかも自称『お姉ちゃん』なんだよな。これはちょっとおかしいんじゃないか?いや良いんだけどさ。
その後、俺達は夕食を食べながら、七海さんを慰めた。真面に人を慰めた事も無い俺は、精々夕食の皿を一つ増やすしかできなかった。
そして、七海さんの自由行動が認められて初の依頼は、意外にもこの翌日に来た。
俺と先生は特定の拠点を設けている為、協会にはある程度の動向が掴まれている。だが、他の面子は、基本的に特定の拠点を持たない。だから厄介なのだ。今回七海さんの試験を担当してもらう退魔師にも、アポを取るのに苦労した。
俺達は集合場所の神隠し、『絵の具の国』に来ている。そこには、どうやら先に着いていたらしい、『彼』が居た。
「こんにちは。八神君」
「お久し振りです。今は何とお呼びすれば?」
「今は田中で通してる」
俺は彼と挨拶し、手を握った。前とはやはり、違う手だ。
田中さんは特定の名前を持たない。戸籍を持っていないらしい。その為、会う度に名前が変わる。
そして、田中さんは俺の先輩でもある。最初の方はよく世話になった物だ。彼は仕事が速い上に、適格だ。恐らくこの班の中でも、かなりの上位陣だろう。
「今日試験を受けるのは、そこの可愛らしいお嬢さんかい?」
「あ、はい!七海と言います!」
七海さんは勢い良く頭を下げて、田中さんに挨拶した。田中さんは笑いながら、「よろしくね」と言った。
この『絵の具の国』は、協会が管理している神隠しの中でも、かなり便利な方だ。絵の具は自由に風景を、物を、人を描く。それが反映されているのか、この神隠しは誰でも自由に弄れる。田中さんはそれを利用して、闘技場を作った。田中さんはその円の中に入り、七海さんもその後について行く。
「ルールは?」
「殺し以外はなんでもアリです」
それを聞いた田中さんは、どこからか取り出した刀を腰に構え、居合の姿勢を取った。七海さんはそれを見て、拳を構えた。両者、睨み合いの体勢を取る。お互いの初動を予測し、それを見逃さない為の状態。
先に動いたのは、七海さんだった。恐らく田中さんの強さを感じ取ったのであろう七海さんは、以前の加入試験の時とは異なり、最初から全力でぶつかって行く気らしい。
だが、それで大きく変わる程、田中さんは弱くない。田中さんは七海さんの拳を避け、空いた脇腹に刃を当てた。切られると即座に感じた七海さんは後ろに下がる。僅か一秒にも満たない時間の出来事だ。
田中さんの術式は、会長以外誰も知らない。田中さん自身が言わない上、協会にも、そういう措置をするように言っていたから、誰も知らない。だから、今の攻防に術式が使われたのかすら分からない。
先程の一太刀から、どう来るかと構える七海さんだったが、田中さんは刀を鞘に納めた。どうやら、十分実力は測れたれたという事らしい。
「え?まだ決着してませんよ?」
「いや、十分だ。正直、八神君の紹介ってだけで、八割方合格は決まってた。後は最低限の実力を備えてさえいれば良いが、彼女の評判は、ここ数日で耳に入っている。『期待のニュースター』だったかな?」
田中さんは七海さんにそう言って、俺に笑いかけた。このやり方だと、まるで俺が権力を笠に合格させたみたいじゃないか。いやまあ、田中さんが『十分』と言っているのだから、本当に問題無いんだろうけど。
「まあ、気にする事じゃない。合格には変わりないし、彼女の力は、ここに入る分には問題無い」
「「ありがとうございました」」
俺と七海さんがそう頭を下げると、田中さんは「こちらこそ」と言って、神隠しを出て行った。残された俺は、取り敢えず七海さんの方を見る。
「えっと……大丈夫でしたか?」
俺がそう聞くと、七海さんは怒ったような顔で、誰も居ない神隠しに叫んだ。
「悔しいいいいいいいいい!」
どうやら、訳が分からない状態で負けたのが、どうしようも無く悔しいらしい。まあ、彼は白金級の中でも、浩太と並ぶ実力者だ。そして、情け容赦とか油断とかも一切無く、誰が相手でも一瞬で仕留める。恐らく、本気を出した金剛級退魔師と浩太さん以外で、彼に勝てる人間は、少なくとも協会には居ない筈だ。
兎にも角にも、七海さんが特別行動班に入れるのは確定した訳だ。目的は達した。帰ろう。俺は悔しがる七海さんを引っ張って、事務所まで戻った。
事務所では、先生が待っていた。お気に入りの椅子の上で、最近買ったという小説を読んでいる。先生は俺達が帰って来た事に気が付くと、小説から顔を上げた。
「おかえり。その様子だと……実力差を見せつけられたようだね」
「うう……悔しい……」
「まあ、一応合格はしましたよ。今夜は一応、慰めの意味も込めてお祝いです」
そう言えば、事務所まで引っ張って来ておいて何だが、この人俺より一つ上で、しかも自称『お姉ちゃん』なんだよな。これはちょっとおかしいんじゃないか?いや良いんだけどさ。
その後、俺達は夕食を食べながら、七海さんを慰めた。真面に人を慰めた事も無い俺は、精々夕食の皿を一つ増やすしかできなかった。
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