怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#6 存在してはいけない駅

#6ー3 女の闘い?

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 闘技場に爆音が響く。地面を蹴る音、拳を弾く音、爆発音。巨大な衝撃を発しながら、彼女達は戦っている。
 今のこの状況は、正直想定外と言って良い。七海さんは今、白金級中位の実力を持っている。だがあの女性は、七海さんの攻撃を弾きながら、ちょくちょく反撃している。彼女も、白金級下位から中位位の実力を持っている。どうして未だ金級程度なのか分からない。
 彼女は術式を開示していない。教会に頼めば、そういう事もできる。彼女は術式を使ってはいるが、術式が分からない以上、あまり踏み込めない。
 『情報』は直接『力』になる。心理戦という面において、術式の開示をしないのは、とても大きな要因になる。七海さんを抑えていられるのは、その側面が大きい。七海さんにはこの数か月で、退魔師としての戦い方を教えた。そこも考慮しての作戦だろうか。
 七海さんの攻撃を、彼女は自身の手前の空間で受け止め、反撃する。しかし七海さんも、その拳を受け止め、また反撃する。お互い近接主体で、ここまで接戦になるのは稀だろう。
 霊力の流れ方からして、空間制御系の術式だろうか。掌程度の大きさの空間を、霊力を流す事で操っている。範囲をあの程度に抑えた上で、この猛攻を防ぎ切っている。凄まじい技術だ。資料には『金級』と明示されている。いやおかしいだろ。
 七海さんもやり辛そうにしている。攻撃は当たっている筈なのに、効いていない。七海さんの術式は強力だが、使いどころを選ぶ。このまま続いたとして、どうなるだろうか。正直な所、どうしようもない。攻撃が届かない以上勝ちようが無いが、相手も決め手に欠ける。持久戦に持ち込んだ時にどうなるかとなっても、七海さんに関しては未知数な事が多すぎる。少し、楽しみだ。
 先に痺れを切らしたのは、七海さんの方だった。七海さんは型とかガン無視の、全力の拳を繰り出した。彼女は、『それを待っていた』と言わんばかりに、がら空きになった七海さんの胴に、術式を乗せた攻撃を当てる。どうやら、空間を外に押し出す事で、威力を底上げしているらしい。結果、七海さんの体は激しく後ろに吹き飛び、闘技場の壁に激突した。土煙が上がり、七海さんの体を隠す。
 自身の勝利を確信した彼女は、俺の方を見た。だが、七海さんがこれだけで終わる訳が無い。彼女が余所見をしたタイミングに合わせて、七海さんは地面を蹴って、一気に彼女に近付いた。
 彼女はそれに反応できていたが、防御が間に合わなかった。七海さんの拳は見事に彼女の体に当たり、彼女はそこで気絶した。
「決着……かな」
「そうですね。そこまで!」
 俺は七海さんの殴られた彼女に近付き、安否を確認する。受け身を取ろうとはしていたが、上手くはできていなかった。七海さんはオオクニヌシとしての力は残したままだ。彼女は無事だろうか。先生の教えと七海さんの技術を信じるか。うん。無事だ。
「八神くん、その人は無事かい?」
「はい。でも一応、医務室に連れて行きますね」
「あれ?私やっちゃった?」
 俺は彼女を背負って医務室まで連れて行った。にしても、これでまだ金級か。最近の奴等は厳しいな。今度推薦状でも書いてやろうか。面倒までは見切れないが、白金級への推薦状を書くだけなら簡単だ。
 俺は彼女を医務室に送り届けてから、先生達の所へ戻った。どうやら、七海さんは不安なようだ。
「大丈夫?私やってない?上手い事気絶させられたよね?」
「大丈夫。彼女の体が吹き飛んでないのが良い証拠だ。八神くんももうじき戻る。そしたら聞こう」
 俺は二人に近付いて、「戻りましたよ」と言った。二人はパッとこっちを向いた。
「彼女、大丈夫だったかい?」
「はい。医療班の診断でも、大した事は無いとの事です」
「良かった~!」
 七海さんは泣き笑いの状態で喜んだ。まあ、そりゃあんな不安がってたら当たり前か。用も済んだ俺達には、ここに長居する理由もないので、さっさと帰る事にした。

 その日の夕飯は、若干豪華にした。
「おお。いつもよりも一品多い」
「八神君、ありがとう!」
「どういたしまして。試験お疲れ様って事でね。さあ、冷めない内にどうぞ」
 試験があの結果となれば、合格で必然。それも含めての祝いだ。コレを食べて、次は特別行動班加入試験に挑んでもらおう。
 これは言うまでも無い事だろうが、別にあの試験は、『相手に勝て』という事ではない。『自身の戦闘能力を示せ』という物だ。そもそも、金級自体がそこそこ上位陣だ。ルーキーが勝てる方がおかしいのだ。無論、勝てばほぼ合格は確定だし、心配は要らない。
 ああでも一応、一回は怪異退治に行ってもらおう。義明君辺りに引率してもらえれば安心かな。早速頼んでみるか。
「すみません。ちょっと思い付いた事あるんで、席外しますね」
「分かった。ごゆっくり」
「何かあったのかな?」
 俺は少し外に出て、電話を掛けた。義明君は思ったよりも、早く電話に出てくれた。
「あ、義明君?八神だよ。今良いかい?」
『師匠!頼み事って何です?』
「実はかくかくしかじか……」
 俺はここまでの経緯を、義明君に説明した。
「……てな訳なんだ。お願いできるかな?」
『事情は分かりました。それ位の実力で肩慣らしなら、金級か黄金級で良いですか?』
「それで十分。じゃ、頼んだよ」
『分かりました。明日の昼頃、迎えに上がります』
 そこで電話は切れた。まあ、白金級となれば、そこそこ忙しいだろうな。それでも了承してくれるとは、中々良い弟子を持った物だ。頼りがいがある。
 俺は事務所に戻り、再び食卓についた。二人は少し待っててくれたようで、『早く来い』と言わんばかりに手招きしている。
「遅いよ八神君!」
「二人だけで食べててもらって結構でしたのに」
「食卓は皆で囲む物だよ八神くん。少しでも食べな」
 俺は二人に促されるまま、机に座った。少しだけ、料理を食べた。皆で囲む食卓の飯は、少し美味しく感じた。

 それから、少し忙しい毎日が始まった。
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