怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#5 過去との対峙

#5ー25 『帰ろう』

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「うわ~ん!八神く~ん!無事で良かったよ~!」
「お姉ちゃん。苦しいです」
「八神くんが苦しそうにしてるだろ?一回離れな」
 翌日。俺は病室に来た七海さんに、思い切り抱き着かれていた。どうやらあの晩、俺が何も言わずに屋敷に行った事に、腹を立てているらしい。にしても鼻水が付くからやめてくれ。
 先生が俺から引き剥がした後も、少しの間は泣いていた。泣き止むと、俺に文句を垂れて来た。
「あのさあ!まだ私はそこまで親密な関係になれてないのかも知れないけどさあ!これから危ない事やるって時に、仮にも『お姉ちゃん』であるこの私に何も言わないなんて、ちょっとおかしいとおもうなーお姉ちゃんは!」
「はい。それに関しては、すみませんでした」
 まさかこんなに『お姉ちゃん』を擦られるこは思っていなかった。おい先生。その目を止めろ。七海さんが俺の姉でも元カノでもない事は、もう示しただろうが。一回こう呼んで、七海さんがそれをごり押しているだけなんだ。俺悪くない。
 まあ、言っている事は間違っていない。正直、先生と七海さんには、何かしら言うべきだったと考えたし、そこは俺が悪かった。
「まあ、無事で良かったのは確かだ。事後処理は私がやっておいたし、医療班の許可が下り次第帰ろう」
 おお。体感久し振りの我が家だ。たった数日程度だったが、それでも我が家というのは恋しくなる物だ。ホームシックだな。
 俺は医療班の人に診てもらい、帰宅の許可を貰いに行った。一週間は霊力の回復が阻害されるだろうが、次第に回復するとの事。人の手を借りなければならない生活になるだろうが、我慢しろとも言われた。うん。俺の自業自得だし、我慢しよう。
 そう言われた俺は早速、先生達と一緒に、帰りの電車に乗る為に、駅に向かった。途中で息が切れて、先生よりも俺に身長が近い、七海さんの肩を貸りて事になった時は、そこそこ恥ずかしかった。うん。もうあの薬は使わん。
 疲労もあったのだろう。俺は電車の中で、かなり長い事寝てしまった。新幹線の中でも寝た俺は、東京に着く頃には、少しスッキリしていた。
「八神君、もう肩貸さなくても大丈夫そう?」
「一旦は。でもどうせ、またお願いする事になるでしょうね」
「どうする八神くん。先ず本部に行くか、一旦事務所に戻るかの二択だぞ」
「先ず本部に行きましょう。お姉ちゃんへの今後の対応が気になりますし」
 そう俺が言うと、先生はどこかに電話した。暫く待つと、いかにも高級そうな車が迎えに来た。先生はその車に乗り込むと、俺達に「何してる。早く乗れ」と言った。そういえば良い所のお嬢様だったなこの人。
 その後、本部に着いた俺達は、会長室に向かった。事前に説明だけはしていたが、それでも少し不安らしく、七海さんはしきりに辺りを見回していた。
「落ち着いてくださいお姉ちゃん。やましい事も無いんですから」
「いやでもだってさあ……」
「大丈夫だぞ七海。会長は、自分に敵対する者以外には、只の素朴な老人だ」
 それでも、七海さんは「大丈夫かなあ……」と言っている。まあ俺も、最初に岩戸家に行った時は落ち着かなかった。最初はこんなものだろう。
 そうこうしている内に、俺達は会長室に辿り着いた。思い扉を開けると、会長が待っていた。いつ来ても、俺達が来る事が分かっていたような顔をしている。
「やあ会長。今日は聞きたい事があってな……」
「ああ。そこのお嬢さんの事じゃろう?何があったかは、多少耳に入っているでの」
 そう言うと、会長は椅子から立ち上がり、どこからともなくホワイトボードを持って来た。
「彼女への対応についてじゃが、この教会のルールと、彼女の状態、そして何より、彼女の自認を踏まえた上で話し合いたい。先ずルール。この教会は、神秘の研究及び、対処を目的としておる。彼女の状態は、半分怪異、半分人間という、何とも言い難い状態にある。ここまでは間違い無いかの?」
 会長は、そう七海さんに問いかける。七海さんは、「はい」と言って頷いた。それを見た会長は、話を次に進めた。
「そして、彼女を人間と定義するか、怪異と定義するかじゃが、儂は怪異に近いと考えておる」
 俺は驚き、会長の方を見た。会長は「八神君、そんな怖い顔をしないでおくれ」と言った。どうやら、睨み付けてしまったらしい。
「こう考えるのにも理由があるのじゃ。彼女には霊力があり、その体には、複数の怪異や妖怪が埋め込まれておる。怪異と呼ぶには歪じゃが、人間とは呼べない状態にもある」
 否定できない。実際、俺達退魔師達も、ただの人間とは呼べない状態にある。霊力や魔力は、どちらかと言えば人外寄りの力であり、これをより繊細に扱える者は、霊力、魔力を持たない人間よりも、より『人』から遠ざかっている者と言えるらしい。協会に所属している神秘学者の中では、そこそこ広まっている考え方だ。
 しかし、問題はそこではない。この話で重要なのは、『教会に有益か、害があるか』だ。もし協会に『怪異、妖怪は皆殺し』みたいなルールがあるなら別だが、そんなルールは無い。同時に、『一般人に害成す退魔師、魔術師は殺しても良い』みたいなルールはある。これは、協会の対応は、人間か否かに左右されない事を示している。
 この良い例として、協会は多数の怪異を、式神として飼っており、有事の際には、これらを使って対処するらしい。妖怪の教会員も居り、彼等に対する対応は、人間のソレと変わらない。この二つの例に共通して言える事は、『教会に有益である』という事だ。もしそれを示せれば、処分される事も無い筈。
 会長は、再度七海さんに語り掛ける。

「最後に、七海さん……という名前だったかの?お主、自身を何と考えておる?」
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