怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#4 浮気調査

#4ー5 四日目

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 四日目。折り返し地点だ。

 昨日はよく寝れたからか、いつもより寝起きが苦しくなかった。
 俺は歯磨きをしてから、事務所のソファで寝る先生を起こし、着替え、樹さんの尾行に出た。因みに、先生は昨日遅くまで起きていたようで、終始眠そうにしていた。
 この日も、彼の出勤はパターン化された、イレギュラーの無い物だった。俺達は彼を追いかけ、会社まで見送った。
「う……ん……やはりまだ眠い」
「昨日疲れさせた俺も悪いですから強くは言えませんけど、翌日の仕事は分かってたのに夜更かしするのは良くないですよ」
 「君は私の保護者か……」と文句を言う先生に、「世話係です」と返してやった。先生は嫌そうな顔をしていたが、自分の親が雇った人間なので、否定はして来なかった。
 しかし、浮気じゃない、環境の変化も無い。それなのにあんな変化。奥さんも心当たりは無いらしい。こうなってしまってはどうしようも無い。
 それはそうと、昨日に引き続き聞き込みはする。まだ何か、見落としている事は無いだろうか。彼の変化の原因となり得る物は。
 しかし、案の定その日も『知らない』『分からない』としか言われなかった。どうしろってんだ。
 一先ず、一周間の折り返し地点でもある訳だから、今日までで手に入れた情報を整理しよう。俺達は近くのカフェで、休憩がてら情報の整理の時間を設けた。
 先ず、彼が変化した点だ。第一に、奥さんが言っていたように、帰りが遅くなっている。これは、連日の残業に依る物で、会社で何らかのトラブルが発生した可能性があるが、詳細は不明。
 次に、帰りに寄り道をするようになった。繁華街で、何かを探しているようにも見えたが、何を探しているのかは不明。バーに行くようにもなり、これは連日の残業に依って、疲労が溜まったのが原因らしい。
 どれも、元は残業に依る物だが、急に残業しだした理由が分からない。『金に困っている』とは言っていたが、奥さんとの会話では、その原因は見つからなかった。愛妻家の彼が、わざわざ妻の怜子さんと会う時間を削ってまで残業するとなると、相当重い理由がありそうな物だが。
「そういえばだが八神くん。繁華街で彼が見ていた店は、どれも装飾品や服、本や映画に骨董品。どれも趣味や癖で収集しようとする物ばかりだ。彼に収集癖は無いらしいが、もしかしたら怜子さんに秘密で、何か集めているのかも知れないぞ」
 それを聞いた俺は、一瞬固まった。あのたった数分で、そんな傾向を見つけるとは凄いな。やはり、名池で磨かれた洞察力というヤツだろうか。
 しかし、物品の収集となると、そこそこのスペースが必要になる。先生の骨董品も、事務所内の至る所に置いてある程だ。まだ日は浅いとは言え、収集した物を、そう簡単に仕舞える物だろうか。
 暫く考え込んだ俺は、一つ思い出した事があった。
「まさか、『神域』に仕舞ったのか?」
 『神隠し』。それは、怪異や霊的存在、又はそれらに干渉できる物が使う、結界のような物だ。本来、これは簡易的な物で、特定の物や人しか出し入れができない。しかし、神や、神格を持った者の神隠しは、『神域』となり、容量や空間が無限となり、尚且つ空間も好きに改装できるらしい。彼は神格を持っているので、可能性はある。
 俺は早速、奥さんに連絡を取った。
「すみません。一つ伺いたい事がありまして……」
『樹様の事ですか?何かあったのでしょうか?』
 かかって来た相手や、この状況なら仕方が無いが、すっと樹さんの名前が出て来る辺り凄いと思う。
「いえ、樹さんの神域とか、把握していれば教えてください」
『へっ!?神域ですか!?それは~その~』
 何か言い淀んでいる。そんな反応をされたら、少し気になってしまうじゃないか。
「どうしたんですか?」
『えっと……何て言うか……その……』
 ううんじれったいな。こちらも一応仕事なので、知るだけ知っておきたいんだがな。
「何です?一応、伺いたいと思っただけなんですが」
『あっはい。あの……樹様の神域は……』

『私達の……愛の巣に……』

「あっはい。そんなセンシティブな事聞いて申し訳ありませんでした。また後日連絡させて頂きます」
 そう言って、俺は電話を切った。沈黙。気まずい。
 いやだってまさか神域を愛の巣にしてると思わないじゃないか。兎に角先生はその何か酷い物を見るような目を止めてくれ。俺だって心が痛むんだ。追い打ちだけは止めてくれ。
 しかし、ならば本当に何で繁華街に?収集でなければ、何が目的だと言うのか。まるで思いつかない。
 俺達はそのまま、彼が退社するまで、ひたすら頭を悩ませていた。

 もう日は暮れ、空が黒一色に染まった頃、彼はようやく会社を後にした。
 その後、彼は繁華街に行く電車に乗り、俺達もそれについて行った。
「ふむ……今日も店には入らず、ただ見るだけ……一体彼は何をしたいんだ?」
 今日もあのバーで酒を飲んで、少し駄弁ってから帰るのだろう。そう思っていた俺達は彼が取った行動に、自らの目を疑った。
 彼は、骨董品屋の前で足を止め、少し考えるような素振りをしてから、店の中に入って行った。俺達も少し時間を置いてから、後に続く。 
 店の中には、壺や置物、絵画があった。どれも素晴らしい作品で、思わず感嘆の声が漏れる。横では、先生が「こんな穴場があったとは……」と呟いている。かなりの目利きの先生が言うのだ。どれも相当の代物なのだろう。
 しかし、彼は何故この店に入ったのだろう。収集が目的でないなら、見るだけ?いや、これから収集を始めるのかも知れない。
 彼は、一つの箱を手に取ると、それをレジに持って行った。何を買ったんだ?ここからだと、彼の背中で見えない。
 彼がこの店を出る前に、俺達は店を出て、彼を待ち伏せる事にした。先生は、「せめて一つだけ買わせてくれ」と言っていたが、仕事中なので我慢してもらおう。
 その後は、珍しくあのバーに行く事も無く、家に帰って行った。結局浮気ではなかったので、まあ一安心。

 事務所に帰った俺達は、彼の行動に疑問を浮かべていた。
「分かる事は少ないが、今日一つ分かった事がある。彼の残業は、あの品を買う為だったのだろう。ああいうのはバカにならない値がするのだ」
「それが分かってるなら、もう少し自重してくださいよ」
 先生は、「趣味だから良いだろう?」と文句を言っているが、せめて自分の財布から出してくれ。
 まあ、明日からはどうなるかだな。因みに、先生は「もう君一人で良いだろ?」と言っているので、明日は行かないつもりらしい。金曜日で最終日なのに、サボりとはどういう了見だ。
 まあ、浮気の可能性は潰れて、残業の原因も分かった。俺一人でも何とかなるだろう。
 その日も、俺達はいつも通りの生活をして、眠りについた。

 この日は、いつも通りの悪夢を見た。
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