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#4 浮気調査
#4ー3 二日目
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二日目。俺達は、やはり今日も遅く会社を出て来た樹さんを見張っていた。
「やっぱり今日も遅く帰るのか」
「しかし、昨日よりも三十分早いです。この後、何かの予定があるのでは?」
その後、彼の後を追い、彼の自宅とは逆方向に進む電車に乗り込んだ。
しかしここでアクシデント発生。帰宅ラッシュと電車の運行時間が重なり、俺達は彼を見失った。先生は、より背の高い俺を頼ったが、この人込みに揉まれ、周囲を見渡す余裕も無い。
「八神くん!彼はどこだ!?」
「見当たりません!見失いました!」
勿論、これは怜子さんからの情報には無い行動で、目的だけでなく、降りる駅も分からない。
彼は妖怪。霊力を扱える為、俺の術式で探せない事も無いが、この人込みでは見られてしまう。神秘を扱う人間以外に、多くの神秘を見せてはならない。俺達にとっての、『依頼人』は例外だが、協会にはそんなルールがある。
どん詰まり。俺は一旦、人の目に当たらない場所に移動し、術式で彼の居場所を探る事にした。彼との距離は開くだろうが、このまま諦めるより百倍マシだろう。
俺の術式は、霊力を読み取る事で、様々な事ができる。霊的存在の収納もその一つだ。俺は、この力を使って、霊力を辿る事もできる。全く万能な術式で助かるよ。
どうやら彼は、三つ程進んだ駅で降りたらしい。今は、繁華街に向かって進んでいるようだ。
その事を話すと、先生は「はあ!?」と、素っ頓狂な声を上げた。
「繁華街!?どうしてそんな!」
「浮気じゃないとは思いますが、少し雲行きが怪しくなってきましたよ」
兎に角、彼に追い付かない事には話にならない。俺達は、次に来た電車に乗って、彼を追う事にした。やっぱ狭っ苦しい。早く着いてくれと祈るばかりだ。
それから少し経ち、俺達は樹さんが降りた駅に着いた。精々十分程度の筈だが、倍以上の時間が過ぎたように感じる。先生が心配してくれた。
取り敢えず、俺の術式ではこれ以上詳しい位置情報は掴めない。後は勘と運に任せよう。
それから夜の繁華街を探し回る事さらにニ十分。ようやく樹さんの姿を見つけた時には、空は真っ黒に染まっていた。
「八神くん!見つけたぞ!」
「先生、気付かれるから静かに。しかし、本当に何をする為に夜の繁華街に来たんだ?」
彼はずんずん先に進んで行く。しかし周りの店を見ていない訳ではなく、むしろ何が、どういう物が売っているのかを、一軒一軒確認するように見ている。それをしながらあの速さは、普通に凄い。
そして、彼は一つの店で足を止める。バーである。そう、酒を飲み、何の関わりも無い他人と語らう感じの、あのバーである。あの『あちらの旦那に』的なバーである。
いや何故?やはりパワハラか?仕事のストレスか?嫌な事は酒を飲んで忘れてしまおうという事か?やはり大人には、子供にとっての大人のように、何かあったら告発できるような物が必要なのかもしれない。
しかし、ここで入っては流石に怪しまれる。何せタイミングが良すぎる。せめてもう少し間を開けて……
「よし、行くぞ八神くん」
「待て待て待て。何故そうなる」
先生は、俺の忠告も無視し、バーの中に入って行こうとする。そっちがその気ならこっちも強硬策。俺は先生の腕を掴んで、一旦止めた。
「何だ八神くん。もしあの中で何かしているとしたらどうする?浮気じゃないにしても、今まで行かなかった所に行くとは、結構な心境の変化があったんじゃないだろうか」
「それはそうですけど、俺達下戸なのに、入ってどうするんですか」
先生は「しまった」と言わんばかりに口を小さく開けた。そう、俺達は酒が飲めない。俺は弱い上、香りと言うか味と言うか、何か苦手で、先生は「成人はしているが、私は苦手だ」と言っていた。バーに来て、酒を飲まないというのは、結構キツイ状態じゃなかろうか。
先生もこれには反論できなかったようで、俺達は彼が店を出るまで、待機する事になった。
十数分が経った頃、彼は店を出て来た。しかし、その後はどこかに寄る事も無く、家に帰った。
事務所に帰った俺達は、風呂に入り、夕食を済ませると、早速頭を抱えた。
「何をしてたんだ彼は!奥さんから提出された行動パターンに、あんな事は書いて無かった!やはり職場の変化というヤツか!?」
「落ち着いて下さい先生。ここで叫んでも変わりません。今必要なのは、今日起こった事の整理と、分析です」
そう、何も変わらない。しかし、先生がああなるのも頷けてしまうのが恐ろしい。残業をせず、定時になると、妻が待つ自宅に帰るという、素晴らしい愛妻家が、突如として残業を始め、何なら帰る前に寄り道もするようになったとは、とんでもない変化だ。心境の変化の根底には、環境の変化が潜んでいる。明日は、彼というよりも、会社に焦点を当てた方が良さそうだ。
今日起こった事をパソコンに打ち込んでいる内に、先生が寝てしまったので、俺は一旦パソコンをスリープ状態にさせ、先生を部屋に運んだ。いつもの事だが、この軽い体のどこにあの量の料理が入るのだろう。
先生に毛布をかけてやった後、俺は作業を再開した。もう少し、起きている事になりそうだ。
二日目の収穫は、無し。
「やっぱり今日も遅く帰るのか」
「しかし、昨日よりも三十分早いです。この後、何かの予定があるのでは?」
その後、彼の後を追い、彼の自宅とは逆方向に進む電車に乗り込んだ。
しかしここでアクシデント発生。帰宅ラッシュと電車の運行時間が重なり、俺達は彼を見失った。先生は、より背の高い俺を頼ったが、この人込みに揉まれ、周囲を見渡す余裕も無い。
「八神くん!彼はどこだ!?」
「見当たりません!見失いました!」
勿論、これは怜子さんからの情報には無い行動で、目的だけでなく、降りる駅も分からない。
彼は妖怪。霊力を扱える為、俺の術式で探せない事も無いが、この人込みでは見られてしまう。神秘を扱う人間以外に、多くの神秘を見せてはならない。俺達にとっての、『依頼人』は例外だが、協会にはそんなルールがある。
どん詰まり。俺は一旦、人の目に当たらない場所に移動し、術式で彼の居場所を探る事にした。彼との距離は開くだろうが、このまま諦めるより百倍マシだろう。
俺の術式は、霊力を読み取る事で、様々な事ができる。霊的存在の収納もその一つだ。俺は、この力を使って、霊力を辿る事もできる。全く万能な術式で助かるよ。
どうやら彼は、三つ程進んだ駅で降りたらしい。今は、繁華街に向かって進んでいるようだ。
その事を話すと、先生は「はあ!?」と、素っ頓狂な声を上げた。
「繁華街!?どうしてそんな!」
「浮気じゃないとは思いますが、少し雲行きが怪しくなってきましたよ」
兎に角、彼に追い付かない事には話にならない。俺達は、次に来た電車に乗って、彼を追う事にした。やっぱ狭っ苦しい。早く着いてくれと祈るばかりだ。
それから少し経ち、俺達は樹さんが降りた駅に着いた。精々十分程度の筈だが、倍以上の時間が過ぎたように感じる。先生が心配してくれた。
取り敢えず、俺の術式ではこれ以上詳しい位置情報は掴めない。後は勘と運に任せよう。
それから夜の繁華街を探し回る事さらにニ十分。ようやく樹さんの姿を見つけた時には、空は真っ黒に染まっていた。
「八神くん!見つけたぞ!」
「先生、気付かれるから静かに。しかし、本当に何をする為に夜の繁華街に来たんだ?」
彼はずんずん先に進んで行く。しかし周りの店を見ていない訳ではなく、むしろ何が、どういう物が売っているのかを、一軒一軒確認するように見ている。それをしながらあの速さは、普通に凄い。
そして、彼は一つの店で足を止める。バーである。そう、酒を飲み、何の関わりも無い他人と語らう感じの、あのバーである。あの『あちらの旦那に』的なバーである。
いや何故?やはりパワハラか?仕事のストレスか?嫌な事は酒を飲んで忘れてしまおうという事か?やはり大人には、子供にとっての大人のように、何かあったら告発できるような物が必要なのかもしれない。
しかし、ここで入っては流石に怪しまれる。何せタイミングが良すぎる。せめてもう少し間を開けて……
「よし、行くぞ八神くん」
「待て待て待て。何故そうなる」
先生は、俺の忠告も無視し、バーの中に入って行こうとする。そっちがその気ならこっちも強硬策。俺は先生の腕を掴んで、一旦止めた。
「何だ八神くん。もしあの中で何かしているとしたらどうする?浮気じゃないにしても、今まで行かなかった所に行くとは、結構な心境の変化があったんじゃないだろうか」
「それはそうですけど、俺達下戸なのに、入ってどうするんですか」
先生は「しまった」と言わんばかりに口を小さく開けた。そう、俺達は酒が飲めない。俺は弱い上、香りと言うか味と言うか、何か苦手で、先生は「成人はしているが、私は苦手だ」と言っていた。バーに来て、酒を飲まないというのは、結構キツイ状態じゃなかろうか。
先生もこれには反論できなかったようで、俺達は彼が店を出るまで、待機する事になった。
十数分が経った頃、彼は店を出て来た。しかし、その後はどこかに寄る事も無く、家に帰った。
事務所に帰った俺達は、風呂に入り、夕食を済ませると、早速頭を抱えた。
「何をしてたんだ彼は!奥さんから提出された行動パターンに、あんな事は書いて無かった!やはり職場の変化というヤツか!?」
「落ち着いて下さい先生。ここで叫んでも変わりません。今必要なのは、今日起こった事の整理と、分析です」
そう、何も変わらない。しかし、先生がああなるのも頷けてしまうのが恐ろしい。残業をせず、定時になると、妻が待つ自宅に帰るという、素晴らしい愛妻家が、突如として残業を始め、何なら帰る前に寄り道もするようになったとは、とんでもない変化だ。心境の変化の根底には、環境の変化が潜んでいる。明日は、彼というよりも、会社に焦点を当てた方が良さそうだ。
今日起こった事をパソコンに打ち込んでいる内に、先生が寝てしまったので、俺は一旦パソコンをスリープ状態にさせ、先生を部屋に運んだ。いつもの事だが、この軽い体のどこにあの量の料理が入るのだろう。
先生に毛布をかけてやった後、俺は作業を再開した。もう少し、起きている事になりそうだ。
二日目の収穫は、無し。
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