怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

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#3 指名依頼

箸休め 王の過去

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「出来損ない!こんなこともできんのか!」
「すみません……」
「チッこの家の血筋じゃなければ……」
 こんなことは日常茶飯事。僕がヘマをして、叩かれる。「出来損ない」、「出涸らし」なんて言われるのは、もう飽きた。
 僕は渡辺義明。この家の長男だが、その事は誰も知らない。
 僕は、修一と修二と、同じ日に生まれた。僕は本家の血筋で、次の跡継ぎになるのだと言われて育った。
 だけど僕には才能が無かった。先天的な霊力量が少なかったんだ。
 そんな僕に、当時の当主は見切りをつけ、分家の修一と修二を、養子として迎え入れた。
 母はいつも泣いていた。僕がいつも虐められているのが、どうしようもなく悲しかったらしい。
 救いがあったとすれば、彼等が良い奴だった事だろうか。彼等は、こんな僕にも優しかった。いつも『よっちゃん』と呼んでくれる。
 だけど、僕はそれが辛かった。二人と僕の間には隙間があって、それがどうしても埋まらない。人は橋が無い崖を渡れないように、才能が無い僕は、彼等に近づけない。
 ある日、二人と遊んでいると、大人達の声が聞こえた。
「全く……ご当主は何をお考えなのか……あんな穀潰しを未だ放し飼いとは……」
「あのままでは、二人にも悪影響だ。どうにかできない物か……」
 こんな会話は、もう聞き飽きた。僕は耳が良かった。離れた場所の会話でも、聞き取れた。そして、理解できた。いや、できてしまった。
 理解したその言葉は、幼子には耐え難い物だったからだ。自分が居る意味は無い。自分は邪魔者でしかない。存在を否定するかのような言葉は、子供の自信を削いでいく。 

 ある日、二人と遊べなくなった。大人は、「お前には関係の無い話だ」と言っていたが、彼等の話は聞こえていた。どうやら協会に入ったらしい。
 神秘研究協会。退魔師、呪術師の総本山。この協会で功績を残すということは、自身の力を示す事。大人達は、この家の地位を、より確かな物にする為に、二人をそこに入れたらしい。
 僕はチャンスだと思った。自身の力を示す。そうすれば、誰も僕を 虐めない。誰も僕を否定しない。その先にきっと、僕の望む『何か』がある筈だ。
 少しの不安と、多くの期待を胸に、僕は協会の扉を開いた。
 協会に入るのは簡単だった。少しの体力測定と、現役の人達との模擬戦で、入る事ができた。

 帰ると、大人達が怒鳴って来た。
「おい!どこをほっつき歩いていた!」
「お前はご当主様に生かされているんだ!その事を忘れるな!」
 いつもなら謝るだけだったが、今日は気分が良かった。僕はそのまま素通りし、部屋に戻った。

 翌日、僕は早速依頼に挑戦する事にした。といっても、銅級の依頼は基本グループで行われるので、あまり大事にはならないだろう。
 内容は、『異界駅の調査』。先日確認された異界駅で一日過ごし、そこであった事を報告するという物だ。異界駅は有名な都市伝説で、強力な怪異が発生する前に制圧するのが目的だ。
 集まったメンバーの中には、僕と同じ位の歳の若者も居たので、少しの安心感があった。
 『転移』のお札によって目的地に着いた僕らは、先ず拠点の設営に取り掛かった。この中で最も強い鉄級の退魔師をリーダーとし、彼を中心に調査は行われる。
「ようしお前ら!先ずは拠点だ!道具はそこにあるから、テントを建てろ!」
 そう言われた僕らの中には、「え~マジダルイんすけど~」とか、「もうそこら辺散歩行かね?」と言ってサボる人も居たが、僕は真面目に作業に取り掛かった。
 テントが全て建てられた頃、次の作業に移った。
「お前ら集まれ!次は探索を始める!四人一組になって行動しろ!」
 探索とは、調査系の依頼に必ず含まれる物で、周辺に人が居るか、または人が居た形跡があるかを調べる為に行われる。途中で怪異に遭遇する事もあり得るが、そうなったら至急拠点に戻るのがセオリーだ。
 一先ず、同じ班になった僕らは、自己紹介をする事にした。
「じゃあ、先ず自己紹介ね。私は高橋深雪たかはしみゆき。よろしくね」
「次は俺な。俺は石田昭いしだあきら。短い付き合いになるかもだけど、よろしく」
「ワタクシは花園美咲はなさきみさき!覚えておきなさい!」
 はい、嫌な人が一人と。グループで行動する以上、協調性は大事だと思うんだけども。
「僕は渡辺義明。よろしく」
 自己紹介を済ませた僕らは、駅を離れた。

 暫くは何も無かった。本当に田んぼしか無くて、民家は勿論、人影の一つも見えない。後ろでは我儘お嬢様が「退屈ですわ!」と叫んでいる。こういう光景も良いと思うがなあ。
 そんな時、僕は周囲の光景に違和感を覚えた。
「ねえ……皆」
「「「何(ですの)?」」」
「僕達……ここをずっとグルグル回ってるんじゃない?」
 皆は、はっとした表情で周囲を見渡した。この道路のコンクリート、ヒビが入っている。それ自体は珍しくはないが、問題は、この形のヒビは、さっきも見たという事。もしそうだとしたら、既に僕らは、怪異の術中にあるのかも知れない。
 僕らは、一旦拠点に戻る事にした。しかし、やはりここは神隠しの中。来た道を走っただけでは出られない。僕らは、仕方無く『帰還』の札を使って、協会本部に戻る事にした。

 その後、お偉いさんにこっぴどく叱られた僕らは、反省文の提出を義務付けられた。いや小学校の罰か。
 とは言え、『閉じ込める神隠し』を使える怪異が居るという事で、銀級三人が派遣された。ここは僕らが帰ったお陰かもしれないが、一緒に行った彼等は大丈夫なんだろうか。

 屋敷に帰った僕は、いきなり飛んできた拳に驚いた。
「お前!なんで勝手に協会に入った!」
「お陰で俺らまで罰食らったわ!「なんでアレを放っておいた」ってなあ!」
 そんな勝手な。僕を『不要』と言っておいて、いざ外出すれば『外に出るな』?僕にも多少の自由はあって良いと思う。
 そんな文句を言う暇も無く、彼等は僕を滅多打ちにした。この時、僕は案外落ち着いていた。この家から出るにはどうすれば良いか。それだけを考えた。
 翌日、異界駅の調査に行った彼等は怪異に殺され、銀級退魔師も二人しか帰って来なかったと聞いた時も、僕は考えていた。

 結論は出た。試験官を買収し、階級を上げれば、彼等も僕を無下に扱えなくなるのではないだろうか。
 そう思った僕は、鎧を着た。派手な服を着て、装飾品を身に着け、『自分は金に余裕があるのだ』と威張った。八百長が仕組まれた試験で、僕はドンドン黄金級までのし上がった。だけど、胸の内側は空っぽのままで、彼等も僕に暴力を振るい続けた。何かが足りない。いや、何も足りてない。僕は、金に物を言わせここまで来ただけの偽物だ。自分の力で成し遂げた事など、只の一度も無い。
 それでも、今更止められなかった。今止めれば、僕は皆の笑い者で、一生をあの家で、奴隷として使われる。
 僕は、白金級昇格試験に挑んだ。そこで、僕は八神さんに出会った。彼は、僕を強くしてくれた。彼は、僕に自信をくれた。彼が居たから、今の僕は堂々としていられる。

 彼は、初めて僕を肯定してくれた。

 だから、彼が困っている時は、僕が助けるんだ。

 例え、世界が敵に回っても。

 僕は、今日も王を演じてる。
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