怪しい二人 夢見る文豪と文学少女

暇神

文字の大きさ
上 下
25 / 169
#3 指名依頼

#3ー6 渡辺家

しおりを挟む
 彼の母親から渡された住所に向かうと、そこにはデカい屋敷があった。
 いや、デカい。先生の実家よりも少しデカい。
 驚いていると、正面の門から彼と彼の母親が出て来た。
「ようこそいらっしゃいました。改めて自己紹介を。私の名前は渡辺涼子わたなべりょうこ。こちらが私の息子の渡辺義明わたなべよしあき。生まれをお話しなかった無礼をお許しください」
 驚いた。まさか渡辺家の人間だったとは。ならば、渡辺兄弟の親戚か。聞いてみた所、従兄弟とのことだった。
 そして、彼等に案内されるまま、俺達は屋敷の奥に進んでいく。広い。それに魔除けの結界も感じる。やはり平安の世から続く、退魔の一族。呪術の対策が半端じゃない。
「にしても、渡辺家の人間とは驚いた」
「本当ですね。まさかお叱りでも……」
 少し不安な俺に、先生は「立場は五分五分。それは無いだろう」と言った。そうだと良いんだがな……
 暫く歩いて行くと、突き当りの部屋に辿り着いた。看板には『食堂』と書かれている。やはりタダ飯!こんなに嬉しい事は無い!
 その部屋には、既に渡辺家現当主、渡辺颯太郎わたなべそうたろうと、渡辺兄弟の渡辺修一わたなべしゅういちと、渡辺修二わたなべしゅうじが居た。
「お客さんって八神さんと咲良さんだったんだ」
「それによしちゃんも居る」
 どうやら彼等と義明君は仲が良いらしい。ならば、問題があるとすれば颯太郎さんか。優しそうな顔をしてるが、油断はしない方が良いだろう。
 そして、食事会が始まった。出て来る料理は、どれも洗練された味で、見た目も良かった。まるでどこぞの高級旅館の夕食のようだ。
 しかし、以前の岩戸家のような気分ではなかった。颯太郎さんの話が、聞いてて気分が悪い物だったからだ。
「いやしかし、出来損ないの義明が、ここまで強くなるとは……一体どんな手を使ったんですか?」
「基本的な事をおさらいして、弱点を補っただけですよ」
 どんな言葉にも、『出来損ない』『修一達の出涸らし』等、義明君を貶す言葉を使う。これでは、彼が傷つくのも無理は無い。ここまでの事を長い事言われ続ければ、自己肯定感が低くなる事だろう。
 食事が終わった頃、颯太郎さんは俺達に話かけて来た。
「お二人共、どうか今後も我々と、良い関係を築いて行きましょう。それが、我々にとっての最善の道の筈」
「はあ……まあ、よろしくお願いします」
 やはり胸糞悪い。要するに、何かあれば我らの味方をしろだろう?全く人の教え子を貶しておいて図々しい。
 俺達は、一応挨拶だけして、事務所に戻った。

「何なんだあいつ!身内とは言え、前途ある若者にあんな言葉!」
「あの家が求めてたのは、努力でなる秀才じゃかった。笑いながら高みへ登る、天才だっただけでしょう」
 先生は、颯太郎さんの態度に、相当腹を立てたらしく、事務所に戻っても文句を垂れている。タダ飯にありつけたのは嬉しいが、気分は悪い。
「それに、彼は自分の力で白金級まで行ったのに、彼を未だ『出来損ない』と罵るとは!」
「一度否定しておいて手のひら返しなんて、彼等の無駄なプライドが許さないんでしょう。無駄なプライドなんて、障害でしかないのに……」
 先生を宥めながら、俺は風呂の支度をする。もう九時だ。風呂に入れば、ある程度の嫌な事は忘れられる。さっさと入ってもらおう。それで明日からまた元通りだ。

 その後は、特に何か起こる訳でもなく、一日が終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
 関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。  響紀は女の手にかかり、命を落とす。  さらに奈央も狙われて…… イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様 ※無断転載等不可

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

戦国姫 (せんごくき)

メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈ 不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。 虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。 鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。 虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。 旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。 天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...