怪しい二人

暇神

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#2 金剛級昇格試験

#2ー1 コックリさん

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 この町には、都市伝説が有る。

 どんな質問にも答えてくれる、『コックリさん』が居るというのだ。

 コックリさんは、どんな質問にも答えてくれるが、もし失礼な事をしたら……

 あの世に連れて行かれて、この世から消えてしまうらしい。

 此処は、岩戸探偵事務所いわとたんていじむしょ。この辺りでは、結構有名な探偵事務所である。
 と言っても、依頼は殆ど来ない。
 俺は、八神蒼佑やがみそうすけ、この事務所の雑用全般を担当している。
 俺は朝の冷えた空気の中、ラジオ体操を行っている。
「ん~、やっぱり晴れている日は気持ちが良いな!」
 俺は朝の日差しがかなり好きなので、晴れの日はラジオ体操をするのが習慣になっている。
「朝からご機嫌の様だね、八神くん」
 事務所の窓から顔を出し、俺に話しかけている彼女は岩戸咲良いわとさくら。此処、岩戸探偵事務所の所有者であり、俺に雑用を押し付けた張本人である。
「これが習慣なのでね。朝食なら準備してあるので、食べちゃって下さい」
「もう食べたよ。そんな事より、依頼だ」
 俺は少し驚いた。この事務所の電話がなるのは、精々二、三か月に一回だからだ。前回の『ひとりかくれんぼ』の案件から、一週間しか経っていない。
 と言っても、そんな事を気にするだけ無駄なので、俺は先生に返事をした。
「了解!」

 俺の名前は、明城倫太郎あかぎりんたろう

 昨日の夜、親友の木村陽太きむらようたが、あの世に連れて行かれた。

 俺達は、昨日の放課後、誰も居なくなった教室で、『コックリさん』をしていた。
 コックリさんは実在した。俺達は、好きな子に、付き合っている人か好きな奴が居ないか等、どうでも良い事を聞きまくった。
 調子に乗った俺は、十三個以上の質問をしたらあの世に連れて行かれると言われていたのに、十三個目の質問をしてしまった。するとコックリさんは、急に暴れ出し、『しね』と『きえろ』を繰り返し始めた。
 怖くなった俺は、その場から逃げてしまった。

 その後、陽太が追い付いて来る事は無かった。

 あいつの家に電話をかけても、親が「陽太なら帰ってない」と言うだけだった。
 俺は自分のせいで陽太が居なくなった事を知っているので、昔から続く都市伝説、『あるはずのない電話番号』に電話をかけ、助けを求めた。
 俺の依頼は聞き受けられ、『契約』は成立したらしい。
 そうして現れた二人は、結構普通に見えた。
「初めまして。岩戸探偵事務所より馳せ参じました、岩戸咲良と申します。まあ、清く正しく美しい、文学少女と呼んでくれたまえ」
「自分で言うんだ……美しいって……」
 思わず声に出てしまった。
 しかし実際、目の前の女性は美しかった。その髪は絹の様に滑らで、肌は透き通る様に白い。瞳は宝石の様な蒼色で、まるで作り物の様な人だった。
「私の容姿に文句がおありかな?」
「いえいえそんな!」
「そうですよ先生、自分で自分の事を『美しい』なんて言う人、頭がおかしグハァッ!」
 ああ、俺を守ってくれたナイスガイが蹴られてしまった!
 彼は、身なりはあまり綺麗ではないが、時々覗く顔からは、顔立ちの良さが伺える。
「先生!いつも蹴らないで下さいって言ってるでしょう!?」
「君はレディに『頭がおかしい』だなんて言って、何の制裁も無いと思ってたのかい?あ、彼は八神蒼佑、売れないマイナー作家だね」
「少なくとも蹴られるとは思ってなかったですよ」
 やっぱり美男美女カップルは良い……だなんて思っていると、蒼佑さんが俺に依頼の確認を始めた。
「では、依頼の確認をします。まず、昨日の午後六~七時、放課後の学校でコックリさんを行っていた貴方達は、儀式のルールを破った結果、貴方のご友人の木村陽太が失踪してしまった……ここまでは宜しいですか?」
「そうです」
 陽太は帰ってくるのだろうか……そんな不安を押し殺し俺は彼らに答える。
「では、今回の依頼は『ご友人の捜索、及び保護』で宜しいでしょうか」
「はい」
 どうやら俺は相当不安そうな顔をしていたらしく、咲良と名乗った女性が俺を励ましてくれた。
「まあ、コックリさんとなれば簡単にはいかないだろうが、君のご友人は必ず帰らせてみせるよ」
「有難うございます」
 こうして、一旦会話を切った俺達は、俺と陽太がコックリさんを行った学校に行った。

 学校に着いた俺は、学校を包む異様な雰囲気に思わず後ずさった。
 しかし探偵達は、怖気付く事も無く学校に入っていく。
「少年、コックリさんを行った部屋は何階なんだい?」
「四階の図書室です」
 頷いた彼女は、階段に向かい四階へと進んでいく。
 ようやく四階に着いた時、蒼佑さんは肩に掛けているバッグから数枚の原稿用紙と万年筆を取り出して、原稿用紙に何やら文字を書き始めた。
「蒼佑さんは何を?」
「彼は霊能者の様なモノでね、ここで起きた事を小説にしているんだよ」
「へえ……」
 数分経った頃、どうやら小説が書き終わったらしく、彼は最後の原稿を咲良さんに渡し、「疲れた」と言って、飴玉を取り出した。
 それを読み終えた咲良さんは、少し考え込んでしまった。
「なるほど……『コックリさん』の居場所は特定出来た」
 すごい……こんな短時間で特定まで行くなんて!
 しかし、彼等の表情は硬かった。
「不味い事になった……」
「どうしたんですか?」
 口を開かない彼女の代わりに、彼が事実を語った。
「依頼人、最悪日を跨ぐ事も覚悟しておいて下さい」
 次の瞬間、彼の口から放たれた言葉は、到底信じられない様な事だった。

「先生、そこから推測出来る事は一つだけ……木村陽太がコックリさんと一緒に居ないと言う事だけです」
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