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No.5 英雄
File:4 最強の要塞
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退院して早々に、ジョセフ君から連絡が来た。どうやら新しい絵画が見つかったらしい。いつものカフェに行くと、ジョセフ君は珍しくケーキを食べていた。
「よぉソフィア。退院おめでとう」
「ありがとう」
「本当に直ぐだったな」
「医者も驚いてたし、『一応もう少し……』みたいな冗談も言ってたよ」
「面白ぇな」
私はコーヒーと、食べ損ねた昼食代わりの軽食を注文してから、一度店内を見回す。なんだか少し、違和感が……
「気付いたか。少し内装を変えたんだぜ」
「へぇ。通りで色が違う訳だ」
「一応同じ物なんだが……千里眼か?」
「あぁ。作られた時期によって、若干だが色合いが変わるんだ。少し明るくなる」
言われてみれば、内装も少し変わった気がする。前には無かった物が増えていたり、逆に無くなったりしている。こういう模様替えができる程度には、客足があるという事かな。なんだか少し嬉しい。
考えてみると、初めてここに来た時から、かなり多くの事が変わった。良い方向に、或いは悪い方向に。まぁ、総合的に見るのであれば、間違い無く良い方向に変わっている訳だが。
「時間があればこだわりの内装を紹介したい所だが……」
「あぁ。本題に入ろう」
私の返答を聞いてから、ジョセフ君は鞄から一つのファイルを取り出した。だが妙に分厚い。どうやら普段とは訳が違うらしい。
「次の絵画の題名は『英雄』。描かれた年代は一九四二年。所有者はジャック・クローバー。ダイアモンドクラスの魔術師サマ」
「その人の為に、そんな素敵な資料をこしらえたのかい?」
「違うね。少しばかり面倒な事になってるようだ」
ジョセフ君は一枚の写真を私に見せた。どうやら、古城の周囲を大量の人間が警備しているようだ。重装備に加え、恐らくがその全員が相当な実力を持った魔術師。高台にも居る上、大量の機関銃まである。
「成程。そりゃ分厚くなる訳だ」
「警備している魔術師は総勢で百名。ダイアモンドクラス二人、プラチナクラス十人、その他は全員ゴールドクラス。内部までは分からねぇが、少なくとも確認できた範囲の城壁は全て魔術で防御されてる。魔術の干渉も生半可な物理攻撃も効かねぇだろう。加えて大量の兵器。今まで見て来た中じゃ、最高クラスの警備だ。全くイカれた暇人共だぜ」
絵画一枚に、ここまでの警備を置いた事は無かった。ダイアモンドクラスを二名だけでも相当だが、加えてプラチナクラスが十名とは……数も質も、相当な物だ。
だが、ここまでの人を動かすとなると、相当な理由がある筈だ。絵画一枚にこれでは、コストとメリットが見合っていない。
「この警備の理由は?」
「奴さんが大々的に教えてくれたぜ」
「協会が?」
「あぁ。おおよそ一週間前、協会の広報部が、さっきの写真と一緒に大見出し付けてたんだ。ほら。写しだぜ」
「投げないでくれよ。まぁ普通に受け取れるが」
ふむ何々……?『絵画泥棒へ告ぐ。魔女の絵画の内一枚、『英雄』を確保した。これが欲しいのならば、写真の場所に来るが良い。熱い抱擁と目も眩むクラッカーの嵐を以て、君達を歓迎しよう。』か。要するにこれは……
「協会は、本気で私達を捕らえる気か」
「あぁ。敵の狙いが分かっているなら、それを餌にして……って訳だ」
「絵画が本物だという証拠は?」
「無い。だが、向こうはこっちがどうやって絵画の情報を掴んでいるかを把握しちゃいねぇ。そんな状況で偽物を用意する馬鹿は居ねぇだろう」
まぁ、それもそうか。しかし困った。向こうは本気だ。恐らく、使える中で最も強い人員を配置している筈だ。練度も高いだろう。加え、建物を破壊する事はほぼ不可能。これでは普通、正面衝突しかやりようが無さそうだが……
「正直な所、勝ち目は無ぇ。こうも固められたんじゃ、どうする事も……」
「そうだね。この戦力を相手にして、正面衝突以外の攻略法を全力で潰されてしまえば、私達では太刀打ちできない」
作戦が必要だ。だがこうも守りを固められてしまえば、並大抵の作戦では上手く行く筈も無い。向こうがどれだけ私達の情報を持っているかにもよるが、私達が正面衝突で倒せる魔術師は、プラチナクラス下位程度な物だ。ジョセフ君も私も、初見殺ししか取り柄が無い。
まぁ、それは諦める理由にならない訳だが。
「だが私は諦めたくない。それに何も、正面から馬鹿正直に戦う必要も無い」
「……策があると?このラスボス城を攻略する策が」
「情報が要る。この城周辺の地理的情報、敵の警備の配置を可能な限り纏めてくれ」
「へいへい。ま、期待せずに待っといてくれ」
「あぁ。大いに期待して待ってるよ」
敵は今までで最も堅牢な要塞。今まで考えて来たのは、私の魔術でどこまで相手の有利を潰し、ジョセフ君が暴れられる環境を作れるか。だが今回は少し趣向を凝らしてみよう。いつまでも後衛では少し、味気無いと思っていたんだ。
今回の勝負になるのは、私の魔術でどこまで相手の戦力を減らし、且つジョセフ君を守れるか。強い敵と正面切って戦うのは恐ろしいが、今度ばかりはそうも言っていられない。暴れてやろうじゃないか。
「よぉソフィア。退院おめでとう」
「ありがとう」
「本当に直ぐだったな」
「医者も驚いてたし、『一応もう少し……』みたいな冗談も言ってたよ」
「面白ぇな」
私はコーヒーと、食べ損ねた昼食代わりの軽食を注文してから、一度店内を見回す。なんだか少し、違和感が……
「気付いたか。少し内装を変えたんだぜ」
「へぇ。通りで色が違う訳だ」
「一応同じ物なんだが……千里眼か?」
「あぁ。作られた時期によって、若干だが色合いが変わるんだ。少し明るくなる」
言われてみれば、内装も少し変わった気がする。前には無かった物が増えていたり、逆に無くなったりしている。こういう模様替えができる程度には、客足があるという事かな。なんだか少し嬉しい。
考えてみると、初めてここに来た時から、かなり多くの事が変わった。良い方向に、或いは悪い方向に。まぁ、総合的に見るのであれば、間違い無く良い方向に変わっている訳だが。
「時間があればこだわりの内装を紹介したい所だが……」
「あぁ。本題に入ろう」
私の返答を聞いてから、ジョセフ君は鞄から一つのファイルを取り出した。だが妙に分厚い。どうやら普段とは訳が違うらしい。
「次の絵画の題名は『英雄』。描かれた年代は一九四二年。所有者はジャック・クローバー。ダイアモンドクラスの魔術師サマ」
「その人の為に、そんな素敵な資料をこしらえたのかい?」
「違うね。少しばかり面倒な事になってるようだ」
ジョセフ君は一枚の写真を私に見せた。どうやら、古城の周囲を大量の人間が警備しているようだ。重装備に加え、恐らくがその全員が相当な実力を持った魔術師。高台にも居る上、大量の機関銃まである。
「成程。そりゃ分厚くなる訳だ」
「警備している魔術師は総勢で百名。ダイアモンドクラス二人、プラチナクラス十人、その他は全員ゴールドクラス。内部までは分からねぇが、少なくとも確認できた範囲の城壁は全て魔術で防御されてる。魔術の干渉も生半可な物理攻撃も効かねぇだろう。加えて大量の兵器。今まで見て来た中じゃ、最高クラスの警備だ。全くイカれた暇人共だぜ」
絵画一枚に、ここまでの警備を置いた事は無かった。ダイアモンドクラスを二名だけでも相当だが、加えてプラチナクラスが十名とは……数も質も、相当な物だ。
だが、ここまでの人を動かすとなると、相当な理由がある筈だ。絵画一枚にこれでは、コストとメリットが見合っていない。
「この警備の理由は?」
「奴さんが大々的に教えてくれたぜ」
「協会が?」
「あぁ。おおよそ一週間前、協会の広報部が、さっきの写真と一緒に大見出し付けてたんだ。ほら。写しだぜ」
「投げないでくれよ。まぁ普通に受け取れるが」
ふむ何々……?『絵画泥棒へ告ぐ。魔女の絵画の内一枚、『英雄』を確保した。これが欲しいのならば、写真の場所に来るが良い。熱い抱擁と目も眩むクラッカーの嵐を以て、君達を歓迎しよう。』か。要するにこれは……
「協会は、本気で私達を捕らえる気か」
「あぁ。敵の狙いが分かっているなら、それを餌にして……って訳だ」
「絵画が本物だという証拠は?」
「無い。だが、向こうはこっちがどうやって絵画の情報を掴んでいるかを把握しちゃいねぇ。そんな状況で偽物を用意する馬鹿は居ねぇだろう」
まぁ、それもそうか。しかし困った。向こうは本気だ。恐らく、使える中で最も強い人員を配置している筈だ。練度も高いだろう。加え、建物を破壊する事はほぼ不可能。これでは普通、正面衝突しかやりようが無さそうだが……
「正直な所、勝ち目は無ぇ。こうも固められたんじゃ、どうする事も……」
「そうだね。この戦力を相手にして、正面衝突以外の攻略法を全力で潰されてしまえば、私達では太刀打ちできない」
作戦が必要だ。だがこうも守りを固められてしまえば、並大抵の作戦では上手く行く筈も無い。向こうがどれだけ私達の情報を持っているかにもよるが、私達が正面衝突で倒せる魔術師は、プラチナクラス下位程度な物だ。ジョセフ君も私も、初見殺ししか取り柄が無い。
まぁ、それは諦める理由にならない訳だが。
「だが私は諦めたくない。それに何も、正面から馬鹿正直に戦う必要も無い」
「……策があると?このラスボス城を攻略する策が」
「情報が要る。この城周辺の地理的情報、敵の警備の配置を可能な限り纏めてくれ」
「へいへい。ま、期待せずに待っといてくれ」
「あぁ。大いに期待して待ってるよ」
敵は今までで最も堅牢な要塞。今まで考えて来たのは、私の魔術でどこまで相手の有利を潰し、ジョセフ君が暴れられる環境を作れるか。だが今回は少し趣向を凝らしてみよう。いつまでも後衛では少し、味気無いと思っていたんだ。
今回の勝負になるのは、私の魔術でどこまで相手の戦力を減らし、且つジョセフ君を守れるか。強い敵と正面切って戦うのは恐ろしいが、今度ばかりはそうも言っていられない。暴れてやろうじゃないか。
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