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No.5 英雄

File:1 コレクション

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 俺は自室に、数多くの神秘にまつわる物品を保管している。その殆どが武器だ。雷を自在に降らせるというありきたりな物から、着弾地点を起点に刃物が無数に飛び出す銃弾、珍しい物だとアーサー王の師である、魔術師マーリンのローブ……の切れ端まである。
 ただ、俺は殆ど使ってねぇ。かさばるというのもあるが、こういう物を使えば必ず足が付く。つまりほぼ、俺の個人的なコレクションと化している。
 協会に本名で指名手配されるのは御免だ。そうなったら真っ先にボスが殺しに来る。あの爺さんなんで魔術抜きの肉弾戦と武装だけで夜の俺に勝てるんだ。訳が分からん。
「若~?そろそろ良いですか~?」
「あぁ少し待ってくれ。この辺にあった筈……あった」
 まぁ、久し振りにコレを活用する時が来たんだ。コレを使ったのは確か九歳の時、無くしたお気に入りのキーホルダーを無くした時以来……いやいやそんな事を思い出してる場合じゃねぇ。くすんだ紫色の水晶玉を取り出した俺は、それを机の上に固定した。
「にしてもよく持ってましたね~。『千里眼』」
「これが役に立つかは五分だが……試す価値はある」
「確か、一度見た物か、持っている物、それとそれに深い関わりを持った物を探せるんでしたっけ?」
「まぁそんな感じだ。人も探せるかは知らねぇから、何も出なくても文句言うなよ」
「言いませんよ。まぁ、何か出てほしいのはそうですけど」
 黒猫に関する情報は、未だ存在していない。だが、それはあくまでも情報だけで、黒猫に関する物品は、数こそ少ないが実在している。俺は以前の調査で、なんとかそれを手に入れた。
 まぁ、そうは言ってもボロ布一枚だけだ。これがどこまで黒猫と関わりを持っているのか……まぁ良い。物は試しだ。俺は布切れを水晶玉の上に置き、中国語の呪文を唱え始める。
跟随它辿れ跟随它辿れ跟随它辿れ居住在事物中的灵魂物に宿りし魂を灵魂的主流その魂の本流を
 水晶玉は青色の光を放ち、やがてその中に映像を映し出した。だが、そこには人の姿は無く、街を空から見下ろしているような風景だけがあった。
「これって……この街じゃないですか?」
「要検証にはなるが、恐らく俺らが居るこの街に黒猫が居るって事だろうな」
「やっぱそう上手い話は無いよなぁ……」
「いやそうでもねぇぞ?アメリカ全土で活動している奴の拠点。その位置を絞り込めたと考えりゃ十分な成果だ。しかも俺らの近く。何でもプラスに考えろ。最後に笑うのは俺らだ」
「……そのポジティブをコップ一杯分けてほしいですよ」
「お?喧嘩売ってんのか?言い値で買うぞ?」
 進展っちゃ進展だ。今後は少しだけ楽になる……と願いたい。


 私は自身の所蔵品を、一部を除いて美術館に展示している。私の収入になるというのもそうだが、やはり美しい物は共有してこそだ。まぁ、魔女の絵画と一部の作品は公開していない訳だが。
「ソフィアさん。清掃終わりました」
「ありがとう。今日はもう上がって良いよ」
「はい。お疲れ様です」
 芸術品を扱い、人をそこそこ雇っている以上、どう足掻いても金は掛かる。寄付や他で稼いだ金を運営費にして、後は自分でやれる範囲の事は自分でやるなんかでやりくりしながら、なんとかギリギリ黒字といった風な感じだ。
 ただまぁ、特別展示をやるとやはり人が来る。この間の印象派展は人が入ったなぁ……何かと面倒な事は多かったが、やはりやって良かった。私はあの手の絵画を持っていないから、普段見ない雰囲気の絵画を見れて良かった。
「ソフィアさん。少しお話良いですか?」
「良いとも。何かな?」
「ここの案内なんですけど、マニュアルだけじゃよく分からなくて……」
「あぁそこは……」
 こうしていると、本当に平和だと実感する。魔女の絵画を追っている間は忙しくて楽しいが、それでもこうして、普通に働いているだけで十分に楽しい。然程広い訳でもないから私にできる事も多い。やりがいという物を感じているのだろう。
 ジョセフ君からの連絡が無い間は、こうして普通の生活を楽しんでいる。普通に働いて、普通に休んで、普通に遊んで普通に寝る。それだけで十二分に幸せで、素晴らしい事だ。
「管理人。先程こんな物が……」
「何だい?落とし物なら係の人間に……」
 そう言いながら振り返った私の視界に入ってきたのは、残り一秒とないタイマー。その次に、そのタイマーが設置された、恐らく紙の箱。それが何なのかは、恐らく以前から分かっていた。
 次の瞬間、閃光が私の眼を突き、熱が私の体を焼いた。無数の何かが体を傷付け、私の体勢を大きく崩したのを感じた。私の体は既に熱くなっている床に倒れ込み、痛みで身体を丸める
「……やったか?」
「……いや。まだ息があるな」
「すげぇな」
「関心してる場合か。もう人が来てる。逃げるぞ」
「へいへい。今度は殺すからな化物」
 何が起こったのかも考える余裕すら無い私の耳には、その会話すらただの雑音に聞こえてしまう。
 少ししてから、職員の誰かが呼んだのだろう。私は救急車に乗せられた。だが、それを確認するよりも先に、私は気を失った。
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