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No.4 驚愕

File:16 言い訳

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 ジョセフ君に私の家まで運んでもらった後、久方振りの風呂を満喫した私は、リビングで紅茶を飲みながらくつろいでいた。
「……で、説明をしてもらおうか」
 嘘を吐いた。ジョセフ君に詰められていた。
「一週間何してたんだ?あの爺さんが関係あるんだろうが……俺には状況がさっぱり分からん。まるでケツにマッチ投げ付けられた野良犬の気分だぜ」
「まぁ、簡素に済ませてもらうと……絵画を受け取りに行ったら、絵画の中に取り込まれて、そこに広がっていた世界で一週間程度過ごして、帰って来た」
「今の絵画に危険性は無いんだな?」
「あぁ。原因は取り除いてあるからね。もう問題無いよ」
 絵画も通常と同程度の力に戻っていたし、何よりあの影はもう居ない。あのような事は二度と起こらない筈だ。
 しかし振り返ると、何とも奇妙な世界だった。空腹を感じない……と言うより、食事が必要無いというのは、どういう風にしているんだろうか。睡眠欲と性欲だけは普通にあっただけに不思議だ。もし応用が効けば緊急時に……いや、アレは魔法の力だ。考えるだけ無駄か。
「ところで、先程から君の目が泳ぎ続けてるのはどうしてかな?」
「……別に?」
「済まないが、一週間振りの風呂で少しのぼせてしまってね。君には刺激が強いだろうが、少しはだけているのは許しておくれよ?」
「分かってんならもう少し布を増やしてくれ!」
 やはりジョセフ君は扱い易くて助かる。この一週間会話に気を使ってばかりだったせいか、こういう会話がとても心地良い。少し意地悪したくなる。
 まぁ、やり過ぎると本格的に口を利かなくなってしまう。冗談はこの程度にしておかなければ。
「そこまで言うなら、少し上着でも着るよ。全く童貞はこれだから困る」
「悪かったな童貞でよ。身内にもその弄りされてうんざりしてんだ」
「おやそれは済まなかった。まさか君の童貞が周知の事実だったとは……」
「もう一回言ってみろ?お前を大好きな絵画に縫い付けてやる」
「おぉ怖い怖い。少し自室に上着を取りに行ってくるから、そこで待っていてくれ」
 室内で着るような上着は少ないが……まぁ、肌さえ隠れればそれで良いだろう。全く彼は、胸元と太ももばかり見るんだから。そこを隠せば、文句は無い筈だ。多分。
 私は自分の携帯に届いていた無数のメッセージに返信しながら、クローゼットの中を物色する。そこで一つ、目に留まった物があった。
「あ~これは……困った」
 私は見覚えのある、箱状のそれをクローゼットから取り出し、蓋を開ける。そこにはタイマーと、無数の配線が残されている。私はベッドの下から手繰り寄せた工具を使って、それを丁寧に解体して行く。
 これはエラニの爆弾だ。作り方の癖と、箱の裏の『大当たり』の筆跡が、それを証明している。詰まり今、エラニはこの家の中に居る。もしジョセフ君と会ったなら、否、会ってしまったなら……何かと面倒臭そうだ。
 私は爆弾を解体し終えると、上着を羽織った状態でリビングへ戻った。良い機会だし、エラニとジョセフ君に仲良くなってもらうのは……無しかな。あれで二人共人見知りするし。私はリビングの扉を開け、そこに広がっていた光景に頭を抱える。
「あ!ソフィア!この人誰!?何で私に相談しなかったの!?」
「そりゃこっちのセリフだ!なんなんだこの女!見るなり殴りかかって来たぞ!」
「ソフィアを誘拐して監禁してたんでしょ!じゃなきゃソフィアが断りも無しに一週間家を空ける訳無いもん!」
「アイツを監禁してたのはローランて爺だ!」
「だから誰!」
 気が抜けてたな~……いつもなら家に入って直ぐにエラニが居る事に気付くんだが……いや、今はそんな事を言っている場合じゃないな。事態の収拾に急ごう。


 二人を落ち着かせながら椅子に座らせるのに、たっぷり十二分掛けた私は、すっかり疲れてしまった。まさか風呂に入った後にこうなるとは思ってもみなかった。
「紹介するよエラニ。こちら、監禁されていた私を助けてくれたジョセフ君。成人しているように見えるだろうが、歳は君と同じだよ」
「……どうも」
「ジョセフ君。この子は私の友人のエラニ。以前からの友人で、歌を作っている。悪戯好きな少しやんちゃな良い子だよ」
「よろしく」
 気まずそうだなぁ。まぁ、出会い方がアレでは仕方が無い訳だが。
 私としては、二人にも仲良くなってほしい。ただ、ジョセフ君はそこそこ内向的で、エラニは思い切り彼を警戒している上、元から男性が得意な方ではない。これは骨が折れそうだ。
「今後顔を合わせる事もあるだろう。その時は……今日のような殴り合いに発展しない事を祈るよ」
「分かったよ~」「へ~い」
 分かってるのかなぁ二人共……まぁ、流石に二人も馬鹿じゃない。殴り合いには発展しないだろう。小さな冷戦が始まる気はするが。
「ソフィア。俺は邪魔んなりそうだし、そろそろ帰らせてもらうわ」
「分かった。じゃあまた」
「おう」
 ジョセフ君はそう言って、そそくさと私の家を出て行ってしまった。やはり彼は、もう少し私以外の異性との付き合い方を学ぶべきじゃないだろうか。
「ソフィア、監禁って大丈夫だったの?」
「あぁ。見ての通り無事さ」
「なら良いか……そうだ。用事忘れてた」
「用事?」
「うん。今日居たら伝えようかなって」
 珍しい。エラニは偶々どこかで会って話したり、気まぐれに私の家に来て爆弾を仕掛けたりする事はあるが、私に具体的な用事がある状態で会う事はそう無い。
「何かな?どうせ暫く暇だし、聞いてみるよ」
「そっか。じゃあ……」

「今度、デートしようよ」
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