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No.4 驚愕
File:11 間違い探し
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廊下から、私は自室の扉と、その周囲を見回す。やはり、記憶の中と違う。この部屋は、確かに私の部屋だった。だが一番新しい記憶の中では、ここは私の、趣味の部屋になっていた筈だ。確か、大量の絵が飾られていた部屋だ。
それなら、大人の私の部屋はどこに?いやそれも、ちょっと考えれば分かるか。違和感は一つ一つ潰して行こう。それしか今はできないし。
師匠の部屋は二階の一番奥。大人の私はその部屋の、一つ手前の部屋を使っていた筈だ。そこは今、何に使われているんだろう。私は二階に上がりながら思い出そうとするが、そもそも二階に来る事すら少ないせいか、当然のように思い出せなかった。
「この部屋……だよね」
うん。間違い無い。私は引き戸になっている扉を開いた。しかし、中には何も無かった。ただ広いだけの味気の無い空間だけが、そこにあった。
師匠の性格からして、こういう感じの何も置いていない部屋を作るとは思えないんだけどな。無意味な空間は作らないけど、無駄な物は山のように集める人だから。
「なら、この部屋にも何か……」
私は暗い中で何かを探すような体勢で、何か落ちていないかを探す。だが、隠す物も隠れる物も無い部屋で何かが見つかる訳も無く、私はただ、何も無い部屋で一人で変な動きをしただけの人になった。
「おかしいよねぇ……」
師匠がこういう場所を、何かしらに活用しない訳が無い。それに、ここに何かあったような気がしてならない。夢 の内容を全て思い出した訳じゃない。全体的に不明瞭で、思い出せない部分が多い。それでもここに何か、ここが私の部屋になる前から、何かあった。そんな気がする。
何かあったという事は、ここで何かをしていたという事だ。だがそれが分からない。私が知る限りでしかないが、仕事も趣味も、他の部屋やスペースで完結している。詰まり、ここを何かに使う必要は無い。ここに何も無い事は、何も不自然な事じゃない。
「それでも、何かある筈だよねぇ」
眼鏡が汚れてるせいだろうか。私は眼鏡を一度取って、服の袖でレンズを拭く。うん。大体汚れが取れた。私は視線を戻しながら、眼鏡を掛けようとする。
私はそこで、部屋中に見えない『何か』がある事に気が付いた。透明……というのも少し違う。触れない。立体映像もこんな感じなんだろうか。分かるのはおおよその形と大きさだけ。あまり見慣れない感じの形だが……床に転がっている物の大半は、恐らく本だろう。
「まぁ、触れないし読めないから、何の本かも分からないけど……」
眼鏡越しだと存在すら感じ取れない。眼鏡を掛けてないと目が疲れたり、痛くなったりするんだけど……まぁ、この際仕方が無いよね。これが何なのかを掴めれば、何かしら見えて来る事もある筈だ。
『それでいいの?』
「……またか」
この声は一体何なんだ。私はここの事をもっとよく知りたいし、元の世界にも戻りたい。それで終わりで良いじゃないか。
『ここはきみのりそうなんだよ?ここにあるものをおもいだしていいの?』
「良いの。放って置いてくれないかな」
『きみをくるしめるんだよ?』
「それでも良いよ」
私は声に答えながら、透明な何かを観察する。やっぱり触れないけど、重なっていると何かの膜を通り抜けたような感覚がある。それなら何かしらの形で触れないだろうか。
『そっか。それなら、みれるようにしてあげる』
どこかで指を鳴らすような音がした。そこから一拍、一秒程度の時間を空けて、私は地面にうずくまった。
「うぅ……目……が……」
痛い。目が痛い。さっきと同じ、眼鏡を長時間掛けていなかった時と同じ痛み。いや寧ろ、さっきよりも悪化しているような気さえする。
いや違う。痛みが違うんじゃない。見えている物が違う。見えていなかった、透明だった物が全部、はっきりと見える。これなら触れてもおかしくない。
だが遠い。手を伸ばせば届く程度の筈なのに、痛みのせいで手が伸ばせない。もっと近くにある物は……私は痛みで真面に動かない体を捻るようにして、視界を動かす。
そこで、私は『それ』を見てしまった。
試験管。氷の中に閉じ込められた、五つ程度の試験管。蝙蝠の羽と何かの毛皮、毛の生えていない皮膚、やたら小さい蛇の抜け殻の欠片、鰐か何かの牙が、それぞれの中に入れられている。
痛みが目から、頭へと移る。もっと正確に言うなら、目の痛みなど気に留めていられない程大きな痛みが、頭の内側に現れた。
『だからいったのに』
視界の端に、裸足で立つ少女が見えた。その姿はノイズのような、砂嵐のような物でよく見えない。
「き……みが……」
『りそうにあまんじていればよかったんだよ。だらくしっぱなしのぴえろにでもなってればよかったんだよ。なんでそうしなかったの?』
「こ……こは……私……の……居場……所……じゃ……ない……!」
『こわいかおするね。でも、わたしのおかげでいろいろなことがおもいだせたんじゃない?きみがあゆんだ、ほんとの、ほんらいの、くるしくてつらくて、まるでめがみさまのほほえみのように、すーぷにうかぶかみのけほどのすくいすらないじんせいをさ』
あぁ思い出したとも。私は、幼かった頃の私はここで、師匠に最後のお別れをされたんだ。『君にもう、眼鏡は必要無いね』と言われて、蛇の抜け殻が入ったお酒を一杯飲んだ。師匠の名前すら知らない私は、反論する事すら諦めていた。
あぁ確かにこんな事なら思い出さない方が良かったよ!お陰で元の世界に帰る方法すら頭に浮かぶ!全く趣味の悪い、最悪な世界だよ!
私の体は、血のように体中を巡る、魔力の使い方を思い出した。
それなら、大人の私の部屋はどこに?いやそれも、ちょっと考えれば分かるか。違和感は一つ一つ潰して行こう。それしか今はできないし。
師匠の部屋は二階の一番奥。大人の私はその部屋の、一つ手前の部屋を使っていた筈だ。そこは今、何に使われているんだろう。私は二階に上がりながら思い出そうとするが、そもそも二階に来る事すら少ないせいか、当然のように思い出せなかった。
「この部屋……だよね」
うん。間違い無い。私は引き戸になっている扉を開いた。しかし、中には何も無かった。ただ広いだけの味気の無い空間だけが、そこにあった。
師匠の性格からして、こういう感じの何も置いていない部屋を作るとは思えないんだけどな。無意味な空間は作らないけど、無駄な物は山のように集める人だから。
「なら、この部屋にも何か……」
私は暗い中で何かを探すような体勢で、何か落ちていないかを探す。だが、隠す物も隠れる物も無い部屋で何かが見つかる訳も無く、私はただ、何も無い部屋で一人で変な動きをしただけの人になった。
「おかしいよねぇ……」
師匠がこういう場所を、何かしらに活用しない訳が無い。それに、ここに何かあったような気がしてならない。夢 の内容を全て思い出した訳じゃない。全体的に不明瞭で、思い出せない部分が多い。それでもここに何か、ここが私の部屋になる前から、何かあった。そんな気がする。
何かあったという事は、ここで何かをしていたという事だ。だがそれが分からない。私が知る限りでしかないが、仕事も趣味も、他の部屋やスペースで完結している。詰まり、ここを何かに使う必要は無い。ここに何も無い事は、何も不自然な事じゃない。
「それでも、何かある筈だよねぇ」
眼鏡が汚れてるせいだろうか。私は眼鏡を一度取って、服の袖でレンズを拭く。うん。大体汚れが取れた。私は視線を戻しながら、眼鏡を掛けようとする。
私はそこで、部屋中に見えない『何か』がある事に気が付いた。透明……というのも少し違う。触れない。立体映像もこんな感じなんだろうか。分かるのはおおよその形と大きさだけ。あまり見慣れない感じの形だが……床に転がっている物の大半は、恐らく本だろう。
「まぁ、触れないし読めないから、何の本かも分からないけど……」
眼鏡越しだと存在すら感じ取れない。眼鏡を掛けてないと目が疲れたり、痛くなったりするんだけど……まぁ、この際仕方が無いよね。これが何なのかを掴めれば、何かしら見えて来る事もある筈だ。
『それでいいの?』
「……またか」
この声は一体何なんだ。私はここの事をもっとよく知りたいし、元の世界にも戻りたい。それで終わりで良いじゃないか。
『ここはきみのりそうなんだよ?ここにあるものをおもいだしていいの?』
「良いの。放って置いてくれないかな」
『きみをくるしめるんだよ?』
「それでも良いよ」
私は声に答えながら、透明な何かを観察する。やっぱり触れないけど、重なっていると何かの膜を通り抜けたような感覚がある。それなら何かしらの形で触れないだろうか。
『そっか。それなら、みれるようにしてあげる』
どこかで指を鳴らすような音がした。そこから一拍、一秒程度の時間を空けて、私は地面にうずくまった。
「うぅ……目……が……」
痛い。目が痛い。さっきと同じ、眼鏡を長時間掛けていなかった時と同じ痛み。いや寧ろ、さっきよりも悪化しているような気さえする。
いや違う。痛みが違うんじゃない。見えている物が違う。見えていなかった、透明だった物が全部、はっきりと見える。これなら触れてもおかしくない。
だが遠い。手を伸ばせば届く程度の筈なのに、痛みのせいで手が伸ばせない。もっと近くにある物は……私は痛みで真面に動かない体を捻るようにして、視界を動かす。
そこで、私は『それ』を見てしまった。
試験管。氷の中に閉じ込められた、五つ程度の試験管。蝙蝠の羽と何かの毛皮、毛の生えていない皮膚、やたら小さい蛇の抜け殻の欠片、鰐か何かの牙が、それぞれの中に入れられている。
痛みが目から、頭へと移る。もっと正確に言うなら、目の痛みなど気に留めていられない程大きな痛みが、頭の内側に現れた。
『だからいったのに』
視界の端に、裸足で立つ少女が見えた。その姿はノイズのような、砂嵐のような物でよく見えない。
「き……みが……」
『りそうにあまんじていればよかったんだよ。だらくしっぱなしのぴえろにでもなってればよかったんだよ。なんでそうしなかったの?』
「こ……こは……私……の……居場……所……じゃ……ない……!」
『こわいかおするね。でも、わたしのおかげでいろいろなことがおもいだせたんじゃない?きみがあゆんだ、ほんとの、ほんらいの、くるしくてつらくて、まるでめがみさまのほほえみのように、すーぷにうかぶかみのけほどのすくいすらないじんせいをさ』
あぁ思い出したとも。私は、幼かった頃の私はここで、師匠に最後のお別れをされたんだ。『君にもう、眼鏡は必要無いね』と言われて、蛇の抜け殻が入ったお酒を一杯飲んだ。師匠の名前すら知らない私は、反論する事すら諦めていた。
あぁ確かにこんな事なら思い出さない方が良かったよ!お陰で元の世界に帰る方法すら頭に浮かぶ!全く趣味の悪い、最悪な世界だよ!
私の体は、血のように体中を巡る、魔力の使い方を思い出した。
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