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No.4 驚愕
File:9 理想の幻影
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ピクニックなのだから、そんな大層な遠出をする訳も無い。私達は少し歩いた所にある広場へ向かいながら、もう見ていたかどうかすら不確かな夢から広がる、将来の話をしている。
「将来の夢……うぅむ……」
「そんな悩む事は無いぞ。やりたい事もなりたい物も、これから見つければ良い」
「そっかぁ……」
目標は早めに立てておきたいんだけどなぁ。何をやるにもモチベーションは必要だし。それに、師匠のようなかっこいい大人になりたいし。その為の短期目標が欲しい。
まぁでも、師匠が言うのならまだ良いんだろう。私もまだ、自分がどこまで、何ができるのか把握してないし。それを把握し切ってから考えるのも悪くないと思う。
「そう言えば師匠、今日は武器持ってないんだね」
「俺のポリシーだ。こういうリラックスする時には、武器を持ち歩かないと決めている」
「なんで?」
「なんでって……ま、普段から荒事ばっかだからな。偶には平穏という物を感じたいんだ」
「そういう物かぁ……」と、イマイチよく分かっていない私に、師匠は「そういう物だ」と言って、この話を終わらせた。普段師匠が何やってるのかはよく知らないけど、少なくとも私の普段とは違うんだろうから、師匠のこういう時の感覚は共感し辛い。
「お、見えて来たぞソフィア」
「え?もう?」
こんな所に広場なんてあったんだ……まぁ、私が家から出る事も少ないし、ここら辺の事はよく知らないから、これで普通か。
休日という事もあってか、視界には絶えず人の姿が映る。手を繋いで歩く男女の姿も、暇そうに新聞を読む老人も、子連れで歩く大人の姿も、等しく『人』として処理される。こういう、人が多い場所は楽しい。なんでかは知らないけど。
「昼にはまだ早いな……もう少し歩くか」
「は~い。何持って来たの師匠」
「それは後のお楽しみ。ほら行くぞ。面白い物を探しにな」
師匠は出掛ける時、決まってこういう感じの事を言う。常に日常に面白みを求める感性は、正直凄いと思う。そっちの方が人生に飽きが来ないのは分かっているけど。
「新聞いかがっすかー!?」
突然聞こえて来た声に意識を向ける。どうやら新聞を売っているようだが……見た感じ、売れ行きは好調ではなさそうだ。師匠は彼に聞こえるように「一つ貰えるかい?」と言って、一枚の新聞を購入した。
「師匠。今日のトピックは何?」
「待て待て慌てず……『謎の失踪事件。またまた発生』……随分きな臭いなぁ」
失踪?殺人とかならまだ分かるけど、失踪だけで一面の記事ねぇ……ちょっと面白そう。
「それってどういう物なの?」
「えぇと……どうやら、最近街中で人が居なくなるのが相次いでいるらしい。被害者数は……九人。手掛かりも失踪した人物の共通点も無いせいで、捜査は難航してるらしい」
物騒な話だねぇ。九人も居なくなって手掛かりが無いなんて、まるでフィクションのような……
『とても、つごうのいいはなしだとおもうよね?』
「……?」
なんか凄くぴったりなタイミングで、ぴったりな言葉が聞こえて来た。誰かの話が丁度聞こえて来たのかな?それにしてはなんか……何て言おう……
「どうかしたのかソフィア」
「いや今、凄く……懐かしい気分になった」
「はぁ?」
「気のせいだと思うから、大丈夫だよ」
実際、誰かも知らない人の言葉で懐かしい気分になるというのはそう無い。きっとどこかで見聞きした言葉と似ていた程度だろう。絵本とか小説とか、或いは怖いお兄さんお姉さんか。
しかし確かに、九人も居なくなって手掛かりが無いなんて、本当にフィクションの世界だ。推理小説とかあのあたり。私は殆ど読まないけど。
「他の記事も読むか?」
「後で」
「分かった」
バスケットを持って来てるという事は、多分ここで昼食を済ますつもりなんだろう。それなら、その時についでに読んでしまえば……
突然、私の眼に激痛が走った。私は目を押さえた状態でうずくまり、小さく声を漏らす
「ソフィア?大丈夫か?」
「……目が……痛くて……」
「眼鏡を忘れたんだったか……取り敢えず、この目薬を……自分でやれるか?」
「多分……無理……」
師匠特製の眼鏡が無いとこうなるのか……今度から気を付けよう。目が凄く痛い。直に叩かれたように、同時に針か何かで刺されたように、そして火に焼かれるように痛い。何でこんな……
「じゃあ、一旦そこに横になってくれ」
「分かった……」
師匠に目薬を差してもらうと、目の痛みが直ぐに引いて、後に残ったのは冷えた目薬の感覚だけとなった。うん。目薬凄い。痛みの余韻はまだ残るけど、もう十分歩けそうだ。
「大丈夫か?なんだったら帰るか?」
「もう大丈夫。行こ。師匠」
「そうか……分かった。じゃあ少し目を閉じていろ」
何だろう。まぁ、師匠が言うなら良いか。私は目を閉じ、一応顔を師匠の方へ向ける。
「じっとしてろよ……」
瞼の向こう側で、何かが光った……気がした。それとほぼ同時に、目の奥が熱くなり、自然と涙が溢れて来た。
「師匠。何したの?」
「ちょっとしたおまじないだ。これで大丈夫」
「そっか……」
「涙が止まるまで、ここで休憩するか」
確かに、このまま歩くのは少し辛い。前が見えないし、絵面も……ちょっとアレだろう。ここは師匠の言う通り、少し休んでおこう。
冷えた空気が顔に当たり、自然と寒さを感じる。マフラーも巻いて来たんだけどな。でもやっぱり、この時期にこの上着は薄かったかも。
「う~寒」
「ココア飲むか?温かいぞ」
「飲む」
あ、本当だ温かい。師匠の『少し寒い方が丁度良い』って言葉は、きっとこの事を言っていたんだろうな。
だが、涙でよく見えない上、少し手もかじかんでいたのだろう。私が「あっ」と声を漏らすと同時に、ココアが少しだけ、コップから零れてしまった。
「あぁ……」
「焦らなくても大丈夫だぞ」
「分かったよ」
少し恥ずかしい。でもまぁ、全部零れなくて良かったと思おう。その方がポジティブだ。
「将来の夢……うぅむ……」
「そんな悩む事は無いぞ。やりたい事もなりたい物も、これから見つければ良い」
「そっかぁ……」
目標は早めに立てておきたいんだけどなぁ。何をやるにもモチベーションは必要だし。それに、師匠のようなかっこいい大人になりたいし。その為の短期目標が欲しい。
まぁでも、師匠が言うのならまだ良いんだろう。私もまだ、自分がどこまで、何ができるのか把握してないし。それを把握し切ってから考えるのも悪くないと思う。
「そう言えば師匠、今日は武器持ってないんだね」
「俺のポリシーだ。こういうリラックスする時には、武器を持ち歩かないと決めている」
「なんで?」
「なんでって……ま、普段から荒事ばっかだからな。偶には平穏という物を感じたいんだ」
「そういう物かぁ……」と、イマイチよく分かっていない私に、師匠は「そういう物だ」と言って、この話を終わらせた。普段師匠が何やってるのかはよく知らないけど、少なくとも私の普段とは違うんだろうから、師匠のこういう時の感覚は共感し辛い。
「お、見えて来たぞソフィア」
「え?もう?」
こんな所に広場なんてあったんだ……まぁ、私が家から出る事も少ないし、ここら辺の事はよく知らないから、これで普通か。
休日という事もあってか、視界には絶えず人の姿が映る。手を繋いで歩く男女の姿も、暇そうに新聞を読む老人も、子連れで歩く大人の姿も、等しく『人』として処理される。こういう、人が多い場所は楽しい。なんでかは知らないけど。
「昼にはまだ早いな……もう少し歩くか」
「は~い。何持って来たの師匠」
「それは後のお楽しみ。ほら行くぞ。面白い物を探しにな」
師匠は出掛ける時、決まってこういう感じの事を言う。常に日常に面白みを求める感性は、正直凄いと思う。そっちの方が人生に飽きが来ないのは分かっているけど。
「新聞いかがっすかー!?」
突然聞こえて来た声に意識を向ける。どうやら新聞を売っているようだが……見た感じ、売れ行きは好調ではなさそうだ。師匠は彼に聞こえるように「一つ貰えるかい?」と言って、一枚の新聞を購入した。
「師匠。今日のトピックは何?」
「待て待て慌てず……『謎の失踪事件。またまた発生』……随分きな臭いなぁ」
失踪?殺人とかならまだ分かるけど、失踪だけで一面の記事ねぇ……ちょっと面白そう。
「それってどういう物なの?」
「えぇと……どうやら、最近街中で人が居なくなるのが相次いでいるらしい。被害者数は……九人。手掛かりも失踪した人物の共通点も無いせいで、捜査は難航してるらしい」
物騒な話だねぇ。九人も居なくなって手掛かりが無いなんて、まるでフィクションのような……
『とても、つごうのいいはなしだとおもうよね?』
「……?」
なんか凄くぴったりなタイミングで、ぴったりな言葉が聞こえて来た。誰かの話が丁度聞こえて来たのかな?それにしてはなんか……何て言おう……
「どうかしたのかソフィア」
「いや今、凄く……懐かしい気分になった」
「はぁ?」
「気のせいだと思うから、大丈夫だよ」
実際、誰かも知らない人の言葉で懐かしい気分になるというのはそう無い。きっとどこかで見聞きした言葉と似ていた程度だろう。絵本とか小説とか、或いは怖いお兄さんお姉さんか。
しかし確かに、九人も居なくなって手掛かりが無いなんて、本当にフィクションの世界だ。推理小説とかあのあたり。私は殆ど読まないけど。
「他の記事も読むか?」
「後で」
「分かった」
バスケットを持って来てるという事は、多分ここで昼食を済ますつもりなんだろう。それなら、その時についでに読んでしまえば……
突然、私の眼に激痛が走った。私は目を押さえた状態でうずくまり、小さく声を漏らす
「ソフィア?大丈夫か?」
「……目が……痛くて……」
「眼鏡を忘れたんだったか……取り敢えず、この目薬を……自分でやれるか?」
「多分……無理……」
師匠特製の眼鏡が無いとこうなるのか……今度から気を付けよう。目が凄く痛い。直に叩かれたように、同時に針か何かで刺されたように、そして火に焼かれるように痛い。何でこんな……
「じゃあ、一旦そこに横になってくれ」
「分かった……」
師匠に目薬を差してもらうと、目の痛みが直ぐに引いて、後に残ったのは冷えた目薬の感覚だけとなった。うん。目薬凄い。痛みの余韻はまだ残るけど、もう十分歩けそうだ。
「大丈夫か?なんだったら帰るか?」
「もう大丈夫。行こ。師匠」
「そうか……分かった。じゃあ少し目を閉じていろ」
何だろう。まぁ、師匠が言うなら良いか。私は目を閉じ、一応顔を師匠の方へ向ける。
「じっとしてろよ……」
瞼の向こう側で、何かが光った……気がした。それとほぼ同時に、目の奥が熱くなり、自然と涙が溢れて来た。
「師匠。何したの?」
「ちょっとしたおまじないだ。これで大丈夫」
「そっか……」
「涙が止まるまで、ここで休憩するか」
確かに、このまま歩くのは少し辛い。前が見えないし、絵面も……ちょっとアレだろう。ここは師匠の言う通り、少し休んでおこう。
冷えた空気が顔に当たり、自然と寒さを感じる。マフラーも巻いて来たんだけどな。でもやっぱり、この時期にこの上着は薄かったかも。
「う~寒」
「ココア飲むか?温かいぞ」
「飲む」
あ、本当だ温かい。師匠の『少し寒い方が丁度良い』って言葉は、きっとこの事を言っていたんだろうな。
だが、涙でよく見えない上、少し手もかじかんでいたのだろう。私が「あっ」と声を漏らすと同時に、ココアが少しだけ、コップから零れてしまった。
「あぁ……」
「焦らなくても大丈夫だぞ」
「分かったよ」
少し恥ずかしい。でもまぁ、全部零れなくて良かったと思おう。その方がポジティブだ。
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