怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.4 驚愕

File:4 情報交換

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 どうやらここには、時間の流れも存在しているらしい。彼等の拠点に着く頃には、既に日が傾いていた。
 彼等の拠点は、見上げる程の巨木の根と地面の間にある、そこそこ広い隙間のようだ。様々な物資がここに集められているが、どれもあまり手が付けられていない。
「お?マーズ。その人どうしたんだ?」
「どうやら絵画を買い取りに来た所を取り込まれた、一般の方のようです」
「ソフィアと言います。よろしくお願いします」
「へぇ……」
 疑っているな。当然の事だ。とは言え、私が絵画を買い取るという行為自体には、何も不自然な所は無い筈だ。堂々としていれば良い。
 人数は合わせて八人……男六、女二。男性の内一人は戦闘服ではない。恐らく最初に絵画を買い取りに来た人間だろう。妥当と言えば妥当な人数だ。
「では、ここでのルールを、可能な限りご説明します」
「はい」
「ここでは食事を取らないでください。必要が無い上、物資も限られています。就寝は必要ですので、一日に一度、五から七時間の睡眠を。衛生面を担保する為、近くの川の水を煮沸消毒し、体を洗ってください。可能な限り毎日。そこの説明は、後にその二人が……」
「リリーよ。よろしく」
「わ、私はキャシー……よろしく……」
「よろしく」
 二人共戦闘員。キャシーさんには多少の警戒心があるが、リリーさんは然程無い。これならまだ良い。二人に最大限警戒されていたなら、私は全く動けない。
「我々は日が昇り次第、周囲の探索に出ます。その間、ソフィアさんはここで待機していてください。周囲の安全は確認されていますが、不用意な行動は避けてください」
「はい」
 成程。基本は自由だが、余り大きな行動は取れなさそうだ。そもそも、ここの状況もよく分かっていないんだ。少しずつ、少しずつ切り崩して行くしか手は無さそうだ。
 それに、時間にこれといった制限が無いのも良い。生存に食事が必要無いのなら、時間は無限にも近い程ある。それなら、いくらでもやりようはあるだろう。


 日が沈んだ頃、私はキャシーとリリーに案内され、近くの川に着いた。キャシーさんは木に火を点け、川の水を沸かせ始めた。
「木を擦って火を点ける作業がスムーズ……」
「わ、私はこういうのが趣味なんです。サバイバルグッズ集めたり……」
「何かと器用な子なんだよ~キャシー」
 魔術も無しでコレか。普通に凄いな。水を入れる器も、ここで手に入る植物を利用しているようだ。本当に器用だ。尊敬できる。
 準備が済むと、彼女達は服を脱ぎ始め、ついでに私も服をひん剥かれた。久し振りに恥ずかしい。まぁ、同性なので何も問題は無い訳だが。
「おぉ~ソフィアさんスタイル良い~」
「し、失礼だよリリー……」
「いえ。大丈夫ですよ」
 褒められる分には嬉しい。実際気を使っている。この体も、様々な用途で役に立つ場面がある。戦闘もそうだし、相手によっては色仕掛けも有効だ。何かと便利なんだ。
 洗髪材も無いのが少しアレだが、こんな状況では仕方の無い事だ。諦めよう。最低限の衛生管理をする為の行為でしかないんだ。
「ソフィアさんはなんで、『驚愕』を買おうと思ったの?」
「先程説明したように、作者不明の作品を買い集めているんです」
「だから、それが分からないんだよ。なんで?」
「り、リリー……失礼だよぉ……」
「大丈夫ですよ」
 作者不明の絵画を集めているのは、半分本当で半分嘘。数枚所持してはいるが、積極的に集めているという程ではない。しかしまぁ、見かければ買っているのは本当だ。その理由なら話せる。
「私は昔、孤児だったんです。親が消えたのはもう覚えていない程昔の事で、物心ついた時に知っていたのは、自分の名前と死なない為の最低限、それと、人とは触れ合わない方が、少なくとも自分は傷付かないという事でした。そこを拾ってくれた、私にとっての親のような人が居たんですよ」
「あぁ!その人に触発されてって事?」
「そんな所です。その人は絵画を集めていて、私はその人に、美術品の目利きを教わったんです。だけどその人も、私が十二になった頃に居なくなって……」
 アレは悲しかったなぁ……いつも手の届く所にあった愛が無くなる体験は、もう二度としたくない。
「……幸い、その人がくれた住む場所と金があったから、住むにも食うにも困らなかった。だけど私は、その人ともう一度会いたくて、その人がよく集めていた、作者不明の絵画を集めるようになったんです。もしかしたらどこかで、もう一度……」
 会いたいなぁ……と、その言葉は仕舞っておこう。誰も知り合いが居ないここで言ってしまうと、歯止めが効かなくなってしまいそうで恐ろしい。
「……と、少し重い話をしてしまいましたかね」
「いや……うん……大丈夫だよ」
 本当に、重い話をしてしまった。気まずそうな顔をしている。よく知らない相手にこういう事話すとこうなる。私は嫌なんだが、よく知らない相手だからこそこういう事が言える。私の変な部分だ。
 だがどうしよう。この空気をどうこうする良い手段を私は知らない。このままでは少し……
「ふ、二人共!湯冷めしても悪いし……ほら!体、拭こ?」
「うん。分かったよ」「ありがとうございます」
 どうやらこのキャシーという女性、私が思っていたよりも気遣いができる人らしい。私は彼女に「ありがとう」と耳打ちしながら、タオルを受け取った。
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