怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.4 驚愕

File:2 絵画の謎

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 ここが絵画の所持者、ローラン・ハンターさんの家……なんか、こうも普通の家から絵画の気配がすると、少し複雑?違和感?まぁ兎に角、変な感じだ。結界も無いし、住宅街の中心付近にある。豪邸と言う程ではないが、それでも懐の余裕を見せているようだ。
 既に、彼にアポは取っている。私がインターホンを鳴らすと、五秒程経った後に、顔を皺だらけにした老人が姿を見せた。
「こんにちはローランさん。会えて光栄です。以前お電話した、ソフィアです」
「いやいやこちらこそ会えて光栄ですとも。お若いのに絵画を集め、美術館まで……」
「ありがとうございます。しかし私も、経営者としては未熟で、お恥ずかしい限りです」
「いやいや!そのお歳では十分よくやっている。私も以前訪ねたのですがね、アレは凄かった……あの殆どが、ソフィアさん個人の所蔵品であると知った時は驚愕でしたよ」
 こうも褒められるとこそばゆいな。普段褒められてないせいだろうか。まぁ、余り悪い気はしないが。
 しかし私の千里眼で見ても、本当に何も無い。霊力や魔力の色が見えない上、悪意と善意の色の比率も、他の人間とそう変わらない。平均的な人間そのものだ。こんな人間が協会の手から逃れているとは……
「あぁ立ち話もアレですから、どうぞ中に。ハーブティーとケーキがあります」
「ありがとうございます」
 いや。考え過ぎるのはよそう。絵画を買いとる事自体に反発している様子は無い。これなら、普通に絵画を買い取って終わりになるだろう。ジョセフ君が言った通り、今回は簡単そうだ。まぁ、油断は何より恐ろしい敵な訳だが。


 世間話も終わり、いよいよ絵画の引き渡しとなった。
「ほう……これが……」
「えぇ。私が老後、初めて手にした美術品でしてね。人に譲るのは口惜しいですが……まぁ、価値ある物は、価値が分かる人に渡すべきですしね」
「貴方も良い目を持っている。これは実に、良い物だ」
 やはりこれも素晴らしい。この人とは好みが合いそうだ。絵画を買い取った後も、時々話をしに来ても良いかも知れない。この人は様々な経験を積んでいそうだ。
「いや、私はこの絵画の勝ちはよく分かっていないのですよ」
「では何故、この作品を?」
 私がそう問いかけると、ローランさんは照れ臭そうに答えた。
「実は、亡くなった妻によく似ているのですよ。あの絵画の中心に立っている女性が」
 女性?中心……おかしい。絶対におかしい。この絵画に女性は描かれていない。そして何より、絵画の風景の中心に立っているのは……

 真っ黒い人のような『何か』だ。

 何かがおかしい。絶対に。この男は魔術師ではない。ならば、だとしたら、何かが起こり得るとすれば……
 絵画は微量とは言え、魔法の力を蓄えている。もし絵画の気配を普段より強く感じたのが、結界が無いせいではなく、
「ですが、広い草原に佇む彼女が、寂しそうに思えましてね。この絵画を買い取りに来たお客様を、『ご招待』しているのですよ」
「動くな!」
 魔眼を使い、この老人を無力化……できない。魔眼が使えない。どころか、手足が動かない。何かに引っ張られる。何が起こっている?まさか、もう私は……
「無駄ですよ。勿論、絵画からは出しますとも。私が死んだ、その後にね」
「やはり貴方は……!」
「私はただ、彼女に寂しい思いをさせたくないだけですよ。では、さようなら」

 私の意識はそこで暗転し、体に入っていた一切の力が抜けた。


『報告

 魔女の絵画 識別番号:三十八番 
       タイトル:驚愕 
       所持者 :ローラン・ハンター 発見時八十九歳 男性

二〇二五年一二月三日 絵画を発見。識別番号を三十八番とする。
           ローラン氏宅に数名の魔術師を派遣。回収を試みる。
二〇二五年一二月六日 派遣した魔術師が消息不明。死亡として処理する。
           以降、ローラン氏をゴールドクラス危険魔術師とする。
二〇二六年〇三月八日 ローラン氏を非魔術師と断定。危険魔術師の判断を取り消す。
二〇二七年一〇月六日 絵画の強奪に向かった魔術師七名が消息不明。
           その際の音声を文字に起こした物を記載しておく。

 【削除済み】だ。聞こえてるな?通信の際の規定を破るが、この上無い非常事態だ。許せ(約二秒の沈黙)隊員が、信じられねぇだろうが隊員が(約一秒の沈黙)消えた。俺以外は全員。魔術でも隠し通路でもねぇ。魔力の気配も音も無く、消えたんだ(訳十秒の沈黙)クソっ!俺ももう直ぐ消されるだろう。何が起こっているかは分からんが、ダイアモンドクラスの隊長が、報告より先に消されたんだ。この絵画には関わらねぇ方が良い。いや関わるべきじゃなかった。俺らも、アンタらもな(訳五秒の沈黙)何っ!?(【削除済み】が引き摺られる音)(抵抗する【削除済み】の声)なんでだっ!体が動かねぇ!魔術もだ!(約二秒の沈黙)ハハッ。俺の目がイカれちまったようだ。それか暗視ゴーグルか?信じられねぇ(訳三秒の沈黙)絵画に描かれてる人間の数が(約五秒の沈黙)増えてやがる。あっ待て!俺は(【削除済み】の断末魔)(通信切断)

           絵画は近付いた人間を吸収する性質があると推定。
           以後、この絵画についての追及を禁ずる。』
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