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No.3 果実

File:13 元金剛級退魔師

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 男が事切れるのを待ってから、私達は絵画がある最奥の部屋へと向かった。情報通り、警備はあの男の一人だけだったようで、誰に邪魔される事も無く、私達は絵画のある場所まで辿り着いた。
「今回のも、回収完了っと」
「早く行くぞ。増援が来ない訳が無ぇ」

「そうですわね。もう少し早く行動すべきでしたわ」

 その声に振り返ったのと、ジョセフ君の上半身が消し飛んだのは、ほぼ同時の事だったのだろう。私の眼に映らなかった。単純に、そしてとても速い。先程の老人よりも遥かに。
「もう再生が始まっているのを見るに、やはり妖怪……いや、そちらだと魔物でしょうか?そういう類の物のようですわね」
 上層部!そして魔力ではない、何か別の力……
「退魔師か!」
「ご名答。賊にしては頭が回るようですわね」
 退魔師は魔術師と比べ、実力に差が生まれ易い。弱い奴はとことん弱いが、それは同時に、上振れればいくらでも強くなる可能性を孕んでいる。そして上層部という肩書。
 この退魔師は間違い無く、今までで最強の敵だ。だが、私の魔眼なら……っ!
「敵が目の前に居るというのに、わざわざ隙の大きい技を使うのは関心しませんわ」
「なっ!?」
 やはり速い!いつの間に後ろに……
 と、考える暇も無く、私は冷たく無機質な床に倒れ込んだ。いや正確には、体を床に押し当てられた。速過ぎる。私の眼で捉えられない程速い人間なんて初めてだ。振り返った時には残像が残っているだけ。反則だろうこんな物。
「貴女を拘束しますわ。そちらの方も、再生が済み次第拘束しますので、悪しからず」
 この位置取りでは相手を視界に入れられない。だが目を塞がなかったのは悪手だ!私は床の形を変え、無数の棘にして、退魔師へ向かわせる。
 今の隙にジョセフ君の下半身を回収して一旦退却しなければ!だが、それを相手が許す筈が無かった。背後から金属のひしゃげる音が響き、敵が再び向かって来る。
「化物か!」
「初対面で失礼じゃありませんこと?」
 一応深海だし、建物の形を変え過ぎるのは避けたいんだが……そうも行ってられない。私は足元を変化させ、自分の体を押し出し続けるような形で進みながら、少女に金属の槍を差し向ける。
「ぐ……何が……」
「話は後だ!今は退却するよ!」
 恐らく、あの少女は高速移動系の……術式だっただろうか?を持っている。そうならば、先ず弱点は無い。あったとしても、私達には突けないだろう。少なくとも、真っ直ぐに逃げようとして逃げ切れる相手ではない。
「逃がすとお思いではありませんわよね?」
「あぁ思っちゃいないさ!」
 だが逃げ切らなければならない!どうすれば良い!?このままでは追い付かれる!やはり戦うしか無いのか!?だがそれで勝てる相手ではない!どうすれば良い!?
「ソフィア……」
「何だい!?今話す余裕は無いと思うが!?」
「一旦身を隠せ……作戦……が……」
 そういう事なら任された!私は壁の構造を変え、私と少女の間に厚い壁を作った。これで若干の時間稼ぎができる筈だ。だがそれも若干でしかない。私は移動を続け、少し離れた壁の裏に隠れた。
「大丈夫かい?作戦というのは……」
「ぐっ……うぅ……」
 様子がおかしい?再生は終わっている。何か別の要因がある。毒か何かの細工か……いやそれより今は、彼が落ち着くまであの少女に見つからないようにしなければ。ここで魔眼を使うのは避けよう。気配を消して……

 その次の瞬間、私の思考は途切れた。それは首元に走った、激しい痛みのせいだろう。

 何が……ジョセフ君!?吸血鬼特有の吸血衝動か!?いや、今までそんな素振りは見せなかった……いや今は兎に角、ジョセフ君を引き剥がさなくては!このままでは死んでしまう!
「……ジョセフ……君……」
 あぁ不味い。流石にこの状況は……貧血で頭が……力も……
 持ち上げようとした腕が垂れ下がる。意識が朦朧とし、満足に思考する事すらままならなくなる。だが、そこでようやく、ジョセフ君は私の首から口を離した。私の体は倒れ、ジョセフ君の腕に支えられる。
「あ~……これは……」
「ジョセフ……君……」
 一体何が起こったのか。その言葉すら、今は口から出せそうにない。意識がどこかへ行ってしまわないよう、体に繋ぎ止めるのに精一杯だ。まぁ、ジョセフ君の様子を見れば、故意ではないと分かる訳だが。
「説明が要るよな……」
 そりゃそうだろう。私はそう口に出す代わりに、小さく頷いた。
「えっと……俺が吸血鬼の血を継いでるのは知ってるだろ?血液を飲むと、受け継いだ吸血鬼としての特性が強化され、再生能力や身体能力が著しく向上する。だがそのデメリットとして、血液を口にした一晩、ある程度追加で血液を摂取しないと、意識が飛んで暴走しちまう。さっきまでのがそれだ」
 何事にもメリットデメリットはあると言うが、流石にコレは……危うく死んでしまう所だったぞ。まぁ、説教は今度にすれば良い訳だが。
「大分行ったよな~これ……どうしよう……」
「死んでないから安心してくれ。貧血だがね」
「うぉっ。生きてた」
「作戦があるんだろう?早く実行しよう。なるべく逃げる方針で頼むよ?」
 なんでか出血は止まってるが、魔力はさっきの爺との戦闘でほぼカラだし、建物を変形させて武器に使うのも、通用しなかった。ジョセフ君ならまだしも、私では太刀打ちのしようが無い。
「アイツにゃまず勝てねぇ。ソフィアが戦えない以上、俺一人で戦う必要がある。それで勝てる相手じゃねぇよな?」
「そうだね。多分私達が万全の状態でも、彼女の前では然程の変化は無いだろう」
「ま、その為の作戦だ。ちょっと移動するか」
 そう言って、ジョセフ君は私の体を持ち上げた。
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