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No.3 果実

File:8 魔術の頂

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 アレがどういう魔術かは分からない。あの男の情報は、上層部の中で唯一伏せられていた。使う魔術が分からない以上、対策も難しい。
 だが、それも本体さえ見つけてしまえば良い。この建物の造りは理解し切っていないが、私も多少は索敵の心得がある。ジョセフ君が連れていた彼程の性能ではなくとも、索敵範囲を絞って移動し続ければ、気配を隠した魔術師一人を見つける事はできるだろう。
 私の索敵範囲は私を中心に半径十メートル。その程度の範囲であれば、きっと敵に先手を取られる。相手にこっちの手はバレている。私の攻撃が正面から通じるとは思えない。まぁ、正面からの話だが。
 問題はタイムリミットだ。初手で決められなかった以上、他の魔術師が増援に来る。その前に、あの男の本体を叩き、絵画を回収し、撤退する。ワーカホリックもびっくりなハードスケジュールだよ。
 だが光明はある。あのレベルの魔術を使った状態で、且つ魔力を抑えているんだ。そう遠くには居ない筈。しらみつぶしにはなるが、それでも……

「時間が掛かり過ぎだな」

「ぐっ!」
「ほう。致命傷は避けたか」
 間一髪、身を翻したのが功を奏したようだ。腕を掠めたが、これ位ならどうとでもなる。それよりも早く、魔眼を……
「視界を潰されれば魔眼は使えない。その特性は分かっているだろう?」
 何かを投げ付けて来た!避け……られない。これは砂か。視界を潰して、魔眼の使用を封じて来た。
 向こうは私を殺すつもりで来る。なら狙われるのは、当たれば致命傷となる頭か心臓。致命傷にはならないように頭の位置をずらす。タイミングがずれれば死ぬ。魔術が発動する一瞬を逃すな。詰まり……今!
「ぐっ……クソ……」
「やはり目が良い。魔眼の副次的効果だろうか」
 今度はしっかり当たった。足に風穴が空いている。この程度であれば魔眼を使えば塞げる。まぁ、それができればの話だが……
 これだから格上との正面戦闘は嫌なんだ。勝てるか勝てないかは完全に運任せ。初手で決められなければほぼ確実に負ける。そして、勝てたとしてもその後が面倒になる。
「終わりだな」
「そうだね。言い残す事なら無いよ」
 この状況でも、ある程度の距離を置き、私の視界から外れる位置に立っている。私が使える魔術が一種類しか無い事に気付いているんだろうか。
「殺す前に一つ、聞きたい事がある」
「何かな?」
「あの男とは、どういう関係だ?」
 そんな事を聞きたいのか。だがまぁ、これは悪くない展開だ。少しでも時間稼ぎをした方が良い。この男が、ほんの少しでも緩むように。
「何故、そんな事を?」
「あの男、私が放った不可視の弾丸を弾いていた。アレをしなければ、私の分身ともやり合えていただろうが……お前を守る為だ。あの男が負けたのはな」
 へぇ。道理で攻撃が飛んで来ない訳だ。ジョセフ君が、私を守る為に……ねぇ。そしてそのせいで、彼は負けた。もしそれが本当なら、この状況はもう覆しようが無い。さてどうしようか……

「何が可笑しい」

 後頭部に何か、金属のような物が押し当てられる。今の言葉は私に向けられていたんだろうか。周りに人は居ないし、どうやらそのようだ。可笑しい?何故?
 あぁそうか。どうやら私は、ほんの少しだけ笑ってしまっていたらしい。確かに、何が可笑しいんだろうか。この状況?ジョセフ君が私を守ったという事実?まぁ、今はどうでも良いが。
「あぁそうだね。可笑しいとも。凄く。凄く可笑しい」
 この状況は使える。向こうは警戒こそ解いていないが、今は興味関心の方が勝っているだろう。それなら、使わない手は無い。私は上着の内側に手を差し込み、そこにある物を掴む。
「何故?」
「今の言葉には、一つ、確実に間違っている部分がある」

「ジョセフ君が、魔術師相手に負ける訳が無いだろう?」

 私は掴んだそれを構え、引き金を引く。鉛の塊が発射され、それは一瞬の内に、男の頭部を貫いた。体勢は崩した。魔術で治療しなければ死ぬが、魔術で治療すれば魔眼を使える暇ができる。頭の中弄繰り回して……
『火薬の使用が検知されました。隔壁を展開します』
 火薬の使用を検知して隔壁展開!?神秘学者が造ったにしてはハイテク過ぎだ!しかし、これは悪くない。一旦傷を塞いで、ジョセフ君と合流……は難しいか。
 なら、魔術師の頂点とも呼べるだろうあのクソッ垂れと、一対一で打ち勝とう。大丈夫。どうせなんとかなる。


 だ~クソ。なんだアイツ。やってる事やばいだろ。正拳突き一発で内臓破裂させて来るし、こっちの攻撃全部躱して来るし。おまけに距離取れば頭とか心臓とかに平気で穴開けて来るし。
 だがまぁ、アイツらが輸血パック持っててくれて助かった。これで吸血鬼としての能力が多少高まる。多少の余裕ができた訳だ。
「ありがとよ。助かった。生きてたのを喜ぶ暇は無いから、早速作戦を……」
「ごめんな若。それは無理なんだ」
 「は?なんで」……と言いながら振り向いた俺の目に映ったのは、半透明で宙に浮く、兄弟達の姿だった。
「お前ら……まさか……」
「あぁ。俺らはもう死んでる……と思う」
「ここが結界の内側だからだろうか、少しだけ残れた」
「だけど、それももう無理そうだ」
 待て。待て待て待ってくれよお願いだから!一瞬でも喜んだ俺の気持ちを返してくれよ。確かに仲間の死は初めてじゃない。それでも、死んだと思ってた仲間が実は生きてたなんて経験無いんだよ。
 そうだ体!器さえあれば、そこに魂を戻す事で生き返ったり……いや、あの外傷じゃ、真面に器として機能しない。じゃあどうすれば……
「じゃあな若。元気で」
「ソフィアさんによろしくな」
「ちゃんと思いは伝えろよ?」
 待ってくれ!そう言葉にする事はできず、ただ手を伸ばすだけだった。それは虚しく空を切るだけで、既に死んでいたアイツらの体へは届かなかった。
 あぁ……そうだな。うん。そうだ。こうなるのが必然だった。一瞥もせず、俺の頭を寸分違わず貫くような奴相手に誰も死なないなんて、そんな話がある訳が無い。あぁ~もう……

「……最悪……」
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