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No.3 果実

File:6 突入

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 あれから三週間。どうやら十分な情報が集まったらしく、ジョセフ君は突入の判断を下した。
「……早過ぎないかい?」
「無効は上層部を警備に配置した。敵は強いが、上層部が出張ってくる所を見るに、奴さんの外への対策は完璧じゃねぇ。下手に時間を使うのも悪手だ」
 上層部が警備……逆に言えば、警備に割り当てられた老人を倒せば、後は簡単に終わるという訳だ。まぁ、それが難しい訳だが。
「策は?」
「幸い、誰が警備に当たるかは把握できてる。こっちのターゲットが警備に当たる時に攻め込む。奴は近接が強い訳じゃねぇし、上手く奇襲を仕掛けられれば……行けると思う」
「よし。乗った。それで行こうか」
 ジョセフ君のターゲットとやらがどこまで強いかは分からないが、近接が弱いというのは僥倖だ。それならまだやりようが無い訳では無さそうだ。まぁ、ミッシェル以上の実力者である事は確実だろうが。
「持っている情報を共有しておこう。それと作戦を」
「よくここまで調べたね」
「頼りになる情報屋が居るんでね」
 できるなら、その人と直接知り合いになりたい。絵画の情報を集めるにも便利だろうし、情報屋という人種も面白そうだ。どんな色をしているんだろうか。気になる。きっと面白い絵になる。
 しかし、一つ気になる所……と言うか、不安要素がある。
「ジョセフ君。一つ気になる所があるんだが?」
「何だ?」
「ここには『複数人で警備に当たられたし』と書いてある。詰まり、君のターゲットが味方を呼んだ場合……」
「それは大丈夫だろう。ローテーションを組むようだからな。手順が複雑なだけに入るのも一苦労だ。連絡させず、且つ手早く事を済ませれば、加勢も来ないだろう」
 なら良いんだがねぇ……まぁ、作戦も割と効率が良い。初手さえ上手く決まれば、後は勝ちがほぼ決まるような作戦だ。これ以上の作戦も無いだろう。この作戦で実行するしか無いという訳か。
 よし。覚悟は既に決まっている。この作戦の要はやはり私の魔眼だ。いつも以上に気合を入れなければならないだろう。
 だが全ては絵画の為。命を賭ける位はやってやろう。


 深夜。太平洋沖が丁度夜になる時間帯に、私達はエヴァラックの盾に侵入した。声を出す事ができない為、会話は全て手話で行う。
『ここからは分かるのかい?』
『索敵系の奴が居る』
『俺です』
 やっぱり人が多いっていうのは便利だな。役割を分けておけば、それぞれに割り当てられた役を極めるだけで十分になる。私は基本一人でやってるから、そこら辺は羨ましい。まぁ、今は一人でも足りてる訳だが。
『見つけました。手筈通りに』
『行くぞソフィア』
 はいはい。私が居ないと成功のしようが無いからね。私は彼等の後を追う形で、だだっ広い鉄の要塞の中を進んで行く。
 暫く歩くと、戦闘を歩いていた索敵用の男性が『止まれ』とハンドサインをした。どうやら、ジョセフ君達のターゲットが居たらしい。
『ソフィア』
 分かってるよ。私は両目に魔力を集め、魔眼を使う。相手の体は十分に見えている。この状態なら、魔眼が効かない道理は無い。呆気無い。これなら何事も無く……
 そう考えていた私が馬鹿だった。協会上層部。その気になれば世界征服すら可能な組織の頂点を、私達は甘く見過ぎていた。気付けば、何かが私の頭を掠め、同時に、複数の人間の頭部を貫いていた。

「ふむ。一人残した上、魔術の発動が僅かに遅れた……鈍ったな」

 一瞬で血の気が引いた。それは頭部の痛みからでも、不意打ちした筈が不意打ちされたからでもない。目の前の老人の目が、真っ直ぐ私を捉えているにも関わらず、その男が、真っ直ぐ立っているからだ。
「魔眼とは、珍しい魔術を使う娘だ。だがなぁ……そちらの探知は、余程粗末と見える。もしその眼が俺を捉えていたならば、俺ももう少しだけ動いたんだがな」
 分身か。魔術で作られた分身。魔力を感じる。だが、破壊できないのに実体がある。触れられる分身は見た事があるが、分身なんて、到底あり得る物じゃない。
「魔術とは一つを極めるだけでは足りん。複数の魔術を組み合わせ、操る事で、ようやっと、頂点と呼べる域に達する……魔眼はそれが難しいから衰退した」
 上層部を嘗めていた。訳は分からないが、こんな芸当が可能ならば、分身を満足に操れる範囲も計り知れない。そして、この分身を相手にしても無駄だ。何体出て来ても不思議じゃない。最善は、この分身の本体を見つけ出して、なるべく早く殺す事。
 そして今は夜。夜ならば、手の打ちようはある。詰まり今私にできる事は……逃亡だ。私は来た道を急いで引き返し始める。まぁ、相手が許す訳も無いんだが。
「逃亡か。良い手だ。相手が俺でなければな」
 先程私の頭を掠めた『何か』が、無数に飛んで来る。壁にぶつかる様子も無いが、確実に私を捉えて来る。すんでで避けてはいるが、それでも、服を切り裂き、皮膚を掠めて来る。
「よく避ける。やはり、良い目を持っているのだな」
 とは言え、このままでは殺されてしまう。だが、私には深夜限定で心強い味方が居る。
「後は頼んだよバットマン!」
「誰に向かって……何っ!?」
 老人は、突如背後から振り下ろされた斧に驚愕しながらも、それを丁寧な動きで避け、反撃する。斧を振り下ろしたジョセフ君はよろめきながら、しっかり受け身だけを取っていた。
「俺様だクソジジイ!今すぐぶっ殺してやる!」
「魔物……吸血鬼か!」
 頼んだよジョセフ君。なるべく長く時間を稼いでくれ。その間に、私は唯一にして最大の障害を排除して来る。
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