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No.2 詠嘆

File:6 魔女の絵画

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 魔女の絵画。世界に散らばっているとされる百枚のそれらは、魔女が描いた物らしい。そのせいか、それらの絵画には魔法の力が込められており、百枚全てが集まる事で、その力を自由に扱えるようになるそうだ。
 魔法は文字通りの『奇跡』だ。もし願えば、世界に存在する、権力、武力、財力……その全てを手に入れる事だって容易らしい。それは詰まり、どんな願いも叶うという事だ。
 それは恐らく事実なのだろう。私が今までに獲得した魔女の絵画、延べ三十六枚。それら全てには、微弱ではあるが魔力と、得体の知れない『何か』が込められていた。協会の中でも野心のある者達が、こぞって魔女の絵画を集める理由を、少し理解できた。

「しかし、これを軍事利用しようとは思えないんだよな……」
 そもそも、価値ある絵画を、鑑賞する以外の目的で使う事が間違っている。そりゃ資産として持つ人間も居るだろうが、それでも保有している間は、それを鑑賞する筈だ。ま、あくまで私の主観な訳だが。
 この世界で魔法を使える者は、。中世ヨーロッパを中心に行われた『魔女狩り』で、全ての魔法使いは息絶えたとされている。その他の地域でも、魔法使いなんて存在、一般人は勿論、魔術師から見ても異端だった為、迫害や人体実験の末、殺されたという。
 詰まる所この絵画は、それより前に書かれていながら、完全な形で現代まで残っているという事だ。魔法の力がそうさせたのか、それとも絵画を守る者達が居たのか……ま、ここで考えた所でどうにもならない訳だが。
 私は少しばかりの空腹を覚え、部屋の中心に置かれた椅子から立ち上がる。神隠しの外に出てから、少し体を伸ばす。少しばかり気分が良いな。冷蔵庫の中には……何も無い。だけど、昨日買ったドーナツの残りならある。うん。昼食はこれで良いか。
「栄養バランスは悪いが、補給には十分だろう。うん」
「そうだね。緑さえあればね」
「そうだな。それでなんでここに居るのかなエラニ?」
「えへへ」
「ははは」

 突然話は変わるが、私は非力である。しかし、それは魔術師から見ればの話だ。私もある程度鍛えてはいるので、目尻の横に指を置いて、握るように力を込めれば、多少痛いらしい。そして私は、不法侵入という犯罪に手を染めた友人を止めるという、れっきとした大義がある。詰まり……
「痛い痛い痛い痛いギブギブギブギブ!」
「前に私は言った。私の家に勝手に入るなと」
「ごめん!ごめんって!ほんとごめん!マジで謝るから!頭がアコースティックギターの形になっちゃう!」
「私の握力じゃ、痛いだけで歪みはしないさ。もしそうなったら、ネックとヘッドを付けてあげるよ」
 私は一切の罪悪感を持たず、こういう事ができる。エラニが私の腕をあまりに叩くので、私は最後に一際力を込めてから、エラニの顔を離した。
「絶対歪んだ……顔がひしゃげた……」
「そんな面白い事にはなっていないから安心すると良い」
 神隠しから出て来たタイミングを見られてさえいなければ良いんだけど……ま、大丈夫か。神隠しは出入口から遠い場所に設置してるし。そこを見られたらどうしようも無い訳だが。
「いつから居たんだい?」
「ソフィアに頭の形変えられる十三秒前……」
「変わってないからいつの事か分からないな」
 その程度の時間なら、神隠しから出て来る所は見られていなさそうだ。なら大丈夫か。
「で?何の用かな?」
「友達の家に遊びに来ただけだよ……」
「それで、私を驚かせようと不法侵入と……」
 彼女が悪戯好きなのは知っていたが……それでも、不快な物はやはり不快だ。とは言え、遊びに来た客に何もせず帰すのは、少しばかり私の美学に反する。私は一つの溜息を吐いてから、ドーナツが並べられた神の箱を机の上に置いて、エラニの頬を撫でた。
「……何がしたい?」
「あ~……また所蔵品見せてよ」
「それ位なら良い。ドーナツは後にしようか」
 彼女が家に直接訪ねるのも、少し珍しい事ではある。多少もてなしてあげるのも良いだろう。私はエラニの手を引きながら、リビングの扉を開けた。


 何故ボスは、ソフィアと関わる事を止めようとするんだろう。ソフィアは少しもおかしくはないのに。
「ハッ。愛しのソフィアちゃんの事で頭が一杯か~?兄弟」
「冗談言うなよミゲル。アイツは確かに良い奴だが、制御不能の暴れ馬だ。いや、馬の方がマシかもなぁ?」
 実際、ソフィアは誰かの言う事を聞く性質じゃない。もし魔女の絵画なんていう餌が無ければ、アイツは俺達と手を組む事は無いだろう。それに、『手を組んでいる』なんて言ったが、実際の所は互いに利用し合っている状態だ。
 俺達にとって邪魔な奴らが魔女の絵画を手に入れた時に限り、それを餌にソフィアを利用してソイツを消す。ソフィアはその一件の見返りとして魔女の絵画を手に入れる。互いに相手の利益なんて考えていない。自分の利益だけを見据えている状態。
「言っとくがなジョセフ。オヤジがあんな言うんだ。アイツと関わると、何か悪い事が起こるだろうな」
「占いを信じる性格だったかアンタ?」
「オヤジには先見の明がある。そのお陰で何度俺らが敵の網から逃れたか……」
 分かってる。分かってんだそんな事は。ボスの言う事が空回った事は無い。それは俺が生まれる前、まだボスが鉄砲玉だった頃から変わっていないらしい。天性の才という奴だろう。
 けどなぁ……やっぱソフィアを諦め切れねぇ。サッカーや野球のジャッジのような物だ。その理解しても、それが起こった事には納得していない。どうした物だろうか……
「ま、そんな捨て犬みてぇな顔すんなや。俺から見たお前は、年の離れた兄弟……従弟……甥?まぁそんな感じだ」
「喧嘩なら買うぞ」
「おぉ怖ぇ怖ぇ。ま、そんな可愛いお前の恋愛相談に乗ってやる事位はできんだ。ほら。おじさんに胸の内を明かすと良い」
 そう言うならそのにやけ面を止めろよ。俺は小さく溜息を吐いてから、「結構だ」と言って、椅子から立ち上がった。
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