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No.2 詠嘆

File:5 本職

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 ああなんて素晴らしい。ノーベル賞を受賞した科学者の気分だ。一つ手に入れるだけでも大変な魔女の絵画が、この一か月で二枚も手に入るだなんて!
「ああ主よ……心の底から感謝致します」
「主は犯罪に手ぇ染めた奴に感謝されたくねぇだろうさ」
 そうかも知れないけど、こういうのは気持ちだと思うんだよ。とは言っても、まぁそれはその通りな訳で……
 神は実在する。らしい。このような曖昧な言い方になるのは、私自身、神という存在を見た事が無いからだ。しかし実在する。ここ何十年も地上で神と接触した人間は居なかったそうだが、数年前の日本に襲来した大災害『百鬼夜行』にて、四柱の神が地上に降臨した事で、神の存在が決定的な物になった。まぁ、信憑性は微妙な訳だが。
「それはそうだが、少しは感謝しても良いだろう?」
「ま、止めやしねぇけどよ。それより、少し派手に動き過ぎた。今後しばらく接触を断つ。次にこっちから連絡するまで、何があっても連絡して来るんじゃねぇぞ?」
「分かってるよ。そこまで馬鹿じゃない」
 たった一か月で二つの魔女の絵画が行方不明、そして襲撃した疑いがあるグループも共通しているとくれば、流石に動きを制限するしか無いだろう。私は普段から魔力を隠しているとは言え、二つの現場に遭遇している。何かしらの形で、ミッシェルが協会に連絡していないとも限らない。まぁ、もし彼女が連絡していた場合、私達は今頃地下牢かあの世に居るだろうが。
 しかし、暫く動けないのか。それなら本職の方に力を入れるか。近頃オークションがある筈だ。何か良い物があれば落札しよう。
「私は本職に力を入れるから大丈夫さ。ジョセフ君は?」
「暫く大人しくしなきゃだしな……カフェの経営でもやるか……」
「あ、あれ本物だったんだ」
「物件は買った」
「流石頭の割に金持ち……」
「悪口だからなそれぇ!」
 良い話を二つも運んで来てくれたのだから、少しお礼でもしようかと思っていたんだけど。ま、それは別の機会にするしか無さそうだ。深い繋がりがあるという事が分かるだけで相当面倒な事になるだろう。それは避けたい。ただでさえ美術館から客足が遠のいて来てるんだ。これ以上は……これ以上は……っ。
「じゃ、またな」
「そうだね。また」
 ジョセフ君は速足で私の家を出て行った。外で魔力の反応がした辺り、魔術で移動したんだろうな。そういうのも避けた方が良いんじゃないだろうか……まぁ、そこは然程気にする所でもないが。どうせ探知されない仕掛けでもあるんだろう。
 さて。私は明日の予定でも練るかな。友人達とも会えると嬉しいんだけど……ま、それは高望みか。もし会えたらラッキー程度に思っておこう。


 翌日。私はオークションの会場に来ていた。金持ちが集まるとか、会員制とかではないが、所蔵品を増やしたり、資産としての絵画を集めるのには十分な場所だ。私はお気に入りの腕時計を見て、小さく呟く。
「少し……早かったかな」
 始まるのは十五時だが、十三時半に来てしまった。知り合いにでも会わないと時間を持て余しそうだ。本格的に探すか。
 う~んにしても、少し懐かしいような気がする。長い事新しい絵画を購入してなかったせいだろう。まあ購入していないだけで、所蔵品は増えている訳だけど。他人に貰ったり強奪したり。
 不意に、視界が無くなった。いや無くなったと言うより、誰かの手で覆われた。同時に、背中に薄く体温が伝わって来る。
「だ~れだ」
 このセリフはもうお決まりで、これをやる相手もお決まりだ。私は視界を覆う両手の手首を掴み、それを退かしながら振り向く。そこには、いかにも悪戯好きといった風情の少女が立っていた。
「やぁ。エラニ」
「相変わらず淡泊だねソフィア。白身魚ばっかり食べてるの?」
「薄味な反応なのはいつもの事だろう?」
 私がそう答えると、エラニはその鈴を転がすような声で笑った。こうして見ると、顔も体も整っている。まぁ、実際は悪戯ばかりの悪ガキな訳だが。
 彼女はエラニ・アーキボルト。とある会社の社長……のご息女だ。彼女自身は、投資や会社経営こそしないが、高名な音楽家として結構な金を稼いでいる為、僅か十八歳でちょっとしたお金持ちだ。
「ソフィアに会えるなんて嬉しいな。今度ランチでもどうかな?あ~でも、大事なタカラモノを愛でるので忙しいかな?」
「私も時間ができたんだ。ランチ程度なら付き合ってあげるよ」
「ほんと!?二言は無いよね!?」
「ああ勿論。大人だからね。子供との約束は守るさ」
「……子供扱いした事は見逃してあげるよ」
 ふむ。やはり彼女の頭でもこの程度は分かるか。なら次はもう少し、考えて子供扱いしなければ。あまりやってしまうと、彼女がいじけてしまう。まぁ、私はそれでも構わないが。
「それより、開始まで時間空いてるよね?少しお話しない?」
「良いとも。私もあくびを堪えていた所なんだ」
 余り家や美術館から出ない私と違って、彼女は人との付き合いが広く、人生経験も豊富だ。お陰で、彼女より六つ年上の筈の私の話は、彼女の話よりも面白くない。詰まる所、良い暇潰しという訳だ。窓際の置かれた椅子に座った私達は、互いの身の回りの話をしながら、暇潰しをした。

 その後、話に夢中になった結果、会場へ行く時に慌ててしまったのは、また別の話。
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