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第七話 里を守れ!メルの決意 ~チャプター1~
しおりを挟む「起きなさい、ユウヤ!クエストいくわよ!」
いつものようにメルがリーナをつれて起こしに来たが―――
「う…うう……」
頭が痛い。体が重い。声が出ない。
「どうしたのユウヤ?大丈夫?」
昨日のスライム退治が終わって以降、体調がどうも優れない。
やはり水没した後まともに身体を温めたりしなかったのはまずかっただろうか。
リーナの治癒魔術でもあまり効果が出なかったので、医者の診察を受けることに。
「―――体力と精神的な疲労が溜まってるところで急激に身体を冷やしてしまったことで、抵抗力が弱まったのだろうね。つまり…」
「つまり?」
「風邪、だね。」
どうやら、この世界でもウイルス性の感染症は存在するようだ。リーナの魔術の効果があまり出なかったのは、単なる毒の治癒とは違う技術を要する為らしい。
「まぁ、薬飲んで2、3日休めば回復すると思うよ。」
ということで、また数日クエストを休むことになってしまった。
***
「ユウヤの看病は私がやるから、メルは自由にしてていいよ。」
そう言われて、私は急にヒマになってしまった。
最近はクエストのない日はリーナについてもらって魔術の練習をしていたけど、そのリーナもいないし一人で練習しても上達できそうにない。
とりあえず、今日は街ブラでもしようかな。
「おや、メルちゃん。今日は一人かい?」
そう話しかけてきたのは露店街の肉屋のおばちゃん。クエストに行くときに持っていくマンガ肉サンドはいつもここで買っている。
「実は―――」
「何だい、ユウヤくん風邪引いちまったのかい?これ持っていきな、お見舞いだよ。」
そう言われおばちゃんから折詰を渡された。
「あ、ありがとう。」
私はまた街ブラを続けた。
「おう、メルちゃん!今日も別嬪さんだね!リーナちゃんとユウヤの坊主は一緒じゃないのか?」
今度は果物屋のおじさん。さっきと同じようなことを聞かれたのでまた答えると…
「そうかい、じゃあこれ持ってってあげな、元気でるぜ!」
今度はリンゴをいくつか貰った。
その後も街ブラを続けていると―――
「ユウヤが風邪!?」「コレ持って行って!」「お大事にね!」
寄る先々でお見舞いの品を渡された。
***
街ブラしてなお時間を持て余した私は、自然とギルドへと足を運んでいた。
「お疲れ様です、メルさん。…えーっと、そのお荷物は?」
ギルドに現れた私は、途中で貰った大量のお見舞い品を風呂敷に包んで背負った状態であった。
「そうでしたか、ユウヤさんが…。お大事にとお伝え下さい。」
「うん。それで…」
いつも冒険者たちで賑わうギルドだが、今日はなにやら物々しい雰囲気が漂っている。
「何かあったの?」
「あ、そうでした!メルさん達にお伝えしなければならないことが―――」
「おや、今日はメル一人か?」
そう言いながら現れたギルド長。私はもう今日何度目かわからないユウヤの体調の事を話したあと、今ギルドで何が起きてるのかを尋ねる。
「実はな、近頃トーリ湖周辺で闇ギルドのハンターと思しき連中の目撃が多く寄せられてな。」
「トーリ湖!?もしかして―――」
「ああ、奴らにラミアの集落が狙われている可能性がある。」
「そんな…。」
「そこで、王国と冒険者ギルドが協力して闇ハンターを一網打尽にする作戦が立てられてな。今日の夕方、ここからの参加者が現地に出発するところだ。」
「今日……」
「ユウヤ達も当然来てくれるものと思っていたのだが…。」
「私、行く!私一人でも行かなきゃ!」
「君ならそう言ってくれると思ったよ。だが…」
「え?」
「君は、故郷に帰るために冒険者になったはずだ。作戦の後どうするかは考えてはいるのか?」
「それは…。」
「出発まで、君の仲間としっかり相談するといい。その上で参加してくれるなら、時間までに町の東門へ来てくれ。」
「…うん。」
***
「―――そんな!ラミアの里が!?」
「う゛…行か…なきゃ…!」
「ダメだよユウヤ!寝てなきゃ…」
話を聞いたユウヤが起き上がろうとしたが、リーナに制止される。
「もちろん私も行かなきゃって思うけど、このままユウヤを置いていけないし…。」
わかってる。私にも優しくしてくれるけど、リーナが一番大事にしてるのはやっぱり…
「…大丈夫だよ。リーナはユウヤに付いていてあげて。私一人で行くから。」
「ごめんね。それで、メルは…」
「なに?」
「…ううん、まずは里を守らないとだね!ユウヤが治ったら私たちもすぐ追いかけるから!」
「ありがとう!」
私が部屋を出ようとしたとき―――
「……メ…ル…」
「ユウヤ?」
「…気を…付けてな…。」
「……うん!」
そうして私は集合場所へと向かった。
「……。」
「どうしたの?ユウヤ。」
「……しにたい。」
「……ダメ。」
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