異世界でもしにたい ~平凡転移者の異世界暮らし~

Tom Oak

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第四話 二人のお姫様 ~チャプター5~

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「おかえりなさいませ。バルコニーにてお茶のご用意が出来ております。」

お茶会の席が用意されていたバルコニーからは、アシア湖が一望できた。こんな景色を独り占めできるのは上流階級の特権だろう。

俺は当然のようにノーラ姫に「あんたはそこで見張りでもしてなさい」とバルコニーの入り口付近に追いやられる。まぁ、あの場に男一人が混じってもそぐわないだろうからかえって気が楽だ。
そうして四人のセレブ女子(うち二人は似非エセだけど)によるお茶会が始められる。

                   ***

「わぁ、ケーキおいしそう♪…ですね。」
「好きなだけどうぞ。あと、敬語ももういいわよ。」
「え?どうしてですか?」
「リーナも、メルも。アタシたち、もう友達でしょ?変な気遣いはいらないわ。」
「そ、そんな……私なんかが……。」
「そうですよ。私なんかラミア…モンスターなのに、姫様と友達なんて…。」
「あら。わたくしは魔族、しかも魔王の娘ですがノーラさんとはお友達ですよ。」
「そうよ。種族とか身分とか関係ないわ。アタシが友達って言ったら友達よ。」
「……本当に?」「いいの?」

「アタシ、嬉しかったのよ。年の近い子が周りに居なかったから、貴方たちが護衛に来てくれたのがね。」
「おや?わたくしとお友達になった時は嬉しくありませんでしたの?」
「ちょ、変なこと言わないでよシア…。貴方だってアタシとそんな変わらないでしょ?」
「実はわたくし、結構年上なのですよ?」
「へ!?そうなの!?」
「冗談ですわ。」
「もう…。」

                   ***

「はぁ……。」

午後の日差しに照らされながら揺れる水面を、茶会を楽しむ四人越しに眺める。
見張りとは言いつつただ立ってるだけの、さっきまでの怒涛の荷物運びと比べると簡単なお仕事である。

…とは言うものの、やはり何もしていないと時間が経つのがとても永く感じてしまう。

(あいつら、一体何を話してるんだろう……。)

気にするつもりなどなかったが、こうもやる事がないとな…。

「あれほど楽しそうになさるノーラ様、久しぶりに拝見しました。」
「マリークレア…さん?」

マリークレアさんが話しかけてくれた。俺が手持ち無沙汰にしていたのを見かねて気を遣ってくれた?

「現在、姉君であるローゼリア殿下は行方不明になった聖騎士エドリック様の捜索にかかりきりであり、弟君のアートル殿下も通われている騎士学校の卒業試験を控えてらっしゃいます。それ故、ここ最近のご公務のほとんどをノーラ殿下おひとりでこなしており、漸くお休みを取ることが出来たのです。」

なるほど、王族も意外とブラック勤務なのだろうか…

「また、ノーラ様がいつもこちらに休暇にいらっしゃる際にこのような護衛クエストをギルドに依頼していたのですが、当初はただ王家との繋がりを持ちたいだけの方々がいらっしゃる事が多く、それに嫌気がさしたノーラ様が無理難題を押し付けるようになり、次第に誰もこの依頼を受けなくなってしまったのです。」

そうだったのか、今日の俺の仕打ちは先人たちのお陰ですかい。
いや、あのパシらせっぷりは素だろ、絶対。

「ですので今回、シアリーゼ様の他に歳の近い女性の方々が護衛にいらっしゃるとお聞きし、今日の事をとても楽しみにしていらっしゃいました。」

…まぁ、姫様も年頃の女子だもんな。

「本日は依頼を受けていただき、本当にありがとうございます。」
「…お礼ならあの二人に言ってやってください。あいつらがこのクエストを受けたいって言ってきたので。」

それに俺自身は受けるつもりはなかったしな。

「はい。ユウヤ様もお疲れ様です。」

                   ***

「―――そうだったのですか。メルさんも大変でしたね。」
「メルを奴隷にだなんて許せないわ!闇ギルドも奴隷商も絶対に潰してやるわよ!」

「…私、あの時見つけてくれたのがユウヤとリーナで本当に良かったと思ってる。他の冒険者だったら、私あのまま退治されてたかもしれないし。」
「メル……。」
「それに、姫様たちとも出会えたし、案外悪いことだけじゃなかった…かな。ずっと里に居たら、こうしてみんなで買い物したり、お茶することもなかったし。」
「…そうね。望んだ形ではなかったかもしれないけど、ポジティブに考えるのはいい事だと思うわ。でも闇ハンターは絶対潰す。」
「早く故郷に帰れるようになれるといいですわね、メルさん。」
「……ありがとう、みんな。」

「―――で。リーナはなんであんなヘタレと一緒にいるわけ?」
「あ、それわたくしも聞きたいですわ。」

メルも首を縦に振る。

「うーん、ええっとね―――」

リーナが話し始めようとした時だった。

「皆様。そろそろお時間でございます。護衛クエストはここまでになります。」
「あら、もうおしまい?いいところだったのに…。」
「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね。」

どうやらクエストはここまでのようだ。楽しい時間を過ごしていたウチの娘二人には悪いが、やっと解放されると思うと俺は安堵していた。

「でも、大丈夫なんですか?これからが護衛が必要になるような時間だと思うんですけど……。」

リーナがそれとなくマリークレアさんに尋ねる。

「もうじき王宮からの近衛騎士が護衛のために到着する頃合いなのです。このクエストはそれまでの間の護衛をお任せする形となっております。」

「まぁ、ホントに形だけなんだけどね。なにせ―――」

話に割って入ってきたノーラ姫。すると彼女は湖の方に掌を差し向ける。そうするとどこからか強い風が吹き始め、それらはノーラ姫の掌の元に段々と集まっていった。

「オイオイオイ、なんなんだ!?」

集められた風は玉のような形を作り、ノーラ姫はその風の玉を湖に向かって勢いよく発射した。
風の玉が湖の中心に着弾すると、そこから大きな水柱が吹き上がる。大量の水しぶきが降りそそぎ、やがて湖には大きな虹がかかる。

そんな景色を背に、ノーラ姫はこう言い放った。

「―――アタシ、めちゃくちゃ強いから。」

                   ***

「それじゃあ、今日はホントにありがとう。アタシ達はしばらくここに滞在するから、いつでも遊びに来てね。メルとリーナなら大歓迎よ。」
「ありがとう、ノーラ様。」「またきっと来るね!」

「アンタも…また荷物持ち頼むわね。」

…勘弁してください。

「まぁそうでなくても、貴方たちとはまたすぐどこかで会えそうな気がするわ。それじゃあね。」

最後に挨拶をした後女子たちは別れを惜しみ、俺は鬱屈とした思いを抱えながら帰りの馬車に乗り込んだ。
まったく、とんでもないお方に目をつけられてしまったようだ。

……ああ、しにたい。

                   ***

「Zzz……」
「メル、寝ちゃったね。」
「よっぽど楽しかったんだろうな。」

西日に照らされる中を馬車が駆け抜けていく。

メルは今まで里に帰りたい一心で気を張り過ぎていたところもあったかもしれない。今日の事がいい息抜きになってくれればいいけど。

「ユウヤもお疲れさま。ごめんね、私たちほとんど遊んでばっかで…。」
「まったくだ。俺は今日荷物しか運んでねぇよ。」
「だから、はい。お詫びにコレあげるね。」

そう言ってリーナは小さな袋を渡してきた。

「これは…?」
「さっきのお茶会に出てたお菓子だよ。残ってたのを貰ってきたんだ。」
「お、おう…」

袋を開けてみると中にはクッキーが入っていた。俺はそこから一つ取っていただく。

「……うまいな。」
「でしょ~。」

ささやかな労いの品を堪能しながら、馬車に揺られ夕闇の家路を行く。
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