異世界でもしにたい ~平凡転移者の異世界暮らし~

Tom Oak

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第一話 死のうとしたら異世界に連れてかれた ~チャプター5~

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冒険者登録が終わってギルドを出たらすっかり夕方になっていた。

「じゃあ宿とって、そのあとゴハンにしよっか。」

宿はギルド加入者が安く泊まれるところがあると受付の人に教えてもらった。

「いらっしゃい。」

気立てのよさそうな女将さんが出迎えてくれた。

「二部屋おねがいします。」
「あいよ。お二人さん、冒険者になったばっかりかい?」
「あ、はい。俺の方はまったくの初心者で…。」
「そうかい。これからいろいろ大変だと思うけど、頑張りなよ。」
「あ、ありがとうございます。」

「よし、部屋も取れたし飯食いに行くか。」
「おっけー。今日は私が奢っちゃうよ♪」

年下の女子に奢ってもらうのもどうかと思うが、本人がノリ気なのでお言葉に甘える事にしよう。

「あ、ここがいいかな。」

食事処を探しながら町を歩いていると、リーナがよさげな店を見つけたようだ。
入ってみると、これまたファンタジーものでよくあるような大衆酒場だ。

空いている席に座って注文を受けてもらう。

「えーっとね…あ、ユウヤはお酒飲む?」
「いや、お酒はちょっと…」
「じゃあ、ブドウのジュース二つと…、あとこれお願いします。」

ファンタジー世界の料理はよくわからないので注文は任せておこう。
先に飲み物が来て乾杯した後、いよいよメインディッシュが来て―――

「こ、これは!?」
「これはね、このあたりの名物なんだけど、マンガネシアっていう象の…」

リーナが色々説明してくれていたが、俺は目の前の品物にクギ付けであまり耳に入ってこなかった。
大きい皿に盛りつけられた円筒形の巨大な肉の塊、その中心を貫通する太い骨。
まさに…

「…略して、マンガ肉だよ!」
「…マンガ肉。」
「うん、マンガ肉。」

何度も呼びたいそのまんまなネーミング。
まさかこれを食せる日が来ようとは。
さっきまで死にたい言うてた俺が思うのもなんだが。

―――生きてて、よかった。

「さあ、食べて食べて!そのままガブって行っちゃって!」
「じゃあ…、イタダキマス!」

両手で骨の端を掴み、思いっきり齧り付く!

「…ウマい。」

まさにそれ以外の語彙を失うくらいの感動だった。食リポなんてしてる余裕もないくらい、とにかく夢中でむしゃぶりつく。
リーナは「ちゃんと私の分も残しておいて」と言ってはいたが、さすがに一人で食える量ではなかったので後でちゃんと切り分けたところまでは憶えがある。それでも感動のあまり食事中の記憶はおぼろげで、とにかく「ウマかった」としか言いようがない。

                  ***

「おいしかったね~、マンガ肉。また食べに行こうね。」
「ああ、そうだな。」

食事を終え店を後にし、宿に戻ると…

「ああ、お二人さん。ちょうどよかった。」
「何かあったんですか?」
「あんたたちが食事に出た後にね、急に冒険者の団体客が来ちまってさ。悪いけど、今晩だけ部屋ひとつ譲ってやってくれないかい?お二人さんパーティみたいだし、いいだろ?」
「え…?えーっと…」
「私は全然いいですよ。」
「ほんとかい!助かるよ!」
「ちょ!?えぇ…」

俺の意見を待たずして、リーナとの相部屋が決まってしまった。
部屋を確認してみると、一応二人用ではあるが、ベッドは大きめのサイズのがひとつだけ…

「ふーっ、疲れたねー。もう寝よっか」
「え…あ、ああ。」

「ねぇ、なんで床で寝ようとしてるの?」
「え、そりゃあ、だって…」
「ベッドで寝ないと疲れとれないよ?」
「…はい。」

同じベッドに二人の男女。それでも当人はそんなこと全く意識していないのか、リーナは無防備にもぐっすりと眠ってる。というか俺が単に意識し過ぎなのだろうか。

けど俺も今日は色々あってさすがにねむ…

「う~~ん……」

…れるわけねぇ!
妙に色気のある寝息ですっかり目が冴えてしまった。

                  ***

部屋の出窓を開け、夜空を眺める。
それは元いた世界と何ら変わらなく見える満天の星々に、白く光る月。
田舎のじいちゃんばあちゃん家で見た夜空もこんな風にキレイだったな。
星座とか知っていれば元の世界の星空との違いもわかったのだろうか。

などと考えてるうちにようやく眠気がやってくる。

―――さて、寝るか。

                  ***

「んん~…、おはようユウ…ヤ!?」

翌朝、目を覚ましたリーナが見たのは、椅子を二つ並べそこに苦しそうに横たわるユウヤの寝姿だった。
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