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『照り映える容色』<♂♂>
しおりを挟む~浜茄子の花言葉~
俺は、あいつの笑顔を忘れない…。
絶対に…。
「よお。今日は調子良さそうだな。」
「うん…。君だけだよ、僕の見舞いに来てくれるのは…。」
「…家族はまだ?」
「…僕の…、顔を見るのも嫌だって言われちゃった…。…仕方、無いよ…。」
「………。」
体調不良で検査入院した俺が、入院した先で知り合った男。
俺とは同い年くらいで、知り合ったきっかけは、偶然夜中にトイレへ向かった時に隣にこいつが来た事だった。
身体の所々を包帯で隠し、顔に至っては、出ている部分が目や口元、耳だけで、それ以外は全て隠されている。
初めて見た時は、夜中だった事や場所が病院だと言う事もあって、かなりビビった。
だけど、チラッと横目で見たこいつはどこか申し訳無さそうで、その姿に俺は悪い事をしたなと思い、小さな声でだったけど謝った。声が聞こえたのか、こいつは驚いた様にこちらを見ていたが、俺と目が合うと慌てた様に顔を逸らした。
次の日、そいつの事が気になった俺は看護師さんに部屋を聞いて、様子を見に行った。
見に行った先でそいつは、一人部屋のベッドで寂しげに座って、窓の外を見つめていた。
俺が話し掛けると、そいつは驚いた様に俺を見ていたが、しばらくすると、どこかおどおどしながら言葉を返して来た。
ぎこち無い会話を続けて行く内に、少しずつ笑顔になっていくこいつに俺は更に興味を抱いて、こいつの部屋へ行くのが俺の日課になっていった。
話していく内に少しずつこいつの事を知り、同時に、何だか放って置けない存在になった。
小さい頃から親には相手にされず、付き合っていた女子からは浮気を疑われて薬品をかけられ、入院しても誰一人見舞いにも来ない。
挙げ句、病院内では他の患者に気味悪がられ、一人部屋な事もあっていつも独りぼっちなのだと、こいつは寂しそうに笑った。
だから、俺はこいつの近くに居てやりたいと思ってたんだ。
「僕は君が来てくれるの、本当に嬉しいんだ。だけど…。」
「?何だよ。」
「…明日には、この病院から去らなくちゃいけないんだ…。」
「はあっ!?なんで急に…。」
「うん…。この病院じゃ、薬品でただれた部分を治す事が出来ないんだって。それで、前から先生が治せそうな病院に当たってくれてて、やっとその病院が見つかったんだ…。」
「本当か!?やったじゃん!!」
「…でも、君と会えなくなる。」
「んな事言ってる場合かよ!顔が治るんだぞ、もっと喜べよ!!」
「顔が治るのは嬉しいよ…。だけど…、君と会えなくなるのは、寂しいよ…。」
「………俺だって、寂しいさ…。だけど、俺にとってはお前の顔が元に戻る事の方が、嬉しいんだよ!!」
これは嘘じゃない。
こいつの顔が元に戻れば、これ以上寂しい思いをしなくても良いだろうし、俺もそんな顔を見なくて済むから。
だから、こいつのこんな顔は見たくない。
「そんな顔するなよ。」
「………でも、僕は君が…。」
「!…だったら、笑えよ…。俺に笑って見せてくれよ。」
「え…。」
「お前の笑った顔、俺は、好き…なんだよ…。」
「!!………ありがとう…。」
「…ふっ、やっぱ好きだわ。お前の笑顔。」
本当に嬉しそうに笑うこいつに、俺の心臓は破裂しそうだった。
そして、俺はこの時、漸く自分の気持ちに気付いた。
言葉にはしないけど、俺はこいつに恋をしていたのだ。
「これで、忘れないでいてくれる…?」
「当ったり前だろ!!」
「ありがとう!!僕、行って来るから。」
次の日、あいつは違う病院へ転院して行った。
目を閉じると、あいつの一番の笑顔が目蓋の裏に浮かんで来て、俺は次にあいつと会える時まで絶対にこの笑顔を忘れないと、一人心に誓った。
終わり
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