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<人外ホラー>
『水辺の笑顔』
しおりを挟む「人って、温かい…」
背後から娘に抱き着いた女は、小さく呟いた。
「女の幽霊が出る」と聞いて、娘はそれを確かめようと夕方、学校のプールへとやって来た。
辺りは薄暗く、殆どの生徒は下校し、すでに人気は無い。
(噂だと、もうそろそろなんだけどな…)
昼間、校内で囁かれている噂。
ある生徒が忘れ物をして遅い時間に学校を訪れた際、フェンス越しのプールサイドに制服姿の女が佇んでいるのを見掛けたのだ。
その生徒も始めは気にせずにいたのだが、辺りが暗く、偶然すれ違った人すらはっきりと見えなかった事に気付き、はっきりと見えた女の存在に青ざめた。
再び、恐る恐るプールの方へと顔を向けた生徒。
しかし、そこにはすでに誰も居らず、見間違いだったのだと考え、学校への侵入を試みたがどこも開いておらず、渋々帰宅したのだった。
翌日、その生徒がその出来事を友人達に話すと、話を聞いていたクラスメート達が自分も見たと言い出し、一気に校内の噂になったのだ。
その噂を聞いていた娘は、その女の正体を確かめてみようと友人達に持ち掛けたが、友人達は皆怖がってしまい娘は一人で確かめる事に。
「もう、怖がりなんだから…。幽霊が出たら写メ撮って、みんなに送りつけてやるんだから…え?」
ユラッ
携帯を取り出した娘がカメラ機能で辺りを見回していると、不意にプールの中央で何かが揺らめいているのを捉えた。
一瞬呆けたものの、娘は慌ててカメラを構え、それを写真に収める為にシャッターをきった。
カシャッ
「これが噂の…きゃっ!」
ガバッ
「嫌っ!やだっ!!」
シャッター音が響き、娘は画面へ目を落とすと、写っているものを見つめた。
それは水色の人型で、不思議に思いながらもう一度確かめようと目線を戻した娘。
顔を向けるとその物体は娘の目の前にあり、恐ろしさを感じた娘は思わず目を閉じた。
同時に、背後から抱き着かれる感触がして、更に恐怖を感じた娘は必死にそれを引き剥がそうと藻掻いた。
そんな娘の抵抗は一切効かず、抱き着いた者は娘の頬へと手を伸ばすと撫でるように触れ、耳元で小さく呟く。
声の主が女である事を知ると、娘は抱き着いてきたのが噂の人物だと気付き、恐怖心よりも好奇心の方が勝った。
どんな人物なのか姿を確かめようと、ゆっくり振り返り顔を伺う。
(この声…)
チュッ
「え…」
瞬間、頬に何か柔らかい物が触れ、音と共に離れた事に何をされたか知り、娘は固まった。
娘が向けた視線の先には、少し年上の女の顔があり、女は笑みを浮かべていた。
そんな状況に娘が固まっていると、女はそのまま娘の手を持ち上げ、軽く自らの頬に擦り付けた。
ひんやりとした感覚と人の肌に触れている感触。
不思議な感覚に娘は尚も動けずにいたが、次に女がとった行動に思わず身体をビクつかせ、引き剥がした。
ピチャ
「っ?!やっ…、離れて!」
バッ
「なにを…」
向かい合う形をとり、娘は女を睨み付けた。
女は少し寂しそうな表情を浮かべたが、再び水色の人形になると、そのままプールの中央へ向かい、水の中へと溶けていった。
呆けたままその様子を見つめていた娘は不意に、先程女に舐められた自身の指を見つめ、指先が濡れている事に気が付くとゆっくりプールへ近付いた。
水辺に座り込み、ジッと水面を見つめ、そっと指先をプールの中へ。
そこには、先程と同じ様に笑みを浮かべる女の顔が映っており、娘も笑みを浮かべたのだった。
終わり
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