【ホラー小話】

色酉ウトサ

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<人間ホラー>

『付けられた痕〈シルシ〉』R指定

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「あの痕は…」

男が信号待ちをして車を停めた時、目の前の横断歩道を数人の女学生たちが横切った。

その中の一人の首筋に見覚えのある痕を見つけ、小さく呟いた男はニイッと口角を上げた。

「…見つけた」

「あれ、スカーフは?」

「あ、嫌だ私ったら教室に忘れて…」

「取ってきなよ。待っててあげるから!」

「う~ん、別に明日でも…」

「おじさんとおばさんに言われてるんでしょ?」

「そうなの?なら、取って来た方がいいよ」

「う゛~…分かったわよ。ここで待っててよ?」

「「はいはい」」

普段から肌身離さず身に付けていたスカーフをこの日は身体測定だった為、外していた少女。

小さい時から両親に「スカーフはつねに付けていなさい」ときつく言われ続けていた為、いつもなら外してもすぐに身に付けて決して忘れることは無かったのだが、この日は両親ともに朝から出掛けていて、明日まで帰ってこないと言うことに少女は少し浮き足立っていたのだ。

少女はスカーフについて大したことじゃ無いかの様に振る舞ったが、友人たちに促されて渋々スカーフを取りに、来た道を戻り学校へと向かった。

「でも、どうしてスカーフなんて…」

「あの子、小さい頃に一度誘拐されたことがあったの…。その時に、犯人に首筋のところに傷痕を付けられて…」

「そう…。それを隠すためにスカーフを…」

「え、誘拐って…」

「本人は小さすぎてその時のことを覚えてもいないし、傷痕のことも気にしてないんだけど、おばさんたちがね…」

スカーフについて少女の友人たちと幼馴染みが話している横を通り過ぎた男の乗った車は道を曲がり、まるで少女の後を追うように走っていった。

走ったおかげか、少女はそんなに時間を掛けずに学校に着くことが出来、教室へ向かうと自らの机の上に置かれたスカーフを手に取り身につける。

「あったあったっと…、よし!」

(お父さんもお母さんも心配性だからな…)

首筋の傷痕が見えないようにスカーフを巻きながら、ふと浮かんだ父と母の姿に少女は苦笑して、いつも通りに巻けたかを確認する為にトイレへと向かった。

鏡に映った姿はスカーフをきちんと巻いており、傷痕は外からは見えなくなっていた。

満足そうに笑った少女はトイレを後にし、急いで友人たちの元へと駆け出す。

しかし、門を通り抜けた瞬間、後ろから何者かに抱き着かれ、口元には薬品の匂いが染み込んだ布を押し当てられた。

抵抗していたものの、徐々に少女の身体からは力が抜け始め、その事に気付いた何者かは少女を抱き上げると、担いで自分の車の後部座席に押し込んだ。

意識が朦朧とする中、何者かの姿を見つめていた少女はその人物の首筋に自分のと同じ傷痕を見つけ、忘れていた記憶が蘇った。

(…私を、誘拐した、人…)

少女の中に恐怖心が芽生え始めた頃、車は動き始め、その事に少女は慌てたが身体は言う事を聞かず、小さく呻くことしか出来なかった。

それから数時間後、車はどこか人気の無い山林に着き、再び少女は担がれて山小屋のような建物の中へと運び込まれた。

まだはっきりとしない意識の中でも、少女はここがどこなのかを知ろうと、とにかく辺りを見回し情報を探った。

けれど、辺りには場所を示すような手掛かりは無く、気付けば少女はベッドの上に横たえられていた。

(ここ、は…?私、どうなるの…)

ギシッ

スルッ

「…やっぱり、痕を残しといて正解だったな」

「ふっ…や…」

横たえた少女に近付き、ベッドに腰掛けた人物は少女からスカーフを取り外すと、そっと傷痕をなぞるように指で触れる。

恐怖心とくすぐったさで声が漏れ、少女は今にも泣きそうな表情でその人物を睨み付けた。

少女の目に映ったのは若い男で、首筋にはやはり少女のと同じ様な傷痕が付いていた。

男は少女の顔をジッと見つめると不意に口角を上げ、顎を掴むと自らの顔を少女に近付けた。

吐息が掛かるくらいに顔を近付けた男は、とても嬉しそうに言葉を発し始めた。

「やっと見つけた。ずっと探していたんだよ」

「うぅ…」

「昔、君を一目見て俺は、君を俺のお嫁さんにするって決めたんだ。だから君が小さい頃、一緒に暮らす予定の家に連れて行って、結婚の約束に俺のこの傷痕と同じ傷痕を君にも付けてあげたんだよ。その時、君は泣いて喜んでたんだ」

「ふっ…や、だ…」

「だけど、すぐにご両親が迎えに来て君は連れていかれてしまって、俺は君を誘拐したとかで警察に連れていかれた。必死に君とのことを皆に話したけれど信じて貰えなくてね…。ようやく、数年前に出てこれてずっと君を探してた。この、傷痕を目印にね」

話しながら愛おしそうに自分の首筋の傷痕に触れてくる男に、少女は嫌悪感を抱き、何とか言う事を聞かない身体を動かそうと藻掻いた。

「…まだ薬が効いてるんだね。大丈夫だよ。君がしようとしてること、分かってるから」

「え…や、ンンッ…」

にっこりと笑った男は、少女の頬に優しく触れると同時に唇を塞いで、啄むようにくっ付けたり離したりを繰り返した。

突然のことに驚いた少女は目を見開き、慌てて顔を逸らそうと首を横に動かすが、それに気付いた男は両手を挟み込み舌を捩じ込んだ。

気持ち悪さに少女は涙目になりながらも力一杯男の舌に噛みついたものの、力はそれほど入っておらず、仕舞いには舌を絡め取られてしまった。

「むぅぅ~…はっ…あ…」

「ふっ、ごめんな。あまりに嬉しくて止められなかった…」

「はっ…、はっ…」

「でも、これからはずっと一緒に居られるんだから、がっつくことは無かったな」

苦笑しながら話す男に、少女の中で何かが壊れた音がした。

同時に涙が頬を伝い、すでに痛みなど無くなった筈の傷痕が疼き始めたような錯覚に陥ったのだった。

(…スカーフ、ちゃんと付けとけば良かった…)





終わり
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