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<BL>
『ライアー』BL
しおりを挟む「真人[まこと]、今日の宿題やって来たか?」
「えっ!?宿題なんて、あったか…」
俺は、いつも騙されている。
こいつの嘘に…。
「ちゃんと先生の話を聞いてないからだろ?」
「聞いてたけど…。なんの宿題だ?」
「さぁ、なんだと思う?」
「教えてくれたっていいだろ!!」
「朝からなに騒いでんだよ?」
「明良[あきら]!なぁ、今日ってなんの宿題出てたか覚えてるか?」
「マジか!?宿題あったっけ…」
「今日は宿題出てないぞ」
「「仁[じん]!」」
「答え言うなよ、仁…」
こんな事は日常茶飯事だ。
俺の名前は出口真人[いでぐちまこと]。
高校3年に上がり、少しは慣れたつもりでいたが、未だにこいつの嘘に騙される。
こいつの名前は、赤口空[せきぐちそら]。
空とは高校に入ってから知り合い、席もずっと近くだった為、よく話をする内に仲良くなった。
初めの頃は全然気が付かなかった。
見た目はどこか軽い感じだったが、頼まれ事をしても嫌な顔しないし、愚痴を聞いたこともなかったからまともな奴なんだと思っていた。
けれど、仲良くなるにつれて空は、俺たちに嘘をつき始めるようになったのだ。
俺の頭にクモが付いてるとか、先生に呼ばれてたとか、購買が休みだから弁当持ってきた方がいいとか。
内容は他愛の無いものだったが、毎回繰り返される嘘に、空の言うことを少しずつ信じなくなっていた。
このままではいけないと思い、騙されたり嘘をつかれる度に何度も注意したが、空は気にする様子もなく、次の瞬間にはまた嘘をついたのだ。
結局、本人に直す気は無いからと諦め、1年生の終わり頃にはもう注意することもなくなっていた。
2年生になった頃には、空自身に悪気が無いことや、嘘自体が大したものでは無かったこともあり、俺らは空が嘘をつくことを気にしないことにした。
けれど半年が過ぎたある日、空がとある嘘をついた。
それは、1年生の頃からの付き合いがある仁と明良についての嘘で、二人の関係についてのものだった。
「なあ、真人」
「なんだよ?」
「明良と仁って、実は付き合ってるって知ってたか?」
「え?」
「仁の奴、いつも明良のこと見てるし、明良も明良で、オレたちと仁に対する態度が違うだろ?」
「そりゃあ、幼なじみらしいから、俺たちへの態度と違ってもおかしくないだろ?」
「い~や、仁の目は好きな奴を見る目だ。幼なじみだからって明良をそんな目で見るか?」
「どんな目だよ…」
あまりにも空が話す、二人が付き合ってると知った理由の曖昧さに呆れた。
しかし俺も、たまに見掛けると二人の態度に違和感を覚えていたこともあり、空の話を真に受けて二人に訊ねてみることにした。
空が嘘つきであることを忘れて…。
「なぁ、お前らって、その…、付き合ってるのか?」
「「!」」
「急になに言ってんだよ、真人?」
「え?いや、その、空が二人は付き合ってるって…」
「また、空に嘘つかれてやんの!」
「おれ達は幼なじみだ。付き合ってはいない」
「けど、仁は明良に異様に優しいし、明良だって嫌な顔しないだろ?」
「ああ。それはオレが心配性だからでな」
「こいつ、俺がいなくなる夢見たって、夜中に電話して来たことあるんだぜ」
「へぇ~…」
「まぁ、そう言うことだな!しっかし真人、騙され過ぎだろ」
明良も仁も俺が訊ねた突飛な話を馬鹿にせず聞いてくれて、俺は自分が恥ずかしくなった。
そして同時に、そんな嘘をついた空に俺は、怒りを覚えた。
そして、その日の内にこれ以上嘘をつくなら友達を辞めると告げ、しばらく口を利かなかった。
さすがに堪えたのか、嘘もつかず、空は何度も俺に謝ってきた。
それすらも無視していたが、何度目かの謝罪に俺は、友達に関する嘘はつかないことと二人に謝ることを約束させ、空を許した。
それ以降、空の嘘の内容は再び他愛の無いものに戻った。
3年生になった現在も、空の嘘は健在で、朝からまた騙される俺。
「たく、また嘘かよ…」
「つーか真人、お前、騙され過ぎだって!!」
「ん~…、暇があれば嘘ついてるけど、中には本当のことが紛れてて、全然見分けつかないんだよな…」
「まあな。しかし、あんだけ嘘つかれてて、嫌にならないか?」
「嫌にはならないけど…。実際、困ったことはほぼ無いしあの時の嘘だって、俺との約束通りお前達にも謝ってたろ。俺にも謝ってくれてたし…」
「どうかな~?」
「どういう意味だよ?」
「あの謝罪も実は、嘘だったんじゃないか?」
明良の言葉に、俺は思わず固まった。
そして、あの時の空の言葉を思い返していた。
『悪かったって、真人!お前の言う通り、二人にも謝るから。無視しないでくれよ。お前に無視されるのはキツいって…』
俺は、あの時の空の言葉を本心だと思っていた。
だけど、明良の言う通り、あの言葉すらも実は俺の機嫌を治す為の嘘だったのではないのかと思い始めた。
なんせ空は、いつだってどこでだって、嘘をつくのが得意なのだから。
あいつが嘘をつかなかったのは、出会ったばかりの頃だけ。
それ以降は、俺たちの前ではどんな状況でもどんな場面でも嘘を混ぜ込み、普通の人の倍は嘘をついていた。
なのに俺は、空があの時放った言葉を全て真実だと信じ、嘘をついてなかったと思っていた。
明良と仁に謝っていたのは事実だけど、内容が本心だったのかは分からない…。
その事に明良に言われるまで気付かなかった。
気付かないほど、俺はあの時の空を信じていたのだ。
「どうした、真人?」
「…なあ、明良」
「ん?」
「なんで俺、空のこと信じたんだろう?」
「え?」
出会って間もない頃をぬかせば、俺は空にずっと嘘をつかれ続けていた。
普通は信じられなくなるだろうし、あの時の謝罪だって真に受けなかったはずだ。
なのに、俺はあれを空の本心だと信じた。
一体…。
「う~ん…、お前が空を信じたかったからじゃないか?」
「………え?」
「仁はどうか知らんが、オレは空の謝罪も言葉だけだと思っていた。まぁ、別にあいつがついたあんな嘘自体、オレにとったらどうでもいい事で、謝罪が言葉だけでも構わなかったからなんだけどな」
「そうなのか?」
「てか、付き合ってるように見えるほど、オレらが仲良く見えてたことに驚いたわ」
「けど、いつも一緒にいるだろ?」
「そうか~?」
キーンコーンカーンコーン
話題が少しズレると、それを遮るようにしてチャイムが鳴った。
明良は席に戻り、俺は教室へ戻ってきた空へチラッと視線を向ける。
疑問は無くならなかったが、明良のお陰で少しだけ分かった。
俺は空を信じたかったと言うことに。
いつも空に嘘をつかれ、呆れたことはあったものの、空のことを嫌いにならず尚も信じたのは、俺の中で空に対する信頼の気持ちがあったからだろう。
信頼が生まれたのは、空の普段の行いがあったからでもある。
空は、嘘はついても他人を馬鹿にしないし、その嘘だって俺たちにつくだけだから。
3年生になって、俺は空を信頼していることに気付いた。
(あんなに、嘘つかれてたのにな…)
「真人、なんか嬉しいことでもあったのか?」
「!?そ、空、いつの間に隣に…」
「ずっと居たのに、酷いな…」
「嘘!?」
「嘘だよ」
「はぁ…」
「…呆れたか?」
「少しな…」
「………」
「空?」
なんだか照れくさくて空と目を合わせることが出来ず、返事も適当なものになってしまった。
俺からの返事に空が黙り込んだため、不思議に思い目を向けると、空は珍しくボーッとしていた。
名前を呼んでみたが反応は無く、あまりの異変に肩を掴んで揺すった。
「お~い、空?」
「………」
「どうしたんだよ?」
「………」
ガシッ
グラグラ
「どうしたんだよ、空!?」
「…へ?」
「どうしたんだよ、一体…?」
「あれ…、オレ、変だったか?」
「ああ。ボーッとしてたぞ」
「そうか…」
「大丈夫か…?」
「ああ、大丈夫大丈夫!」
「本当か?」
「本当だよ」
未だ、どこかぼんやりしているのは態度から分かった。
それでも空は、作り笑いであっさり返すと、隣の自分の席へと戻って行った。
心配になって授業中、何度も空の様子を確認したが、空はいつもと変わらない様子で授業を受けていた。
だけど、不意に一瞬だけ目があった時に見せた空の表情はどこか寂しげで、見逃さなかった俺はやはり何かあると思った。
キーンコーンカーンコーン
「空、一体どうしたんだよ?やっぱりなんか変だぞ」
「別になんも無いけど…」
「………嘘だろ。お前、いつも嘘ついてるもんな」
「…それ言われたら、何も返せなくなるな」
「…分かった。なら、今から嘘は禁止にしよう」
「え?」
ヘラヘラと返してくる空の態度に、俺の心配が無意味に思えて、再びキレてしまった。
同時に俺は、空の本心が知りたくてこの提案を持ち掛けた。
「そうすれば、お前から返される言葉を俺もいちいち勘繰らなくて済む」
「もし、嫌だって言ったら…?」
「その時は、俺はお前に本当のことは何も話さないことにする。空も同じ気持ちになってみればいいさ」
「…禁止っていつまでだ?」
「これからずっとだよ。もし、一度でも嘘ついたら、俺はお前と今後一切口聞かないからな」
「そんな…」
「簡単だろ?出会った頃は、嘘ついてなかったんだから。それに、俺はもう嫌なんだよ、嘘つかれるの…」
「………」
俺の提案に、空は黙り込んでしまった。
「どうした、喧嘩でもしてんのか?」
「………」
「明良…。今、空に嘘つくのを禁止するか?って聞いてたところなんだ」
「へ~。で、空は禁止するって言ったのか?」
「いや、まだ話してる途中。もし禁止するなら、次に嘘ついた時点で口聞かないことにする。反対に嫌なら、俺が嘘をつき続けるってな」
「真人、マジか…」
「俺は大真面目だ」
「しかしそれだと、選択になってないぞ」
「仁までなんだよ…。だってよ、こうでもしなきゃ、空は嘘をつき続けるだろ?」
「真人は本気みたいだぜ。どうすんだ、空?」
明良がどこか楽しそうに空に訊ねると、仁も空の答えを気にしているようだった。
俺も二人と同じように空へ視線を向けると、不意に空が俺を見つめ、口を開いた。
「…真人、お前はなんで急に嘘をつかれるのが嫌になったんだ?」
「え…」
「お前たちと知り合ってからオレは、ずっと嘘をついてきた。それでも、ずっと変わらずに仲良く出来た。なのに、なんで今になって急にそんなこと思ったんだ?」
「それは…」
「それに、オレがここでどっちを選んでも、お前はそれを信じられるか?」
「!」
「あ、そうだよな…」
「もともと、嘘をつく男だ。信じるのは難しいな」
空からの答えに、俺は言葉を失った。
どこで嘘をついてくるかも、それが本心かどうかも、俺には確かめるすべは無いのだ。
「………」
黙り込んだ俺に、空は少しだけ口調を柔らかくして、ある提案を持ち掛けた。
「…だけどな真人、お前が俺に嘘をつかれると嫌な理由を教えてくれるなら、オレはもう嘘をつかないと約束する」
「え…」
俺の目を見つめ、真剣な表情で話す空の姿に、俺は思わず息を飲んだ。
けれど、先程の空の言葉を思い出し、目を逸らしながら訊ねた。
「…それも、嘘なんだろ?」
「真人がそう思うなら嘘だな。だけど、信じたいならそれでもいい。放課後まで待っててやるから、答え考えといてくれ」
言い残すと、空は前を向いて机に突っ伏した。
「珍しいな、空があんな真剣な顔するなんて…」
「意外と真面目だからな」
「で、どうすんだ真人?」
「………考えてみる」
「そっか…」
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴り、明良と仁も自分の席へと戻って行った。
俺は、授業の準備をしながら隣の席で同じように準備を始めた空を見つめ、どうしようかと考えていた。
嘘をつかれるのが嫌なのは、空と本心で話したいから。
でもそれなら別に、「一生嘘をつくな」なんて言わないで本心を知りたい時だけ嘘をつくなで良いだろう。
(なんで俺は、こんなに嘘をつかれることを嫌がっているんだ…?)
『お前が空を、信じたかったからじゃないか?』
考えを巡らせていると、不意に先程の明良の言葉が頭を過った。
(俺が、空を信じたい…?)
友達として、それは当たり前のことだろう。
だけど、なんだかしっくりこなくて空から目を逸らした。
(俺は、何度嘘をつかれても空を信じてた。 だから今更、嘘をつかれたからと言って…)
考えながら俺は、一つの疑問に行き着いた。
それは、友達という考え方だった。
(嘘をつかれたからと言って友達を止める訳ではないし…)と思っていたが、(それ以前に、空は俺たちを友達だと思っているんだろうか?)という考えに至ったのだ。
空は嘘つきだ。
だから、俺たちが友達だと思って接していても、空自身はただの仲の良いクラスメート位にしか思ってないんじゃないだろうか。
もしそれを確かめるために空に訊ねたところで、本心かどうかなんて分からないのだ。
そう考えた時にふと、恐ろしくなった。
本心が分からないということは、相手を信用出来ないということで、相手のこと…俺にとっては空のことを信じられなくなるということなのだ。
俺が空を好きで、空も俺を好きだと言っても、俺は空の気持ちを信じられないということになる。
授業中なのに、ここまで考えてしまい、ノートを取り損ねるくらいには落ち込んでる自分がいた。
(なんて、考えすぎだよな…。後で、明良にでもノート借りるか…)
「大丈夫か、真人?」
「え!?あ、ああ…」
「…嘘だな」
「俺より嘘つきに言われたくねえよ…」
考え過ぎてボーッとしてるところで空に声を掛けられて、思わず身体がビクついた。
ボーッとしてたからじゃない、空のことを考えていたからだ。
思わず悪態をついたが空の表情はどこか心配そうで、(心配してくれてんのかな?)なんて考えていたけど、聞いてもきっと答えを信じてやれないんだろうなと思ってしまった。
これが答えなんだと一人で納得して、放課後を待つことにした。
放課後はあっという間にやって来て、教室には俺と空だけになった。
仁や明良は気を遣ってくれたらしい。
「で、答えは出たのか?」
「まあな…」
俺は、考えに考えて辿り着いた答えを空に話した。
もう嘘をついて欲しくない事、ついて欲しくない理由、その理由に行き着くまでに考えた事など。
空は黙って最後まで聞いてくれていた。
「…と言う訳で、俺は今後、お前に嘘をつかれたく無いんだ」
「………」
「やっぱり、無理か…?」
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「お前は、オレを好きなのか…?」
「当たり前だろ!なんだよ、急に…あ、やっぱり俺のことはただのクラスメートだと…」
「…オレは、真人のことが好きだぜ」
「へ…?」
急な空からの告白に、俺は間の抜けた声を上げた。
そんな俺を見つめながら、空はまたも真剣な表情で口を開いた。
「友達として…だけじゃなくてだぜ」
「え…、それって…」
「真人はそうじゃ無いだろ?」
「それは…」
空の言う意味を理解し、俺は顔が熱くなるのを感じた。
そして、ようやく自分の気持ちにも納得出来た。
納得出来る理由を見つけたが、それを空に伝えるのはとても気恥ずかしくなった。
俺が返答出来ずにいると、突然、小さく笑いだした空。
そして、俺の目をジッと見つめながら「嘘だよ」と告げた。
「真人、本気にしたか?」
「ぇ…」
「どうなんだ?」
「~っ…、分かったよ」
「え?」
「そんなに嘘ついていたいなら、死ぬまでついてろ。…俺は、二度とお前に本当の事なんか言わねえから…」
吐き捨てるようにしてその場を離れようとした瞬間、腕を勢いよく掴まれた。
相手が空なのは考えなくても分かった。
「………んだよ、離せよ」
「…ごめん。でも、オレは言ったはずだぜ?信じたいなら、信じて良いって…」
「嘘だって言ったじゃねえか!」
「…オレが嘘ついてた理由は、お前を好きになったからだよ…」
「は?」
「危なく何度も本心が出そうになって、それを隠すために嘘をつく事にしたんだ…」
「………」
嘘か本当かも分からない話を、俺は黙って聞いていた。
本心を隠すための嘘が不自然にならないように、普段から嘘をつくようになったこと。
けれど、嘘をつくにつれて本心を強く自覚するようになったこと。
その内に俺の気持ちも知りたくなり、明良と仁の嘘をついて俺が男同士の恋愛に嫌悪するかどうかを調べようと思ったことなど。
言うだけ言うと空は黙り込み、掴んでいた腕も離されていた。
「話すことはこれで全部だ。…真人、後はお前が決めてくれ。お前に嘘をつかれ続けるのも覚悟しているから…」
「………そっか…」
話の内容に今までのモヤモヤが吹っ切れた俺は、空をジッと見つめた。
空は酷く落ち込んだ様子で俯き、その姿からは嘘は感じられなかった。
だから俺は、自分の気持ちもすぐに受け入れることが出来た。
自分の気持ちを伝えるため、俺は口を開きかけた。
けれどそのまま伝えるのは癪に思い、あることを考えてから、ゆっくりと言葉を口にしたのだった。
「俺もお前のこと好きだぜ!!…な~んてな」
「え?真人、それって…」
「さあ、どっちだろうな~」
「真人…、俺が悪かったから…」
「ふっ。…好きなのは本当だよ」
「え?真人、今なんて」
「さ~あな~!!」
終わり
応援ありがとうございます!
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