ゆびきりしよう

りあ

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1章

4話-お兄ちゃん-

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平日は大学に行き、土日はミュージカルの稽古。

週末が待ち遠しかった。

ミュージカルを観たことない私だったから
沢山のミュージカルのDVDを借りて観た。

すごい。

芝居ベースで歌が混じるものもあれば
ほぼ歌のみで進行していくものもある。

市民劇団だから、それこそみんなアマチュアだけど
こういうものを作るということにドキドキした。

親には課外活動の一環として許してもらい
俄然やる気が出る。





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土曜日。
稽古の日。



「杏ちゃん、今日の稽古おわり遊ばない。」

中田くんにそう言われた私はギョッとした。

「俺達、恋人役じゃん。
でも俺は杏ちゃんのこと何にも知らないし、杏ちゃんだって俺のこと知らない。
だから、知るために!今日ここの隣の神社でお祭りやってんだ。」

そんなこと言われたって、、男の子と出かけるなんて小学生以来ないし、ましてや2人きりなんて、、どうしたらいいか。

「あ、、あの、、。」

「僕も行く。」

まことくんが間から現れた。

「もちろん!お前も誘おうと思ってたよ。行こうぜ。」

あ、、、2人じゃないんだ。
私はなんて早とちりを、、、。恥ずかしい。

「やった。お祭り」

まことくんは真顔で答えるが口が緩んでる。可愛い。

「じゃ、決まりねーー!まみも誘っといてよ、みんなで行こう!」

「うん、、!」

初めての学校以外の友達との遊び。
楽しみになった。




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「うわあ、、!人いっぱい!!」


稽古終わり17時。
神社のお祭りへ。
まことくんと、中田くん、まみ、私の4人。

「私、水飴食べたい!」

まみは行こうとする。

「ちょっと、まみ!はぐれたらシャレになんないから、みんなで行こ!」

「はーい!」

思わずとめてしまったが、正しいとは思う。

「まことは何食べたい?なかちゃんまんが買ってくれるよー♪」

「おい!まみ!まぁ、いいけどさぁ。
まこと、何食うか?」

「金ならあるよ。」

ピロっとまことくんが千円を出した。

「僕の今月の資金。」

それって、今月のお小遣い全てなんじゃ。
小学6年生だ、千円位が当たり前か。

「ダメだよまことくん、お金は私が出すから。
甘えていいんだよ。」

「そうだぞ、まこと。小学生がそんなこと気にするんじゃないよ。」

「わかった。」

まことくんはシャっと千円をしまう。
潔いところが可愛いらしい。

それぞれの目当ての食べ物を一通り買い
神社裏のコインパーキングの端に座れる低い塀があり
そこに4人落ち着いた。

「ね、杏ちゃんて彼氏とかいないの?」

相変わらず、中田くんは率直に疑問を投げかける。
これが男の子特有なのだろうか。

「いない、、よ。」

「杏は中学から今もずっと女子校だもんね。できる方が難しいんじゃない?」

まみはそう言ったが、女子校の周りの子は彼氏がいる子が多い。
みんないったいどう作っているのか。

「女子校!?じゃ、中、高、大って10年間女子校になんの?じゃ、恋愛とかもしたことない?」

「う、、ん。」

「じゃ、僕と一緒だね。学校の女子なんて恐すぎて恋愛対象にならないよ。」

「小学生と一緒にしないでよ、まこと。杏が可哀相でしょ。」

「はいはい。」

まことくんは、小学生だけど、ちょくちょく大人っぽいところがある。
普通小学生なら、はしゃいでしまいそうなところでも1人冷静だったり、小学生なら怒りそうなことも冷静に受け流す。

「そうだ、杏ちゃん、アド交換しよ。」

「うん。」

「じゃ、私知ってるから、なかちゃんに杏の送るよー。」

「あ、、まことくんもアド交換しない?」

「僕持ってないんだ。」

そうだ。小学生だ。持ってる子の方が少ない。
まことくんの目がちょっと寂しそうになった。

「僕、さっき通ったコンビニのトイレ行ってくる。」

「え?あ、うん。」

「ついて行こうか、まこと?」

「なかちゃんまんの変態ー!」

「んな、まこと!?」

まことくんは走りだした。
少し様子が変だ。

「私もトイレ行きたいからまこと追っかけて行ってくるよー!」

まみがとっさに追いかけた。
優しい。私にもそういうことができたら良かったのに踏み出せなかった。
まみはやっぱ素敵だ。

「あいつたまに変なとこあるんだよな。」

「あのさ、中田くんとまことくんって、いつから友達なの?」

「えっと、、3年前からかな。
もともとあいつの兄ちゃんと友達でその関係で。」

「じゃあまことくんには中田くんも入れたら、お兄ちゃんが2人いるのか。いいね。」

中田くんの顔が少し曇った。

「喋れないんだ。」

「え?」

「まことの兄ちゃん、3年前に事故にあって植物状態なんだ。その病院で、まことに会った。
だから、俺はまことの兄ちゃん代わりってわけ。」

びっくりした。
まことくんのお兄ちゃんが。
中田くんにべったりなまことくんの姿が切なく思えた。

「そうなんだ、、、。」

「このミュージカルに参加したのも、
まことの兄ちゃんが役者を目指してて
ここのミュージカルに、毎年出てたんだ。
まことは兄ちゃんの代わりに僕が出るって言い出したのがきっかけかな。
俺はまことと一緒に参加してはまっちゃった感じ。」

「私なんかよりも素敵な動機だよ。」

「へ?杏ちゃんは何で?」

「私はつまらない毎日を送ってる自分を変えたかった。
毎日毎日学校と家の往復の日々。親と先生のご機嫌をとって休日は勉強ばかり。
そんな自分を変えたいって思ったの。」

「素敵じゃん。」

「え?」

「素敵だよ。充分。俺はそれでいいと思う。」

「あ、りがとう。」

嬉しかった。中田くんは見た目こそ、軽く見えるけど
とても優しくてちゃんとした人だ。
安心した。



「ただいま!まことは?」

まみが、走って帰って来た。

「まだ、帰って来てないけど、、?」

「まことがいないの!コンビニまで追いかけたけど、いなくて、、」

「マジか、ここら辺の土地勘あいつゼロだから迷ったんだな。」

「どうしよう、なかちゃん。」

「探しにいこう。まみは稽古場の方。俺は神社の方にいくから。杏ちゃんはここにいて。万が一戻ってくるかもしれないし。」

「うん、、!」



18時。
夜はもうすぐそこまで来ていた。


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