いつか あなたと一緒に

うー吉

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森の中

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僕は ずっと奴隷だった 
半地下の部屋の窓から見た綺麗に切り揃えられた芝生の先 
小さな男の子が「ママ」と呼んだ 「ママ」と呼ばれた人は優しく微笑んでいた
「ママ」って何だろう 僕にはわからなかった

朝は水汲みから始まる
調理場の人達が来る前に 水瓶をいっぱいにしないと怒られる 
水をかけられるぐらいならまだマシだ 
桶に顔を押し付けられるのは 息が出来なくなって苦しいからイヤだ
水汲みが終われば コックさんが野菜を出してくるので 下準備をする 
それが終われば 洗濯をして 庭の掃除をする 
みんなの食事が終われば 朝食の食器を洗うためにキッチンに入る
『あっ 今日はパンが残ってる』と作業台の上にあった パンカゴの中にパンを見つけた
取ろうとした時 ヒョイと横からパンを取り上げられた
「お前 コレ欲しいか?」お腹がぐーとなる
「正直だねー」「早くやろうぜ」
イヤイヤと頭を振っても 男達の手は僕のズボンのヒモを解く
「………………やめてください」と小さな声がやっと出たのに 何も聞いてくれない
「うるせえなぁ」とズボンと下着を一気ずらされ 下半身があらわになる
「やめて」と言っても聞いてはくれない
「うるさい」と言って 大きな手が僕を押さえつける 
小さな僕は何も出来なくなって この痛みが早く終わる事を 祈る事しかできない
いつのまにか 男達はいなくなっていた
男達が出したものと自分の血が混ざったものが下半身を汚していた 
床の掃除しなきゃと力の入らない体を無理やり起こす 
目の前には 踏み潰されたパンがあった
1日ぶりの食事は踏み潰されたパンだった


言われた仕事をする 言われた以上の事はしない 
なるべく見つからないように過ごす
何も言わない そうすれば殴られる事もなければ蹴られる事もない 痛い事をされない 
痛くてもしんどくても どんなにイヤな事がなっても 何も言ってはいけない
だって僕は奴隷だから


半地下にある僕の部屋で 僕は起き上がる事ができなくなっていた
「アレはもうダメだな」と声が聞こえた
「次が必要だな ついでに探してくるよ」
「おい 出ろ」と引きずられるように 荷馬車に乗せられ 市場に連れてこられた
そして
鎖をつけられ 牢屋に入れられた 
「立ち上がる事できないようなの 買うヤツいるのか?」
「おかしな趣味をしているヤツがいるんだよ 世の中にはな」
と俺を見て笑っていた

「ほら 出ろよ」と牢屋をでるように言われるが 立ち上がる事はできない
「手間をかけさせるな」と男が僕を牢屋から引き摺り出す
フードを深くかぶった 1人の男が立っていた
「どうですか?」と男に聞いている
「ああ コレにしよう」
「返品は無理ですよ こんな状態なんでね」
「わかっている」
男は書類にサインをし 僕を男の荷馬車に乗せた
『まだ 僕を買う人がいるんだな』と荷馬車に揺られながら考える
「でも もうおわる」久しぶりに出した声は 掠れて言葉になっていなかった


森の中で 荷馬車から降ろされた
木に吊るされ 「まだ生きているな」と確認された
チリッと頬に痛みが走った 血が流れる 
足や手 身体のいろんなところに傷を作られていく 
立ってはいられなくて 手首に巻かれた鎖が食い込んでくる
そこからも血が流れてくる
「おお 美しいな」と男は言う
「もっと 美しくなろうな」と僕のお腹に手を当てて
『ソード』と言った
剣が僕の薄いお腹を刺して 男が一気に剣を抜いた
「ガハッ」と血を吐いた あまりの傷みに僕は意識を失った


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



家に帰る途中 魔法を感じた
「ギルティー」デビィーも感じたようだ 
こんな森の奥深く 「こんな所に誰かいるのかよ」とデビィーはぼやくが
走るスピードは緩めない 確実に誰かがいて 攻撃魔法を使っている
だれだ 魔法を感じる方へ
はじけるような 魔法を感じた
「だれだ」と藪をぬけて 剣をかまえた
血だらけの少年だけが 木に吊るされていた
「おい しっかりしろ」少年はすでに血の気はなく 真っ青な顔になっていた
ヒューヒューと小さな呼吸音が聞こえる
「今助けてやるからな デビィー レジェを呼んできてくれ
俺は この子を家に運ぶ」
「わかった」とデビィーは消えた テレポートを使ったのだろう
俺は少年を腹を 自分のシャツでギュッとくくり マントで身体をくるんで
立ち上がった
“軽すぎるだろう”抱き上げた体の軽さに驚いた


レジェが 治療を終えて出てきた
「どうだ?あの子 助かるのか?」
「厳しいな 回復魔法がほとんど効かないんだ
かろうじて出血は止まったな」とソファに座る
「何があった」とかなりご立腹だ
「森で仕事した帰りに 魔法を感じた
急いで行ったが あの子が木に吊るされているだけだった」
「肩に 奴隷の烙印があった
魔法じゃない傷もたくさんあった ひどい目にあっていたんだろう
食事ももらえてなかったんだろうな 栄養状態も悪い どこへ行く」
「効きが悪くても ないよりかはマシだろう」
俺は少年が寝ている 自分の部屋へ入って行った
少年は 激しく胸を上下させ息をしていた
「苦しいな」とベットの横に置いた椅子に座り 少年の手を持った
ガサガサで傷だらけの手 荒れていて 血がにじんでいる 
「こんなになるまで働かされるのか」両手で包み込む
力を送る レジェの言う通り 回復魔法が効かないようだ 
少年の手は荒れたままだ
「少しでもいいから 受け取ってくれ」包んだ手を強く握った


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


手があたたかい ここはどこだろう
体がフワフワしている 僕は天国に来れたんだろうか
「ゆっくり目を開けろ」とやさしい声が聞こえた
神様なのかな 僕はゆっくりと目を開けた
「よく頑張ったな」と知らない人が僕の手を握っていた

新しいご主人様かもしれない 大きな人だ
「あっ」と僕は飛び起きたけど お腹が痛すぎて倒れそうになった
「あぶない」と新しいご主人様が受け止めてくれた
そしてゆっくりとベットに寝かせてくれた
「やっと 傷がふさがったんだ 今無理をしてはいけない」
とやさしく声をかけられた そして 待っていろと言って
部屋を出ていった
今度は 少し年を取った人とやってきた
「どうだ どこか痛いところはないか?」と聞いてくれる 
痛いところはたくさんあるけど 
フルフルと頭を振った
「そんな訳ないだろ」と少し年を取った人が笑って
「ちゃんと言ってくれないと 私が困るんだ 教えてくれないか」
ともう一度聞かれた
ちゃんと言う? じゃないと困る? なんで 正直に言えば怒りを買うし 困るなら殴ればいい
「俺はギルティー 冒険者だ こっちはレジェお医者さんだ 名前教えてくれるか?」
奴隷なんかに名前を言うことはないのに
「…………」
奴隷に名前なんてものはない 買われた先で名前を付けてもらうんだ
だから 僕には名前がない
新しいご主人様が すっと手を伸ばしてきた
やっぱり殴られる 僕はギュッと体を小さくして力を入れる なるべく小さく丸くなれば
殴られても大丈夫 
ズキズキと体中が痛むけど 殴られたらもっと痛いから 小さくなって体に力を入れる
大きな手が背中をさすってくれる
「そんなに力を入れるな 傷が痛むだろ
ここには お前を殴ったりするやつはいない だから安心したらいい」
殴られない 本当に?そんな事があるの
背中をゆっくり撫でてくれる 大きな手が僕を包んでくれるみたいで
「眠ってもいいぞ」
僕は また眠ってしまった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デビィーがやってきた
「何かわかったか?」
奴隷は 肩に焼き印を押されている 奴隷とわかるようにと管理するためだ
その焼き印を調べれば その奴隷の購入者 今の持ち主がわかるようになっている
「それが あの子はわからないんだ どこにいたのかも 持ち主の事も
この国の烙印なんだけど 番号自体が登録されてない」
「そうか……あの子の名前だけでも わかればいいんだがな」
「奴隷は 名前は持たないんだ 買われた先で名前つけられるからな」
「だからか 名前を聞いても答えてくれなかったのは」
「つけてやれば 名前 もう奴隷生活なんてしないんだから
 あの子に名前つけてやればいいと思うよ 俺は」


夕食の準備をし始める と寝室の方から ガタンと音がした
「起きたのか」としきりに使っているカーテンを開けると
立ち上がろうとしたのか イスに体を預けて 床に子供が座り込んでいた
「何をしている」
「……」キッチンを指さす
食事の準備の音がしたから 急いで起き上ったのか 
「そんな事しなくていい そんなことして傷が開いたらどうする
やっと熱も下がったのに 寝てればいいんだ いいな わかったな」
ベットに寝かれて 毛布を掛ける
「……」
怯えている眼だ 身体も震えている 魔法で受けた傷以外の傷も ひどい傷だとレジェが言っていた
粗相をすれば 殴られるような生活だったのだろうな


俺の世話をしてくれていた 奴隷は 風邪をこじらせて死んだ
俺たちなら 薬をもらい 栄養のある物を食べて 寝ていれば治るような風邪だったのに


イスに腰を掛ける
「名前を考えてたんだ お前の名前だ “レリ”はどうだ?」
「……」
「いやか?」
フルフルと頭を振る
「そうか じゃあ レリでいいな」
コクコクと頷く
「レリよく聞け 俺は奴隷制度なんてものはなくなればいいと思っている あんなもの必要ない
人が人より下なんて事あるわけがない 
俺とレリは同じだ 同じ人間だ 同じ赤い血が流れている
叩かれれば痛いし 心だって傷がつく 
レリは 今はたくさん傷がついてる ここでゆっくり傷を治せばいい
俺たちは同じだ」
「……おなじ?」レリが不思議そうに俺の顔を見る
「ああ そうだ 同じだ」
「同じ?」何度もレリは言う 
「そうだよ」
レリの頭を撫でてやった
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