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千尋4
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『さわるなよ お前汚いから』
『やだ やめて お願い 父さん』
『おいてかないで 母さん』
飛び起きる
グッと胃のあたりから 迫り上がってくるものがある
手を口にあて 波が去るのを待つ
夜は少し怖い いろんな事を思い出すから
やっと右手の抜糸が終わって 軽い包帯だけになった
「気を付けるぐらいでいいけど ちょっと引きつる感じが残りかもだね」
と幸之助さんが言っていた
「おみず」
ベットから降りて 冷蔵庫を見る
お水やお茶 カットされた果物 プリンにゼリー
たくさんの物が入ってる
「好きな時に好きなだけ 好きな物食べたらいいから」と買っておいてくれる
「こんなにたくさん…」
「たぶん コウ兄たちも食べるから たぶんすぐになくなる」
とセイさんが言ったように
幸之助さんや壮志さんが来て食べて行ったり また持ってきてくれたり
一緒に食べてくれたりしてくれる
家にあった冷蔵庫とは大違いだな お水を手に取ってベットに座る
冷たいお水が 喉を通っていく フゥとため息が出る
ブルッと体が震える なんとなくすごく怖い 扉が開いてあの人が入ってきたら
ここが夢で 目が覚めたら あの小さなアパートで男に犯されていたら
ダメだ 怖い 怖い 体がガタガタ震える
助けて誰か 違う 助けてセイさん
携帯電話を持つ こんな時間にかけちゃダメ 迷惑になる でも怖い
怖いよ 怖いよ 助けてセイさん
通話のボタンを押していた 慌てて切る
「あっ あっ どうしよう」と言ってたら
電話がかかってきた
「‥‥‥‥‥はい」
「千尋か どうしたんや なんかあったんか 大丈夫か」
「ごめんなさい」声を聞いただけで安心する
「気にせんでええよ なんかあったんか」
やさしく聞いてくれる 甘えてはいけない
「こんな時間に ごめんなさい」
と電話を切ろうとしたら
「怖いか」
「えっ」
「怖いよな 俺もよーあった」
「・・・・・」
「夜中に目覚めて 全部夢やったらどうしようとか また連れて行かれたらどうしようとか
痛い事されたらどうしようとか 勝手に考えて 怖なって 寝られへん」
「・・・・・」
「ちがう?」
「・・・・・ソウデス」
「今から行くから待ってって」
「大丈夫です」
「ええから 電話もこのままな」
カギを持つ音 玄関を閉める音
「あ 千尋 外見れる?」
「はい」カーテンを開ける
「お月さん きれいやなぁ」
「うん」
「おれ あれどうやってもウサギに見えへんねんなぁ 千尋は見える?」
エンジンがかかる
「みえない」
「やんなぁ だいぶ想像力いるよな あれは
千尋 さむくない ちゃんと肩に何か掛けてる
ベットに入って横になっときや」
「うん」ベットに横になる
「二課のみんなが 千尋がおらんから寂しいって」
「うん」
「さきさん うるさかったら帰ってくださいって言うていいねんで」
「それは ムリ」
「リュウ兄と優希さんも会いたいって」
「うん」
「正さんにも会ったって 怖い顔してるけど 優しい人やねん」
「うん」
「退院したら 一緒に住まへん」
「むり」
「えーーーーっ 流れで言うたら『うん』って言うところやで」
ケホッケホッ 咳が出る
「疲れたか?無理に返事せんでいいからな」
「うん」
なんてことない話をする
車がバックする音が聞こえる
「病院ついたから 一回切るな 大丈夫か」
「うん だいじょうぶ」
「待ってってな」
「うん まってる」
プツと通話が切れる
通話が切れたとたん 不安が襲ってくる
怖いよ 怖い セイさん 早く来て
カラカラと扉が開く音がする
セイさんじゃなかったら ぎゅうううと胸が痛くなる 体の震えが止まらない
「おそなってごめんな 怖かったな よう我慢したな 千尋は偉いな」
ベットに座って 背中を撫ででくれる セイさんの声が聞こえる
あたたかい ベットから少しだけ 顔を出す
「…‥」
「もうちょっとだけ 顔見せて 顔見たい」
顔を出すと おでこに手を置かれる
「熱でてるな 看護師さん呼ぶか」
「いい」
「じゃあ氷だけもらってくるな それやったらええやろ」
うなずく
「待ってられる?」
うなずく
「ええ子や」頭をなででくれた
「すいません」
「あら川越さん 今日来てたっけ」
千尋のこと よく見てくれる看護師さん
「千尋 熱出てるみたいで 氷もらえますか」
「はい 千尋君 熱高そう」
「はい少し」
「どうせ あの子の事だから 看護師さんに迷惑かかるから呼ばないで
って言ったんでしょ」
「はい」
「明日朝 一番で様子見に行くわ 先生には連絡しとく」
「すいません」
「いいのよ 仕事だもん あなたも休みなさいよ」
「はい ありがとうございます」
氷をもらい 病室へ戻る
「頭ちょっと上げるよ 氷入れるね」
「きもちい」
熱を持っている体には気持ちがいい
「手 やっと握れるようになったな」と手を握ってくれる
「うれしいわ」と笑ってくれる
「しんどくなったら言うんやで」やさしくしてくれる
涙が出てきた
「どないしたん なんか悲しかった?」
フルフルと頭を振る
「かなしくない セイがやさしいから なみだがでる」
「そうか それは特別や」
「どうして」
「俺は 千尋にしかやさしくないからな」と言って笑ってくれた
涙が止まらない
「そんなに泣いたらしんどなる もうおやすみ ずっと居ったるから」
「セイも」
「ああ 千尋が寝たら 俺も寝るよ」
目の涙を拭いてくれる
もう泣かんでええからな とやさしく言ってくれた
『やだ やめて お願い 父さん』
『おいてかないで 母さん』
飛び起きる
グッと胃のあたりから 迫り上がってくるものがある
手を口にあて 波が去るのを待つ
夜は少し怖い いろんな事を思い出すから
やっと右手の抜糸が終わって 軽い包帯だけになった
「気を付けるぐらいでいいけど ちょっと引きつる感じが残りかもだね」
と幸之助さんが言っていた
「おみず」
ベットから降りて 冷蔵庫を見る
お水やお茶 カットされた果物 プリンにゼリー
たくさんの物が入ってる
「好きな時に好きなだけ 好きな物食べたらいいから」と買っておいてくれる
「こんなにたくさん…」
「たぶん コウ兄たちも食べるから たぶんすぐになくなる」
とセイさんが言ったように
幸之助さんや壮志さんが来て食べて行ったり また持ってきてくれたり
一緒に食べてくれたりしてくれる
家にあった冷蔵庫とは大違いだな お水を手に取ってベットに座る
冷たいお水が 喉を通っていく フゥとため息が出る
ブルッと体が震える なんとなくすごく怖い 扉が開いてあの人が入ってきたら
ここが夢で 目が覚めたら あの小さなアパートで男に犯されていたら
ダメだ 怖い 怖い 体がガタガタ震える
助けて誰か 違う 助けてセイさん
携帯電話を持つ こんな時間にかけちゃダメ 迷惑になる でも怖い
怖いよ 怖いよ 助けてセイさん
通話のボタンを押していた 慌てて切る
「あっ あっ どうしよう」と言ってたら
電話がかかってきた
「‥‥‥‥‥はい」
「千尋か どうしたんや なんかあったんか 大丈夫か」
「ごめんなさい」声を聞いただけで安心する
「気にせんでええよ なんかあったんか」
やさしく聞いてくれる 甘えてはいけない
「こんな時間に ごめんなさい」
と電話を切ろうとしたら
「怖いか」
「えっ」
「怖いよな 俺もよーあった」
「・・・・・」
「夜中に目覚めて 全部夢やったらどうしようとか また連れて行かれたらどうしようとか
痛い事されたらどうしようとか 勝手に考えて 怖なって 寝られへん」
「・・・・・」
「ちがう?」
「・・・・・ソウデス」
「今から行くから待ってって」
「大丈夫です」
「ええから 電話もこのままな」
カギを持つ音 玄関を閉める音
「あ 千尋 外見れる?」
「はい」カーテンを開ける
「お月さん きれいやなぁ」
「うん」
「おれ あれどうやってもウサギに見えへんねんなぁ 千尋は見える?」
エンジンがかかる
「みえない」
「やんなぁ だいぶ想像力いるよな あれは
千尋 さむくない ちゃんと肩に何か掛けてる
ベットに入って横になっときや」
「うん」ベットに横になる
「二課のみんなが 千尋がおらんから寂しいって」
「うん」
「さきさん うるさかったら帰ってくださいって言うていいねんで」
「それは ムリ」
「リュウ兄と優希さんも会いたいって」
「うん」
「正さんにも会ったって 怖い顔してるけど 優しい人やねん」
「うん」
「退院したら 一緒に住まへん」
「むり」
「えーーーーっ 流れで言うたら『うん』って言うところやで」
ケホッケホッ 咳が出る
「疲れたか?無理に返事せんでいいからな」
「うん」
なんてことない話をする
車がバックする音が聞こえる
「病院ついたから 一回切るな 大丈夫か」
「うん だいじょうぶ」
「待ってってな」
「うん まってる」
プツと通話が切れる
通話が切れたとたん 不安が襲ってくる
怖いよ 怖い セイさん 早く来て
カラカラと扉が開く音がする
セイさんじゃなかったら ぎゅうううと胸が痛くなる 体の震えが止まらない
「おそなってごめんな 怖かったな よう我慢したな 千尋は偉いな」
ベットに座って 背中を撫ででくれる セイさんの声が聞こえる
あたたかい ベットから少しだけ 顔を出す
「…‥」
「もうちょっとだけ 顔見せて 顔見たい」
顔を出すと おでこに手を置かれる
「熱でてるな 看護師さん呼ぶか」
「いい」
「じゃあ氷だけもらってくるな それやったらええやろ」
うなずく
「待ってられる?」
うなずく
「ええ子や」頭をなででくれた
「すいません」
「あら川越さん 今日来てたっけ」
千尋のこと よく見てくれる看護師さん
「千尋 熱出てるみたいで 氷もらえますか」
「はい 千尋君 熱高そう」
「はい少し」
「どうせ あの子の事だから 看護師さんに迷惑かかるから呼ばないで
って言ったんでしょ」
「はい」
「明日朝 一番で様子見に行くわ 先生には連絡しとく」
「すいません」
「いいのよ 仕事だもん あなたも休みなさいよ」
「はい ありがとうございます」
氷をもらい 病室へ戻る
「頭ちょっと上げるよ 氷入れるね」
「きもちい」
熱を持っている体には気持ちがいい
「手 やっと握れるようになったな」と手を握ってくれる
「うれしいわ」と笑ってくれる
「しんどくなったら言うんやで」やさしくしてくれる
涙が出てきた
「どないしたん なんか悲しかった?」
フルフルと頭を振る
「かなしくない セイがやさしいから なみだがでる」
「そうか それは特別や」
「どうして」
「俺は 千尋にしかやさしくないからな」と言って笑ってくれた
涙が止まらない
「そんなに泣いたらしんどなる もうおやすみ ずっと居ったるから」
「セイも」
「ああ 千尋が寝たら 俺も寝るよ」
目の涙を拭いてくれる
もう泣かんでええからな とやさしく言ってくれた
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