静と千尋

うー吉

文字の大きさ
上 下
6 / 19

静4

しおりを挟む
俺は川越の家に売られた 親の借金のカタに
「この子 好きにして下さい」
親は土下座していた
あんたもしなさいと何度も母が言うが 
「なんで 俺が土下座せなあかんのや」と1番偉そうにしてるヤツをにらんだ
「そやな 坊主 お前は何も関係ないもんな」
じっと俺の顔を見る 1番偉そうなヤツ
「わかった この坊主でお前の借金はチャラにしよう」

「ありがとうございます」とぺこぺこ頭を下げて帰って行く二人
俺親に捨てられたんや と後ろ姿を見送る俺
二人は一度も振り返らんと歩いて行く
二人の姿がグニャリと歪む 目の前が真っ暗になった

ヒヤッとする感覚で目が覚めた
「気がついた?」
大きなお兄さん二人が 俺を見ていた
一人が立ち上がり 部屋を出ていき
一人は 大丈夫気分悪くないと聞いてくれる
「大丈夫」
「そう よかった」
「‥‥‥」
「お腹すいてない?」
「…‥…」
「ぼく名前は?」
「名前って何?」小さな声で返事する
「私の名前は川越 さきって言うの この子は私の息子の 龍之介と幸之助
でさっき偉そうにしていた おじさんはここの主人で川越 正さん
あなたはいつもなんて呼ばれていたの?」
「…‥‥‥しらん」
「そうか じゃあさきさんが付けてもいいかな?」
顔を上げて さきさんの顔を見る
綺麗な人だった
「ええよ」と返事をしたら 笑ってくれた
「そしたらどうしようか 静<せい>にしましよう
今日からあなたは セイよ 川越静 いいわね」

年齢も誕生日も知らんかったけど
今日がお前の誕生日だ と親に捨てられた日が誕生日で
初めてみんなにおめでとうと言われて あたたかいご馳走を食べさせてもらった
学校へも行かせてもらった 窓から見ていた 風景の中に自分がいてた
川越の家に来てから いろんなものをもらった

実家の最寄り駅についた
バス待ってるほど時間ないし タクシーかなと考えながら
階段を降りていくと 駅のローターリーに家の車があった
「いつから待っててくれたん?」助手席のドアを開ける
「そんなに待ってないわよ 電車2本ぐらいかな」
車を発進させる
「正さんもいる」
「夕方には帰るって言ってたけど 正さんに用事だったの?」
「二人に用事やったんやけど 夕方まで待たれへんと思うから
さきさんが正さんに伝えてくれる?」
さきさんの手が俺の頭に伸びてきて 俺の頭をクシャとする
「どうした あなたのそんな思いつめた顔 大学受験失敗したとき以来ね」
と笑われた
「さきさん」
「何があったかは 家できちんと聞くけど みんなで考えればきっと解決方法は見つかる
今までそうやって来たでしょ 一緒に考えましょう」
「俺が仕事で失敗してケツ捲って帰ってきたとか?」
「自分のケツぐらい自分で拭きなさいって 家からたたき出す」
「いっこも一緒に考えてくれてないやん」
「自分のケツも拭けないような子には育ててないもん」
「はい そうでした」

川越家 江戸時代から続く 侠客を取り仕切る一家である
現代では きちんと理解されることがないので 
表向きは人材派遣会社としている
正さんは社長でリュウ兄は専務をしている

「ボン おかえりなさい」
「ただいま」
「菅原 ちょっと人が来ないようにしてね セイと話があるから」
「はい」
「いや そこまでせんでいいよ」
「あなたたちより 大事な来客も用事もないからね」
とスタスタと家に入って行く


家の居間で さきさんがお茶を入れてくれる
俺は 千尋の事 リュウ兄にお願いしたこと コウ兄にお願いしたことを
説明した
「だいたいわかりました 龍之介ならすぐに調べてくるでしょう
正さんには伝えといてね 菅原
さぁ 行くわよ」
「どこに?」
「何言ってるの 病院に決まってるでしょ 直接幸之助と話した方が早いし
ほら 行くわよ」
と車のキーを渡された


病院に向かっている途中で コウ兄から連絡があった
「さきさんも一緒に来てるの ちょうどよかった やっぱり入院になるから
必要な物買ってきて さきさんメモしてよ」
じゃあよろしくね と電話が切れた
病院について 受付で名前を言うと個室に案内された
コウ兄と看護師がやってきて
説明を受ける
「今 肋骨が3本折れてるのと左腕の骨が折れてる
右手の甲は昨日の切り傷ね 全身に治療されてない傷や火傷
一部が化膿して熱を持ってる 栄養状態も良くないから傷も治りにくい
ほんとギリギリだったと思うよ あと内臓の状態も良くないんだけど
もうすこし落ち着かないと 検査ができないから おいおいしていくよ
足もね
担当医は俺と壮志でする たぶん違う人だと 千尋君ダメだと思うから」
「なんかあった?」
「レントゲンの時 少しパニックになってたらしい 声出せなくて
レントゲン終わったらそのまま倒れちゃって」
「そうなんや」
「たぶん今は知らない人ダメだと思うから 看護師も同じ人が行くようにする
今は個室で 落ちついてきたら 大部屋に行ってもらう」
「セイ ちょっと大変かもしれない
昨日も言ったけど 今の話聞いて無理ならこのまま帰って
で 二度と千尋君には会わない方がいい それの方がお互いのためだよ
千尋君の事 ちゃんと支えてあげたいと思ってるなら 病室に案内する
どうする?」
「昨日と何にも変わらん はよ病室に案内して 千尋に会いたい」 
「わかった 俺も壮志も精一杯サポートするから
千尋君助けてあげて 気を失ってる間もお前の名前呼んだんだ
川越さん こわいよって お前しかいないんだよ 千尋君」
「わかってる」

病室に案内してもらう
ドアを開けると 朝より少し顔色が悪い千尋が眠っていた
「壮志さんありがとう」
「そろそろ 起きると思う」と俺の手荷物を取ってくれて椅子を譲ってくれる
「川越さん?」千尋が目を覚ました
「そうや よう頑張ったな まだしんどいやろ 寝ててもええで」
「俺 どうしたんですか」
「レントゲン室で倒れたんや 
なぁ 無理しすぎや 体が悲鳴上げてるで ちょっと休んでもいいのとちゃう
会社も 千尋の事正社員で採用して休職扱いにするって言うてくれてるし」
「俺の事は放っておいてくれませんか ここまでしてもらったのに 本当にすいません
でないと 迷惑をかけてしまいます 川越さんにも会社にも
お願いですから 俺の事は放っておいてください」というと 千尋は布団をかぶってしまった
「ゆっくり休みや 明日 また来るわ」

診療が終わった薄暗い病院の中を 歩いている
帰ろうかな でもな 千尋を一人にして大丈夫か ホンマに放っておいてええのか
千尋にとって俺の方が迷惑なのかな
「 ねぇ   セイ   静」
「えっ 何?」
さきさんに パァンと頬をはられた
「しっかりしなさい 静
好きな人も守られないような男に育てた覚えはないわ
しっかりしなさい」
迷いも何もかもが消えた
「そやな ありがとう さきさん」元来た廊下をもどる
「あっそうや 帰り送ってあげれれへんけど
気つけて帰ってな」と車のカギを投げる
「運転は 私の方が上手いと思うわ」
カギをつかみ じゃあね と手をふって帰って行った
「ありがとう かあさん」聞こえない声で言う
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...