スラムの子と王子様

うー吉

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第六話

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「まずは精神の安定からですね」とセシリアに頭の上に水差しを置かれる
そこに これどうぞと 鏡を渡された
のぞくと ナディヤがアシルと仲良く喋っているところが映る ナディヤがアシルの耳元で何か喋っているのを アシルが笑って頷いている 今度はアシルがナディヤの耳元で喋り出し 二人でコロコロと笑っている
頭の水差しが割れて 水をかぶる
「はい やり直しですね」とセシリアが新しい水差しを頭に乗せる
今度は あの時の傷だらけのアシルの姿が 鏡に写っていた
「アシル」と思わず立ち上がってしまった 水差しが勢いよく落ちて割れる
「もう一度 修行からやり直しますか」とセシリアが怒って言った

「ハァ~」ため息が出る
「大きなため息 クロウにもできないことがあるんだね」とアシルが笑う 
「当たり前だ 昔から力の調節は苦手だ」
「エリも怒ってたよ 水差し壊しすぎって」アシルは笑うのを我慢している
「あっ ここ」とアシルの手が俺の頬に伸びてくる「傷になってる」
水差しが割れたときにかすった傷だ アシルが頬を撫でてくれてた 
「痛くない」
「痛くないよ」
頬が少し暖かさを感じる 
「えっ」アシルの声が聞こえた
「どうしたアシル」
「・・・わかんない 何いまの なに」アシルが手を見ている
自分の頬をさわる ひりひりしていた切り傷がない
「・・・アシル・・お前 回復魔法使えるのか」
「わかんない クロウ わかんないよ おれ・・そんな・・」
おどおどしているアシルを抱きしめる
「大丈夫 大丈夫だから」
「俺 わかんない ホントにわかんない」

アシルが俺の頬の傷を治してから アシルの調子が悪い 微熱が続いている 
熱よりも 手や足に傷が増えているのが気になるが アシルは何も言わない 
王城で仕事をしていたが ふとアシルが泣いているような気がした
「セシリア あとは任せた」と立ち上がり 離れへと急ぐ 胸騒ぎがする 
「クロウどうしたの」とエリが出迎えてくれるが 「アシルはどこだ」
「部屋で寝ているはずだけど どうしたの」

「アシル」とアシルの部屋へ飛び込む
ベットの上で うずくまっているアシルを見た
「アシル どうした」とベットに近づき見えたのは 血のついたナイフと出血のあと
「グスタフ呼んでくるわね」とエリが慌てて部屋を出て行った
「アシル 体さわるぞ」と声をかけて抱き上げる
「うっ」右腕をナイフで刺したようだ 傷口を押さえる
「何があった アシル」
「・・・・・」
「アシル返事をしなさい」
「・・・治せるかなと思って」
「傷だらけなのも それでか」アシルがうなずく
「回復魔法が使えたら こんな俺でも役に立つかなって
小さな傷は治せる だから・・・」
「自分で試したのか」
小さくうなずく
この子はどうして自分を犠牲にする 自分を傷つけ人のために役に立とうとする
どうして 
「どうしてもっと自分を大切にしない」
「クロウ?」
「どうして自分を犠牲にする お前はそうやって自分の血を流して痛い思いをしなきゃいけないんだ
そこまでして なんで 人の役に立とうとする どうして」
アシルの傷ついた腕をギッとにぎる
「痛っ」止まりかけていた血がまた流れ出す アシルの顔が痛みでゆがむ
「どうして・・・・」
「クロウフォード 何をしている」グスタフが俺の腕をつかむ
「あっ」と手を離す 
アシルがベットに倒れ込む「ちがうのグスタフ 違うの俺が悪いの」
肩で息をしているアシルがグスタフに必死に訴えてる
「アシルも落ち着け クロウ少し離れていろ」
俺は 今何をした 


「クロウ」スティーナの声だ 
めったに離れにはやってこない母がいる「どうしてここに」
「お前が困っていそうだからかな」と苦笑された
「アシルは」
「大丈夫 傷は思ったほど深くない 少し熱が出てるけど 今は薬で眠っている」
ほぉっとため息をつく
「何があった」母が俺を見る目が厳しい
「わからない アシルが自分で自分を傷つけるのが 許せなくて
グスタフが止めてくれなかったら 俺はアシルに何をしていたんだろう」
母の目が見れない
「クロウフォード」と呼ばれたので 顔を上げたら
母に思いっきりぶん殴られた 吹っ飛ばされた
「何すんだ」
油断していたとはいえ いまだに俺を吹っ飛ばすパンチを出す母親ってどうだ
飛ばされた 俺の前を仁王立ちで母が怒鳴る
「何をクヨクヨしている お前はいつからそんなに弱くなった
守りたいのだろう 大事にしたいのだろう だったらなぜもっと強くならない
何もかもから 守ってやればいいだろう 
アシルは お前を守れるならと 自分を傷つけてでも 
回復魔法を使えるようになりたかった と言っていたぞ 
それなのにお前は クヨクヨと よっぽどアシルの方が強いわ」
と母からの蹴りをよける 
「これ以上食らうと 冒険者の称号取り上げられそうだ」と立ち上がる
「ごめん スティーナ心配かけた 目が覚めたよ」母を真っすぐ見る
「もっとボコボコにしてやろうと思ったのに」とスティーナが笑った
「まだ寝ているかもしれんが 側にいてやれ あの子は寂しがり屋だから
寂しいと口に出して言えないしな」スティーナが言う
「ああ ありがとう かあさん」シッシと手を振る
部屋の扉が閉まる
「さてと こちらも準備しないとね」とセシリアを呼ぶようにと言づけて 離れをでた 


「アシル」と名前を呼ばれた 優しい俺の好きな声だ
「クロウ?」
「そうだよ 少し水を飲もうな」と口へ運んでくれる やさしい回復魔法と一緒に
クロウの顔を見る「どうしたの それ」頬が腫れている
「スティーナに殴られた」と笑う クロウ 
手を伸ばして回復魔法をかけようとしたら 手を握られた  
「これはいいの 俺が悪かったから ごめんな 腕痛かったろ」
ブンブンと首を振った 「大丈夫」
「アシルはやさしいな」と頭を撫でてくれる
クロウの方がやさしいよと言いたいのに うまく言えない 眠気がやってくる 
もっとクロウとおしゃべりしたいのに もっともっと
「もっと しゃべっていたい」
「それは今度な 熱が下がってからな 今はおやすみ」
と手を目の上に置かれる
「これはダメって言ってるのに」
「おやすみ アシル」
「ん おやすみ クロウ」
  
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